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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
30/35

底深き迷宮(ダンジョン)――④星を数えて

普段よりも短いです。

そして過去以上に遅いです。なので何話か同時に出してみるのです。これで遅くなった言い訳になるとは全く思いませんが。

 始まりは巻物を転がして開くようにさらりと視界に拡がるものだった。

 そこはいわば「真逆の世界」。何の色彩もない場所。ただ、仕様なのか植物や建物、太陽、雲の輪郭は見えた。

 横をすれ違った人が何かを話している。姿は真っ白で特徴も輪郭ぐらいしか解らない。

(ここは……そうか。倒れてしまったんだな。多分あの時の右肩の痛みは、核だったのかもな)

 寂しい世界を歩く一人の少年、それは自分。自分の正体は来霧。一応、そういうことは解っている。だがいつもの自分とは違う感じかした。そして……

(シャラ達は……いないのか)

 それはある意味安堵を感じさせることであり、他の誰も知らない世界を歩くことが誇りにも思える。つまりはそこにあったのは哀しみではなかったということだった。

 見知らぬ街道を歩くと、遠くに見知った場所が見えてくる。

 花畑だ。

 ただ、そこのあらゆる花、葉もまた色はなかった。

(果たして僕には何ができるのか)

 そこには歩く人物もいなかったし動物もいなかった。

(シャラ達はいない……)

 今度はさっきと違う哀しみが来霧を襲う。

 仲間の存在。

 自分一人の限界。

 来霧はいつのまにか俯いていた。たった一人では何もできないと思い知らされた。だから、帰りたくなった。

 また歩みたいと思ったから。

(?)

 再び前を向く。風に揺れるのに合わせて真っ白の世界が揺れる、揺れる。

 その先にいる、一人の人間。それはどこか自分に似ている感じがした。

「まさか、君は……自分なのか?」

 その白い背中は何も答えず、別の方へ向かった。

 一瞬、微笑んだその白い人間は、後ろで止まっていた車輪の大きなカートを押して、どこかへと消えた。でもそれは色に溶け込んだ、が正解なのかもしれない。押しながら彼は笑って話しているように微かに見えたから。

 そして来霧は一つの人影となってその世界から消えた。


「白い……天井……そうか、ここは聖堂か」

 来霧は「そうとなるとやっぱり」と答えると周りを見回した。大理石の台が20個程並んでいる。その中央には小さな噴水があるようだ。

 来霧は台から降り、重い扉の方へ歩く。体力はある程度回復しているようだったが、また完全には回復できてはいないようだ。

(だからかな。まだ気がぼーっとするんだよね)

 そう言いつつ天井を見る。白だけかと思えば様々な色彩の光として視界に飛び込んできた。

「美しいな。過去に人工的に虹を作り出した時を思い出させるようで」

 来霧はまた眠るかのように目を瞑り、深い息をつく。

 この世界ではどうなるのだろうかと、自分に問いかけながら。


 元いた世界では来霧は賢さでは下の上だった。得意だと思っている科目と苦手とする科目の間はそれほど開いてなくテストに関しては自慢することはない。家族については兄弟の多い家だったとしか言えることはない。両親と親戚と仲が良いっちゃ良いのだが。

 そういえば、時々親戚の家に行っていた。その家から見える荘厳な佇まいの山にかかる霧。それを背景に写真を撮るのが毎回恒例となっていた。

 それが来霧という名前に決めた一つの始まりかもしれない。


 ゆっくりと目を開く。そこは瞑る前と同じ七色の光差し込む建物内。起き上がって周囲を見回すと台座から降りる。

 そして、いざ歩き出すと足の感覚が無いことに気が付いた。

 まるで酔ったかのように思うように動かない足を、台座を両手で掴んで支えながらゆっくり馴れさせる。と、再び見回して扉を探す。

 比較的近いことに気が付くとそのまま支えながら歩き出す。

 そして、その内に感覚を取り戻しきったのか台座から手を離し歩き出す。

 そこからは早かった。

 台座を避けながら歩き、そして扉の近くの鏡の隣に立つ。

 そこには紛れもない自分の姿が誤魔化されること無く映っていた。

「ははっ。白髪か。満更外れでもないのかもな」

 来霧はそう言いながら厚みのある扉を押した。

 外から色のある光が聖堂内に差し込んだ。そして、雪かと思うような紙切れの桜を浴びた。

「来霧さん、お疲れ様ですよ」

 そこにははち切れんほどの笑顔見せるクララがいた。

(そういえば、4人は先に経験していたんだよな)

