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誰ぞ彼のララバイ-せかせか異世界紀行-  作者: トウガ ミト
1章 『東露』の街
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2話 アファルの隠し子--(3)

1話の文字数減ったのに中身がより詳細になりました(追加修正後になりますが誤字あるかもしれません)


 木彫りの看板に素朴さを感じる。


「ここがアファル亭か」


 溜息に近い何かが漏れる。

 安堵だろうか。

 幸運に恵まれたことの感謝だろうか。


「よぉ、元気にしてたか? 少年よ」

「はい。来夢らいむ……『来る夢』で来夢と言います……よろしくお願いします」

「そうか、来夢か……宜しくな。まあ、中に入れ。家内を紹介するからな」


 そう言われて扉を開く。

 中は、光同様に暖かく、自宅に居るような心地だ。


「初めまして。妻の若羅といいます……来夢くんだったっけ? 宜しくね」


 確かにこの男の人の宿は夫婦で経営していると聞いていたが、直ぐにハグをしてくるとは聞いていない。国によっては慣習的に挨拶としてハグをする所があるだろうから、おかしい訳では無いのだろう。だが、慣れていないから、困惑してしまっているは間違いがない。


「俺はカツトヨ。まあ、この宿の用心棒だな」

「珍しく謙遜してるじゃない?」

「そうか?」

「そうよ」


 確かに夫婦で経営していると意識してみると、納得する。この夫婦は仲がいいと、見ていてよくわかるのだ。


「まあ……とりあえず、晩飯にするか」

「そうね。他に滞在者はいないから、3人分ね」

「感謝します……」

「何言ってんだ息子よ」

「えっ」

「ふふふっ。身構えなくても大丈夫よ」


 晩ご飯は助かる。

 夕方頃に立ち寄っていた、聖堂の聖水の話が時々過ぎるが、食事を安心して食べられる環境というのは有難いものだ。美味しいものを飲んで、力になるものを飲んで、スッキリするものを飲んで、顎も味も楽しみ切れない食事は、極論食事とも言えないし、安心とも言えない。


 そして、失礼してから10分足らずなのに、こんなに親身にしてくれている、心の距離の近い宿に誘われたとは本当に幸せなことだろう。ホームステイ先にいる気分だ。


「食事前に済まないが先に済ましておかなくてはいけない事があってだな」

「先に……ですか?」

「まずは、部屋の鍵だ。来夢、お前の寝室の鍵だな」


 つまりは、先に荷物を整えてこいという事だろう。確かによく考えてみれば制服だ。

 そりゃあ何も言わなくても、新人渡来民と思われるものだ。

 という事は、やはりあの暗転の時に何かがあったのだろう。

 しかし、今はそれよりも楽しみたい気持ちが優る。暗転の話は後回しにすることに決めた。


「で、他には……」

「そうだな明日の予定だろう。街の重要な建物をよっていく感じだな」

「あ、今日、フランクリン司祭に聖堂で」

「ああ、聖堂は立ち寄ったんだな。となると……議堂と市場での買い物だな」

「買い物……ですか?」

「ああ、その服のまま動く訳にも行かないからな。まあオシャレなら何も言わないが、ここの気候に問題があってだな……」

「来夢ちゃん。ここはね、年中寒冷な気候なの。いわゆる夏という季節になると少し暖かくはなるけど、冬は厳しくなるのよ」

「という事だ。コートぐらいはいるだろう」


 カツトヨは、他になにか言いたげだったようだが、口を閉じた。

 何が言いたかったのだろうと疑問に思いながらも、ロビーという言葉よりもリビングという言葉が似合う空間から抜けて、階段を上がった。


 よくあるガチャりという音。

 渡された鍵を開けるとらそこは暗闇だった。

 もちろん、照明がついていないせいだったが、いざつけてみると、カーテンで窓が覆われていたのも原因だとわかった。


 部屋の間取りは、寝室の2分の1の表面面積を誇るベッド。テーブルランプに、机、クローゼット。そして水回りに当たる、洗面台や洋式便座、そしてユニットバスだ。

 どこにでもありそうなホテルの一室だが、明らかに足りないものがあった。

 茶菓子もそうだが、テレビに冷蔵庫に電話機。そしてコンセントのタップだ。


「ここは……」


 最初は可能性のひとつとして、遥か未来の文明という可能性も微妙に見ていた。そして夢などの可能性も。

 しかし照明はあるのにコンセントはない、テレビはない、冷蔵庫に電話機もないとなるとそれは薄くなるだろう。


「流石に少し不便だ……」

「やっぱりそう思うか」


 この部屋の間取りをあらかた見終わったあと、扉の方から声がした。

 晩御飯のお迎えだろうか。


「俺も最初はそう思ったさ」

「カツトヨさんも?」

「ああ、敬称はいらないぞ」

「では、カツトヨもそう感じたという事ですか?」

「うん、なんか変だな」


 確かに喋っていて和語ワーグがおかしな気もする。

 やはりここは敬称を付けよう。

 問題は語尾の方にあるだろうから、打ち解けたら自然と敬称も抑えているだろう。


「まあ、俺も一端の渡来民なもんでな。最初は困惑したさ」

「では奥さんも」

「あ? 若羅か。そうだ、若羅も同じ渡来民だ」


 とそこまで言うと、何かを思い出したかのように手招きをした。


「そうだそうだ」

「?」

「晩飯の準備が整ったようだ」

「あ、行きます」

「ああ。若羅の料理は美味しいからな……堪能するといい」


 手招きされるがままに1階に降りる。漂う香りにネタバレをされたが、実物を見ると許してしまう。

 あ、来たねと、若羅さんが嬉しそうに呟く。様子を伺うに今日はいつもよりも張り切ったのだろう。


 だって、2人にとって、自分にとって新たな家族ができた祝いの日だから。


「いただきます」


 一瞬呆然とし、見失いかけていたものはここにあった。

 これから新たな人生が始まる。


アファルの隠し子--(3) 登場人物


来夢


カツトヨ・若羅


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