底深き迷宮(ダンジョン)――②春告げ鳥
二ヶ月開きました。申し訳ない。
ひとまずこれからは、ここまでいかないけど不定期にいきます!
季節は既に春。麗らかな日であった。
毎日欠かさず行われている鍛練が今日の分が終わろうとしている。目の前では仁王立ちしたカツトヨが来霧を監視し、助言している。
「よし。終わるか」
カツトヨのありがたい言葉に甘えて休もうとした瞬間、始めての暗転を経験した。
最初はてっきりもとの生活に戻れるとは思ったが違うようだ。
「何て言うか、天国?」
その一言が口に現れたが違うのかもしれない。
目の前に広がる色鮮やかな花畑に来霧はデジャウを感じる。
些細なことだった気はするが今は思い出せそうもない。
風は流れ、花は押されたかと思えばまた戻る。
「はぁ……痛かったんだけれど、何かを掴めた感じがするなぁ」
そう言いながら周囲を見渡す。
(もしかすると聖堂行きの途中だったりして)
あまりにも静かな雰囲気は天国や楽園のような言葉を連想させる。
また波が来霧を襲う。それほど強いものじゃなかったが、トレードマークの一つと化してきた実際は白に近い色の髪が靡く。
その正面のラベンダーの花畑も再び揺れた。
「ここにきているのは一人だけじゃないのか」
そのラベンダーの隙間から女性の背姿が見え隠れする。きっと近くで見て臭いでいるのだろう。
その人は、来霧の声に反応して立ち上がると――こっちには向かずにいた。
「そうみたいですね。ここは静かだしとても晴れ晴れとした気分になるのでずっといたいなぁってよく思うんです。でも誰かが待っているとなると戻らなきゃ。心配をかける前に」
ずっと顔は見れないままだったが、きっといい顔で言ったのに違いないと来霧は一人感じていた。
強制帰還の数十秒ほど前のことである。
別れ際の言葉が残るままの帰還となった。
「あ、起きたわ」
さっと何かを隠す若羅。何か白い小型銃を向けられていたような気がしたのは気のせいだろうか。
こちらも向こうの世界と負けず劣らずの長閑な町だった。ただ、花畑はなかったが。
「お疲れ様みたいね。鍛錬の結果ね。脱力感に襲われたんじゃない? そうして意識が飛んだのねきっと」
そういうと部屋まで寄り添っていてくれた。もう既に愛息子の領域だろうか。
階段を上っている間、『ステータス値は単なる数値』そんな言葉を思い出した。
現にまだ疲れは残ってる。MPは満タンなのにだ。
(その説は正しいのだろうな)
その後、来霧は素直にベッドへ直行した。
「来霧さんこんにちは」
「今日来るって思ってたよ」
「なんだか悔しいですねぇ」
門の下で彼らは待っていてくれた。
(暫くいなかったのに)
「たとえ一年抜けても外しませんから。安心してくださいね」
クララのその一言を合図に来霧達は再び歩き出した。
全員で五人。あと一人で一部隊の基本構成人数だ。
その為か、六人目についての会話が始まる。
「個性的な人だと思いますよ」
始まりはキーリから、そこに加えるのはクララ。
「中でも夢見な人とかじゃないですかね」
「うーん。極端に騒がしい人か極端に大人しい人。極端に短気な人って感じの人かな。つまり極端な人」
「ふむぅ。王子様的な人か、姫様的な人ですかねぇ」
四人の意見は出揃うが、この空気からして来霧の一言で決まるパターンだろう。その為か、四人の視線を感じる。
「えーっと。とにかく僕らには無いタイプの人ってことでどう?」
そう言い終えると視線の体感数は減る。残りは一人。他でもないシャラである。
納得のいかない視線にさらされる。鋭い視線だ。その集中射撃を前にすると、白旗の準備が必要そうに感じる。
(そんなに睨まれてもなぁ。未来なんて知らないんだからここら辺でいいじゃないか)
「ふぅん。まあいいか。で、雪ちゃん?」
シャラは攻撃の標的を変更したようだ。
「――だからって、どうにもならないけど、本当は行ったことがあるんじゃないの?」
シャラは来霧ほどではないが彼女を見つめた。
