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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
33/35

結成の春――②炭鉱の町

少し文体が、変わってます。

また、何か意見あれば戻したり統一したりするつもりです。


では。

 一言でいうならば、そこは「灰ずくめの町」……だろうか。

 空に果てなく昇る鈍色の煙。

 煤まみれの家屋の外壁。

 炭火焼の匂いが漂う屋台。

 赤い暖かな光に包まれたガラス扉の先。

 笑う声、姿。それが来霧たちの視界に飛び込む。


 ここは山脈の麓の集落。〈タジンスタン〉だ。


「そんなに寒くは感じませんが……」

「たぶんそれは、ストブルの方が平均気温が低いからかもしれないな。なんかこう、ここ全体で寒さを凌いでいるというか、そんな感じがするんだよな」


 クララの問いに翡翠はそう答える。それに対し、来霧は一回頷いて返す。


「こういう山となると、気温の変化が激しいだろうしね。場所によってはストックブルク以下かもしれない」

「ふむむーぅ。それにですね、ここは交易路の途中にある町の一つですからねぇ」

「ああ、そうか、申は比較的温暖だからな」


 コートを羽織る中年の男性とすれ違う。

 毛皮のコートを羽織っていたが、その顔立ちからは商人のように思える。


「……どしたの? 来霧」


 鼻頭をつまんで、考えているそぶり見せる来霧。


「あ、いや。ただ皇帝に謁見って出来るのかなぁってね」

「難しい話ね。多分」

「それなら、理由を作ればいいと思いますよ」

「キーリ……それもいいかもな」

「まあ、そこで重要になるのはどんな内容で持ちかけるかよねっ。来っち」


 その言葉に一回ため息をつく来霧。


「まあ、今のところは不可能ってことね」


(ぐほっ)


 胸に釣り針の先のような矢印型の刃物が刺さる。もちろん受けたのは精神的ダメージのようだが。


「ふ、不可能っていうから出来ないままなんだぞー」

「そう思っている時点ででしょ」


(グサァ)


 2本目。


「......相変わらずね。心の強度」

「ま、まあ、そうのようだけどね」


 内心では、涙を流しているのだろう。

 そしてその涙をハンカチで拭いている。


「ねえ。来っち」

「な、何?」

「危なさそうじゃない?」

「あ、成程ね」


 シャラがそう言って指差した先。それは山脈の7、8合目だろうか。

 空の雨雲は遠目でも分かるほどうねっている。その中では、一瞬の光に続いてゴロロと荒れっぷりを見せているようだ。


「落雷で全滅って嫌だなあ」

「ははっ。間違いない」


 ヒエロワの言葉に翡翠は同意するようだ。


「そうなると、感電バフついたまま転送されるのでしょうか。ふむむーぅ」


 何度も響いてくる音にSnowは耳を塞いで対応する。


「どうだろうね......あっ」


 怯えているSnowから不意に例の音が鳴り響く。

 そして、その顔は赤く染まっていった。


「え、えと」

「大丈夫だよ。ほら」


 来霧の指差す先には小洒落た外観の建物があった。

 灰をも被ったような炭鉱の町に、見当たる限りで一件。

 さらに、耳に届くこれは蒸気機関の音なのだろうか。何だか、その建物の向かいから、決して大きくはない音ではあったが、延々と途切れることなく聞こえる。寂れたようなその町に、マッチするような感じの。


「ふむむーぅ」

「どしたの?」

「あ、いや、何でもないです」


 フードを被るSnow。

 そして扉を開く。途端に鳴る鈴の音。その空間を流れるジャズの音色。その中でも漂うミートの焼ける音に匂いが少しするのに気付く。


「いらっしゃいませー。今日もミートソースに......初めてのお客さんでしたか」


 どこかレトロな雰囲気の店内。そして、鈴に反応したのか、店の奥から出てくる女性。従業員だろうか。結構美人だ。


「あ、はい」

「こちらがメニューになります。エヘヘ。珍しいですね。ここら辺はよく、商隊キャラバンが通りかかるんですが、来店は少ないんです。特に申都から北上の場合はね。直ぐにブルクに着くから」


 ここにも一応宿はあるが、規模が小さいとのことだ。それに、タジンスタン山脈と、沿うように聳えているフェロウ山脈。その間にあるフェロウの町は、温泉地として「山脈の保養地」と呼ばれ、山脈越えの時の宿先として利用されている。

