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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
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4話 寂寂と雪あかり--(1)

令和初日投稿にあいなりました。

今後ともよろしくお願いします。



 過保護は受け取る側によって印象が変わる。優越感と劣等感の対極に当たる感情が、学校や家の中の対人関係を元にして育まれている。


 現に僕もそうだった。

 これまでは弟が両親の愛を沢山受けているところを見てきた。

 やはり飽きというものを受け止めて生きていかなきゃ行けないのだろうな。そんなことばかり感じていた。

 だが、アファル亭に来て、そうかこんな気持ちなのか、ともう1つの立場を知り得ることが出来た。


「……」


 喉を過ぎる温かい感覚。

 吹き抜ける冷たい風も、さほど怖くない。


「いや、それは言い訳だな」


 文字通り絶壁の崖。その袂には小さな口がひとつある。

 水琴窟のような澄ました音が、この心にも響く。


「……あああ、これじゃ駄目だ。今できることがちゃんとあるんだ」


 顔を上げる。

 2回平手で頬を叩く。

 1回深呼吸を挟み、目を瞑る。


 冷涼な風を肌で感じ、快音で心を洗われるようだ。悩み事のある時にここに来ると、気が晴れていく気がする。


「雪が降り始める前に、ケリ見つけないとな」


 そう言いつつ立ち上がる。


 それに、まだ始まったばかりだ。思い詰めるのには早すぎる。

 もしかすると、彼女(・・)もまた、この次元せかいにいるのかもしれないのだ。


 ストックブルク北門の先は、どこかへ続く大きな街道が続いている。そして同時に4つの門の中でも1番美しい星空を拝める場所でもある。


 今ここにいるのは他でもない、先日にあったことが原因だ。

 丁度、今日のように涼しい夜だ。


 ◆


 水面に揺れる人影。言うまでもなく自分のもの。水面には人魂のような光も移り、風の冷たさと相まって不気味な雰囲気を醸し出していた。

 街道沿いに点々と揺れているのは、陽明子フォームフェアラという発光しているモンスターだ。敵対モブでは無いもののそう簡単に手に入るものでは無いらしい。

 全区域でランダムに現れるそうだ。

 陽明子ウォームフェアラはフェアリー族に属するらしく、物珍しさや、優しい光を目当てに、眷属やペット紛いとして育てたりする人もいるらしい。


「苦しそうですね」


 その言葉は唐突に現れた。

 この夜の街道だ。

 車輪の音もしていれば通りかかった商人なのだろう。そうでなければ……似たような気持ちに囚われている人なのかもしれない。


「私もダメでした」


 声は丁度真後ろから。哀憐を含んだそれは聞こえる角度から推測するにそんなに高くない。

 しゃがんでいるかそれとも低身長か。

 そんな身のない推測に正解だと言いたげな水面。陽明子ウォームフェアラの暖かい光も幾ばくが黒く見える。


「それで……一体何の用ですか」

「……」


 押し黙る背後の声主。

 何故黙るのかと後ろを振り向く。

 その刹那。そうすることを想定していたかのような素早さで、握った手をこちらに差し出す。


「……これは、なんです?」

「お守りです」


 140ぐらいの合羽を羽織った少女だ。傍から見ると危なっかしく映る構図。

 そして差し伸べてきた手を開く。

「お守り」とは一見程遠そうなヘアゴムだ。小さな雪だるまが彫られている。

 果たして、と思いながらじっと見つめてみても霊験あらたかな「曰く物」とは程遠い。


「私を支えてくれた大事なものですから」


 おひとつどうぞと言いたげだが、こちらにとってはいい迷惑だ。


「……同情ですか?」

「いえ、そんなものでは」

「なら、『私も』という言葉は生まれないでしょう?」

「……」


 同情なら同情だと言って欲しかった。

 別に同情を買われるためにした事でもないし、それ程深い事情でもない。

 寧ろ、言ってもらった方が誤解も解けるものだ。


 それに。


「僕はあなたのことを知りません」

「ええ、そうですね」

「極論、あなたのご好意を頂いても応えられる気がしない。損しかありませんよ?」

「構いません。自己満足のためなので」


 個性的な溜息をつく。

 言葉の覇気とは裏腹にどこか辛そうな顔をしている。もっと言うと、あげると言っていたヘアゴムを強く握り締めていた。


 そんな様子を見ていて気付かないほど、鈍感な人間ヒューマンではない。

 何が言いたいのかは、完全ではないとはいえ理解出来た。


「同情をしている」のでは無く「同情をして欲しい」のだと。同じ立場の人に自らの愚痴を聞いて欲しいのだと。

 加えて、彼女が初見では無いことにも粗方気がついていた。


「……あなたのお仲間さんがどうなったのかは僕にはわかりません。楽しそうな笑顔を以前見かけましたが、その後どのような道を辿ったのか。むしろ聞くべきではないのではないのでしょう」

「……」

「だけど」


 僕を愚痴の捌け口にされても困る。

 そして彼女を救えるとも限らない。

 便利屋を開業した記憶も全くない。

 ただ、何も身のない相談を受けるよりも、いい方法はすぐそこにある。


「また何かあればここで光でも眺めましょうか」

「……へ?」

「話聞きますよ。ここに来た時また出会えたら」


 格好付けすぎたせいで、逆に格好悪い口文句に、少し冷や汗を感じながらも、彼女の目を見る。

 同類でもないし、そう思われて本人の中でそう固定されるのも嫌だが、それはいづれ話せるだろう。

 共に過去について悩んでいるようだから。


 尤も。


 僕の場合は底知れない黒に包まれているだけだが。


 雪はいづれ降りそうだ。

 陽明子ウォームフェアラでも照らしきれていない空から、鳴き声が時たま聞こえる。


 ◆


「どうしたのよ。そんなしんみりして」

「……大きな問題じゃないさ」

「問題?」

「冷たい風には腹を壊す悪影響しかない……そんな訳はないだろ?」


 不思議と清々しかった。

 その場にあの少女がいなかったせいかもしれない。

寂寂と雪あかり--(1) 登場人物


来霧・シャラル


少女

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