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Data 18. 深まっていく軋轢



Data 18. 深まっていく軋轢



 さて、プレイヤー達は特定の村へはワープするように移動できる。

 一度プレイヤー達の拠点である【電脳都市:サルバトーレ】に戻り、そこから正式な教会がある場所へと飛ぶことができるのだ。


 まずChris(クリス) town(タウン)に戻るか。

 そこから徒歩でイルカ村へと行こう。


 それにしても、なぜ俺の名前が……。


 皆でイルカ村に向かい、そこには看板が建てられていた。


【イルカ村へようこそ!】


「ついたけど、ここって……」


 Mariaも気付いたみたいだ。


 ここは、あの村だ。

 マップに従い道なりに進む時に感付いていたが……。

 ここはヒーくんやAkiさんとも初めて会った村。

 そして俺が、不気味な男と対峙した村……。


 道行く村人と挨拶を交わし、村の中央広場へ行くと……


「な、なんだこれ!」


【英雄Irukaを称える銅像】


 そこには俺の胸像が立っていた。


「Irukaくん、すごいですよ!」


「とても精巧な作りですわ……!」


 確かに良くできているが、なぜこんな。

 俺たちが唖然としていると、幼き少年が俺にぶつかってきた。


「うわ……! ご、ごめんなさい……」


「あぁ、問題ない。 君は……」


 俺を憶えているなんて、ないはずだ。


「Irukaにーちゃん! いつ来たんだ!?」


「あ! いるかにーちゃん!」


 ……あの、幼き兄妹は。

 俺を憶えている……。


「村長は屋敷にいるのかい?」


「あぁ! あんないするぜ!」


 行き場のない疑念を抱きながらも。

 俺達は少年の案内により、村長の屋敷へ辿り着いた。


「おぉ、Iruka殿! よく参りましたな。 子供たちは外で遊んでなさい」


「Irukaにーちゃんは?」


「求道者(ぐどうしゃ)さま方は、逢魔を防いでくださるんじゃ。 もちろんIruka殿もな。 あまり困らせるでない」


「はーい」


 俺たちは客間へと案内され、心の落ち着かないままに椅子へと腰を掛けた。


「さて、今日はどうされましたかな?」


「聞きたいのはこっちですよ、村の名前や銅像はいったい……」


「あぁ、そのことですか!」


 俺たちは村長の説明を受けた。


 俺たちは採取場の子供を守り、近くのゴブリンの拠点を制圧した。

 その際に活躍した俺を持ち上げ銅像を制作しないか? という話が出てきた。

 ここまでは俺も知っている。


 そして、誰かが【あの人はきっとNight・Casterだ】と言い出して村名までもが俺の名前になってしまったと。


「そんな経緯が……」


「Irukaさまには申し訳ありませんが、これも村の士気を高めるため……ご容赦くだされば助かりますぞ」


「そういうことなら、仕方ないですね」


 そう言われると、村名を変えてくださいなんて言う事はできないな。


「それより、他に聞きたいことがあったのでは?」


「そうだ。 ここは魔物には困っていませんか?」


 パンテオンの子羊が言っていた、イルカ村にそこそこの魔物が湧いているはずだと。


「そうですな……力のあるギルドがきているのですが、何か懸念がありそうな雰囲気でしたのじゃ……」


 パンテオンはここにも来ているのか?

 罠か? 俺たちは誘導されたのだろうか。


「一先ずその場所を教えてください」


 こうして、俺たちはその狩場へと向かう事になった。

 何か引っかかるな。

 なぜ、村が……俺達を憶えているんだ?


 俺が下を向いて歩いていると、Akiさんから顔を覗かれる。


「Irukaさま、顔色が優れませんが大丈夫でしょうか?」


「あぁ、悪い。 気になることがあったんだ」


 俺は説明した。

 村人が俺達を憶えている事。

 俺の銅像を建てるという言葉を果たしていた事を。


 テスト前のデータは……


「プレイヤーデータは、初期化されているはずだ」


「そうですね……初期化されたのは僕らのプレイヤーデータのみだったのかもしれません」


 ふむ……。


「このゲームは人類の深層意識に生まれた夢の世界。 その意識へと直接的な介入をすることは運営会社でも難しかったのかもしれませんね」


「確かに、ヒーくんの言う通りかもな」


 俺は少し神経質になりすぎているのかもしれない。

 この村でのあの出来事のせいで、いらない事まで気にしているんだろう。


「そーそー、大丈夫だよ! NPCが覚えていてくれるなんてなんだか素敵じゃん!」


「AIと友人になったみたいで、なんだか温かい気持ちになりますね!」


 ……そうだな!