三日前のことである。
来霧抜きの挑戦だった。
シャラ達は広場で見つけた、期間限定と思われるクエスト〈春告げる妖鳥〉を攻略の為、森を進んでいた。そのクエストは達成タイプのクエストだった為、出来るだけの備えをしてから。
その頃の来霧はひたすら鍛錬してたので知らなかったのも仕方が無いと、シャラは言う。
そして『雪ちゃん』ことSnowは俯いた。
その今から三日前、四人は〈鳥棲む樹林〉の一本道を歩いた。
「名前の通りですねぇ。沢山鳥がいるんですねぇ」
クララは止むことのない鳴き声の中、暢気にそう言う。
「あ、あれは〈翼竜〉のようですね」
「みたいね」
見たこともないような鳥鳥が上空を飛び回る。こういう所のイメージでは鴉が定番なのだがあまりいないようだ。
森の中を幾つもの種類の鳴き声が響き合い、時々MPを一桁分削る。中には毛の合わないものも含まれている、からだろう。
「こういうの好きなんですよね。雪ちゃんはどう?」
「うーん。苦手な方かな」
「それまた何で?」
「耳障りでしょ? あと、上を見ようとする時、視界に入って邪魔でしょ?」
クララは何て心の狭い子だと、思いながら歩く。
(でも、好きな人がいるんだから、嫌いな人がいても仕方がないんだろうなぁ)
そう思って、前言撤回したくなってきた。
ふと、横のSnowを見るとぷくぅっと頬が膨らんでいる。
「私からだとすると、これは歌なんです。そう楽器の集合体。時々合わないものもありますけど、気にしすぎたらいけないんですよね。そう思うと何だかですね」
「それもそうね。だけど――」
シャラは周囲を見回すと、クララの方に振り向いた。
「音色が違うみたい……なのよね」
さっきまで聞いていたのと変わりゆく音色。棲む鳥の種類の変化を物語っているように感じる。
どこか鴉に似た鳴き声。
「もしかすると近付いているからかもしれませんねえ。ふむむーう」
ギャアギャアと鋭い声の響く森。それは不気味でもあり、謎でもあった。
〈不幸を呼ぶ黒鳥〉の鳴き声は強くなる一方だ。しかし、
「そういえば、一回もぶつかってないよねぇ」
ここまでこの体力・やる気で来れたのはその為だ。一回でも襲撃を受けていたなら、幾らかHPも減っていただろうし、その内やる気にも何らかの影響を与える。
襲ってこないのはこっちから仕掛けていないのもあったのだろうが、どこか不自然でしょうがない。
「まさか、ね」
敵モンスターにも数の限界数があるらしく、レベルが低くなるにつれてその限界数は大きくなる。また〈再来・蘇生の法則〉にあるように復路でのモンスター数が往路の行きに倒した数の九分の一に数が限定されたり、階層主が約一時間後に蘇生して再挑戦可能になったりするというのもある。
もしかすると、それを狙ってる可能性だってありそうだった。
(主の待つ空間に雑魚が入らないからいいけど)
どこか心配させる状況だったのには間違いがない。
そうして先知れない一本道を歩いた。
「来ちゃったよ」
目の前の空間が広がる。
明りのない洞窟クラスの森であり、ランプを点けていたから見えたものだったが、奥に石造りの神殿っぽいものが見える。形は屈折ピラミッドのようなものであり、そこに何匹かの〈不幸を呼ぶ黒鳥〉がとまっている。
(まさか――)
そうキーリが思った瞬間だった。
背後から突然激しい羽音が聞こえる。後方での戦闘が起こったのかと思うも、真上を数えきれないほど通り過ぎる〈不幸を呼ぶ黒鳥〉の様子から見て違うことが解った。
その群れが漏れることなく遺跡にびっしりととまった時には、確実に。
「あの群れが主ってことね」
少し途中で刺激を与えなかったことに後悔はしたが、もう遅かった。一発で攻略しちゃえば関係なかった。クエストの〈春告げる妖鳥〉の明るさが全て消えてしまったことにイラつきはあったが、こうなったからには仕方がなかった。勝つ。それだけだったから。
(真昼のはずなのにね)
灰色から一変した遺跡に向けてシャラは矢を番えた。