 そう思いつつ紙切れを拾う。

「そうなんですよ。おめでと――」

「だからって祝うべき所なのかなとは」

「ははは。そうですよね、やっぱり」

 笑顔が苦笑に変わったところで来霧は周囲を見回す。そこには三人の姿は見受けられなかった。

「シャラさん達は先に議会に行ってますよ。何でもレベルに達したとか」

「ああ、成る程。サブ職会得か」

「ええ、そうですね。来霧さんも一応達しているようですが」

「そうだな。でも、まだ……」

 来霧は口を閉じた。

「まだ決まりませんよね。ありすぎですからねサブ職は」

「うん」

 来霧は下を覗き込むように見入りながらそう答える。〈イート〉のサブ職一覧でも見ているのだろう。

「じゃあ、先行ってるので行く行かないかは連絡して下さいね」

「あ、ああ。今日は行かないよ」

「……そうですよね。急かしすぎました。ゆっくり選んでください」

 そう言うと狭めの道を駆けていった。

「はぁ……」と来霧は溜め息をつくと空を仰ぎ見た。そこでは星の一つも見当たらない、いつも通りの空が広がるだけだった。


「で、帰ってきたってわけね」

 ふうんと、怒る素振りも見せずに若羅は何度か頷く。

「サブ職は一番欲しいと思うものとか、らしさのあるものとか選ぶといいんじゃないかしら」

 そう言いつつ、若羅は自分のサブ職を選んだ理由を告げる。実用的な意味であったり、メイン職の補佐としてであったりと簡単に説明をしていく。そしてそこから来霧にはどんな職業が似合うのか、また無理して取りに行かなくてもいい職を分別し、厳選していく。

「〈刀剣士スワーダー〉に相性がいいのは、〈必撃手〉とかだったり、魔法も同時に駆使していくなら〈魔法剣士〉とかかしら。キャラとしては『霧』という字から〈呪術師〉とか〈気象制御士〉とか? 〈鍛冶職人〉とか非常時に使えそうよね。そうそう、おすすめがもう1つ――」

 若羅から様々な職を言葉の奔流のように紹介され、果たして本当に厳選されたのか気になるが、来霧は考え込んているかのように固まる。

「来霧?」

 来霧は何も言わず立ち上がると上へ消えていく。そんな来霧の背を見た後、若羅は一回深い溜め息をついたのだった。

「はぁ……どうすればいいんだ」

 脳内を様々な職種が躍り回る。それはフォークダンスと言うよりかごめに近い感覚だった。

 また、溜め息をつくとベッドに背から倒れ込む。小さく金属の軋むような音がする。そして来霧はそれに身を預けた。


 恐らく聖堂近く、南門の前に来霧は突っ立っていた。ただ正面をじっと見つめて無口のままで。

 何となく夢だと察しはついたがどうしてここなのかは全く検討がつかない。なので暫く周囲を見渡すと、近くの長椅子に座る。

 人の見当たらない。普段とは正反対のストックブルクの町並み。

 ただ、色は失われていなかった。

(この景色は……僕に何をさせたいんだ?)

 そう思いつつ立ち上がった来霧は、正面の細い道に入った。

 半分以上が黒く染められていたがその道は比較的歩きやすかった。冷えた風が底を通り抜ける。

 人型の黒は地面の黒に馴染み、どことも知れない道を歩く。

(きっと(キミ)は知らないのだろうな)

 ひと気のない店舗の前。

「僕はここで生まれたんだ」

 この世界ではねと、付け加えると道の先を見た。

 風に揺れる緑。

 何のかは知らない草が生い茂っている。右側には1本の木が立っている。

 ……そして誰かの声が。

「っ!」

 一瞬で暗転する世界。しかしまだ来霧はそこにいた。そして気付けば暗闇に包まれている。

 意識しなかった輝きでさえそこにあった。


 勝手に動き出す右足。とっさに抗おうとする。が、それでも終いには負けてしまう。

(いったいどこに行く気なんだよ――)

