2話 アファルの隠し子--(6)
これがアファルの隠し子最終話です。
次回こそは6話以内に収め……たい(無理だと思います)
「ここはストックブルク。海運の要衝と並びに称されている陸路の要衝だ」
カツトヨはそう答えた。
この都市国家は、主要な産業を商隊の交易利用費や、通行税で賄っている。更に宿費は、宿屋が一部税金として収めているという事だ。
海運の要衝はここからさらに西。エウロ地域にある〈ヴィネティー〉という所のようだ。どこかで似た名前を聞いたことがあるが今は置いておこう。
「ここら辺一帯は針葉樹の植林・伐採も盛んだな。〈ITT〉が流通しているためにどんな大きいものも運ぶのは無理しない。材木商も確立したし、その技術のおかげで商人ギルドも隆盛を見せている」
富ある所に貧あり。
さぞかしこちらでも、貧富格差はあるのだろう。
「ここはそうでも無いな。そのための税収だ。もちろん多少のものはあるだろう。だが、無いものには無いものなりの集め方があるからな」
そう言いながら市場の中を歩く。
今日に関しては全てカツトヨの自腹だそうだ。
門出の意味でもあり、今後への投資のためでもあり。少し複雑な気分ではある。
様々な屋台からは、声掛けや交渉をしている声が聞こえる。商業を中心として成功させているだけはある。
「そういえば昨日、なんか言いたげだったか」
「えっ?」
「いや、違うならそれでいいんだ。ただ基礎知識として、入れて置いて欲しいことがあったと言うだけでな」
そう言うと背中を押し、買い物という名の谷に、我が子我が子よと突き落とした。
いつから獅子になったのだろう。
何故こんな所に来てまで新選組が、と思わざるを得ない。その気持ちの高鳴り任せに、衝動買いしてしまったのだが、よく見ると少しデザインが違っていて軽く後悔をしている。
着心地こそ、最高そうだが、騙された気分でいっぱいだ。だが店主は確か『新選組』というワードも『和国』というワードも言ってなかった。
単なる思い込みのせいだろうが。
「おや、坊ちゃん」
「……えっと僕ですか?」
「そうだよ、坊ちゃんだよ」
武器商人の集まっている通りに差し掛かった時だった。
「坊ちゃんは武器を探してるようだけど……いいの見つけたかい?」
「いや、まだこれからで」
「そうかいそうかい」
そう言いつつ、商人は斧を取り出した。
口ひげを少し弄りながら、出てきたそれはどこか異様な雰囲気を包んでいるように感じる。
「初心者かい?」
「はい」
「冒険家かい?」
「いや、刀剣士です」
「ならこの斧はオススメできねえな」
そう言いつつ片付けず、その斧について説明を始めた。
「うちは少々高めだけど付与付きの武器を多く取り扱っているんだ」
「付与……ですか?」
「ああ。例えばこの斧のように傷が治りにくい効果のある武器。この木刀のように属性が付与されたような……おっと、確か刀剣士だったな」
そう言うと、木刀を手渡してきた。
まだ品定め前だと言うのに無理やり押し付けるつもりなのだろうか。
「どうだ、少し重いだろ?」
「はい。確かに」
「武器は振り回すもんが多い。杖にしろ鉤にしろな」
「つまり握力と筋力に合ったものという事ですか」
「その通りだ。賢いじゃねえか」
そう言い終わると木刀を返す。
それを立て掛けて、なにか操作を始める。
「例えばこの短剣。超近接じゃないと活躍はしにくいが、他の武器と合わせて使えば強い。威力累積のバフが着いているからな」
確かに強そうだ。しかしそうとなると身につけている時の重みも2倍にしないといけないという事だ。それは流石に機動力に難ありだろう。
それならばと、再び木刀の方に目をつける。付与されているのは熱属性と氷属性の2つだ。
ここでさっきのことが脳裏に浮かぶ。
「どうした坊ちゃん」
「これっていくらですか?」
「これって……木刀だぞ? 威力も期待できんし」
「普通に使えばですよね」
「まあそうだな」
そう言って値段を提示してきた。
「2,980fって辺りだろう」
「意外と安い……?」
「そりゃあ、売れるもんじゃねえって思ってたからな……それに、坊ちゃんはまだ不慣れかもしれねえから、サービスも入ってるさ」
「切れ味は確実に……」
「そうだな、言っちゃ悪いが、そこら辺の安い鉄剣以下だ」
だが……と呟く。
「付与というものは、それ以上の価値を持つのも確かだ。使いようによっては鉄剣を優に超える武器となる」
「使いよう……ですか」
「ああ、少し待っていてくれよ。ちょいと耐久値戻してくるからな」
よく付与武器例として紹介に使っていたのだろう。そんな木刀が、まさか売れるとは思わず。
そして再び顔を見せた時、木刀は艶を増した状態で現れた。
「熱の能力はこの鍔に。氷の能力はこの刀身の艶にある。特殊な樹木の樹脂らしいが……剥がれに関しては気にしなくていいだろう。まあ耐久値に関してだが、基本は落ちない。腐食系の攻撃を受けるとヤバいが、この刀身は比較的強いようだ」
そう言いつつ鞘も取り出す。
「こっちは例外だがな」
「さっきの耐久値って言っていたのは」
「まあこっちだ。見た目も大事だからな」
大事にしてやってくれよ。と商人の言葉が忘れられない。もちろん支払ったが、カツトヨには笑われた。
面白い選択じゃないか、と。
「まあまあ掛かったが……申し分のない準備だ。さて、次にやっておくべき事の説明をするために帰ろうか」
「はい!」
新調したコートや服に着替える。外にいても気兼ねなく着替えができるこのITTは便利だ。カツトヨ曰く、全裸にして決定を押した時、自動的にキャンセルされるという有能設定だ。
この肌寒い日もこの服ならば……快適に過ごせる。
ということが確認取れたことを実感しながら帰途に着く。
「そう言えば言っておきたいことって何ですか?」
「ああ、あれか。単刀直入に言うとここの次元には名前があるようだ」
「名前……ですか」
「ああ。『クリューエル次元』と言うそうだ」
直訳すると『残酷な次元』だろうか。こののどかな街のどこに残酷要素があるのか到底思いつかない。戦争があるとして、それを前提に名前はつけないだろう。これに関しては出典元も併せて考察した方が良さそうだ。
「そしてこの世界は神話上、〈創造者〉によって造られたと言われている……その程度だな」
「神話ですか」
「ああ。少なくとも俺は何者なのかは知らん。人なのか獣なのか、それこそ本当に神なのか」
まあそんなことよりも、今は飯だ飯。
ITTの時計機能によると、既に午後3時前を差していた。
非常に遅めの昼ご飯だ。
真上の10を長針が指す前に帰らなければ。晩御飯までのスパンがおかしくなってしまう。
そして、次に備えなければ。
アファルに間借りをした隠し子は、ただただ明日への期待に満ち溢れていた。
アファルの隠し子--(6) 登場人物
来霧
カツトヨ・武器商人




