4話 寂寂と雪あかり--(4)
4話も後半にさしかかります。
1話ごとの文字数を抑えようと加筆修正しているのですが、今回は3000文字前後で抑えられなかったので、目的達成しているのかはわかりません。
どんと居座る太い蔦の塊。溶液草を彷彿とさせる見た目だが、その大ボスと考えたら納得が行くだろうか。
「〈蔦龍〉。目的モンスターだと確認しました」
クララから確認の結果が伝えられる。比較的広めな空間に、どんと蜷局を巻いて眠っているのだ。並のモンスターではないとは思ってはいた。
「よし、かかるぞ」
「はい!」
ワイン色のオーラがキーリを包む。
殺法の紫と似た色だが、キーリ曰く脅威が密接に関係しているのではという。
発動前後に、脅威を覚えるという通説があるようだが、攻撃を受けてから狙われるものと、攻撃を受ける前に反応して脅威を感じ取るものがあるようだ。それをわかりやすく言うと、『オーラの色の濃さ』で決まると言われているらしい。
濃ければ濃いほど禍々しさを感じるように、高威力や高効果になればなるほどオーラは濃くなっていく。
もちろん使いようによっては薄いものでも充分強いのだが、反射的に反応してしまうのはやはり濃いほうだろう。
その脅威というのはどのような状況でも変動するようで、どのような状態異常時も、攻撃内容によって標的が変わる。
つまり眠っていて、双方が戦闘開始すらできない時。そんな時にも脅威が溜まる。
「準備完了です!」
「では、行きます。〈若武者の威圧〉」
「目覚めを確認次第、攻撃だ」
それから1拍ほど置いた時、塊がもぞもぞと動くのを確認した。
それから時間を経たずに目覚めの一声が、その場を轟く。どこかで石ころか瓦礫が転がる音もした。
「始まりね」
「擁護いつでも可能ですよ」
「じゃあ暫くは、キーリに集中でいいかな。その場次第で判断は任せるか」
「そんなに戦闘経験がある訳では無いんですが……頑張りますよ!」
「ありがとう」
「じゃあ今後はITTメインで連絡で」
「了解」
その一言合図に、設定を切り替える。
警戒のため、蔦龍を監視しているキーリはクララの合図に合わせて設定を変える算段だ。
思った以上に目覚めが早かったのが後手になった理由だろうか。
蔦龍の視点は、見たところキーリ固定のようだ。太い蔦が早いスピードで横を通り過ぎるのを確認する。
衝突音や雑に着地した音がないため無事だと思うが、いつまで躱していられるか分からない。
『先ずは1発目。〈殺法〉』
急所を狙えた訳では無いがそれなりに手応えはある。
蔦龍の脅威の遷移が気になっていた。強撃、威圧それぞれの影響はモンスターごとに違うらしく、イコールになるモンスターもいれば2発でやっと移動するものもいる。
このモンスターがこれだったから大丈夫は初見では通用しにくいのだ。
視点は移動しない。
なら次だ。
持続回復のエフェクトを確認しながら、懐へ潜る。驚く程に、視点がキーリに固定されている。そんなザラな警戒でいいのかと心配になるほどだ。
『〈殺法〉』
それでも移動しない。
それほどいいタンクの動きをしてくれているのだろうか。
入れ替わり入れ替わりでキーリは蔦龍に直接攻撃を入れる。続けて上書きの威圧。その更新が上手くいったのか相変わらず僕のことが眼中に無いかのようにキーリを集中狙いしているようだ。
『体力減少から見て、あと10発ぐらいですかね』
『そんなに撃つのか?』
『うーん。今のレベルではすぐ枯渇ですね』
『そのために、私を温存してるんでしょ?』
『まぁ、そうなんだけど』
殺法10本分の体力が残っているのだと知ったところで、思案を巡らす。
シャラの援護があった所で枯渇したMPは枯渇したまま。持続的に回復しても、すぐに使える量はたかがしれている。
『次の分まで約3分。耐えられますか? キーリくん』
『問題無いよ』
『了解!』
『シャラルさんは』
『出し惜しみはしないわ。言われなくてもね』
MPとは精神力。つまりは気力のことでもある。MPを消費することにより、その技の本来の力を発揮させることが出来、規模によって、1回の使用量は反比例していく。
消費されたMPは基本、聖堂に送られることによって完全回復する。または通常の就寝行為だろうか。こちらでも回復するが時間に反比例して回復する。
深い眠りほど回復量は上がるらしい。
もちろん戦闘中に回復する手段もある。
いわゆる『白魔法』というもので、対比として『黒魔法』が存在する。
先ず『白魔法』という種類は『味方』に対して使う魔法だ。味方に回復や威力上昇などのバフを掛け、サポートするものだ。
