4話 寂寂と雪あかり--(5)
冬って比較的涼しい気温で雪景色見れるならば、楽しみやすくなる気がします(物理学上無理そう)
読者の皆様は雪あかりにどんな思い出がありますか?
「確かに枯れ始めているか」
蔦龍の光線で足をとられたキーリを救出した一行は復路に入っていた。
『異変』のお陰で数階分は構造は変わってないだろう。それは幸いなのだが、地下4階から地下3階に向かう階段に関しては、近道を使った影響で探索のし直しを余儀なくされていた。
「蔦ってだけありますね」
「この洞窟内の蔦は一括管理されてた感じか」
「そのようね」
「あの突然の回復も恐らくはここから吸い取ったのでしょう」
「そう考えると納得はするな」
「つまり、あのボスは長期戦特化ということかしら」
「でしょうか」
いつの間にか罹っていた、蔦龍の固有デバフ〈氷の息吹〉によって継続ダメージに悩まされる。ここでもチート能力が活躍している訳だが、まるで毒と言いたいかの如く、周期的に締めつけられる気持ちに襲われる。
因みに、回復は微妙に負けているようだ。
「……」
「来霧さん、鎮痛剤お渡ししましょうか?」
「あ、いや違う……なんと言うか……窮屈な気分にね」
「違うならまだいいんですが……相談なら快く受けますよ?」
「ありがとう。でも何だかハッキリしてなくて」
クララの配慮にはいつも心から感謝しているが、今回の由来不明のこの苦しみが、一体何か分からない以上相談もし辛い。
冷たい視線をシャラから受けつつ、フロアの把握に目を向ける。
「あ、ありました」
前回同様に世界中の迷宮が泣かずにいられない、索敵用能力を駆使してさほど時間をかけずに難所は越えた。そして地下1階でも同じ能力で迷宮を泣かせると、陽のあたる場所に難なく辿り着いた。
「ねえ白髪」
「ん……だ、だからその呼び方は」
「狭いんでしょ?」
「やめろ……って、え?」
「復路。世界の地図ぼーっとしながら見てたじゃない」
「何で見えるんだよ」
「見えてないわ」
「じゃあ」
「カマかけただけよ。バーカ」
足を止める。それに気がついたのかシャラ達も足を止めた。
「鈍感ね」
「そうでも無いだろ」
「なら遠慮しいなのかしら」
「……」
「ここじゃ窮屈ならば他の所も歩けばいいのよ。簡単に言うけど、もっともっと広いんでしょ?」
「……」
「おら、返答しなさいよ。目的がない訳でもないでしょ?」
「目的……?」
「ええ、目的よ」
何を伝えたいのかは分からないが、僕になにか目的があるという。
すぐには思いつかないが、唐突に耳を抓り出すあたり、確実に何かあるのだろう。
「いたた」
「探すんでしょ」
「何を」
「大切な『もの』よ」
大切な『もの』そう言われてやっと思い出すものがひとつある。だが可能性はないと思っていたことだ。
果たして、心苦しめてでも可能性を探ることなのか。
「言いたいことはわかった。でも」
「あるでしょ。死体を見た訳じゃないんでしょ?」
「あ、ああ」
「奇跡っていうものは、ないと思ったら余計に来ないわ」
そう言いつつ慰めてくれる。
確かに、ただ殺害された可能性しかないと思っていた。こちらの可能性などないと。
内容が内容だったのだ。
でも最初から切り捨ててしまうほど、格好悪いものは無い。
「じゃあ、シャラがそう唆したってことでいいならいいよ」
「そんな所で保険作るなんて狡い男ね」
あははと、苦笑する。それに対して『白髪』コールをし始めるシャラ。いつも通りすぎて、凍りつかせたいという殺意がほんの少し湧く。
ああそうだ。
馬鹿みたいに話して、馬鹿みたいに笑っていられる幸せを感じた時、もうひとつの『幸せ』について思い出す。
「独立を目指しましょ」というシャラの声に頷きながら、ITTで天気を確認した。
◆
丁度、雪が降る日だ。
心新たにため池の横で三角座りして待つ。
この前のひんやりとした涼しさは流石になかった。
「……変わりましたね」
「……!」
油断していた隙に現れた例の少女。その手に雪だるまのヘアゴムはない。
「いや」
「ん?」
「変わってないですね」
「と言うと」
「まだ迷ってます。本当にいるのかどうか。でも……前よりは軽くなったのは本当ですね」
「……」
「仲間に励まされたお陰でしょうけど、あなたにも感謝しています」
さっと立ち上がる。冷たい気温の中を優しい風が流れた気がした。
「1人で悩んでいてもどうにもならないってこと。分かったつもりでいたみたいです」
立ち上がって振り返ると、やはり身長が低い。言葉には注意しておいた方がいいだろう。
「どうぞ」
少女の掌に白いものを置く。
冷たい体温を指先で感じる。
「でもこれは」
「1人よりも……誰かといた方が気も軽くなるし、解決しやすくなるってものです。だからでしょう?」
だからあの時近づいてきた。その時からなんとなく察してはいたが、やはりそうなのだろう。隠しきれない寂しさを少女の俯き加減から伝わる。
「こんなこと言うと少女誘拐みたいに思われるかもしれませんが……僕は今も仲間と活動しています。もし良ければ来ませんか?」
1人の寂しさは分かる。
なぜなら、僕も長男として、親の寵愛対象から外れた後もいた、仲良くしてくれた子。それすらも失ってしまったから。
いや、まだ失ったとは限らない。手の届かないどこかに行っただけだ。
「少しは寂しさも紛れるだろうし、こんな硬い話し方する必要もなくなると思います」
ただし最早承諾されてもアウトな気がする。
誘拐犯になるのだろうか。同意したとしても、他から見たら誘拐ではいけないのである。
「……」
少女は押し黙ったままだ。
いや、もしかすると話し出せないだけなのかもしれない。急かす気はさらさらないが、無理をさせていたのならば申し訳ない限りだ。
「ずっと……」
「ずっと?」
そう言い出すと泣き始める。
他に誰かの視線を感じている訳ではないからいいのだが、文字通り冷たい視線を浴びることになっていただろう。
「寂しかった……この場所がただそんな私を認めてくれる気がして……それでも結局……」
「同情じゃないけど……分かります。街は夜になってもそれなりに賑やかなのに、北門でてすぐのここは凄く静かだから。波紋も綺麗で心が落ち着くから。それがより……寂しさを煽るから」
背中を優しく撫でることも優しく叩くことも、出来なかった。女性というのは繊細な人が多いと思っているから。それでも、隣で守ってあげたいという、親心のようなものは、隠しきれずに仕草に現れた。
もしかすると、従姉の影を重ねてしまっていただけなのかもしれない。
いつもと違う街灯の青白い光は降る雪に混じって輝く。
まるで今にも、擬音語が聞こえてくるような静かな夜に。
寂寂と雪あかり--(5) 登場人物
来霧・シャラル・クララ・キーリ
少女




