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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
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3話 揺らぐ箙--(4)

後半その2


「ここのはずだ……受注は確かにしてる……な。うん」


 約束したクエスト。これまた一昨日の草原と同じ場所。だが、受注おすすめレベルというのが少し高かった。

 ということはお目当ては、この前の赤茸マッシュよりも強いということだろう。


「……」


 より艶の増した木刀を眺める。

 まだ付与の強化をしたばかりのようだから、剥がれやすいらしい。

 あまり強く振らないようにしなければ。


「また、きのこ収穫祭ですね」

「いや、そうはいかなくなると思うよ」

「どうしてですか? 来霧さん」

「宿の人曰く、レベルが上がれば上がるほど強くなる……そしてそれを、モンスター達も判別ができるらしいんだ」


 中途半端なレベル差では出現するだろう。

 だが、基本臆病なものが多いとの事で、レベル差が開くと出現しなくなる。いや、出現しているのに気付かなくなる、というあたりだろうか。


 なるほどと何度も頷いて見せる〈眷属遣い(イランダー)〉の少女、クララ。フルネームはITTイートを開けばわかる。


「クララ……ミレル」

「……はい?」

「いや、フルネーム知らなかったからね」

「ああ……なんか少し恥ずかしいです」


 恥ずかしそうに俯く水色髪の少女。

 そして俯いた先で何かに気がついたようで、素早く顔を上げる。

 上下を繰り返したらヘッドバンキングになりそうな勢いだ。


「その木刀……この前のとは違いますよね……」

「いや、同じだよ」

「でも、この前よりも艶が……」

「色々教えてもらったんだ。昨日1日使ってね」


 付与属性について。強化方法や使用方法について。

 最初の狩りで、使用方法が分からず使わずじまいだった付与属性。

 このまま何も知らず、ただの強化されている木刀のままで戦うのにも限界はあった。

 もちろん、金属の刀に変えるという手が一番いいのだろう。だが、木目といい、軽さと言い手入れのしやすさと言い、気に入ってしまっていたのだ。


「お気に入りの木刀を、腐らせるのはどうかと思ってね」

「なるほど。私も何か付与したいですね」


 〈眷属遣い(イランダー)〉が主職業ということは槍はサブ職候補なのだろう。

 そもそも何故槍を使おうとしているのかはわからないが、あえて聞くことはしない。


 僕にとっての木刀と同じ気がしたから。

 思い入れのあるものなのだろうと。


「今は……能力のない状態ですから……何か武器を持たないと役に立てないんですよね」

「ああそうか、〈眷属遣い(イランダー)〉はレベル上げないとまだ何も使えない状態なのか」


 上級役職とされていたのは、主役職にしてしまうと、しばらくの間主役職の攻撃が行えないこと。そしてその扱える技の幅の狭さ。これが大きいらしい。

 眷属使い(イランダー)と言葉面では、チートな役職と思われるが、眷属として扱える種族は限られてくる。数匹扱えるのが魅力ではあるが、同種族しか扱えない。

 そしてその種族の規模によっては、眷属となっても高難度の扱いづらさが待っているという。

 どこか心配している表情で、若羅さんは説明してくれた。


「でも何を眷属にする予定かは決めているんです」

「ほう」

「図書館で昨日調べてきたんです。眷属化出来るのは何か。そして、可能レベル・推奨レベルは幾つなのか」

「……」

「確信を得ましたし、それにそう遠くなさそうです」


 にこやかな笑顔を見せるクララ。この可愛さはシャラルにはない、いい点だ。

 そして『そう遠くない』という言葉から飛行も可能なドラゴン種でもなさそう。


「凄いんですよ!? 禁忌すらものともしないのが眷属使い(イランダー)の怖いところですからね」

「へぇ」

「それにですね……?」


 きっと語ると長いタイプだ。

 そう思いつつ、彼女の楽しそうに話してくれるのを必死に聞いていた。

 1度に記憶できるようなものでは無かったが。


「あら、お揃いだったのね」


 そう言いつつ、首元の大事なアクセサリーをクルクルと指に巻き付けている。

 手元が寂しいのだろうか。


「……あれ、キーリって子は?」

「会ってないわよ?」

「まあ、待ち合わせは依頼者の元でって話してましたから向かいましょうよ」


 クララの提案だ。確かにもう既についている可能性は高い。



「『トトノカ爺研究所』か……」

「研究所に自分の名前入れるのね」

「案外、そういう会社は多いぞ?」


 名前について不毛な議論を交わしつつ、

 ガラス窓に覆われた建物の正面へ。どこか議堂の外観を彷彿とするが、もしかすると同じかもしれない。


「おお、そこの坊ちゃんたち」


 聞き慣れない、声に呼びかけられた。白衣を着た老人だ。

 もしかすると、このお方がキーリだろうか。


「どうしたんです?」

「坊ちゃん達も……引受人なのかね?」

「ああ、なるほど。そうですよ」

「なら話は早い。報酬も渡すから、急ぎで頼みたいことがあるのじゃ」


 何かで焦っているようで、老成してしわくちゃになった声も何処か、落ち着きがない。


「急ぎの依頼クエストですか?」

「元々そうじゃが……早く行かんと、あやつ勉強してないからの……」

「?」


 時間制限付きの依頼クエストも一定割合で存在している。

 主にアイテム収集系が多いだろう。

 焦りつつ情報を更新したそうで、依頼クエスト内容の確認を行った。


「この依頼クエストでは鮮度が最も大事じゃ」


 今回は採取クエのようだ。溶液草メルティフィドというウネウネ動く靫葛を討伐し、アイテムを拾ってくるというものだ。

溶液草メルティフィドの牙」を10個と、「溶液草メルティフィドの特殊な分解液」を1000mlを依頼クエスト内容にしているようだ。


「が、すまんな。追加するぞ」


 何があったのか。緊急で欲しいものができたのだろうか。気になって、1回閉じて、更新し、覗き込む。そこに書かれていたのは人の救出だ。


「えっでもこれは」

「あの坊ちゃんは何度も挑戦していたのじゃ。だが達成出来ずにいつも帰ってきておる。責めたいわけじゃないのじゃ。鮮度は大事だが、それ以上に大事にしなきゃいけないことがある」


 ゴクリと固唾を飲む。

 クリアするために頑張る以上に大切なこととは一体なんだろうか。


「身の程を知ることじゃ。自分のレベルを知って、その上で立回る。今の坊ちゃんはクリアにしか目がいっておらん。助けて欲しいのじゃ」


 必死な声。

 確かに無理をしすぎて、何度も聖堂帰りなんて何が楽しいのかわからない。


 それに。


「キーリ……僕らのためにも、彼のためにも受注を約束します」

「そうね。よく言ったわ」

「……では急いでいきましょう。デスする前に合流ですよ」

「ああ」「そうね」


 不意に言葉が被る。

 だが別に不満を言い出すことは無い。

 ツッコミを入れたいものの、一足先に待って苦戦している仲間がいるのだから。


「……」

「……」

「今、ハモってはないけど被ったわよね?」

「ああ」

「ふふふ……面白いじゃない」

「何が?」

「今日は気が合う日のようね」

「……違いない」


 依頼クエストを再確認すると走り出す。

『受注中』のアイコンがついている。

 報酬も書かれている。

 『発明品』と抽象的な形だったが問題は無い。


 前へ歩けずに迷っている彼がいるのだ。

 当たり前だと言われたら当たり前なのかもしれない。

揺らぐ箙--(4) 登場人物


来霧 ・シャラル・クララ(・キーリ)


トトノカ


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