真っ暗闇とも言えない木漏れ日がちょっと差す中。ランプの光はそれに関係なく仄かに周囲を点す。視界が少し広がるぐらいだが、十分だ。
後方でSnowやクララが支援し、キーリが注意を向ける。そこを矢の雨で打ち落とす作戦だ。相手がもし一塊になって攻撃するなら命中率も上がるし、個体ごとの対応がある程度省かれる為やり易いということだった。
(思い通りにことが進めばいいけどねっ)
そう思いながら射たれた矢は彼らに刺激を与える。そして、飛び立ったようだ。そのまま空中で球体を描くように彼らは飛び、その内整列して上空を飛び回る。
「これが〈凶運示す怪鳥〉」
黒鳥の群れは遂に一体へと移り行く。
「皆さん。始まりますよ」
その合図と共に前衛は走り出した。全長が長く、高HPである彼らに喧嘩を売りに。
キーリが吠える。その声に反応したのかこっちに振り向く黒鳥の塊。
後ろではクララが発動の準備をし、Snowはいつでも発動可能なのか塊を見つめる。まるで因縁があるかのようにじっーとだ。
『さて。シャラさん』
「解ってるって」
塊がキーリにゆっくり接近する。そうしてシャラの射撃可能範囲に少しずつ入っていく。
(射撃さんは居場所がばれると終わりかぁ。あの数える気も起らない黒鳥の目に捉えられる危険性が高い気がするけど――来たっ)
さすがに風を切る音までは諦めていたが、敢えて三十五度ぐらいの角度で射た矢は方角はともかくとして、少しだが距離をごまかした。
視線がこっちに向くのを感じる。そして少しすると金属音もまた聞こえた。
(意外ね。偶然弱いのに当たった?)
息は周囲の葉葉を少し揺らす。そして不安定でいつ折れてしまうのか解らない足元に視線を移した。
少しの間、膠着状態が続く。
葉葉の隙間から相手の様子を監視する。塊はこっちに向いたまま、発動モーションに入っているようだった。
(っ。なら)
今度は四十五度近くの角度で〈四×四連射〉と〈四×四同射〉を連続で射る。
(場所はバレバレよね)
今度は躊躇うことなく、枝から飛び降り走った。葉葉の擦り合う音はさすがに避けられない。バレバレだ。
『シャラさん。何か黒いビームがそちらに』
「解ってる」
何かが気に衝突した音が響く。その刹那、それは放たれた。
炎は上がらなかった。少し焦げた臭いがするぐらいだった。
「シャラさん?」
クララは思わずそう尋ねた。受けなくても結構な威力を持ってるのは、大体解った。
でも唯一の攻撃役が倒れてしまうと、防戦一方になる。蘇生にも時間がかかる場合があるのだ。
『なかなか大規模ね』
「シャラさんっ」
何事もなかったような声が聞こえる。
『ん、まぁすぐ行くからね。待ってて』
「ええ。その方がいいです……いや、そっちの方で準備して下さい」
『へ? 何のよ』
「貫通――来ます」
『え、さっきの?』
さっきの攻撃を見ていたクララからすると、この攻撃でキーリたちが助かるかどうかは微妙なものだ。運良く一発耐えられても、二発目は無理だろう。
「――まだだっ」
そうキーリが言った瞬間、二発目が撃ち込まれた。
土埃が立ち込める。そこには焦げた臭いも含まれていた。
「た、助かったみたいですねぇ」
Snowの声が上がる。返事はすぐにはなかった。
「……何があったのですかね。キーリさん」
クララはキーリのステータスを確認した。残りは三割。連射されたら終わりだろう。Snowに言って、キーリの回復が始まると少しずつゲージの数値が戻っていくのを確認する。
それでも即の三発目は全滅だろう。
少しずつ晴れゆく砂埃の中からキーリの姿は現れていく。
「それは〈銀幕の反射布〉。なるほど跳ね返しましたね。何割か」
「ああ。危ない、危ないよ。だって――」
さっきよりも暗みが増しているように思えた。木漏れ日が無くなったからだろうか。
しかしそれでも、塊の姿がちゃんと見えた。何かの準備をしている。三発目か、それとも――
『最初のやつね』
そう言ってシャラは隠れて射るも、二人を庇ってキーリが立ち塞がるも、どうにもならなかった。数個の球体がシャラに殺到した。