しかし、同種に見える威圧は物理的な面が多い。そのため、耐久職の掛けるバフの殆どは白魔法ではないという事だ。
それに対し、『黒魔法』という種類は『敵』に対して使う魔法だ。敵にデバフを付与したり、ダメージを与えることが目的になっている魔法のことだ。
こちらに関しても、威圧の影響について同上なため省かせてもらう。
魔法職と言われると、魔導師のことを思い浮かべるだろうが、支援職の大半は魔法職も兼ねているようなものだそうだ。
『いいペースですね。この調子だと殺法はあと6本分で済みそうです』
『まあ……当たり前よ』
『そう言った隙から殺法撃たないで下さいよお……』
『まあ、あと5本分か』
『こっからは節約ね』
『おい、シャラ。さっき言ってたことと矛盾しているぞ』
『煩いわね。白髪』
そう言いつつ活躍の場を奪う〈殺法〉がシャラの弓から放たれる。これで連続で2本目だ。
こっちの身になって手助けしてくれているのだろうが……態度がそれじゃない。性格がツンデレとかなら別だ。
『吸収できる量も決まってるんでしょ?』
それに対しクララも頷く。クララの槍から飛び出した光の線は〈灯火海霊〉の能力だ。元々、体長1m弱の光属性のクラゲ型モンスターだった。能力として、触手が一瞬触れた対象から戦闘終了まで、HP・MPを延々と吸収し続けるというものがあったが、恐らくそれに所以するものなのだろう。
触手の周囲にいるモンスターから近くにある限り延々にHP・MPを微量ずつ吸収する能力は、流石にぶっ壊れではないかと言いたくなるようなものだ。吸収するだけならまだいいのだが。
周囲のエフェクトが消える。
『一旦溜め込みますね!』
『了解』
『OKよ』
『はい!』
その分を味方に対して、自由に供給できるとなったら、上限値で無残に消えていく分も活用できるようになる。これはあと少しでぶっ壊れだ。
もちろん、普通の回復魔法の方が1秒ごとの回復量はまだ上なのだろう。が、MPの減りをコントロールできると考えるとやはり異常だ。サブに施療官を持てば、より堅牢な供給機関の完成に近付くだろう。
黄水晶の輝く優れ槍を片手に、仁王立ちしつつ指示を配る声。
さっきまで光の線が1本だったものが数本増える。そして比例しているのか分からないが、回復量も増える。
『これで直ぐに2本分は行けるでしょう』
『了解』
『はぁ……』
『なんだその溜息』
『残り3本分なんでしょ?』
『あ、ああ』
『1本分は捻出してあげる』
そう言いつつ、弦を引き絞る。
心の中で何度も頷いて、間合いを詰める。
『あっ』
流石に視点がこちらに向いた。いくら鈍感でも危険人物の対象は変わるものなのだなと実感した。
が、その対象はすぐに変わる。
大きな胴体に矢が命中したのだ。
後ろを向くとドヤ顔でこちらを見ている。が標的が変わっていることは気がついているようだ。流石に数本入れたらそうなるだろう。
蔦龍は、形態変化か分からないが蔦の胴体から翼を表に出した。
流石に天井が低いから真上に来ることは無いだろう。
だが目の前で飛び立つのは確認された。
『た、体力が2割回復しました!』
地下室のくせに荒れた風が吹く。
だが大きな問題は無い。
『〈殺法〉』
確実に入った1本目。だがそこまで深い傷ではなさそうだ。
『来霧さん!』
『何?』
『もしかして氷属性でしたか?』
『ん、ああ』
『……相性が悪いみたいですね』
『属性……嵐か』
『の、ようです』
呑気に相性の悪さを理解した時に、蔦龍は今更と言いたくなるタイミングで反撃を行う。白い光線だ。更に、尻尾を何度も叩きつける。
『光線の属性は氷みたいですね』
『相性微妙すぎだろ』
『で、どうするのよ』
『叩くしかないだろ』
そう言うと、体に熱を集中させる。先日の灯火海霊戦で限界を見たせいだろうか。念のためにと、解放されたサブ職の片方を埋めてきたのだ。
パキパキと音を立てる木刀。間合いを詰めて一閃しても、軽い切り傷みたいなものが残るだけだ。
『で、どうするのよ』
大事だからと言いたげな顔でシャラは問いかける。
今出来ることで、この状況の打開策は1つか、まだ思いついてないものか。
『逆かな』
今度から念のために手袋も持参しようと思いつつ、ひんやりとした二の腕を触る。
蔦龍が揺らいで見えるが、それはあちらとて同じだろう。
一瞬だ。
1番地面に近い尻尾を経由してブリンク。繰り返しブリンク。ここまで来るとクララの恩恵はもちろんない。
でも、殺法1本分プラスアルファあれば十分だ。
だって〈雪樹図〉通りに行けば、地属性以外に弱点に当てはまる場所が2つ。
『炎』と。
『〈殺法〉』
『熱』だ。
寂寂と雪あかり--(4) 登場人物
来霧・シャラル・クララ・キーリ




