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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
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4話 寂寂と雪あかり--(2)

はっ!一気投稿の予定が!?

というわけでよろしくお願いします。

五月病にはお気をつけを

 コツンコツンと心地よい音が続く。

 天然の水琴窟があると有名な「氷崖の口」。ストックブルク付近にあるこの観光地も、別の目的で利用する設定にすると、姿を変える。


「挑戦依頼を受けたからって……敵意剥き出しすぎじゃないか?」


 苔石が幻想的な照明となっている洞窟。

 冷たい空気とともにどこからか音色も聞こえる。軽い音色と、風が抜けるような音。


 ここに暮らせと言われても意外と過ごしやすそうだ。環境だけだが。


「だから観光ついでなんて嫌なのよ」

「まあまあ、シャラルさん」

「……」

「まあ、責任もって頑張るか」


 〈土小鬼マッドゴブリ〉の襲撃を軽く往なす。Lv差がある程度出来ているせいか、あまり脅威ではない。


氷通滑ひつうかつ


 足元が一瞬のうちに凍る。自身の足元を囲むように現れた氷は苔石の仄かな光さえも映している。

 ふんと、その氷を剣先が下から上へと滑る。その軌道の先にいた土小鬼マッドゴブリは一時的な凍結状態に陥った。

 その勢い任せに凍結状態の小鬼ゴブリを粉砕する。


 まだ気分は軽い。

 体も暑くない。

 気温が低いせいだ。奪われるものはより少なくなっている。


「にしても違和感ですよね」

「ん、何が?」


 後ろで、同じく殲滅しているクララはどこか不思議そうなトーンで呟いた。


 黄色いオーラのようなそれは無慈悲な光となって小鬼達を呑み込む。

 細かい力は知らないが、これが体力の回復にも直結するらしく、よく分からないまま享受するに至っている。


「挑戦依頼によれば土小鬼マッドゴブリじゃなくて氷小鬼シクルゴブリが出るはずなのに……氷小鬼シクルゴブリなんでどこにもいない……ですよね?」

「どうせ、次の螺旋階段の先にいるんじゃないの?」

「それならいいのですが……生態系の変化や、何らかの外因がある可能性も見ていいと思うんです」

「うーん」

「無理よ。白髪に難しい話は」

「とりあえず次の階層も見て見て考えるべきだろう。次の階層もそうならばその先に押し込められているか、完全に変化したか。まだここで結論は急ぐ必要は無い……まあシャラよりは頭いいだろう?」

