3話 揺らぐ箙--(7)
シャラル視点です。
一応1章「揺らぐ箙」の最終話になります。
計算に狂いはなかったはずだ。
使用ペースといい、むしろいい結果のはずなのに。
この場にはタンクもアタッカーもいない。
私とクララのみ。
彼女が弱いだなんて思ってはいない。
だけど溶液草の変異種に出会うなんて。
本当に幸運なこと。
もちろん余裕ぶっこいていられるのは今だけだ。あの腕では間合いに入れない。
攻撃パターンである程度理解出来た。
「だけど」
体力が持たない。体力吸収だなんて聞いてない。
あと一撃でも撃ち込めれば形勢は保てる。そんな時にMPの限界が訪れた。
「……ダメですよ」
「2人倒されるよりマシでしょ?」
「いえ、ダメです」
折れかけたボロ槍。
思ったよりも頑固なクララに少々引き気味だが、説得するしかない。
ここで2人が倒れたら、2人で貯めた分がパァとなる。
〈ITT〉のように破損しないもの、紛失しないものがあるが、普通のアイテムはデスと共に、一部紛失する。量も不明であり、それがクエストで必要なものならば大痛手だ。
だからこそ、ここは、クララに全て必要なものを渡して、聖堂に行くのが正解のはずなのに。
「何で?」
「守れなかったからですよ。でも今なら間に合いますよね」
目の前で折れたボロ槍。
「『一族』として、仲間を守ることは義務ですから」
間髪入れず現れた薄い刃の槍。
黄色の大きな宝石が、神秘な雰囲気を醸し出している。
「それに、『扱えない』のでは無く『使えない』だけなら、それで今は十分です」
槍を一振。
偶然か必然か、数本の腕が、髪を鋏で切るようにあっさりと切れる。
加えて二振り。片方は外れたが、三振り目で胴体を切断した。と同時に仮面が割れるような音。
「核を……」
「偶然ですよ。流石に切れ味がいいだけで、刃の部分1mmもないですから」
足を結んでいた植物の腕も粒と化した。
「……」
顎が外れたかのように何も言えない。
これが実力者というものだろうか。
でも、私だって実力者だったのは紛いのない事実だ。
「……僻んじゃうじゃない」
「やめて下さいい」
「冗談よ。クララ、今後もよろしくね」
「……はい」
にこやかな笑顔を見せる。
悔しいが可愛い。
それに対して私は。最近眉間のシワが気になって仕方がない。直接見えないとはいえ、人差し指と中指で、眉間を抑えて確かめてしまう場所だから。
白髪といい、クララといい、キーリといい、仲間に恵まれているのだから。
この次元も楽しませてもらう予定だ。
「遅かったの」
皮肉りたいのだろうか。このジジイ、後で痛い目合わせてやる。
「じゃが……助かった」
「何が?」
「その坊ちゃんを救ってくれたのじゃろ?」
とりあえず1038ml分の液体と、10個分の牙を提出した。
その後、隣のキーリに目線を合わせる。普通に楽しそうな顔を浮かべているのだが。
「お主からは言わんのか?」
「え、あっそうでした」
確かに出会った時に後で何か言わなきゃ行けないことがあったとか言ってた気がする。
「そういえば、そんなこと匂わせてたわね」
「実は……パーティ参加の了承は誤操作だったんです」
「そうだったのね」
「なら先に言えばよかったのに」
いや、そうはいかないだろう。引っ込み思案だった彼のことだから、救われるだけ救われて飽きられて、依頼失敗が怖かった。
なんでそんなに執着していたのかはわからないけど、何としてもクリアしたかった。だから、無理して、何度も1人で挑戦していたのよね。
憶測だが、それが有力だった。
だから『終わってから』言いたかったのだ。
「それで?」
「ん、どうしたシャラ」
「このお爺さんも安堵した表情だったんでしょ? 聞いてあげるから言ってみなさい」
「……ついて行ってもいいですか? お役に立てるかはわかりませんが、このまま1人だと何も得られないままな気がして……少し怖い」
どんな経歴があるのかは分からない。だけど、今ここに拒む理由もない。
「寧ろ、大歓迎よ」
「お、おい」
「でしょ? 白髪くん?」
「はぁ……まあ、シャラの言う通りだ。シャラのペースは大嫌いだけど、今回は一致したから気にする必要もなさそうだ」
「ということで、キーリくん宜しくね!」
「はい! よろしくお願いします!」
彼の笑顔もまた可愛い。
そして、気になったこともひとつ。
「自分で言うのもなんだけど……」
空が綺麗ですね。
なんて似合いもしない言葉、死んでも使いたくない。
