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魔境の森と異邦人  作者: ツキヒ
7:極点のアゼル
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XX. 雪原の小屋

1ヶ月以上開けてしまい大変もうしわけございませんでした…

 到着した小屋は、窓のない丸太小屋だった。

 メルケルのソリから降りたブレイズは、小屋までの雪を足でかき分けつつ進む。

 鍵のかかっていない扉を開けると、中はだいぶ暗かった。


「入ってすぐのところにランタンがないかい?」


 後ろからメルケルの声が飛んでくる。

 足元を見れば、すぐ近くの床に古いランタンが置かれていた。持ち上げて、後ろを振り返る。


「ラディ、火」

「……ん」


 ブレイズが言うと、相棒は熱源(ウィット)にくっついたまま小さく頷いた。

 直後、持っていたランタンに火が灯る。蝋燭の光が曇ったガラスに散らされて、小屋の中を淡く照らした。


 小屋の内部は、だいたいメルケルが言っていた通りの構造だった。


 石を積み上げて作られた暖炉の横に、薪が積み上げられている。

 入口近くの壁際には、(たる)やら(かめ)やらが並んでいた。食料と、水……もしくは酒だろう。

 家具は一切置かれておらず、床には分厚い毛皮が何枚もラグのように広げられている。この上で過ごせと言わんばかりだ。


「ラディ、ウィット、暖炉の火も頼む。終わったら休んでていいぞ」

「はーい」


 天井からフックが下がっているのを見つけたので、ランタンを引っ掛けながら指示を出す。

 その間にロアとメルケルが入ってきて扉を閉め、ウィットが暖炉に薪を放り込んでラディが着火した。

 マントは脱がないまま、おのおの近くにある毛皮の上に腰を下ろす。


「メルケルさん、狼さんたちは入れてあげなくていいの?」

「ああ。あの子らは寒さに強いから大丈夫。ここまで走ってきて、むしろ暑いくらいだろうしね」


 ウィットの問いにメルケルが答える。彼はここでしばらく狼たちを休ませて、日が落ちる前にガユーまで戻る予定だそうだ。

 もう昼過ぎなので戻るには遅すぎるんじゃないかと思ったが、ブレイズたちを含めた『荷物』がなければ夜にはガユーに到着できるらしい。ソリというのは、想像よりもずっと速い乗り物のようだ。


 ブレイズたちは、この小屋で二、三日体を慣らす予定だ。問題なければ、そのままもう一つの小屋も下見に行く。

 途中、寒さで体調を崩してしまった場合は、一旦ガユーに帰還して仕切り直しだ。

 そこらへんで一番心配なラディは、暖炉の前で縮こまっている。小屋の中が暖まるまではあのままだろう。


「……あ、そうだ」


 そんなラディに目を留めたロアが、何事か思い出したような声を上げた。

 どうしたのかとブレイズが思ったと同時、周囲がふわりと暖かくなる。

 ラディとウィットが驚いたようにロアのほうを見た。


「え、なにこれいきなりあったかい……ロアがやったの?」

「ああ。師匠に教わった小技だな。野営の時、天幕(テント)の中なんかで使うんだ。……俺は精霊に頼んだが、たぶんラディも魔術で似たようなことはできるんじゃないか?」

「……できるな、言われてみれば」

「使いすぎると旅先の気候にいつまでも慣れないから自重は必要だが、この寒さなら仕方ないだろう。風邪ひくよりマシだ」


 寒さが和らいだおかげで落ち着いたのか、ラディが暖炉から離れてこちらに寄ってきた。

 だいぶ顔色が良くなっている。ブレイズはこっそり安堵の息をついた。

 ウィットとロアも、いまのところ体調に問題はなさそうだ。


 全員落ち着いたところで、メルケルから小屋の使い方の説明を受けた。


 小屋に入る時には目につかなかったが、外に忌避剤の入った樽が置いてある。

 獣はめったに出ないが、念のため夜はこれを撒いてから休むこと。


 薪と食料、水や酒などは自由に消費していい。ただし、補充は三日おき。

 また、奥地にあるもう一つの小屋にはそれらの用意がないため、自分たちで運んでいく必要があるとのことだ。荷運び用の小さなソリが、小屋の隅に立てかけられていた。


 小屋の設備は、もう一つの小屋も似たようなものらしい。少なくとも暖炉とランタン、毛皮はある。

 となると、本格的に奥の小屋のあたりを探索するなら、何度かに分けて薪や食料などを運び込む必要がありそうだ。……まあ、今回はあくまで『下見』なので、そこまでする予定はないが。