 その魅力でタジンスタンは負けてしまい、今の寂れに繋がっているとのこと。


「恋したんでしょ」

「は?」


 シャラが唐突に告げる。それに対し来霧は表情で訴えかける。


(いや、違うから)


「ふぅん。なら試してみよか」


 手を振り上げて、掌を広げる。


(え、暴力――)


 シャラの行動に対しそう思った、その時。


「はぁい。メニューお決まりですか?」

「は?」


 思わずその声が漏れた。


「えっと、『特製オムライス』の特大と、『チーズハンバーグ』の特大で。えっと600gなんですよね」

「はい。そうですよ」

「じゃあ、私は『フライドポテト』と、『ポテトサラダ』でお願いしますね」

「はい」


 シャラに続き、クララの注文。そのあともメンバーの注文が続いた。

 終わった人から明るい喋り声が起こり、それは、一つのパーティー的な塊を作る。

 そんな中で、女性は翡翠の注文に耳を傾けようとする。


「どうなさいます?」


 翡翠に問いかける女性。


「じゃあ、『カツカレー』で」

「はい」

「あと、お名前お伺いしてもいいですか?」


 その言葉に周囲は静寂に包まれる。注文が終わって、待ち望んでいる女子たちもだ。


(あ、これってまさか――)


「私ですか? セリーエって言います」

「じゃあ、セリーエさん。また今度コーヒー飲みに行きませんか」


 案の定だった。ナンパ行為である。

 翡翠はコーヒーをカップから飲む仕草をしながら誘う。


「堂々ね。ひすっち」


 英里の制裁チョップが翡翠に見舞わされた。その被害を受けた部分を手で覆う。


「痛った。そこまでする必要は――」

「多分ない」

「あ、くるっちまで!」

「翡翠と一緒にすんな」

「だよね……良かった。じゃあ、私は『オムライス』の並で」


 そのまま、全員分の注文を聞いてセリーエはキッチンの方に戻っていった。


 ●


 シャラの視線が痛い。その視線に何度被害を受けてきたか。


「食べて。余ったから」

「いやいや。頼んだのはシャラでしょ? そもそも

 僕も満腹だし、諦めて食べたら?」

「何割?」

「9割だけど?」

「じゃあ、残り1割分食べたらいいじゃん」


(10割って聖堂行きにする気かよ)


 そう言われて、口のついていないだろう反対側から2口だけ食べる。


「もう満腹」

「あっそう。もったいないなー」


 不機嫌なシャラ。当事者は誰だとかの問題を無視したこの問題は、最終的に来霧に押し付けることによって決着した。


(たく。『もったいない』って言ってる本人が問題だろう)


 心の底でシャラに文句を吐く。

 しかし、その座っていた席にはシャラはいない。先に偵察に行ったのだ。宿のこともあり、一足先に支払いはちゃんとして出て行った。


「仕方がないです。シャラさんですからね。まあ、不服ならどうです? 口直しに少し交換しましょう」


 残った、クララはポテトサラダと、フライドポテトを少し、皿に分けて差し出してきた。


「無理しないで下さいよ。ただでさえHP・MP両方

 ともマックスなんですから。消費している頃が一番おいしい。だから、仕事の休憩時間に来ると、より美味しく感じるのかもしれないのに」


 つまりは、運動すれば腹が減って、食べるご飯も美味しくなるということだろうか。

 そう言い換えると、何だか当たり前のように聞こえる。


「ありがと。んじゃあ、オムライスも......はい」


 渡した、まだ熱を持っている皿。オムライス。


「こちらこそ。少し味に飽きていた頃なんです」

「ふぅん。なら、少し急ぎ気味にね。たぶん待っているだろうから。文句言ってさ」

「喉詰めて聖堂行きはしたくないですしね」


 その言葉に、それぞれ笑いあう。

 そこには可笑しさもあったし、隠れた優しさがあったから。だからかもしれない。


「もしかすると、欠伸して待っているかもしれませんね」

「そうに違いない」


 セリーエの言葉。それに笑って答える来霧とクララ。三人しかいないその机で。


「料理おいしかったです」

「ありがとう。おばあちゃんにも伝えておくね」

「ってことは、調理は……」

「私とおばあちゃんでするの。ほら。ここって人少ないでしょ? 寄ってくる人も少ない。だから二人で足りてるってわけ。まあ、それでいいか、と聞かれたらそうではないけども」

