Data 20. 逢魔の夜
始まりの街Chris Townの外れにある真っ暗な祠。
微かな灯りの元、フードを被ったプレイヤー達が集っていた。
「イルカ村での成果はあったか?」
「いいや、残念ながら最奥には入れなかったな。 厄介な守護者がいるみたいだ」
組織長のような男は、自らの計画が上手く運ばない事にため息をついた。
「そう気を落とすなよ、収穫はあったぜ。 これだ」
お調子者のように喋る男は、一つの動画データを机に差し出した。
「こいつは……」
「おや、ビンゴかい?」
その動画データは【Walküre Tears】が利用する狩場にきていたプレイヤーの一人を中心に映していた。
「トレントの森でもこいつがいたそうだな」
「あ、そうなの」
少し間を置いて、軽薄な男は再び口を開く。
「こいつはNight・Caterかもしれないんだとよ。 迂闊に手を出さない方が良いかもな」
この場の面々を纏めていたような男は、自ら持っていた写真と新たに出された動画データを見比べていく。
そして、複数体のゴブリンを相手取るプレイヤーの動画データを開く。
「背格好、振る舞い、足裁き、似ているな……」
「サービス開始時に動画を流したかいがあったようだな、こいつがIrukaか……」
軽薄に振舞っていた男は、仮面の下の緊張感を隠しながら、祠を出ていく。
「じゃ、俺は命令通り次の場所で魔物を待機させとくわ」
彼は祠を出て一人森を行く。
やがて道から外れた場所で佇み、一人空を見上げて呟いた。
「飛鳥馬……もう、俺は……」
――――――
Data 20. 逢魔の夜
――――――
イベント【逢魔の災厄】。
それも終盤へと差し掛かり、今日からは【逢魔の夜】が始まる。
逢魔の夜は18:00から夜明けまでの時間帯に、今まで散り散りになっていた大量発生している魔物が文明を滅ぼすために街へ向かう。
俺たち求道者は、プレイヤーとして街を防衛すればいい。
「みんな氣合い入ってるね、私たちの出番あるのかな~」
始まりの街Chris Townには、多くのプレイヤーが集まっていた。
Mariaの言う通り、最後の大一番という事でポイント稼ぎに熱が入っているみたいだ。
他のプレイヤーの覇気に気圧されそうになる想いの中、Akiさんが口を開いた。
「村の皆さんは大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ、村人は安全みたいだ」
運営の説明では、逢魔の夜で魔物が村に向かうことはない。
魔物が狙うのは文明とそこに住む人々。
人類の拠点になりえる場所だ。
過去には村が襲われる事例もあったようだが、それはその村が新たな都市になりかけている場所とかそういった場所らしい。
「それならば、安心ですね」
様々なプレイヤーが戦闘の準備をしているな。
俺達も自分たちのアイテムや道具を整理していると、運営からの告知が響き渡った。
【皆様:まもなく逢魔の夜が始まります】
【最後のラストスパートを駆け抜け、街を守ってください】
「氣合い入るなぁ!」 「どうせ1位はパンテオンの独占だろうな」
「ワルキューレもくらいついてるみたいだ」 「あの属性魔法のパーティーがダークホースかもしれないぜ」
貴重な情報はないだろうと、多くのプレイヤーは告知を聞き流している。
【ここからが、重要なお知らせです!】
【多くの魔物は正門へ向かうでしょう】
【しかし、ネームドや知能の高い魔物は迂回する可能性が高いです】
【最後まであきらめずにランキング上位を目指し、力を合わせて街を守ってください!】
なるほど、ポイントの高い魔物を狙って一発逆転もできるってことか。
繰り返し告知が成されてプレイヤーは続々と街の壁外へと歩いていく。
街中では、住民が俺達へ声援を送ってくれている。
俺たち求道者は、NPCにとっては神の使徒のようなもの。
街を守ってくれることに、恩義を感じるような反応をしているんだろう。
「みてみて! まだ上位にいるから、私たちも逆転できるかもよ」
Mariaの言葉で俺たちはランキングページを開いた。
「ホントだ。 上手くネームドを倒せれば行けるかもしれないな」
5位か。
あまり気にしていなかったが、俺達のパーティーランキングは上位に位置していた。
ゴーレムを倒してから、それが大きかったのかしばらく1位を陣取っていた。
それから、効率重視のパンテオンや結束力の強いワルキューレのパーティーに抜かれていったが……。
俺たちがまだ5位にいるのは、きっと大規模ギルドは状況によってパーティー編成を変えているからだ。
個人とギルドランキングで勝つために柔軟性を重視してパーティーをあまり固定していないのかも。
「僕たちはどうしましょうか?」
「そうだな……始めはやはり正門で魔物を迎え撃とう。 おそらく、迂回する魔物が出るのはしばらくしてからだろう」
知性のある魔物は様子を見て、薄い場所を付くために迂回する可能性が高い。
最初は正門で確実に敵を倒した方が確実にポイントを稼げるだろう。
「僕も同じ考えです」
皆の同意を得た。
最初は正門で軍勢を迎え撃ち、後から徐々に迂回してネームド狙いだ。
【イベント:逢魔の夜を開始します】
始まった……。
が、魔物は一向に姿を現さない。
「こないぞ?」 「エラー?」 「遠くで発生してるんじゃない?」
周囲のプレイヤーは疑問の声を発している。
確かに、遠くで召喚されれば街につくまで時間差はあるか。
待つ事、約5分……。
「おでましだ」
大量の魔物が、文明を破壊せんと黒い津波の様に押し寄せてくる。
多くのプレイヤーが圧倒的な魔物の量に尻込みしていた。
もちろん俺もだ。
「おいおい、こんなにいるのかよ……」
「らしくないんじゃない?」
Mariaはいつも通りにそう言って、前に飛び出し魔物の大群へと強大な属性魔法を放った。
魔力で模ったライオンが出現し、激しい電流を帯びていく。
強力な中級魔法。
ライオンズブレイクに電撃を加えたんだ!
電撃を纏ったライオンは雄々しい咆哮と共に激しいプラズマ音を立てながら、敵の一団へと突っ込んだ。
ライオンは弾けて消え、一気に数十体もの魔物を蹴散らしていた。
なんつー魔法だ。
「さぁ!! みんな行くよ!!!」
「おおおおおおおおおおおお!!!」
Mariaの大いなる一声が開戦の合図となり、プレイヤー達は士気を取り戻した。
全く、長い夜になりそうだ。