「説明として思いつくのはこんなところかな。他に何か気になることがあったら聞きにきてくれ。空が赤くなるまではいるからね」


 そう言い置いて、メルケルは荷物からでかい干し肉を取り出して外へ出ていった。夕方からの移動に備えて、狼たちに食事をさせるらしい。

 四人だけになった小屋の中で、改めて話し合う。


「今日は探索なしだな。移動で体力使っちまった」

「そうだね、時間もあまりないし。すぐに暗くなるよ」

「じゃあ今日は小屋を見て回っておしまいだね。食料ってどんなのかな……あと鍋とかあればいいけど」

「暗くなる前に、獣の忌避剤も撒いておかないとな」


 だいたい方針が固まったので、それぞれ立ち上がって動き出す。

 小屋の中を見て回るのはラディとウィットにまかせて、ブレイズはロアと一緒に忌避剤を確認に行くことにした。


「襲撃はあんまりないって話だが、夜の見張りどうすっかな……」

「一応立てておけばいいんじゃないか? メルケルさんも『不要』とは言ってなかったろ。『心配は少ない』ってだけで」

「それもそうだな。夜の雪原がどんな感じかも見ておきてえし、二人ずつ交代で起きるか」


 話がついたところで扉を開ける。

 ぴゅうっと吹き込んでくる風が思いの外冷たくて、反射的に肩をすくめた。

 外はまだ明るく、雪の白さに目がちかちかする。小屋の中が薄暗かったのもあって、余計に眩しく感じた。


 目を擦りながら外に出ると、小屋の前に停められたソリに、メルケルが腰を下ろしていた。

 彼の足元では、ここまでソリを牽いてきた二頭の狼が、大きな体を丸めて干し肉を食いちぎっている。食事中のようだ。

 こちらに気づいたメルケルが声をかけてきた。


「おや、どうしたね?」

「獣の忌避剤、入ってくる時に見なかったもんでね。確認しとこうと思って」

「それならこっちだ」


 メルケルはソリから立ち上がり、小屋の裏へと歩いていく。案内してくれるらしい。

 ブレイズたちがついていくと、小屋の裏手の壁際に、大きな樽が二つ並べられていた。中身は黒い粒状で、液体でないので保管は外で問題ないらしい。セーヴァがたまにこさえる丸薬に似ているな、とブレイズは思った。


「開封済みのほうから先に使ってね。ただ、撒くのは俺が出発した後にしてくれ。狼たちが嫌がるからね」

「ああ、だから小屋の裏に置いてあるのか」


 獣の忌避剤というのは、獣の嫌う臭いを発することで獣を退けるものが大半だ。

 つまり、鼻の利く狼たちにはものすごく臭い。だから臭いの届きにくい小屋の裏手が保管場所なのだろう。


「あと、何か気になることはあったかい?」

「そういや、ウィットが『鍋とかないか』って言ってたけど」

「鍋とスキレットはあるはずだよ。結構大きめのがね」


 話しながら、小屋の前に戻ってきた。

 ソリの前では狼たちがまだ食事をしており、その向こうは風で粉雪が舞っていて景色が見えない。

 真上を見上げれば、空は青く太陽の光が降りそそぐ快晴だ。なのに空気は冷たく、周囲の視界は遮られている。


(ファーネでこんな天気なら、上着がいらねえくらいなんだがなあ)


 変な感じだ。

 故郷から随分と遠いところまで来たのだなあと、そんな感想をもった。

誤字報告ありがとうございます!!(手持ちのテキストファイルへの反映を忘れて全部適用した顔)

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【完結】階段上の姫君
屋敷の二階から下りられない使用人が、御曹司の婚約者に期間限定で仕えることに。
淡雪のような初恋と、すべてが変わる四日間。現代恋愛っぽい何かです。
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