表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
34/35

結成の春――③風の子

期間が開きましたがいつも通りのクリューエル戦記です。

会話文が増えてきたような違和感がありますが

 1.


 この世界には『警報』だとか『注意報』といった、気象に対する危険性の度合いは、あるのだろうか。


 強い風に煽られながら思った。


 話変わって、この撫で下ろすかのような風は、その地形が原因だったりするのだろうか。

 目の前は勾配はきつく、頂は隠れて見えない。景色は灰色と緑の2色に染められている。その2色の作り出した気迫なのか、延々と強風は吹く。


「きっとこの世界の事だ。精霊が起こしていることになってるんだろうな」


 翡翠は煽られながらそう漏らした。


 確かにあの時、アンネはそれらしいことをぶつくさ言っていたが、それが本当なら精霊の祠はどこにあるのだろうか。

 まさか、この歩きづらい山肌のどこかにあるとでも言うのだろうか。

 それとも雲の上か。洞窟の中か。


「ふむむーぅ。ここまで来て祠1つも出ないとは」

「確か、2階エリアには行ってませんしね。それに、この急勾配。この足元に、まだ知らないエリアがある可能性だってありますよ」

「そうね。あのまま上がっていたら5、6階はありそう。あの天井の高さならそれくらいだと思うけど

 」

「近道行って損したって感じだなぁ。こりゃ」


 来霧はSnowたちの言葉に対し残念そうに答える。

 そんな足元では背丈の低い雑草が来霧の表情を下から伺うかのように伸びきっていた。

 同情でもしているのだろうか。

 しかし、表情がないのでこちらには伝わらない。


 それはある意味当然だった。


「何だかさ。不思議と憧れているんだよ」

「何が?」

「この雑草をだよ。こんな強風の中で生きていくなんて、考えられないから。自分なら、煽られて谷に落ちて終わるだろう。だけど、ずっと耐えているんだ」

「環境に適応しているのよ。根を深く広げれば抜けにくくなる。それに、ここの風は表面を撫でるって感じの風だから」

「それでも、ここに根を広げているのが凄い。僕らはこうなれるのかな」


 これから倭国を目指す。


 そんな漠然とした目的を果たすために建てるギルド。有用性とかは不明だ。

 ただ渡るだけのものだから。


 でも、それ以降はどうなるのだろうか。他の既存ギルドの波に巻き込まれ、揉まれ。そして消えていくのだろうか。


 不安でしょうがない。

 干渉者じゃない。だから未来も分からない。


 だから憧憬を覚えたのだろう。

 それが、幾人に踏みつけられても耐えしのいできた雑草であったから。

 どんなに故意的に踏みつけられても、千切られても生きていかなければならないから。


「来霧さん。大丈夫ですよ。だって未来なんて可変のものですからね。逆に未来を知ってしまう方がいけません。未来に囚われてしまいます」


 クララが来霧に光を差してくる。

 今は考える時じゃないです、と。まだ何も始まっていないんだ、と。

 シャラも頷く。そして来霧の肩を平手で叩いた。


「それに雑草には意思はない。そこで生きるのも、そうなったからに間違いはないでしょ。未来なんて知らないで生きているんだから。だからさ、いいじゃない? このままでも。私たちには意思がある分、好き勝手出来るんだからさ。悩むだけ時間の無駄よ」


 さあ行きましょう、とシャラは意気込む。

 それに続く声。

 こんな風をものともしない声。

 中には怒声も混じっていた気がする。


「ま、まあ、変えるなら今の内ね」


 シャラの一言が、胸に残る違和感を覚えた来霧。

 来霧の心を読んだのか、それとも考えすぎなのか。その答えはまだ出そうになかった。


「で、どこまでいけばいいのかな?」


 そんな英里の言葉もまた。


 2.