「白髪。約束のことお願いするわ」
「や、約束!? なんだそれ」
「覚えてないならそれでいいの。だって」
どうせ自然と叶うから。
覚えてないのならば、そのままでいい。
「仲がいいのう」
嫉妬したのだろう。でもしたくなるのは間違いではなかった。憶測だが、この研究所に一人でいるだろうから。
「羨ましいならついてきます?」
「いいや、それはお断りしておこう。老害が混ざっては、坊ちゃん達の旅が楽しくなるからの」
「旅か……ありだな」
「まるで幼馴染みのように仲が良い。だがこれは嫉妬なんかじゃない。老いた儂だからこそ思える憧れじゃよ」
そう言いつつ、片手を腰に添えつつ空中で何かを操作し始めた。
〈ITT〉だと直ぐにわかったが、普及率が本当に恐ろしいものだ。宿の隣の民家でも子供が付けているほどなのだから。
「これが報酬じゃ」
「銀紙?」
「ばっかもーん!」
「布みたいですね……」
「これが『銀幕の反射布』じゃ」
服としても加工ができる上に耐久値が高い。攻撃を割合で跳ね返す効果もあり、クリティカル命中率も微妙に下げる。
このまま布としても活用ができるという。
耐久値は確か『中級消耗品』のタグに当てはまるアイテムに付与されている。武器を含めて衣服などがそれに当たる。更に上位の『高級消耗品』のタグにはいるものは、どんなものなのかは推測すらできない。
「りんごとかは『普通消耗品』でしたっけ?」
「ええ、そうよ。使用毎に個数が減って表示されるわ」
「そして驚くことなかれ……帝国『岑』の王族にも愛用されておるのじゃ」
更に岑の科学者と提携して開発したアイテムだと答える。
あまり実感はわかないが、丁度南の山脈を超えた先が、最も広大な帝国、『岑』だろう。
「耐久値0で自動廃棄だそうじゃ。素晴らしいアイテムじゃから、大事にして欲しいのう」
「大切にします。ありがとう、トトノカお爺ちゃん」
「ああ坊ちゃんも元気でな」
なんだかんだでハッピーエンドだ。
幸せの宅急便でもしていたのだろうか。
「絢爛豪華じゃったよ、故国殿は。先の時代の遺産と聞いていたが本当に凄かった。気候も、ここのように夜もあるが、年中丁度いい暖かさじゃからな。大事な縁さえなければ……いやなんでもない」
「ということは王宮にはどうやって?」
「そりゃあ、もちろんこれで入れたのじゃ」
親指と人差し指で輪を作る。
このジェスチャーは万国ならぬ万次元共通なのだろう。
「コネは大事じゃ。後々のために作っておいても損ではない」
確かにそうだ、と過去に耽りつつ思った。
仲間とコネは大事に。
そう。
白髪だ。
さっきから押し黙っているようだが、言葉にできない喜びが……
「大丈夫?」
思わず素の私が声と行動になって現れる。
確か、強化した木刀の影響で体に熱が移ると言っていただろうか。
だがこの白髪が、名前通り“存在霧”になることは今までになかった。
無理をしすぎたのだろうか。
「そうだ……一体何処に」
何かを呟いているようだったがほとんど聞き取れない。
地雷でも踏んだのだろうか。
じゃなければ暑くても、白髪ならば、声に出して解熱させるだろう。
だがそれが原因でないことはすぐにわかった。
これは思い悩んでいる人の顔だ。過去に何かがあった。そしてその地雷を思わず踏んでしまった。
そんな感じの。
「ねぇ、白髪……大丈夫?」
「あ、ら、来霧さん!? 凄い汗……」
「とりあえず、来霧さんのお宿にお送りしましょう!」
「そうね……動ける?」
「……動けるよ」
良かった。返答ができる状態ならまだ何とかはなりそうだ。
「なら一緒に」
「いや、今日は、止してくれ。気分が悪い」
「そんなの見てたらわかるわよ」
「心配してくれてありがとう。ただ今は1人にさせて欲しいんだ」
こんな酷い汗まで掻いてまで1人にして欲しいということは、余程のことだ。ここは彼の意思を尊重しよう。
「分かったわ。ここで一旦解散よ」
「ですが……」
「いいわね?」
「はぁい……」
無理やり解散させた。あとは次のステップだ。
「ねえクララ」
「何ですかぁ」
力が抜けて、腑抜けになっているクララを介抱する。
「白髪のこと……来霧のこと宿に着くまで影から見守っておいて欲しい」
「……分かりました。さすがに心配していたんですね」
一気に安堵した表情になる。そして手を振って、今日の所は解散という形になった。
揺らぐ箙--(7) 登場人物
来霧・シャラル・クララ・キーリ
トトノカ・カツトヨ