「そうでしたか。じゃあ、また会えればいいですね」

「その時は、こちらから出向くのかしらね」


 そのセリーエの言葉に、来霧は反論はしなかった。


「そうなるかもしれません。まあ、未来のことなんて僕にはさっぱり分かりませんが」


 そう言って、扉を引く。入る時と比べると、鈴の音は不思議と静かだった。

 そうして正面から、あの時の音が聞こえてくる。

 何かを回しているような音。


「ここにも温泉はあるの。ただフェロウとは違うのよ。何て言うか、旅疲れというよりも、仕事疲れの人に最適な温泉なの。それに規模が本当に小さい」


(それでも、温かさでは引けを取らないのかもしれない)


 そう考えて、しばしの別れを告げた。

 きっと今頃、洞窟の入り口で皆が待っているのかもしれないからだ。


「なんか、格好つけてましたねえ」


 そのクララの言葉さえ、とても温かなものに感じた。

 それはただ、寒さに負けてなどいられない、という心の表れだったのかもしれない。


 ●●


「迫力あるなあ」

「そうですねえ」


 来霧の目一杯に開いた口から発された言葉に、クララの同意の言葉が返る。

 目の前に開いた口。光のぎりぎり届く所にある、阻害持ちの泥水の浸かった道。


「頼むね。光を」

「もちろんですよ」


 クララは、頭上の半透明なクラゲをつねって起こす。

 少し不機嫌そうだったが、発光した黄色い体は、宙に浮きながら、周囲を照らしている。


「これでランプ節約できるわけだ」

「そうですよ! それに眷属遣いイランダーの場合、使役時のMP消費が少ないらしいんですよね」


 翡翠とクララの声は、光の至る至らないに関係なく、四方から反射した。どこか、ストックブルクの議堂を思わせる空間だ。

 もちろん、ただ翡翠の声が響き渡るだけではなく、遠くから何かが羽ばたく音、耳障りな音が聞こえてくる。


「蝙蝠でしょうかね?」

「じゃあ、行ってみようか。こっちの蝙蝠は人の血を吸うのかを確認に」


 反対派が多かったものの、他に安全そうな道はなく、彼らはその道を進まざるを得なかった。


 ●●●


 それから十五分ほど経った。

 先方では、ヒエロワが、翡翠と共に偵察に出ている。後方は来霧とシャラがしっかりと監視している。


「上へ登れる階段はどこなのでしょうかね」


 ふむむーぅと、疲れの溜まった息をつくSnow。

 ここは暗闇の迷路のようだ。

 もちろん、他の洞窟も同じだろうが、迷路を彷徨ううちに自然とHPも下がっていく。そして、それを回復という形で肩代わりするSnow。


 長期戦は攻撃職のみではなく、支援職も苦しめる。体力の低めな支援職。


「まあ、階段がなければ、そんなクエストも存在しないでしょうけど」

「険しい山の表面を登るのかもしれませんね。ふむむーぅ」


 シャラは、Snowを睨み付けつつ、「そうでなかったからいいけど」と呟く。

 そうしてシャラが正面を向いたときだった。


『皆さん』


 〈IITイート〉の電信越しに聞こえた一言。ヒエロワの声だ。姿は一応、見えている。海月の光がギリギリ届く距離だ。


 そこでヒエロワは手の矢印を左に向かって指している。


『〈岩彫りの熊(ロックカービングベア))〉が十数体ほど』

「了解」


 その指差した先。そこに飛び込むキーリに、それに続く翡翠。


「〈威圧法コウアーズ〉っ」


 いつもの通りダッフルコートを羽織ったキーリは、それらの視線が一点に集まるのを確認した。


 そこに翡翠の殴りが入る。フーっと溜め込んだ息を吐きながら、熊を撥ね飛ばす。

 案外、体は硬いようだ。さらに、口にくわえた岩の魚を噛み砕く。

 そのせいか、体力が回復していくようだ。


「だから、噛みつきはなかったわけだ。まずはあれから何とかするべきかもな」


 翡翠はそう大声で伝える。それに対し、キーリは一回頷いた。

 それを見た他の熊が、キーリに突っ込む。順々に一体ずつ往なして、受け止めていくが、それらを始末するのには、人手が足りない。


「よーし。一発ね」


 そう思っていた時だった。目の前を何かが過ぎ去った。


 矢か?