 それはとある朝のことだった。

 突如、来霧の部屋に響いた音。

 静かだった朝を壊した扉を叩く音。

 まるで滞在最終日の朝を感じさせるようなその音を聞いて来霧は飛び起きた。

 この激しい叩き方。誰が扉の先に立っているのかは容易に分かった。


「きょ、今日は何か用事でもありましたか?」

「さあな。でも、お前なら知っていると思ったんだがな」

「うん? 入れていた記憶はないですけど」

「とにかく、下に客を待たせているんだから」


 カツトヨは来霧に急かすように言う。

 それに対し、来霧は仕方がなく部屋に戻る。

 そして数分後、姿を整えて再びカツトヨの前に出てきた。


「片方は、俺のギルドのメンバーでな」

「なら呼んだのはカツトヨさんの方では?」

「残念ながら、会うならギルホがある。それに用事があるのはお前の方だそうだからな」

「ふぅん」


 来霧は駆け足で階段を降る。

 そして来霧の視界にはテーブルに仲良く座って話している3人がいた。その中でも1人は若羅のようだった。


 恐らく応接だろう。


 世間話をしている声からして残り2人も女性と分かった。


「どなたです? 若羅さん」

「あ、来霧。起きてきたのね」

「始めまして。北方の隻鷹のリフレインと申します。そして、こちらが英里=サクラエル。先日はお世話になったようで」

「いえいえ、そんな」


 リフレインは立ち上がって一回お辞儀すると周囲を気にしているのかキョロキョロと見回し始めた。

 カツトヨでも探しているのだろうか。


「カツトヨさんなら、だふんまだ2階に」

「ありがとう。挨拶に行かなければ」

「じゃ私も」

「あ、はい」

「え、二人きり......」

「ま、そうみたいだな」


 手提げの紙袋を持ったリフレインを追うように若羅も退席した。

 空気を読んでのことか、カツトヨとの関係を知りたいのか。今すぐには分かりそうではない心情事だ。ささっと退いては、二人きりにさせられた。

 前者が目的だろうか。

 いや、意外と両方なのかもしれない。


「で、今日来た用ってのは?」

「先日お世話になったので気持ちだけってことです」


 その手にはリフレインのそれと同じデザインの袋。

 一瞬、今日はバレンタインかなんかかと錯覚してしまう。

 しかし、現実は3月下旬。

 もうすでに通り越しているのだ。

『来霧の日』とシャラに揶揄されたあの日でさえ。


「別に手伝ってくれとかも言われてなかったのに、勝手に参戦して、相手蹴散らして」

「別に迷惑には思ってないさ。ただ活発すぎて押されてしまっただけ。それに参戦不可なんてどこにも書いてない。この顔にもね」


 苦笑混じりで来霧は心配を払拭しようと努める。そして、言葉が進むにつれ、規模も膨らむ。これが一笑に付すって奴なのだろうか。


「まあ、邪魔だと思っていたら、こうやって笑いながら話すわけ無いけどね。うん。助かっていたのも事実。魔法銃エネルガンなんて代物の存在も知れたし、一石二鳥......いや、一石四鳥かな」


 消えない笑顔。

 それに対する困惑の表情。

 そして、困惑の表情を変えられない英里は、まるで藁にでもすがるかのように答えた。


「出来れば、私もそのパーティーに加えてほしい。8人目になって、余計にそれらしくなくなるけど」


 懇願だろう。

 深く下げられた顔

 来霧は慌てて顔を上げるように言う。


「だ、大丈夫ですからね? 小隊パーティーは、基本6名であって、7人8人が許されてないとかじゃないですから。それに、有名な英雄部隊は確か10人で、ワン小隊しょうたいと名乗りきっていたらしいから」

「知ってます。だからこそ負い目を感じるんです」

「負い目? そんなの無いですよ。だってあなたは憧れているでしょ? 目指すのはタダだよ。越えるならなお良いけどね。『救国のつわもの』と呼ばれる程まで行かなくてはいいけど。まあ、ともあれ人数的な点を気にして迷っているなら大丈夫。そこは気にしてないから」

「本当にいいんですか?」

「逆に入ってはいけない理由もないですし」

「ですよね。ありがとうございます。くるくん」

くる.....くん?」

「そう。私に対しては英里っちって読んでね」

「あ、はい。了解」


 来霧はそう、一部中身を無視しながら頷いた。

 どこか懐かしいような気分に包まれながら。


「で、英里さん」

「ん?」

「いや、英里っち」

「何?」

「今日の用事はそれだけ?」

「いや、違うよ。あとひとつ。訊きたいことがあるの」


 来霧は咄嗟に言い直す。

 でも後々考えてみると呼び名の問題ではなかったのかもしれないと一瞬思った。突然の名指しに、不思議そうに答えただけだったのかもしれない。

 そう言うと、一回深呼吸して落ち着かせてから内容を言った。


「これからギルドを作るつもりだとか」

「そうですけど、誰から聞いたんですか? そんな話」

「フフフ。直感よ」

「つまり、適当に言ったと言うことか」

「ま、まあ、間違ってない」

「で、何ですか? 作ったとしてどうしたいんですか」

「ギルドを立てるのには理由が必要なのは知ってる?」

「もちろん。まあ、理由と言える理由を持ってないので困っているわけですが」

「そう言うと思った」


 ニヤニヤと怪しげな笑みを浮かべる英里。そこから生まれた『目的』が今のギルドを立てる理由として1つ聳え立っているわけだ。

 そう。それは......


