3話 揺らぐ箙--(1)
7分割その1!
改めて読み直してみると、違和感が多いですね。
内容は刷新したものの、不安は残ります。
刀と剣の違いは簡単に言うと、刃が両面についているか、ついていないかという。
現に、木刀を持ってみなければ感じることは無かっただろう。これまでは、刀とは先端から鍔を見ると、菱形に近い形の両刃だと考えていたのだが。
実はそうではないのだ。
包丁の形状の思い違いのような思い違いだ。
じっくりと刀身を眺める。
「……」
曇天の掠れたような光に、刀身が応えるように艷めく。
冷たい風に晒されながらも美しさを保つそれは、直ぐに一喜一憂する僕には羨ましい存在だ。
「にしても……」
何かがあったのだろうか。
連絡した時間を優に超えている。
まさか先に草原に出たとかではないだろうか。そう思い、軽く眺めるが、人影という人影はない。
では場所が違ったのかと思い、周囲を見回すが、集合場所は西門。
目印を利用して、地図を整合してみても、やはり西門。
漏れる溜息。止まない雨がこのまま不安を増長させて終わるのだろうか。
「いや、待たせたね」
「……」
「きみ……だよね、来霧って人は」
「ええ」
「ちょっと合流優先していたのよ」
「あはは、迷っちゃって……」
「無事に辿り着けたならよかった……」
「で、3人でしたっけ?」
「ん、ああ今日はね」
カーキのコートを羽織った緑髪の少女と、ベージュのコートを羽織った水色髪の少女。
弓使いのシャラルと、槍使いのクララだったか。
他所から見ると、両手に花の状態だが、まだどこかよそよそしい。これが初対面だから……ではあるが。
「でも、不運でしたね」
「と言うと?」
「予定してた日が、中途半端な小雨の日だなんて」
「充分でしょ。小雨という事は、雨天時の湧くモブが出るらしいから、確認にはなるわ」
この西門の先の草原は、雨天時土が泥濘むため、それを影響としたモブが現れるという。降水量によっては増水した川の水が流れ込んだり、至る所が泥濘始め、水溜りができたり環境が変わる。環境の影響を受けやすいということだろうか。
同時にそれに合わせたクエストも、議堂裏の広場の掲示板にて掲載される。
なにはともあれ、移動する時や戦闘時、泥濘に足を取られないように行動しつつ、戦わなくてはいけないそうだ。
「ずっとここにいても埒が明かないから……行きましょう。白髪くん」
「ああ……て白髪って何だよ」
「愛称よ。似合ってるでしょ?」
「……」
「確かに可愛らしいですね!」
100%外見から名付けた愛称だ。
個人的には老けているように思えてしまい、賛同できない愛称なのだが、何故か、クララも乗り気だ。
「ああ、そうだった」
「これ以上何を?」
「私の事、シャラと呼び捨てでいいわよ?」
「じゃあそっちも」
「分かったわ。くん付けはやめることにする」
いや、そうじゃないだろと思いつつ城門から外に出る。
頑丈な城門は、その構造から大きな雨宿りとして機能していた。接合部が見えないところからコンクリートの作りに思えるが、この街に来てからコンクリート建築は見た覚えがない。となるとこの壁は一体材質は何だろうか。
そんなこんな考えているうちに、2人は雨合羽の水滴を篩い落す。特に濡れているようには見えないが、恐らく小雨だからだろう。
「傘やっぱり持ってきた方が良かったかな」
点々と感じる冷感に、軽く後悔を覚えつつあったが、あの2人に負ける訳にも行かない。
「バカね。逆に邪魔でしょ?」
「まあ、風邪をひかない程度に頑張りましょう!」
こういう時のために、雨合羽はあるのだと痛感しながら、〈非出現区域〉を走り抜ける。
ぱつぱつと不規則に訪れる音声は、比例して衣服を濡らす……というわけではなかった。
まるで染み込む過程で蒸発したかのように、痕跡は残らないくせに、不規則なリズムが肌を撫でる。
雨とはなんだろうか。
そう考えつつも歩みはとめない。
そして目標物が視界に映り始めるのだ。
「見つけましたよ」
「雨天のみだって聞いたからどれだけドロドロなのかと思ったら……少し濡れただけみたいね」
雨合羽を装着して走っていた2人には、やはり気づかれていないのだろう。
ゆらゆらと風に合わせて揺れるそれは、雨に邪魔されているものの、水滴の重みに凹むことも無く、ずっとその身を委ねている。
「早速始めましょ」
「ですね!」
「先々行くなって」
「遅れる方が悪いんですよーだ」
「まあまあ、文句の言い合いは終わってからにしませんか?」
間に入るクララだが、ここまでの流れから小さな隔たりが出来ているだろう。
歩調を合わせるように、二たび三たび、翻しながら、雨を楽しんでいる。
僕にもそういうのは必要かもしれない。
「あら。後ろから見てるだけじゃ、強くなれないわよ」
「はいはい。今行くよ」
「これで、狩るペースも上がりますね!」
見学に、経験値は付与されない事を予め聞いていたが、なんと矛盾していることだろうか。
だけど、楽しそうなふたりを見ると、その矛盾の理由も理解できそうだった。
「ハメ外すか」
「おっとー?」
「ん?」
「抑える必要なんてないのよ。全員で上げなきゃ、一緒のクエ行けないもの」
「そうだね。だから暴れるんだ」
「そうですね。楽しみましょう!」
ああ、そうだ。
楽しまなくては。
今日はなんだかんだ初の雨なんだから。
掌を強く握りしめる。同時に、ITTを開いて確認した。
氷属性は水属性の強化版らしいが……雨天に限って、特別補助の入る訳では無いそうだ。
『棍棒持ちの赤茸』
読み上げたのは、後衛役職の癖して先鋒を務めているシャラル。
『ただのキノコじゃない』
『持ち帰って、炊き込みご飯にしましょうよ!』
『こっちでも、炊き込みなんてあるのか?』
どこか残念そうにシャラルは呟く。
それに対して、初の戦闘だ、と口角を無意識にあげながら、ニヤケを抑えられてないのを自覚しながら、木刀を構えた。
赤茸は、奇声を上げる。
それは襲撃に気づいたためか、単なるあくびみたいなものなのか。
その一瞬ではわからなかった。
『ダメージははいるのね』
『当たり前だ』
だってこの木刀は、ただの例示商品では無いのだから。
体が温くなるのを感じながら、触感だけの雨の中を駆け巡った。
揺らぐ箙--(1) 登場人物
来霧・シャラル・クララ




