Data 21. 友の忠告
俺たちは街へ迫りくる大量の魔物を迎え撃ち、逢魔の夜はすぐに過ぎていった。
街へと迫る大量の魔物を目にした時は肝が冷えるような想いだったけど……。
皆すぐに状況に対応し魔物は次々に倒されていった。
そして今日は最後の夜。
俺はまた、街へ侵入せんとする魔物を一体討ち取った。
「大分倒したな」
ポイントはだいぶ稼いだか?
俺たちの順位は4位か。
「ネームドをいくらか倒したけど、あまり上がらなかったね~」
「まだ時間はあります、最後に大きいのが来るかもしれませんわ」
「お、Akiちゃんやる気だね!」
「つ、つい熱が入ってしまいました……!」
俺たちは、人の気配がほとんどない街の裏門を守っていた。
すると、新たな客人だ。
「おや、君たちは」
「Sigridさん。 こんにちは」
ワルキューレのギルドリーダーであるSigridさん。
ゴーレムを倒してから俺たちはフレンド登録し、数回パーティーを組んだんだ。
「今更だが、気軽にSigと呼んでくれ。 親しい仲間はそう呼ぶ。 共に街を守ろう」
俺たちは再び、Sigさんやワルキューレのパーティーメンバーと挨拶を交わした。
ときどきくる下位の魔物を討ち取りながら、気軽に雑談している。
Sigさんは俺たちへ積極的に話しかけてくれる。
「やはり、Iruka。 君の魔法は何かが違うな」
「俺のは黒魔法主体じゃないんですよ」
「どういう事だ?」
俺は説明した。
魔法使いは己の魔力が込められた属性を操る【魔法】。
しかし、俺はアチーブメントやクリスシステムで形無きものを模っている。
自然そのものと心を通わせ力を借りている【魔術】だ。
どちらも魔法使いの初級魔法が起点となる場合が多いが、俺は魔法使いのスキルは初級のもの以外は取っていない。
「なるほど、そんな違いがあったのか……この世界の法則は奥が深いな」
何かを考えるそぶりを見せるSigさんを見て、Mariaが口を開く。
「Sigさんてさ、カッコイイよね!」
「私がか? なんだか照れくさいな」
「私も大人になったらSigさんみたいになりたいな~」
……それは無理でしょう。
「それは無理でしょう」
「ちょっと、どーゆー意味!?」
「い、いたっ! 違うって、そういう意味じゃない!」
お、俺はなんていうかMariaにはMariaの良さがあると言いたかったんだ。
反射的に返事をして誤解を招いてしまったか。
「Irukaくんはおそらくこう言いたいんですよ。 Mariaさんにしかない魅力があるから、誰かになろうとしてなくていいと」
「なーんだ! Irukaは素直じゃないな~!」
ヒーくんのおかげでなんとか誤解は解けたか。
「君たちは、仲が良いんだな」
「大事な仲間ですから」
――――――
Data 21. 友の忠告
――――――
夜明けが来て逢魔の夜は終了し、イベントも終了。
安寧が戻った街から、俺はログアウトした。
今夜は仲間たちと、そしてワルキューレの面々と打ち上げの予定だ。
キチンと本睡眠を取っているから、ゲームの疲れはあまりないな。
……さて、今日の予定は。
今から日課のジョギングに向かい、奈瑠美さんに足の様子を見てもらう予定だ。
それからは友人の【倉橋 宿祢】と共に学校の部活へ。
よし、起きるか。
仲間と共に逢魔の夜を乗り越えた余韻を脱ぎ去り、俺は布団から身を起こした。
「こんにちは、奈瑠美さん」
「やぁ、あのゲームで随分と活躍しているみたいじゃないか?」
「え? どうして知ってるんですか?」
「これさ」
彼女はパソコンの画面を見せてくる。
なになに……【新時代ゲーム、フルダイヴVRMMOのプレイ風景! これホントにゲームなの!?】
ネットの記事か。
「このトカゲ達と戦っているのは君だろう? アバターは似ているし、何より動きが君自身のものだ」
「これは、流石の慧眼ですね」
「私は君を幼いころから見ているんだ。 これくらい当然さ。 特にふくらはぎの筋肉がカワイイんだ」
彼女は俺の足を見ていたと思ったら、いきなりふくらはぎにほおずりし始めた。
「ちょ、ちょっと。 恥ずかしいですよ」
「いいじゃないか、今は二人きりなんだし」
「ははは、くすぐったいですって!」
時は過ぎ、奈瑠美さんからランチに誘われたが俺も友人と約束がある。
一言詫びを入れ、俺は友人と会うため学校へ向かった。
「よう」
「おう」
夏休みも営業中の学食でランチを終えて、馬術部へ。
「よし、職員室に鍵を取りに行こうぜ」
今日は部員も少ないため、世話当番の宿祢を手伝うことになっているわけだ。
「失礼しまーっす」「失礼します」
部室の鍵を借りるために中に入れば、今日は馬術部の顧問【久遠 海火】先生だけだ。
彼女は俺たちの担任でもある。
「……ふむ、魔法に属性を重ねる可能性が高いのか」
「……職業ランクはあまり関係なさそうだな」
彼女は真剣にPCとにらめっこして何かをつぶやいていた。
「早く鍵とって出るか、何か忙しそうだし」
部屋を出てドアを閉めたら、何か聞こえてきた。
「あ、あれ!? 誰かいたのか!?」
先生の素っ頓狂な声を後に、俺たちは馬小屋へと向かった。
馬と挨拶を交わし、水や藁を取り換え掃除していく。
これは涼しいと丁度いい運動だ。
けれど今は夏休み、熱いとやはり大変だな。
「なぁ、もう馬術部には来ないのか?」
「今、来てるけど」
「そーいう意味じゃねぇよ。 部活としてこないのかよ」
「……」
俺は言葉に詰まる。
今更、俺が行っても部員からは疎ましく思われるんじゃないか?
空気を悪くするくらいなら、行かない方が良いんじゃないかって。
「久しぶりに乗ろうぜ、馬たちも散歩したそーだし」
「先生がいないとまずいって」
俺が転落してからは、先生がいないと乗馬は禁止になった。
「へーきへーき、ちょっと歩くだけだって」
宿祢と共に、俺は鞍を取り付け馬へと声をかけて飛び乗った。
乗れた……!
CSOの世界では乗れるようになってから、現実では試していなかった。
だけど、乗れた。
あのゲームをやってから、俺は自分でも気づかないうちに心身共に回復していっているのかもしれない。
「あのゲームさ、飛鳥馬もやってるんだよな? 足はどうだ?」
「あぁ、順調だよ。 馬もこうして乗れたしな」
「そういえば、そうだったな……」
俺が乗れなくなっていたことは、忘れていたみたいだ。
「足が治ったら、CSOはやめたほうがいいんじゃないか?」
「え? なんで?」
「……悪い噂が多いだろ?」
裏の組織が水面下で何かを企んでいる、という噂か。
3Dプリンタを利用してアイテムを不当に販売したり。
ゲームを通し、兵隊を育てているとか。
ログイン回線からリアルが割り出されたり。
そんな黒い噂もある。
……と言っても全部都市伝説のようなものだ。
そういった証拠もないし、信じている人間は少ない。
「あれは全部、眉唾の噂だよ」
「……」
「でも、なんでそんなこと知ってるんだ? 宿祢もやってたのか?」
「ま、知り合いがな」
「へ~」
なんかいつもと様子が違うな。
「今日はログインするのか?」
「あぁ」
「そうか、気を付けろよ」