「残念ね。私はその先よ」

「何?」


 彼女は主として索敵を優先した遊撃役。

 視界に違和感を覚えたエネミーが、行動を起こすように仕向ける担当だ。

 全てのエネミーに効くかどうかは分からないが、少なくとも土小鬼マッドゴブリはまんまと飛び出してきている。


「時々感じる揺れ。これこそが異変の正体じゃないかしら」

「揺れ?」


 一挙殲滅していた訳では無いため、叫び声でかき消されていたのだろうか。耳を澄ませば普通にずぅんと何かが衝突しているような揺れの音を感じる。


「本当だ」


 認めざるを得ない。だが揺れの正体がそれとして、環境変化の問題がそれとは限らない。


「あっ、正面地中から来ます!」


 クララの警告を受けて3歩ほど後ろに下がる。その時に誰かにぶつかったが、特に大きな問題でもないだろう。

 そして地形を破壊してまで地中から何かが顔を出した。


「っ。〈母なる森土竜(リーツモーグル)〉確認したっ」


『母なる森』という言葉を気にしつつ、猪の如く突っ込む。それに対し母なる森土竜(リーツモーグル)は冷静に鋭い爪を弾き落とそうと振り下ろす。


「どうせ確定1でしょ」


 風が啼いた。それと同時に正面の土竜は霧散する。


「ほら」

「でも貫通じゃないんだな」


 その先には、群がる土小鬼マッドゴブリ。そして〈森土竜モーグル〉。


「不特定多数を1本で射抜くなんて鬼神の所業よ」


 べつに衝撃波を生み出している訳でもない。確かに難しい話だっただろう。


「夢見たっていいだろ?」

「夢見すぎ、気持ち悪い」

「シャラルさん、そこまで言わなくとも……」


 誰だって夢ぐらい見てもいいじゃないか。

 と言いたかったが、ここに来てから将来の目的というものを考えたことがなかった。

 ずっとアファルにお世話になる訳にもいかず、悩みはどこかに行けば解決するようなものでもなく。周囲の迷宮ダンジョン全攻略とは言ってもそんなに多いわけじゃない。

 どうせなら司祭にでもなるか? と冗談混じりの目標候補まである。

 だがしっくり来ない。

 いや、そもそも夢に対してしっくり来る方がおかしいのだろう。結局は、時を経て馴染んで行くものだろうから。


「夢ってなんだろうな」


 色々逡巡した結果、口に出すことに行き着いた。流石に判断としてはとても遅い部類になるだろうが、仕方がない。


「あるじゃない」

「え?」

「ていうか、約束したわよね?」

「何をさ」

「覚えてないならまた今度言うわ……それよりも相談してくれたことがあったでしょ?」

「ああ、従姉の話か」

「ええ」

「だけど、可能性は低いだ……痛っ」

「シャ、シャラルさん!?」

「仲間を射抜こうとするなよ。仲間を」

「いいでしょ何度でも生き返るんだから。それに」


 シャラがどこか寂しそうな表情を見せた。珍しい。いつも気丈な姿しか見せないのに。


「いや、答えるのはまだ早そうね」

「おいおい、なんで焦らすんだよ」

「言うべきタイミングってのがあるのよ」


 何を言いたかったのだろう。

 取り敢えず勇気づけようとしてくれたのは理解できた。


 そして母なる森土竜リーツモーグルの出てきた穴を確認する。仄かな光がハッキリと見え、下層と繋がってしまっているのは言わなくても分かる。

 わらわらと小鬼ゴブリが群がっているのも確認できる。見たところ2種類いるようだが、それぞれ別種類で争っているよう見える。


「えーっと。〈氷小鬼シクルゴブリ〉と、〈土小鬼マッドゴブリ〉ですね」

「でも不穏な空気しかないわね」

「ま、せっかくできた近道だ」


 挑戦依頼になると迷宮内の構造がランダムになる。階層は変わらないが、階ごとのマップが変わる。未踏破の部分は黒く塗りつぶされ、どこに繋がっているのかわからない。

 そのためだろう。近道が出来たならば利用するに限る。


「でもマップにこんな穴更新されてないのですが……」

「行けなかったらそれでいいさ」


 確認を兼ねて降りる。

 このまま下の階層に行けたのならば、それはここに起こっている異変の要因に繋がるだろう。


「嘘……ですよね?」

「実証できたという感じになるか」


 驚いているクララを尻目にキーリは感心したのか何度も頷く。


「嘘ならそのマップは更新されてないはずだろ?」

「ええ、更新はされてるわ……」

「興味深い」

「2つの小鬼ゴブリが争っている……縄張りの奪い合いでしょうか」


 傍観しているだけではf(フィーナ)も回収できない。分かっていたが、今はこの様子から異変を推理する時間だ。


「縄張り争いだとすると、どこからか侵入した可能性がありませんか?」

「住む場所に属性が由来するはずだから、それこそ森では?」

「なるほどです!」


 キーリの妥当といえば妥当な答えに、思わず頷く。どこかに森に通ずる穴ができた。土小鬼マッドゴブリだから地下で元々生活していたものが、ひょんな事から、ここに迷い込んだ。

 増えていく一方の土小鬼マッドゴブリだ。逆流も上手くいかないのだろう。そのまま溜まってしまったのだろうか。


「どこかに出入口があるんじゃないかな」

「それなら恐らくここより上ではないでしょうか。氷小鬼シクルゴブリを見かけなかったということは、上の階から追い出された可能性は高いですし」

「いや、それはおかしいだろう」

「キーリ……くん?」

「通過できない場所がある。それにマップはすぐに切り替わるはずだ」

「だ、だからこそ上の階では?」

「いや、ここにもいて、上の階にもいた。地面が破壊される前まではこの階は更新されていないはず」

「1箇所じゃないって言いたいのか?」

「それか階層の境界にできたか」


 そう言いつつ入ってきた穴を見上げる。

 まだ修復された訳ではなく、ポッカリとそのままの状態で残っていた。

 更新はまだなされていないようだ。


「同じ階層扱いか」

「いや、更新はされてるわよ。地下4階になってるし」

「……」


 おそらく複数場所か、地下3階と4階の間または貫いた大きめの抜け穴が存在しているのだろう。


 そこで一旦挑戦依頼の概要を確認する。

 普通に地下5階にいるボスを討伐するクエストだ。

 そこまでしか書いてないが、おそらくこれは挑戦依頼とは無関係なのだろうか。


「……」

「考え込んでますね」

「バッカみたい」

「……聞こえてるんだが」

「なら話は早いわ。挑戦依頼は特定のモンスターを倒すクエストね?」

「ああ」

「期間は定められていない」

「放置したらここに観光としてこれないぞ?」

「今回で攻略するんだから問題ないでしょ」

「うん……で?」

「突き止めるわよ。下に降りる過程で必要になる可能性もあるだろうから」

「……了解」


 再びマップを見る。スワイプをする。

 真っ暗闇が多いが、この可動範囲から推察するに、これまでとは広さは段違いだろう。少々時間掛かるだろうが、虱潰ししている内に原因も見つかるだろう。


 1人装備を変えたのを尻目に決断した。この異変を『余裕税』と思って突破してやろうと。

寂寂と雪あかり--(2) 登場人物


来霧・シャラル・クララ・キーリ

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