「倭国に行きたい。やりたいことがあるの」

「やりたいって具体的に?」

「噂で聞いたんだけど、入ってみたいギルドがあるの。ギルド国家の1つなんだけどね」

「その為にですか。別に送迎バスギルドにするつもりじゃ......となると、長期滞在は叶わないわけですよね」

「まあ、くるっちの言う通りだね」


 果たしてそんな短期で終わるような理由で良いのだろうか。


 何度も何度も考えた。

 でも、そうしたいって言っている人の存在は無視できない。


 一旦でもそうせざるをえないのか、と全て賭けた方がいいのだろうか。


 いや、賭ける以前の問題かもしれない。

 その理由はある意味、最初立てていた理由をより具体的にするもののようにも見えるからだ。


 つまり、『世界の彩りを見つける』の1つの目的地が、倭国だと言っているに過ぎない。


 そんなもので許されるのだろうか。

 来霧からしては微妙なところだ。


「その理由で夢が叶うかは分からない。でもやってみることは出来る」


 来霧は正面の英里にそう告げた。

 誰しも付けている翼らしきもの。

 経過と共に、それはちゃんとした形になり、真に翼となる。それは、形がなっても飛び立つ方法は分からない。飛び立つために必要なものではあるが。


 巣立ちは誰にでもあることだと思う。そのために自分は歩み続ける。


 しかし、巣立ちの為に翼はいるのだろうか。


(分からない。今はそうとしか言えない。でもいつかは言えるようになるのだろうか。僕たちは翼を必要としないなんて)

「なれるよ。きっとね」

「......勘ですか?」

「そうよ」


 案の定と、溜め息付く来霧の顔を伺いながら英里は微笑している。


「勘だっていいじゃない。断定なんて息苦しくてしょうがないんだから」

「あら、来霧。英里ちゃんと仲が良いのね」

「そう言うのじゃないけどね!」


 そんな空気の中に現れたのは若羅。その手には紙袋が提げてある。

 そして、咄嗟に言い返す来霧。

 それを見て、降りてきて早々微笑みを浮かべるリフレイン。


「そんじゃあね」

「いえいえ。これからもよしなに」

「帰るっぽいね英里っち」

「そうね。ありがとう」


 リフレインの送る英里に目配せのようなもの。意味を知るはずもない来霧でさえ、内容は自然と分かった。


「あ、そうそう。言い忘れていたことがあるの」


 その来霧に向けられた声。

 扉を開けて先に出ようとするリフレインに背中を向け、最後の用事を伝えた。


 そこに階段を降りてきたカツトヨ。


「さあ、鍛錬の時間だ。まだ問題は残っているようだからな」


 その言葉が変に現実じみていて、正直いうと苦しかった。


 3.


 この世界には『病原効果バットステータス』つまり病気が存在している。

 簡単に治るものから、上級の施療官の力が必要なものまで様々だ。

 彼ら施療官はある意味、病気と言う呪術を解く専門家とも言えなくはない。


「だから無理しない方がいい。風邪をひくぞ?」


 来霧はそう警告する。

 こんな強風の中でコートを脱ぐことなんてあり得ない。


(そう言いたさそうな格好になるのはどこかが突発的に狂ってしまったのだろうか)


