Data14. 新たな力
Data14. 新たな力
トレントの下位種であるスプラウトレントを討伐し、森から帰還している最中。
ちょくちょくと新たなスプラウトレントが襲ってくる。
大量発生の報告を受けた場所の討伐は完了し、ミッションクリアの表記もされた。
だというのに、歩みを進めるたびにトレントは増えていく。
これは、ミッションとは別で発生しているのか?
「やっぱりおかしいですよ。 さっきはこの道に全くいなかったのに……」
そうだ。
ヒーくんの言う通り、ここはトレントの気配が全くなかった。
俺たちの懐疑的な思考をくみ取ったのか、Mariaが明るく言う。
「何かのイベントかも!」
「確かに。 とりあえず森の守護者の領域に行こう」
近隣の村で祀られている森の守護者の領域。
そこには【グラントレント】というトレントの上位種が眠っている。
人と自然の住み分けを示唆するための境界線だ。
そこで何か異変が起こっているのかもしれない。
そんな予感を裏付けるように、辺りの空気は禍々しい黒い霧が支配する景色へと変わっていった。
「何か……怖いです……」
Akiさんの言葉ももっともだ。
鼻腔へと伝う冷たい空気が心臓へ伝わり、緊張感を引き立てていくのを感じる。
【Warning! Warning!】
!?
「なに、これ!?」
「何か周りに……!」
周囲へと世界を隔てる仕切りのようなラインが円形に現れ、守護者の領域を囲んだ。
<アナザーミッション。 グラントレントの解放を受注しました>
【アナザーミッション。 グラントレントの解放を受注しました】
目覚めたのか!? 森の守護者が……!
地へと強く根差した巨木の魔物グラントレントが周囲へと眷属を生み出していく。
トレント種の中位モンスター、ミッドレント……。
「隠し任務ってヤツ!?」
目的は討伐ではない……解放とはなんだ?
「一先ず距離を取って観察しよう。 俺が前に出る!!!」
皆は意図を理解してくれたのか、Akiさんは後衛の二人を守る様に構え。
後衛のMariaとヒーくんは観察とバックアップに徹してくれる。
俺はグラントレントの足止めだ。
ミッドレントの隙間を潜り抜けていき、前進。
ツタや根を扱うのか……敵の捕縛を受け流し剣士スキルを用いて一太刀浴びせる。
効いていないな。
俺の職業は今や盗賊……だけど攻撃力の高い剣士でも同じ結果だろう。
俺を捉えようと、多くのツタが絡みついてくるが盗賊の速度のおかげで回避できている。
再び斬撃を浴びせたが、まるで効果がない。
これならどうだ。
盗賊と言えば毒。
植物系の魔物へ効くか……?
巾着から毒瓶を取り出し、グラントレントへと放り投げた。
「これもか」
まるで意に介していないな。
「!?」
まずい、足が地面から生えたツタに捕らえられた……!
ツタに持ち上げられ、宙ぶらりんになってしまう。
巾着が落ちた……!
「……?」
ツタが巾着を避けた……?
「あ、あたった!」
Mariaの援護射撃のおかげでツタは弾かれ、その隙に俺は距離を取って皆の元へ戻った。
「Maria。 助かった……」
Akiさんと共にミッドレントへと対応していく。
「こっちはだめだ。 何も攻撃が効かない!」
「こちらもミッドレントで精一杯です……!」
……。
「ちょっと、Iruka! このままじゃ全滅しちゃうよ!」
「皆さん、落ち着いてください!」
ヒーくん。
もしかして、何か光明が見えたのか?
「グラントレントはおそらく何かに苦しんでいます。 おそらく……樹木の窪みにある黒玉です!」
あれか……!
妙な模様だと思っていたけど、あれは物体だったんだ。
「そしてミッションの目標は討伐ではなく解放です。 きっと、あの黒玉を壊せば……!」
「すごいよ! ヒーくん!」
「か、確証はないのですが……」
流石の観察眼だ。
このまま全滅するくらいなら、やってみる価値はある。
「でも、警戒されて近づけないよ」
グラントレントは防御を固めていた。
……おそらく、あの巾着袋に気づいたからだ。
「可能性は、ある」
俺はこの10日日間で、魔法剣士になるために秘密裏に試していたことがある……
――――――
<現在の魔法職のほとんどは属性魔法は使えません>
「そうなのか?」
<はい。 魔法使いは基本的に魔力を大きな現象へ変換させることはできません。 自分の魔力を模り、直に魔物へぶつけます>
「……それで充分戦えるからか」
魔法のレベルや出力を上げれば、それで魔物と渡り合えてしまう。
属性魔法が発展していなくても問題ないんだ。
それがこの夢の世界の魔法水準。
しかし、一握りだが属性魔法を使える存在達もいるという。
<あなたも属性魔法を?>
「選択肢が増えれば、色々な状況に対応できる。 試してみるよ」
<私からは何も言いません。 貴方は、自ずと答えに辿り着くでしょうから>
……やけに人間味のある返答だ。
AIも進化しているのだろうか。
――――――
「Maria。 合図で俺に種火を放ってくれ」
「え? ちょっと!」
俺はそれだけ言い残して、再びトレントに前進した。
防御が厚いな。
そのおかげで俺を迎撃するツタや根は少ない。
先ほどとは違い盗賊の速度を用いれば、余裕をもってかわせるレベルだ。
陽動を行い、俺は周囲へと手持ちの少量の火薬を蒔く。
火薬はスプラウトレント討伐のために用意したものだ。
使えるものはこれで全部……。
そして、予想通りツタは火薬を避けていく。
グラントレントの人面のような模様の側面の窪みへと続くラインは整った。
「Maria!」
火種を頼む!
「う、うん!」
少量の種火が飛んでくる。
力を貸してくれ……!
短刀へと片方の空いた指で古代文字を刻み込んでいく。
その短刀で種火を受け止め、火のついた刃を地へと突き刺し火薬のラインを発火させた。
俺は……その火を利用し、己の中にある力を用いて既にある現象を増幅させればいい……!
命名しよう。
(火炎魔術・炎陣壁)
<スキル【火炎魔術・炎陣壁】が発現しました>
真っ直ぐな道なりの左右に敷かれた火薬をなぞり、勢いよく火柱が増幅され吹きあがっていく。
「なにこれ!? 属性魔法……!?」 「そうか! 既にある現象を!」
「流石です……!」
できた、黒玉への直線の通り道、火炎の壁が展開された炎道だ。
ツタは炎を恐れ、近づくことはできない。
後はこの道を辿り……黒玉を破壊する……!
「!?」
種の弾丸!?
まずい……自分の中にある力が枯渇しかけているのを感じる。
防げない……!
勝ちを確信し油断していた。
避けようとしても、体が直線の道を行くために固定化されてしまい動かない……!
瞬時に思考は回るが、体は言う事を聞かない……!
「おまかせください」
いつの間にか、俺の真後ろへいたAkiさんが瞬時に俺の前へと出て種の弾丸を真っ二つに切り裂いた。
「はは……!」
Akiさんはやっぱり強いや。
そして、これで……
「俺たちの、勝ちだ!」
<新たなアチーブメントを獲得しました>
侵掠すること火の如く
魔法剣士への一歩
<新たな職業への道がアンロックされました>
上級:魔法剣士 転職条件:剣士、魔法使いの習得。 それぞれの初級スキルの解放。