そして三人は謎の効果を受けると、残りの球を余すことなく受けた。
「病原効果何て、そんな、また……」
世界が一瞬で変わったのは言うまでもない。
「成る程ね。で、それで?」
「聖堂で泣きながら言っていたのよ。『解ってたのに』ってね。だからよ。どうして知っているのかってね。別に勉強したとかなら謝るけど」
来霧がSnowの『勉強したの』って言う返答を期待して彼女を見つめた。シャラとはうって変わって優しそうなものである。
「そんなに謝る私が見たいの?」
シャラは来霧に訊く。それを鷹揚に頷いて返すと、何も言わず向こうを向いた。
しかし、周りから見るとその状況がまるで来霧が虐めているように見えてしょうがない。本人もそれを察したのか、Snowの名前を呼んだ。
「来霧さん?」
「別に黙っていてくれてもいいよ。ただ、ひとつだけ。そのクエストにリベンジしようってことだけ、いいかな? そりゃあ嫌なこともあっただろうけど、このままじゃ嫌なままで変わらない。それは辛いと思うから。いいかな?」
その心の裏にはそのクエストを達成して成果を確かめたいとかの野心はあったかもしれないが、そう言ったこともまた、本心であったのには間違いないだろう。
それに対して、Snowは暫く黙ってから口を開ける。
「――行ったことがあるんです」
「へ?」
「あのクエストを受注して、以前の部隊で攻略したことがあるんです」
「ん? なら隠す必要もないんじゃないの?」
何となく出た一言だが、どこか自分も彼女を非難しているように聞こえる。でも、気にしないかのように彼女は質問に答えた。
「そうですかねぇ。確かにあの時は勝利したんです。でも、私は違ったんです」
――ったく。どんくせぇよな。回復役を何で守んねえんだよっ。おかげでぎりぎりだったじゃねえか。
(あの時、〈攻め手〉が皆前に出てたから。自分で守るべきだったのに出来なかった。誰にも守ってもらうことなく、ただの回復役としてその場にいた。誰かに必要とされているならともかく、そうじゃないように思えて仕方がなかった。ただのアイテムとして、そこに立ち尽くしていただけのように。だから、ついていけないって思ったし、脱退することにした。以前の自分から変わることを思って)
「あれから変わろうと思ってきたんです。でも何も変わらなかった。結果として出てきたんです。今回の挑戦で」
そう言って項垂れるSnowから何滴も落ちる。そして、来霧は励ますつもりでか、彼女の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「一回じゃ出ないもんだよ。本番特化型とかじゃない限りね」
来霧にも悔しい気持ちは解るのだろう。そう言うと来霧は先に歩き出した。
はっとして追いかけるSnowのそんな様子を見て微笑んでいたクララは先先行く彼らの後をはぐれないように追いかけた。
「さあて、『再』攻略だ」
力強いその一言にSnowは背中を押された感じがしたのだった。
「成る程。こりゃあ、確かに不気味だな」
下手な合唱曲が流れるなかで軽く耳を押さえながらそう呟く。
目の前には黒く塗りつぶされた神殿。
「さぁてと、始めましょう」
シャラは来霧に合図を送って周囲の林の中に潜った。
(そうだな)
そう思った瞬間、鏑矢が飛び込んだ。
一体を射抜くと、〈不幸を呼ぶ黒鳥〉はまた一斉に飛び立ち、球状に固まり始めた。
そこに止めどなく矢の嵐が襲来し、少しずつだが数を減らしていく。
(前回と同じ――本当にこれでいいのかしら)
シャラは森の方を見ながらそう思った。確かに、来霧が攻略に増えただけでも成功にぐっと近付いただろう。でも、同じことの繰り返しでは意味はないのではないだろうか。
じりじりとした殺伐な空気に汗が流れる。
その刹那だった。葉と葉が擦れ合う音、来霧だった。近付いてきた黒鳥の塊に向かって、大きく跳ぶとそこへ飛び込む。
(!!)