 コートを脱いでワンピース姿になるシャラに、声無き声。いや、厳密に言うと違うのだが、来霧はそう、脳内で声を上げた。


「なぜだと思う? フフフ」


 不敵な笑みを浮かべて答えるシャラ。属性の問題なのだろうか。


「こんな風邪の元バステが吹き荒れる場所でも何とかなるのか? 風系なら」

「んー。そう言う訳じゃないけど、これからあそこ行くかも知れないでしょ? 確か遺跡最上階なのでしょ?」


 シャラの指差す先には、覆い被さる黒雲とその中を伸びる、それとにた色の線。少し刺々しい出っ張りが見えるとこから、階段の可能性があるのかもしれない。


「対照的じゃねえか」


 翡翠の声が風に乗り、各々の耳に届く。

 暗がりに伸びる階段。

 たとえ、その先に光が待っているとしても、その言葉が矛盾しないと、思えてしまうのがどこか悲しくさせるものになった。



 強風は歌を送る。


 神殿らしき遺構はまだ見られない。しかし、聖堂送り確定の川の流れを手摺を掴みながら見下ろすことは出来た。


 灰色の床には光はない。


 そう見えたのは、そこには自然とは別の存在が作り上げたかのような雰囲気が溢れていたからだった。


 見上げるとそれほど遠くもない黒雲。

 そして、どこに行き着くのか伸びる階段。いや、ある程度予想は出来る。ここが神殿の袂ならば、その先にあるのは本殿なのだろう。


「もうすぐ、結成ね」

「まだ目的達成していないけどね」

「ええ。でも、掴めるところまでは来たんじゃないでしょうか」

「大丈夫ですよ! 私とSnowちゃんに任せてください。しぶとくやってみせますよ!」

「ふむむ~ぅ。倒せばなんとかなる訳じゃないと思いますが」

「よし、一気に駆け上がりましょう。来くん」

「途中でバテないか? それ」


 どこか清々しい感情が彼らを包んだ。

 シャラ、ヒエロワと、続いた言葉がクララによって継続される。

 それを追うように各々に引き継がれる。

 そして、最後に来霧の元へ。


「う~ん。まあ、とにかく行こう。」


 来霧を先頭に階段を上る。

 手摺から伸びる細い柱と階段の内側の薄っぺらい壁に、安心感も覚えることのないそこをひたすら。


 4.


「どこへ行ったのでしょうか」

「う~ん。間違いなくここにいたはずなんだけどなぁ」


 セリーエは申し訳なさそうな表情を見せ、「もっと奥にいく?」と問いかける。

 それに対し泣き出すノコ。


「だ、大丈夫よ。あ、あれよ。何かの仕掛けかあるのよ。先に戦闘になったから、乱入しないようにって。だから終われば現れるに違いないわ」

「で、でもそれじゃあ」

「戦闘には参加できないわね」


 空気中の色に溶け込み始める床石の色。

 雲が下りてきたのだろうか。どこか薄気味悪い空間だ。

 そもそもこの空間は何のために作られたのだろうか。山麓に住むセリーエには、祭壇の鎮座している場所としか教えられていなかった。何を信仰しているのか、そこは来てから一度も聞いたことがなかった。