 いや、銃弾だった。

 英里は正確に狙い、一体を砕いた。

 それは一体だけではあったが、それでも負担はましになったに違いがない。


 続けて目の前を飛ぶ銃弾に矢。そして、気温の低下による寒気。


 合流したのだろう。


「途中に蝙蝠に阻害を受けたんだけど、持ってる?」

「持ってます。あと2、3回来ても何とか行けると思います」

「なら、その分はあとに回しておこう」

「さあ。消費を控えつつ総攻撃です」


 ヒエロワの声。動き出す7人。


 彼らは、岩を砕き砕き、光の粒を見送る。そしてその背後でもまた、砕かれ、見送る。


「〈剛者の拳〉」

「〈風鈴かぜすず〉」


 翡翠の一撃によってヒビの入った熊は、 その先で英里に討ち取られる。


 空を交う銃弾は、鈴の綺麗な音を鳴らしつつ、貫通する。本人曰く、微振動のためらしいが、よくは分からない。


〈氷の尖塔アイスミナレット〉」

「術式〈忘光〉ですよ」


 地面から大きな霜柱が飛び出す、来霧の貫通攻撃。


 それと別のグループでは、クララの支援魔法によって、相手の光耐性が大きく下げられていた。そこにヒエロワの天体干渉技が、周囲の敵を蹂躙していく。


「強いか。ならば、終わらせるまで」


 キーリは半ば透明で、紫っぽいオーラに包まれる。手に持つ刀は、異様なもの。


 どこか黒っぽい刀。いや、45度位の角度の刃はともかく、その反対側は弧を描き、砥が悪いのか凸凹が残っている。刀と呼んでいいのか分からない。


 それでも、キーリは刀だと主張する。


「この黒刺刀で、一気に沈めていきましょう」


 その刀を中心に、紫のオーラが発生しているようだ。


「なるほど。それなら直ぐに終わるかもな」


 苦笑を交えつつ来霧は氷の巻き付いた木刀を振り回す。

 その視線を感じつつ、キーリは敵に接近する。


 そこに、これまで前線に立っていた壁役と同じ姿はなかった。


「〈黒刺こくし〉」


 そう、武器名を呟いて斬り込む。

 与えられた傷は浅かったが、そこから広がる変化。


「......『直ぐ』ではないのか」

「そこは、どうにもなりませんね」


 少しずつ広がる傷。溶けていくとは少し違うこの状況。


「まあ、こんな変化は基礎の基礎らしいですけどね」


 キーリのサブ職。『分解者』の能力はそういうものだそうだ。


 バランスを崩し、倒れ込む熊。そして、岩から出たものとは思えない、威嚇に似た悲鳴。


「あらかた片付いたわね」

「そうですね」


 少しずつ消えていく様子を見つつ、キーリは返答した。


「やっぱりそうなるのか」


 意味ありげにキーリは呟く。


『私の元に再集合してください』


 ヒエロワの声がその二人の会話を引きちぎる様に聞こえた。中には返事をしている人もいるようだ。


「何か問題でもあったのか?」

『......ある意味問題かもしれません』


 隣にいる来霧と、ヒエロワの声が、通信上、地の2つの方向から届く。


『ええ。とにかくこちらへ』


 残りの7人が集合する。ヒエロワは通信を一旦止めて、天井の高い通路の先を指差した。


「ふむむーぅ。光ですね」

「ええ。もしかすると、次の階層から光が指しているだけかもしれません」


 そんなヒエロワの声を、無視して先に向かうのはシャラ、英里、翡翠。


 偵察という名の行動だろう。


 それに対し、ヒエロワは一回深い息を吐く。


「仕方がありません。行きましょう」


 その心には、いい偵察任務を果たしたとでも思っているのだろうか。

 でも、そんなのは誰にとってもどうでも良かった事だった。


 Snowは、光だーと大声で言い、来霧は微笑しながらそこへ向かう。それを追って様々な声が上がる。


 もう、偵察どころの問題ではない。


 存在感を示すかの様に、その声は少し狭い洞穴内に響き渡ったのだった。


 ●●●●


 そこは広すぎる空間だった。外観からも想像できないそこは、床や壁が大理石で出来ていると思われる。そのため、光をよく反射し、清々しい空間だった。


 そして、その空間には天井上に続く階段があった。


「ここですね」

「ああ」


 半透明な板が螺旋状に漂って固定されている。光を丁寧に反射し、今にも階段が消えていきそうだ。