 そう自分自身に問いかけようとしたとき、意識は還ってきた。街灯差し込む部屋の中に。

「そうか。そうさせたいわけか。うん」

 来霧は起き上がると、正面の窓を開ける。そこから望めるのは南の空。今日はいつもより澄んでいた。その世界を前に一度目を瞑ってみる。深呼吸をしてみる。そして、目を開ける。

 変わらない世界。

 いや、刹那的にはそうかもしれない。でも、長期的に見たらどうか。

 現実とは流動的だ。今日明日で何かが変わるかもしれない。安定性ゼロが普通なのだ。前も今も。

(今日の行動でどれだけ変わるのかわからない。でも変わるのは確定なんだろうな)

 そう思うとうずうずしていられない。来霧は静かに宿を抜けると、南に走った。

 無理をしているからだろうか。

 すぐに息が切れる。

 そのたびに立ち止ってみては、正面を見る。

 熱を失った薄暗い世界。太陽の恩恵の減少期。全身に伝わってくる、ひんやり以上の寒冷感。

 気候上そうなって当たり前かもしれないが、この寒さは過去を想起させた。

「そう……だね」

 バッグからランプを取り出す。

 残念ながら、この世界にはまだ電池がないらしい。それに、この暖かさは暖色以上だと、知ったから。

 来霧は、点滅する街灯とランプの照らす道を一人歩いた。


 空を伝って聞こえてくる声。

 思わず、やっぱりなと、心の中で呟いた。正面にあるのは夢の中で見た草の生い茂った小さな丘。

 あの不思議な夢について疑問を膨らませつつ上る。

 草をかき分けながら、一歩一歩安定した足場を探す。しかし、そんなことを気にしている間に、上からの声はやんだ。

(気付かれても……仕方がないか)

 そう思いつつ、静寂の中を一歩一歩上る。

(もうすぐ丘の上だろうか――)

「誰ですか? 何でですか?」

 その一言が、静寂を引き裂いた。

 おそらくかぎ分ける音から方向を推測したのだろう。続けて何かが飛んでくる。小石だろうか。

(まあ、警戒されてもしょうがないか)

 そう思って、来霧は立ち上がった。そうして互いの顔合わせとなる。

「うん。ちょっと気になってね。こんな夜中に何してんだろうって」

「数えてるだけです。眠れないから」

「ふぅん。一人ぼっちっていうことかな?」

「あ、いや。ただ、星が好きなだけなんです。それに、葉のそよぐ音も気持ちいいですし、静かな夜に響く声もまた」

 来霧は静かに頷いて、それを返事とした。確かに気持ちがいい。寒さを除けば、リラックスにうってつけかもしれない。続けてもう一度頷く。

「で、あなたの名前は? 私はヒエロワっていうの」

「ああ、僕は来霧。……じゃあ、失礼するね、邪魔し続けるわけにいかないし」

 来霧はそういって丘に背を向けた。そして、わざとらしく草をどけながら歩いて降りる。

「ちょっと待って」

「へ?」

「狂ったからさ。数。それに回ってるから、世界は。添ってとは言わないけど、数えるのを手伝って……くれませんか?」

 その声は小さかったが来霧の耳に届くのには十分だった。特に世界は静まっていたから。

「いいよ。でも徹夜はナシで」

「それは来霧くん次第なんじゃない?」

 その一言に対し、もっともだ。と答える来霧と、微笑むヒエロワ。

「いくよ。……1つ、2、3つ、4つに5つに、そして――」

 ささやくかのようにヒエロワは数える。

 その日の夜は丘付近に暮らしている人々によると、空を渡る声が途中から小さくなったらしい。

 なぜかは、全く分からないらしいが……



 同時刻――議堂、最上階にて。

「では、どうするというのですか!?」

「我らが生き残る道は他にあるまい。残念ながら我々の長所は限られているゆえな」

「そうではなく、具体案を求めているのですっ、レッテム殿。このままでは、破滅は目の前ですよ!?」

「一旦落ち着いたらどうでしょうか?」

 白熱を超えた会議に一声入れた男。

「カツトヨ殿?」

「幸いこちらは、商人によって動向が知れています。避けられないと踏んで、固めることは考えにはないのでしょうか? 来夢(クルム)さんには」

「……もちろんあるとも。しかし、城壁で何とかなる問題でもないでしょう? それに個々の力も知れたもの。軍事国家に果たして、勝る点はあるのでしょうか。商業の面を除いて」

 来夢の一言に会議室はしばらく、静けさに包まれた。                        

(成長が見込める点とかか? いやそれじゃあまだ――)

「ありますとも」

(ギルドマスター??)