「でもなんとなくだけど分かる気がする」


 頬を滑る風。それは吹き止みしらずの風だ。だから……


「って、あれ?」


 そこにはノコの残像すらなかった。

 どこに消えたというのだろうか。

 狐ならぬ、霧に包まれた思いだった。



「で、ここはどこなんでしょう。セリーエさん……あれ」

『どうしたの?』


 聞きなれぬ声。どこか透き通るような声。

 その音源をノコは周囲を見渡して探す。薄暗めの白みを持ったその世界。

 そこに溶けきれないものを見つけた。


「少し緑帯びた……精霊さん?」

『ミュフフ。そうなのです。ありゃ?』


 その精霊はじぃとノコを見つめる。ノコの心を推し量っているのだろうか。ノコは自ずから一歩後退りした。


『逃げなくていいよ? いいや、逃げないほうがいいのです』


 何が嬉しいのかノコの周りを飛び回る。霊体なのか時々ノコをすり抜けていく。


『だって、わたちに出会えたんだから。レアだよ? 二度と出会えないのかもしれないよ』

「え、まさか」

『そうわたちはフィン。普段は風の精霊様って言われてるの』

「はあ、風ですか」

『ありゃ嫌だった?』

「えっとなんて言うか、合わないのです」

『属性のこと? それは残念だね』


 ステータスに映る水色のマークをノコは注視する。

 そこに映るのはどう見ても黄緑のマークではなかった。


「ごめんね」

『謝ることじゃないよ。仕方がないことだから。わたちとはこのままお別れって形でさ』

「うん。あ、でも教えてほしいんです」

『出会える場所? 分かんない』

「どうして?」

『風の子友達としか情報取り合わないの』

「そう、なんだ」

『うん。そなの』


 分かりやすく落ち込むノコ。その様子を見ていた風の子。


『しょうがないなぁ、一つだけだよ?』


 風の子は嫌そうな顔をしながら言う。


 この世界には、各地域ごとに監視者サーバーがあり、それぞれに精霊の守護地はあるのだと。

 ジョングサーバーでは、ここであり、倭国ワーグサーバーではシュームの岬。風の場合はそこのようだ。


『コレでいいかな?』

「うん、ありがとう」

『じゃあね、見つけてあげてね』

「うん、分かった」


 霧に再び溶けていく妖精を見送ると、後方に向き直した。霧のせいで距離、方向は分からないが、こちらに何かありそうな気がした。

 それだけだった。


 5,


「やっぱりそうか」


 どっかで聞いた声がする。

 いや、まだ慣れまでいっていないのだろうか。断定はできる。あの人だ。


「あ、お帰りー」

「戻ってきて何よりですよ」


 来霧にシャラにクララ。どこから現れたのか追いかけていたメンバーに再開した。


「どうだった? 霧は深そうだったけど」

「セリーエさん、会ったんです。精霊に」

「凄いじゃん」

「風属性でした。でもどこか幼いというか」

「精霊って外見はそんなくらいです。外見は年齢に比例しないんですよ」


 〈イート〉を操作しながらキーリはそう答える。なんでも、それは他の種族にも言えることのようだ。

 比で言うと、ヒューマンは元の姿と今とでは1:1。エルフは1:1.5。巨人ジャイアントは1:2。精霊フェアリーは1:0.3が平均とされている。


「で、いないってことは」

「合わなかったんです。だから探さなきゃいけないんです」

「そうか。なら、どうする?」


 来霧は顎に手の甲を当てながらノコに問いかけた。


「どうする......ですか?」

「うん。今はまだ過程が残ってるけど、僕らはこの後、倭国に向かおうと考えている。倭国に用がある人がいるからね。でも、その後は決まっていない」


 息を飲んで来霧を見つめるノコ。

 その視線を感じつつ来霧は続けて言う。


「僕らは旅人だ。それなのに目的もなく行く宛もなく、それは旅人だと言えるだろうか。だから共に行こうや。時は有限だから。出来る内にね」


 心では、とある作品が浮かんでいた。そんなことをしようとしているのかなと。結果は違うけど、似たようなことをしている気がしてしょうがない。


(でもまあ、羞恥してばかりではいけないよね)


 ノコの答えを待たずして、来霧は灰色の螺旋へ足先を向ける。


「先ずは再攻略だ。あの無駄に日の照り強い石壇へ行こうか」


 来霧は人足先に階段を上る。待ち受ける雲に向かって。

 その後を追った。シャラや、翡翠たちが後を追う。

 その後をノコやセリーエは追っていった。



 その先では果てしない海が広がっていた。

 そこに浮かぶのは石壇のある空間だった。


「ここで何をするんですか? 祈祷?」

「どうしようか。よし二人はそこに残っていて」

「どうしてです?」

「大丈夫今度はちゃんと戻るから」


 意味ありげな言葉を来霧はノコに呟く。そしてアイコンタクトで彼らは石壇前の段差を一段上がる。

 その瞬間、障壁のようなものが空間を隔てて来霧たちを囲んだ。


「外には出られないということですか?」

「正解です。だからセリーエさんも待っていてくださいね」


 そう言いつつ握る竹刀に力を込める。

 太陽光も合わせてとにかく暑い。開始まもなくなのに汗が流れる。


「サンダーバードにパルピュ。3体づつ、前回の開幕と同じです」

「そうか。なら各個撃破だ」


 そう言いつつ〈氷天桟〉で距離を縮めていく。

 自らの間合いに合わせるためだろうか。不自由なはずの空中で、翼を狙って竹刀を振り回す。


「おっと」

「危ないです、来霧さん」

「やっぱり便利だな。持ってなくても効果があるのかよ」

「ええ。このまま空気の構成ごと変えますか」

「いや、今はいい」


 〈氷天桟〉で作り出した足場から氷柱を伸ばす。貫通すればこっちのものだが元が元なためにすぐ砕ける。

(床からって言ってもタイムラグが……致命的にならなければいいが)