シャラが驚愕の表情でその来霧を目で追う。跳んだのは枝の弾力を利用してだろう。しかし、飛び込む理由は解らなかった。
(どうして――)
その理由は見ているとじきに解ってくる。斬られたと思われる黒鳥達は一瞬で氷漬けされ、衝突した他の黒鳥によって砕かれる。更に氷に衝突した黒鳥や来霧の足場として踏まれることとなった黒鳥は各々ダメージを受け、体力を失い落下する。
それだけだったが、これまでのよりも効率は良かったし、確実に数は減っていた。
(でも、攻撃されるとなるとゼロ距離だし、かわせないかな)
シャラは一対不明数の中でも戦う来霧を見つめながら枝に座っていた。
来霧は数の暴力の中、後ろの威圧と治癒、援護の三色の光を一瞥し、自らを囲んだ黒鳥達を斬り落とす。
『相手が固まって怪鳥になった時、威力や攻撃範囲は固まった黒鳥の個体数によって変化していくのじゃないかな』
正直、立証できる証拠はない。でも、『〈陽炎〉で隙間から入り込んだ程だから何かがあるに違いない』そう言っって突っ込んでしまったからには、なかったらシャラは許さないだろう。
〈冷空〉によって氷を纏った武器と化した木刀を風を切るように大きく一振りする。
それとほぼ同時にその軌道が可視化される。それでも薄いのかすぐにひびが入り、消えていく。風に戻って行っているのだろう。
「もたないか……ならもう一度。〈氷天桟〉っ」
その軌道はまた可視化され――凍りつき、その軌道上にいた黒鳥もまた凍る。
それは〈氷通滑〉に似ていたし、違った。それは地面にか、空中にかという違いだったが間違いなくそれは進化系たるものだった。
「うん。もうそろそろかな?」
そう言って塊から抜け出す。しかしそこに話に聞いたモーションが行われる。
「球体の方か。Snow。MP回復頼むよ!」
そう言ってSnowを一瞥した隙に、来霧はその攻撃を一発分だが食らうこととなった。
『MPってどういうことですか?』
Snowは来霧に心配しているのかそう訊く。一応、MP回復呪文は来霧にかけられ、周囲が光っている。あと十数秒ぐらいで完全に回復するのだが、どんどん減っていくHPでなくまだ余裕のあるMPを回復させるのに不思議に思ったのだろう。
「MPってこと? 秘密さ」
ひたすら上へ上っていく来霧の意図はまるで分らなかっただろうが、電信上ではそれ以外に誰も意図を訊くことがなかった。
(後で何て言われるかなぁ)
そう思いながら、下を見る。まだ何発か来るようだ。そして、シャラ達は――注意が向かない程度の攻撃を続けている。
「順調だなっ」
黒鳥の一撃は来霧を狙い、本人に当たらなかったにしても足場を破壊していく。
(確かにHPも危ないかもな。でも関係ない)
空間の頂に届いた。黒鳥の塊を一瞥すると、ハチドリの様に縦向きの塊となって別のモーションに入っている。
「待っていたよ。〈凶鳥の制裁〉」
そう言って、足場を壊した刹那。緑のオーラを纏った来霧は、夜のような光線の中に消えた。
その光線は天井として覆う木々を焼き落とす。そして陽が差し込む。
「――くすることなく突き進めっ」
それは、一瞬だった。射し込んだ日光のせいか、それとも他に理由があるのか黒鳥は散り散りになる。そして日光は一人を照らしていた。
「来霧さんっ」
そこに立っていたのはHP・MP両方ともぎりぎりの来霧だった。
「さては……〈陽炎〉と〈氷華〉の組み合わせね」
シャラのその言葉に「ああ」と、頷く。
「〈凶鳥の制裁〉は僕の〈氷華〉と同じく貫通攻撃だった。だからキーリのダメージは予想以上に多かった。ただ違うのは病原効果があるかどうかだね。ってことだから、貫通攻撃の特殊効果を使わせてもらったんだ。『貫通攻撃同士の時、後手は先手の攻撃を貫通し攻撃を与えられる。ただしこれは先手の攻撃の上限一割のダメージを受けた後に、初めてダメージが与えることが出来る』ね。正直、これは賭けになるだろうと思ったけど、決まれば勝つって解っていたからね。臆することはなかったよ」
クララとSnowの回復を受けながら来霧は答える。恐らく天井まで上がったのも一直線上で塊を一気に貫く作戦だったのだろう。
「だからって無理しすぎですよう」
クララの声が変に輝いて聞こえた。差し込む光のせいにしながら、また頷く。
「でもまだ終わってないよ。散っただけで彼らはまだそこにいる」