 気持ちを切り替えよう。

 皆が思うように、きっと大した問題じゃないんだ。


 村長の教えてくれた場所をマップ通りいけば、そこは古代の祭祀場のような神殿が広がっていた。

 ここには魔物は全くいないけど……。


 周囲を見回し、ヒーくんが何かに気づいた。


「あそこに誰か立っています」


 俺たちはその人に近づいた。

 どうやら何かの入り口を守っているようだ。


 挨拶を交わした後、彼は俺たちの素性を探ってくる。


「君たちは?」


「ここに良い狩場があるって聞いて、もう全て倒してしまったんですか?」


「パンテオン、ではないみたいだな……」


「俺たちはギルドではなく、フレンドでパーティーを組んでいるんですよ」


 ……門番らしき人が何か考え込んでいると、中から一人の女性冒険者が出てきた。

 長い耳、エルフ族のアバターか! 初めて見たな。

 髪をさっぱりと一房にまとめ上げ、凄然とした振る舞いが強き女性らしさを感じさせる。

 服装からして剣士……いや、騎士か?


「その人らは?」


「狩場の噂を聞いたみたいです」


「そうか、一旦入ってくれ。 狩場は地下だ」


 地下へと続く階段を降りるその女性に、俺たちはついていく。

 風……。

 どこか天井に穴があり、空気を循環させている仕組みがあるのだろうか?

 それに古びてボロボロだが、階段がある……ここは、人工的に設計されたのか?


 行きついた先では、とても広い地下空間が広がっていた。

 

「うわぁ きれー!」


 中には宝石が反射して、洞窟内を照らしていた。

 その光が湖の揺らめきを立体的に洞窟へ映し出している。

 薄暗さを感じさせない幻想的な光のカーテンが広がっていた。


 中ではプレイヤー達が時折、魔物と戦っている。

 さっきの荒野と違い【休憩→討伐】を適度に繰り返せそうな場所だな。


「ここは広い、好きに使うといいが……一つ聞きたい」


「なんですか?」


「君たちは誰からここの噂を聞いた?」


「パンテオンです」


 彼女はその名を聞いて刹那的に鋭い眼光を放ち、俺の瞳の奥を射抜いた。

 続けて溜息を吐き出した。


 どうしたんだろう。


「私たちはな【Walküre(ワルキューレ) Tears(ティアーズ)】なんだ」


「なるほど……それで……」


 最大手の【パンテオンの子羊】に次ぐ大手ギルド【Walküre(ワルキューレ) Tears(ティアーズ)】。

 プレイヤーからは【ワルキューレ】と呼ばれている。

 パンテオンと違って積極的に人数を引き入れているわけではないが、固い結束とチームワークがウリと有名なギルドだ。


 パンテオンは傲慢な人間が多いが、このギルドはそんな噂は一切聞かない。

 そして……パンテオンとは仲が悪い。


「そうなんだ。 どこから聞きつけたのか、パンテオンが私たちのランキングを落とそうと、色んな狩場からここへ人を送ってくる」


「それじゃ、別の場所に行きますよ」


「気にするな。 狩場は皆のもの、私たちはただ故意的な嫌がらせを受けていることに腹を立てているんだ」


「お察しします……」


 俺も、リアルで嫌がらせを受けていたからな。

 ネットでも現実でも、故意的に敵意を向けてくる相手は本当に困った存在だ。


「それじゃ、様子を見て使わせてもらいます」


「あぁ、私たちとも仲良くしてくれ。 私は【Sigrid(シグリッド)】よろしく」


 俺たちはそれぞれ、自己紹介して握手を交わした。

 しばらくは、ここの狩場を使わせてもらうか。


「……?」


 今、誰かが俺達を監視していなかったか?


「Iruka、どうしたの?」


「いや、なんでもない」



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