 そう心配しつつ移動阻害の逆氷柱アイスミナレットを生えさせる。もちろん味方からしても邪魔なものではあるが。


『射線が……このまま撃ち抜くよ?』

『来霧、何のつもりだよっ』

『じゃあ、言うね。英里さんの後方5m先にパルピュ2体。混乱してるっぽいし柱も一撃で折れると思います』

『……分かった』

『翡翠さんは……周囲にはいないみたい。でもSnowちゃんを狙っているサンダーがいるから援助を』

『了解』

『シャラさんはそのまま矢の雨による祭壇裏の制圧を。みなさん急いでください』


 ヒエロワの指揮でモブが蹴散らされていく。

 砕かれる逆氷柱。それでもまた生えなおす。


「全員倒したみたいですね。周囲の観察を。どこから巨人が出てくるか分かりませんから――」


 氷柱の折れる音がその場に響く。悶え声もその音に乗せて。


「みーつけた。〈春雨〉」


 矢を取り換え、装飾の凝った矢を番え射る。

 その障害となっている逆氷柱などものともせずその先の巨人に刺さる。


「全員接近。そして急所を突けっ」


 砕けた氷柱で足を取られた巨人は俯せに倒れる。

 その隙を狙い足元に滑り込む。〈逆氷柱アイスミナレット〉で隙間をさらに抉じ開ける。そして


「叩き込めぇっ」


 砕けた氷柱が空を飛び巨人を狙う。それが矢の雨とは違うタイプの弾幕として巨人を翻弄する。

 その注意が外れた状態で来霧の〈氷華〉に、シャラの〈春雨〉、翡翠の〈魂込めた水拳ソウルインアクアフィスト〉が胸部や太腿に入る。


「反撃が来ますっ」


 振り回す棘の無い棍棒。中には空洞が広がっているのか、床との衝突音がどこか懐かしい。

 しかし、その衝撃波に先ほどの戦いでは追い詰められた。


「貫通に違いがないな。でもさっきとは違う」


 登場時と比べると一撃一撃の迫力が大きくなっているように思えた。これが火事場の馬鹿力ってやつなのだろうか。

 ただ、力に配分を傾けただけあり、冷静になって攻撃を躱していけば何とかなる。

 まあ、躱していっても相手の力が尽きる前に注意力散漫してしまうのが先になるのかもしれないが。

 だが、溶けた氷によるSnowの回復ルーティンが回りやすくなっていた。とは言っても来霧には効果が薄くなっていたが、仕方がないことだろう。


「さてこっからが本番だ」


 空間を包む霧。霧は結界の対象から外れる物なのか、充満とはまだ言い切れないが、いい効果を生み出した。

 更なるSnow援助に太陽光の照り、氷生成による来霧周辺の気温高温化。それを和らげてくれる。

 もちろんそれだけではない。


『来くん、方向はばっちりかしら』

「ああ、そこの霧はすぐに晴れるからその瞬間に頼むよ」


 唐突に晴れた霧。英里は少し驚きつつ、正面にいたキーリから状況を判断した。

 巨人の足元を来霧と翡翠が駆けまわっている。


『終わらせます』


 魔法銃エネルガンを巨人頭部に向ける。

 足元ばかりを警戒しているのを幸いに。


 撃ち抜いた。



 核の砕けた音はしなかったが、これで少なくとも無力化はできただろうか。

 光の粒が地面に吸収されていく様子を見送りながら。さっきの「無力化」というのを撤回しようと思った。


 なぜなら終わったのだ。あとは下山して、申請して、支度して……

 もうすぐここから離れることとなる。


「もうすぐ旅立ちか」

「これで終わるのね」


 シャラは巨人の象徴でもある鈍鈴を手に取る。


「ごめんね、振り回しちゃって。笹目さんのとこまで送ろうか」

「いやいいですよ」

「でもなあ、笹目さん一人じゃ心配だしな」

「大丈夫です。お姉ちゃんは見つけましたから。ついさっき聞きました」

「イートでかい?」

「ええ。だから次は私です。私はまだなんです。見つける手伝いをしてくれませんか?」


 ノコの言葉に何度か頷いて返すが、一回フリーズする。そして一言叫ぶと、問いかける。


「本気かい? 付いて行くってことだろう?」

「そういうことです」

「色々と振り回すかもしれないよ」

「構いませんよ」


 ついには言葉が生まれなくなった。

 その後しばらく何度か頭を掻いていた来霧だったが、決定したのか手を止める。

「分かった。一緒に行こう。ただひとまず笹目さんのとこに行ってそのことについて話してくる事かな。うん。直接のほうがいいと思うからね」


 そうして煽られつつ、足元確認しつつ下山を開始した。

 まさか入り口で待っていたとも思わずに。

☆登場人物☆()は名前などしか出ていないタイプ

来霧・シャラル・クララ・キーリ・Snow・ヒエロワ

英里・翡翠

カツトヨ・若羅・リフレイン

ノコ・(笹目)・セリーエ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