残り十数体ってところだろうか。数えられるほどしかいなかったが、動き回るので詳細な数字は分からなかった。
「ふむむーぅ。大丈夫ですよだって二人がまだいますからね」
遺跡の方を見ると、新手の〈威圧法〉みたいなものでおびき寄せられた黒鳥を、よくシャラが高価だからとか騒いでいる『一発型&期間限定』の〈春唄〉で一気に射抜いていた。
「成程。だからですねぇ」
やっと気付いたようだった。〈殺法〉の一種である〈氷華〉は、高コストな技の種類の一つであるだけに、MPを結構使う。満タン近くなら二連撃は可能だが、今回は〈氷天桟〉の乱発のせいで、一発撃てるか微妙な残量だったのだ。今回は〈陽炎〉で敵貫通までの時間を縮めるのに必要だと思われたので、その分も必要となり、回復を依頼したってところだということに。
「そういう訳。まあ、何はともあれありがとう。あの時回復していてくれたから成功した。そう今も思っているからさ」
〈積雪〉によるMP回復の青白いオーラが消えて、〈霜雪〉の真白なオーラが来霧を包む。普段は見えないような色彩だったが、暗がりに近かったからか鮮明に映っていた。
静かになり、空に空いた穴も塞がりゆく。黒鳥の蘇生も何体か視認されたようだ。
「一体分のステータスが低いからね――さぁ。帰りましょうか」「いや」
シャラの一言に来霧は即答する。「何でよ」と訊くシャラに来霧は何かを指すモーションをした。
「〈イート〉? ああ。クエストのことね。終わったじゃない」
「そう思うか? 『春告げ鳥』に逢ってさえもいないのにか?」
「『春告げ鳥』?」
「つまりは、『鶯』に逢えってことですか? ふむむーぅ。アイテムの方では? 収穫は普通のしかなかったけど……」
疑問を呈するSnowの言葉にキーリは反応して、遺跡の方を指す。
「祀られているってことでは?」
「僕もそう思っているんだよね」
まだ覆われきれていない天井を一瞥して、来霧は陽が差して輝いている遺跡の方に歩いていく。
「どこにそんな入り口があるっていうの?」
「裏だよ。行けるんだろう?」
「裏? ああそうか」
太陽に照らされる遺跡には変に出っ張ったところはなく、凹んだ所は見られない。しかしまだ見ていない裏はどうか。それだけの話であった。
環境変化に苦しんでいる黒鳥たちを尻目に、五人は裏に回る。
そこには明らかに扉があるような切込みが入っている。来霧は切込みの横を力を込めて押し開くと奥へと入って行く。そこは暫く暗闇が続いたがクララが参道の中でランプを点けた為、壁の文様がうっすらとだが見えてきた。その参道の中を響く軽い靴音が飛び回る。そう、さっきの黒鳥みたいに。
「黒鳥って太陽光に弱かったんですねぇ」
「ああ、あれか? あれは混乱とか、光を受けてダメージを受けていただけだろ?」
「ふむむーぅ。そうなんですが何というか、意外みがあるというか、うーむ」
そんな事を話している内に行き止まりに辿り着く。
「何にも無いのかな?」
「いや――この先だ」
来霧は正面の壁を押す。しかし反応はない。では右側は――何かが擦れる音がする。壁だろうか。
隙間から光が漏れ出す。それは鋭く五人を照らしている。
光が溢れ出した。爽やかな風が抜ける。そして目の前の広葉樹がそれで揺れる。何故か倭国にいるような感じに陥る。
「ここは……」
そこは見た事のあるような世界だった。それほど遠くない気がする。
たが、奥にある小さな家みたいなものは記憶にはなかった。
「未来なのかな? まだ春だったはずだしこんなに太陽って高くはないと思うんだけどね」
「そうですね。木々の葉も青々としています。もしかすると神殿内部から別の所に繋がっていたとか。罠でもそういうのあるみたいですし」
クララは空を見つめながらキーリの声に耳を傾けていた。
「確かになぁ」
心地よい風が吹き抜ける。
「いや。ここはさっきの暗い森に似ている感じがする」
「でも、あそことは違って常に太陽が差し込んでいるように思えるんですけどね」
そう言いながら五人は少しずつ祠のような家に向かって歩き出した。するとその家は彼らに反応したのか勝手に擦った音を立てながら開く。すると中の様子が明らかになる。
「祠……ですか」
中から一羽の小鳥の石像が現れる。今にも飛び出してきそうな翼を広げた形であった。その鳥は原料なだけに灰色に浸かった色だ。