「我々には、発展できる可能性が相手以上に」

 驚きの目でギルドマスター、クエーサーを見つめて訴えかける。ここで失敗でもしたならば、ギルド追放の恐れもある。カツトヨはこの空気の中、冷や汗を感じながら見つめ続ける。

「何だ? 間違ったことは言ってないさ。カツトヨ、ここは、ストックブルクは可能性溢れる商業都市だ。要衝だ。昔、その話に頷いてくれたろう? だから、できる。ここはまだ様々な面で優れていない。だからリミットまでまだ余裕があるってことになるんじゃないかな」

「だ、だから……」

 カツトヨは慌てて話を止めに入る。その話はお門違いだったためである。

「クエーサー殿、ではその可能性を非常時までに限界まで上げられますか?」

「出来ますよ。武力なら、今すぐになら敵想定値の1.2倍ぐらいまで」

 クエーサーの隣に座っているせいか視線を異常に感じる。ほかの2ギルドの目もこちらに向いているのは間違いはないだろう。恐ろしいことを言い放つクエーサーに振り返る。表情が少し固まっているようだった。

(まあ、当たり前だろうな。ハッタリ終わりだったら首どころじゃないしな。それに、基本、注目を浴びるのを嫌う人だからな)

 緊張か、カツトヨはそう内心で呟くと、議題が変わるのを待った。



「それでね、話があります」

 ヒエロワは、議堂の裏、掲示板広場で集合していた来霧たちの前に突然現れた。

「再攻略をしましょう」

「へ?」

「へ? じゃなくて、再攻略ですよ。橙色の鍾乳洞のね」

「知り合いですか?」

 キョトンとするSnowと隣で来霧に問いかけるクララ。驚きでか口を覆い隠すシャラ。さっと剣をしまうキーリ。そしてあたふたしている来霧。整理のできていないだろう彼らに、ヒエロワは言い放つ。

「ここメンバー5人なんですよね。なら入れてください」

「何でですか?」

 クララの質問にヒエロワは簡潔に答える。

「行きたいところ……帰りたいところがあるんです」

 皆さんもそうなんでしょ? と、言うヒエロワにクララは続けて訊く。

「具体的にいうと?」

「『倭国列島』です。補正のせいでそこにあたる名前を示すのは少々骨が折れますが」

 ヒエロワはそう言いつつ木の棒で地面に線を入れていく。外枠から書いているのだろう。そうすれば文字判定がないのかもしれない。

 その字を見て来霧は頷く。

(帰る、帰るか。そのまんまの町並が残っているとは限らないが)

 面白い話に聞こえた。そして、何か取り戻せるような、そんな気持ちに包まれた。

「よし決定だ」

「いいんですか?」

「ああ。何か見つけられそうな感じがしたからな。ヒエロワの存在ひとつで」

 そう言い終わると、安心したのかヒエロワは胸を撫で下ろすモーションをする。そして指先が空を滑る。イートの画面フリックだろうとゆうに想起された。

 そして何かメールが届く。中には大きな構図が入っていた。

「さて作戦会議を始めましょうか」

 その眼には光があるように思えた。役に立ちたいという気持ちからなのか、やっと連れ添いのメンツが見つかったせいか分からないが、そこにあったのは間違いがなかった。その光は太陽光でも、その反射光でもない、と確信できるほどに不思議なものだったから。

「――勝ちます」

 ヒエロワのその一言はどこか力強く耳に届き、心に響く。

 そんな6人目の加入という出来事に、内心興味深く思いながら空を見た。もしかすると、そこには少しの不安感もあったのかもしれない。

(これからどうなってしまうのかな、僕らに。何をさせる気なのかな、世界は)

 不思議と、その答えは返ってこない。ただ、青空にあった一点の曇りに、不安に感じて仕方がなかった。

☆登場人物☆

来霧・シャラル・クララ・キーリ・Snow・ヒエロワ

若羅・カツトヨ・来夢・レッテム・クエーサー

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