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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
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3話 揺らぐ箙--(3)

ちょっと感覚があきましたが、後半分を一気に投稿致します。

 散乱した金貨は、そう多くなかった。

 ただ、相手の強さを鑑みると丁度いいのかもしれない。


「ほんとケチよね」


 僕にとっては。


 しかし彼女にとっては、そうはいかないらしい。


「そうでも無いだろ」

「問題はありありよ」

「何が?」

「キノコ持ち込んでも、調理してもらえないかもしれないじゃない!」

「……ああ、例のカフェか」


 出来た余裕は最大限に生かせたつもりだ。

 東門付近にあるログハウス調のカフェのようだ。


 ITTイートのせいだろうか。寧ろ以前よりも便利な暮らしになった気がする。この世界にもまたインターネットが存在しているらしく、粗方の情報は開いて検索すればすぐわかるという。それは最早、携帯電話のその先を行く、大発明品。

 それが、このITTイートだとは、首にかけた時気付けただろうか。


「あら。どうしたの? ITTイート握り締めて」

「……ん、ああ深い理由はないよ。ただ便利だよなぁって」

「……そうね。私が生きていた時はこんなもの無かったもの」


 どこか懐かしそうに彼女は答える。

 もしかすると同時代出身なのでは。と思わせる素振りを見せながら、ITTイートを弄る。


「とりあえず、成果はまずまずでしたね!」

「ああ、で、今日行くのか?」

「当たり前でしょ?」

「よし、了解」

「?」

「ちょっと待ってて」


「連絡を取るんだ」


 1拍置いて答える。

 言う必要ないだろうと思ったが、こっちの方が手っ取り早い。


「ああ、宿の事ね」

「そういうこと」


 今日は申し訳ないが、アファルで愛情こもった晩ご飯は食べられなさそうだ。

 いつもにこやかな若羅さんの事だから、笑って許してくれれば嬉しい。


『もしもし』

『はいーこちらアファルの……来霧ちゃんどうしたの?』

『いや……だから「ちゃん」付けは』

『ふふふ。我が子のように答えてしまったわね……ううん、気にしないで。で、何かあったの?』

『いやぁ……狩りで手に入れた食材を調理してくれるカフェがあるらしくてさ』

『ああ、シルフィーの事ね。帰るのが遅くなり過ぎないようにね』

『知ってるんだ……』

『よく行くのよ? かっつんのギルドの人によく誘われるの。多分、写真かなにか飾ってると思うから見てみてね』


 哀しさどころか、楽しそうに答える。

 それほどいい店なのだろう。

 そして思い出深い場所。


 ◆


 思い出深い場所。

 具体的な答えは、この口からは生まれなかった。


 漣の音と強烈な潮風。

 それに慣れた僕には、新鮮な景色だ。

 耳を澄ますと、鳥の囀りに木の葉の揺れる音。

 寂寥と同時に包容感を感じていたあの海とは似て非なる、静寂と清涼感に充ちた空間。

 眺めていた遥か彼方の空はここからは眺められなかったが、きっと透き通るように美しいに違いがない。


 目の前の大瀑布。

 雲散霧消する前に打ち付けるそれは、少し神聖さも含んでいた。


 言葉にならない。

 ここを訪れるのは、この人生の中で何度になるのかはわからないが、大切にしようとしている人たちがいる理由はハッキリとわかる。


「来てよかった」


 振り向きざま、家族にそう答えた。


「だって」


 脳裏に浮かんだ言葉をそのまま言葉にする。正直言葉にするのも恥ずかしい格好つけた単語ばかりだったけど、それに相応しい景色だったのには変わりなかった。


 いつも眺めている大海に質問しても定型句しか答えをしてくれなさそうだ。だが、こちらに限っては、小さな悩みの打開策を出してくれる。そんな気がした。


 ◆


「で、さ」


 シャラルが顔を近づけて、上まぶたに力を入れて覗き込んでいる。


「ボーってしてるけど無理だったの?」

「……え、あいや、許可は貰ったよ」

「ということは……連絡先の人のこと考えてたのね」

「なんでそうなるんだ」

「恍惚としてたからよ。まだ1度も見た事のない気持ち悪い表情かお

「気持ち悪いってなんだ……」

「白髪だからかしら?」

「髪の色は関係ないって」

「なら教えてよ」

「……全然構わないよ」


 耽っていた理由を答える。改めて言うとどこか恥ずかしい。

 そんな僕の心情を他所にして、「ああ、そういう訳ね」と言いたげな表情に遷移する。


「いい思い出じゃない」

「そうかな……」

「見慣れたらそうは思えてこないもの」

「……」

「ただの名所。ただの自然。もちろん地元にとっては、愛情を込める対象ではあるけどね」


 愛情か、と1回頷く。

 この前の登録の時、役人の人も言っていた。


『故郷の登録だ』と。


 全く不慣れな世界で、唐突に故郷と言われても困る。だが、何も全ての事柄に、ついていけなくて困っていたわけではなかった。

 アファル亭そしてこの2人に会えたからこそ、馴染み始めているし、どこかでストックブルクのことを好きになっているのかもしれない。


「では行きましょう!」

「そうね閉店する前に駆け込まなきゃ」

「前振りが長すぎるのです」

「前振りって……まあそうかもしれないね」


 一瞬メタで脳裏に『離別』の単語が浮かんだが、直ぐにその不安も消え去った。


「さぁさ。楽しみましょ?」

「ですよ!」

「食べ比べも面白そうだな」

雨天日の木鬼(レイニーディアド)の牙は食べられないとして……雨天日の赤茸(レイニーマッシュ)にしろ、棍棒持ちの赤茸(ストラークマッシュ)にしろどっちにしろ茸なのよねぇ……」

「むしろ同じ味説が……」

「調理次第でしょ」


 ロッジ風の建物。

 重そうな丸太の扉は、やはり見た目だけのようで、どういう物理法則になっているのか気になってしまう。

 軽やかな店員の声が耳に届く。

 香っているのは燻製だろうか。


「まあ、茸だけってのも飽きるから、肉も頼むか」

「自腹でよろしくね、白髪」

「ご飯はセットみたいですよ!」

「ま、まあ妥当かぁ」


 まだ貯め始めたばかり。

 安いお肉もあるが、雀の涙も残らないような金額で出来ることは、ひとつしかない。


『何それ、こすい』

『仕方が無いだろぉ?』

『あはは……苦肉の策なのです』


 店員に本心を聞かれないためITTイートを使用したが……作り笑顔の店員がいる時点でもう誤魔化せてないのだろう。


 メニューを眺め、目を瞑り、現在進行形で焼かれている肉の香りを楽しむ。


 気軽にお肉を食べるために、そしてこの“思い出のカフェ”シルフィーで、今度心の髄まで楽しむため。

揺らぐ箙--(3) 登場人物


来霧・シャラル・クララ


若羅 ・(カツトヨ)


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