「喋るのかなぁ」
「まさかそんな訳な――」
「遅カッタナ。ン? モウ夏デハナイカ。マアヨイ、ワガ祠ヘヨクゾ参ッタナ。ソシテココにイルトイウコトハ――」
石像が片言だったのにはまあ驚いたがそれを上行き、石像は空を円形に滑るように飛行している。恐らくは魔力が動力源だろうが、暫くの間来霧はしゃがみこんでいた。それを無視するかのように石像は話を続ける。
「――〈凶運の怪鳥〉ヲ倒シタト考エテモヨイノダナ?」
「ええ。散り散りになったみたいです」
「ナルホドナ。ダカラ季節ノ方ガオカシイノカ」
「というと?」
「オヌシラハ、アノ暗ガリノ森ニ穴ヲ開ケタノダロウ?」
「ああ。あれのことか」
そう言って石像の言葉に頷く。
「……」「……」
(ああ、そうか)
来霧は回りを見回す。だから面影があったのかと、答えると石像を見た。
ここは太陽光の当たる当たらないで世界が変わるということだと。神殿に当たる光がなければ、夜の世界であり、春の始まりのようなまあまあ寒い環境となる。正直そいう所なのだろう。
「だから鶯がいる訳ですね。この神殿は常に春だから」
しかし、今回のように光が射した時、神殿の中は昼の環境となる。そしてその光の量や強さによって夏の世界の気温が変わる。
ある意味『裏ゴールした』と言ってもいいのかもしれない。
「……今回ハ違ウガナ。マア良イ、ソノ内戻ル。森ノ修復ガアルカラナ」
「森の修復か……」
「ウム」
いつの間にかSnowが奥のほうに行っているようだ。
「コノ空間ハ狭イカラノウ。ソンナニ行ッタラ壁ニ当タルゾ?」
奥からは何度か「ふむむーぅ」の声が微かに聞こえる。こちらからの声も届いてないのか振り返ることもない、声が殆ど風に掻き消されたようだ。
「にしても、空を飛ぶなんてな」
「凄イデアロウ? 我ガ『石像』デアッテモ魔力を蓄エテオクコトデ、コーイウコトモ可能トナルノダッ」
暫く上空を飛び回っていたが、流石に枯渇しそうなのか祠に舞い降りる。
「コノ世界ガアルカラコソ、今我ガココニ存在シテイル。コノ世界ハ神々デハナク〈創造主〉ト呼ブヒトタチニヨッテ創ラレ、成長シテイル世界ダカラナ。コノ〈魔力〉モマタ〈創造主〉ニヨッテ授ケラレタ『神秘の力』ナノダ。ダカラカモナ、コノ世界デ息ヲ吹ヲ込マレタ我々ハヒトニ親密ナノガ多イ。嫌ウモノモイルヨウダガナ。無論、〈創造主〉デナクトモ皆感謝シテイルノダヨ。ヒトタチニナ……」
そう言うと、石像は動かなくなった。何かを柔らかな地面に落として。
「寂しかったのかもな」
来霧はそれを拾うとステータスを確認した。
「『春告げる召喚笛』。春限定の飛行種召喚笛で、倒したものに限る……か」
制限が厳しい分使用可能レベルやコストが低いようだ。まだそこまでは至っていないのだが……
「ふぅん。てどっちにしろMP消費するんじゃないの」
高性能なものとなるとこのコストが高い――MP消費量が多いものばかりだそうで、考えて使う必要があるそうだ。そう考えると劣ってる感があるのだが……
「でも、いいやつですね。これって飛行種なら何でもってことですよね。将来は結構重用するアイテムになるだろうな」
「確かに、キーリの言う通りかもな。大事に保管しておかなきゃな」
来霧は他の四人にも笛を一個ずつ渡すと、扉へ歩き出した。
「また、魔力が溜まった頃に来ます。その時は夜の世界で」
足を止め、振り返ると来霧はそう言った。まるでまた会えることが分かっているように。
緑風抜ける空間から暗闇の参道へ入る。そしてその先で待っていたのは元の暗闇の森だ。いや、まだ太陽光が差し込んでいるのだろう。合唱の声がまだそれほど大きくない。
「何でだったのでしょうね。何であの空間が明るかったのか。頭ふらふらですよ。ふむむーぅ」
ああ、聞いてなかったのかと、思い出すと意地悪して「気にしたら毒だよ」と答える。来霧は話す気がないみたいだ。そして走り出す。
「ほら、覆われる前にさ。二度も戦うのはごめんだからね」
「そうね」と答えるシャラも続いて走り出す。
彼らが神殿前の空間を抜けた後も、闇の中に射し込んだ光はそのまま神殿を照らしていた。
今回の登場人物
来霧
シャラル
クララ=ミレル
キーリ=ジェイン
Snow
若羅
カツトヨ