「ここでは、何かがあったのでしょうかね。舞踏会的な何かが」

「確かにありそうな空間です」


 ヒエロワは天井に目を向ける。

 この階段だけで何階分あるのだろうか。このエリアからすると1階から2階に上がるだけだろうが。


「でも、何か不思議」

「ああ。そうだね」


 ヒエロワに賛同する来霧。


「じゃ、行きましょう」

「あ、でも、無理っぽいですよ」

「な、何が?」


 クララは踊り場を指しながら、フロアが違うことを伝える。それに対して、ヒエロワは走り寄る。


 踊り場には登れなくはない。でも、その踊り場は別の通路から続いているようだ。


「どうする?」

「そりゃ......正規ルートだと信じる方に行けばいいんじゃないか」


 来霧は小さくショートカットもありだけど、と呟く。


「そう、かな」


 何度か頷くヒエロワ。


「じゃ、こうしましょう」


 ヒエロワは重力魔法を自分にかける。そして、踊り場に登る。


「どうせ、見てないエリアは限られているわけだからね」


 その姿を追いかけるメンバーと止まったままのメンバー。


「参謀さんが、一人でいっちまうぜ。来霧」

「あ、ああ。でも、いつもと違うような」

「ヒエロワか? あの人、元々ギルドに入っていたタチらしいからな。解散したそうだ。だから、楽しいんじゃないか? ギルドを作んだから」


 翡翠は来霧の背中を平手で叩く。職のこともあり、結構響いた。しかし、翡翠の言ったことも分からなくはなかった。これまでにギルドに参加したことのない人間だったが、気持ちが分かる。いや、もしかすると分かったつもりなのかもしれないが。


 岩間から差す木漏れ日。

「何か、あっという間ね」

「何か面白くねぇ」

「そ、それだけ強くなったってことでは?」

「確かに物足りないか」

「来霧さんまで!」


 ヒエロワは階段前で、そんな事実を知らされる。


 確かに、難易度は調節されているだろうし、慣れっこなのかもしれない。

 でも、慣れっこになってしまうのは後々大変なことだ。


「だって、軽視とかしない? はじめての相手だったら凄く危ないですけど」


 慣れっこ自体は悪くはない。でも溺れるものでもない。すぐ手の届くところに置いておく。

 先生はあの時、そう言っていた。


「うん、間違いない」


 ヒエロワは自分の記憶と今の状況を照合し、今はないあの頃を思い出しつつ訴えかける。


 しかし、過去の話がヒエロワを包み込む。そういえば、あの時、あんなこと言ってたなぁ、と。呑気に。


 一言で言うと、先生は凄かった。


 マチチュの天空遺跡に行きたかった話とか、カララの大砂漠でトレジャーハンターと出会った話とか。

 旅人として凄かった。


 昔話を聴きに行けば、ネタが必ず待っている感があって凄かった。


「今はいないけど」

「ふむむーぅ。早く行きましょうよ!」

「ええ、行きましょう。って、え?」


 来霧たちはもう既に天井近く。


「もしかすると、話すら聴いていなかったわけ?」


 その声に返答はない。届いてないのだろうか。


 しかし、来霧の呼ぶ声は壁に反射して聞こえる。


 と、なると無視していたのだろうか。失礼だ。

 ただ、この時自分がシャラなら階段から殴り落としていた。

 でも相手はヒエロワ。

 来霧は幸運だったとでも言えるだろう。


「待って下さい。私もそちらに行きますから」


 ヒエロワは来霧たちを追いかける。先導してきたのに、今度は追う側だが。


 透き通るような高い靴音。

 鉄琴が鳴るように、リズムも駆け上がるためにいい。もっとも、間に飛んでしまう音もあったのだが。


 その音がまた反射し、反射し、その空間を包む。


 そして、ヒエロワは見下ろす。


 見下ろす先にあるのは白い床のみだった。

 しかし、木漏れ日が生む、上の影が生む模様が地面に映っていた。今一瞬しかない模様だ。二度と同じものには会えないだろう。

 ただ、その模様も色の違いが少ないこともあり、分かりづらかった。


 そうして風が荒々しく鳴った。

☆登場人物☆

来霧・シャラル・クララ・キーリ・Snow・ヒエロワ英里・翡翠

セリーエ

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