騒動と嬉しさと痛み
僕の気持ちを考えていたら、お客様が僕をSNSに載せてバズっていた。
肖像権とか、色々言いたいことはあるし店長も複雑そうだけどお店は繁盛している。
「青江くん。これとこれ。どっちが私に似合いそう?」
そう!僕は男の子でもメイクをするカリスマ店員として反響を呼んでいた。
困惑しながらも丁寧に接客をしていく。
おすすめの化粧品からお客様に合ったものを選んでメイクしてみて……。
「疲れたー!」
「青江くん、人気者だね」
バズり効果とは怖いもので、学内でも僕にメイクをしてもらいたがったり教えて欲しいと言う女子生徒が列をなしていた。
キリがないので断りながらクラスに戻るとクラスの男子に労われながら村崎さんに気遣われた。
でも、不機嫌な声音だ。
「うん……。まさかこんなことになるなんて」
最初は僕の腕が認められたみたいで嬉しかった。
でもそれは違っていた。
みんな……とまではいかないけれど、半数以上は男なのにメイクをしている僕を面白がっているんだ。
それでも求められる限り接していた。
バイト先では特に。お仕事だもん。
それから数週間が過ぎ、ようやく落ち着いてきた。
「疲れたー」
何度目か分からないセリフとため息を吐いた。
「ようやく落ち着いてきたね。まったく。これだからミーハーな連中は。青江くんの良さはそれだけじゃないのに」
村崎さんが僕のために怒ってくれる。
それだけでとても嬉しい。
「ありがとう」
にこりと笑って感謝を述べると、今度は村崎さんがため息を吐いた。
「どうかした?」
「なんでもない」
こうなったら村崎さんは黙秘を続ける。
僕はううんと唸りながら、その日の学校を終えてまた部活に勤しむのであった。
「いらっしゃいませー!」
「こんにちは、青江くん!」
あの騒動は何も悪いことばかりじゃなかった。
僕の腕を信用して相談に来てくださるお客様が増えたんだ!
「この間買ったネイルに合うメイクを考えて欲しいんだけど……」
相談を受けて、僕は記憶を呼び起こしてこの方が購入したネイルを思い出す。
「確か、こちらのお品物でしたよね」
僕が棚から取り出すと、お客様は笑顔で応えてくれた。
「そうそう!覚えててくれたんだ!ありがとう〜!」
にこにこ二人で話をして、すぐにこのネイルに合うメイクを考えた。
「この色は、秋色ですからお顔も秋っぽい雰囲気で作っていきたいと思います。ネイルが少し艶やかなので、お顔は落ち着いた色合いがいいかと思いますよ」
そして試供品を何点か選んで皮膚に乗せていく。
「あ!三番目のこれ、好きな感じ!」
「そうですか!では、こちらをベースに選んでいきましょう」
丁寧に、ゆっくりと、お客様に合うように。
かわいいって思ってくださるように。
「出来ましたよ」
パチリ。
お客様が瞳を開けて鏡でご自身のお顔を確認する。
「わー!いいね!爪とも合う!」
指先のネイルと顔を横にして合わせて感嘆の声を上げる姿に、僕は満足してとても嬉しくなった。
そうだ。僕はこういうことが嬉しいんだ。
「じゃあ、これ買っていくよ。ありがとう、青江くん」
手をひらひらとさせてご購入いただけて本当に良かった。
またメイクで人を幸せに出来た。
「あの、青江先輩」
僕が満足していると、声を掛けられた。
「君は確か、文化祭の……」
僕がメイクをしてあげた男の子。
「はい。そうです。青江先輩のおかげで男でもメイクしていいんだって自信になりました!ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げられる。
「そんなことないよ、あれは君が一歩を踏み出す決心をしたからだよ」
「でも、背中を押してくれたのは青江先輩です。それで、今日はこの間発売された新作を試してみたいんですけど……」
少し赤くなって緊張している。
かわいいなぁ。
「うん!任せて!最高にかわいくしてみせるよ!」
僕はそう言うと、男の子を席に座らせて下地からゆっくり丁寧に作り上げていった。
「このブランドに興味があるの?」
「はい。色が好きな色ばかりで、とても心惹かれます」
「そうだよね。それにここの化粧品は発色もいい。長持ちもするしね」
話しながら丁寧に乗せていく。
スキンケアをきちんとしているからか、化粧ノリもいい。
「出来たよ」
恐る恐る目を開けると、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「かわいい!」
「うん。かわいいよ」
にこりと微笑むと、男の子も微笑んだ。
「僕、青江先輩に会えて良かったです」
そう言われたのは初めてだ。
「僕も、君に会えて良かった」
胸の奥がぽかぽかして、とても穏やかになれる。
メイクはすごい。メイクを好きな人もすごい。
「じゃあ、これとこれ、買います」
「ありがとうございました!」
「本当は、全部欲しいんですけどお小遣いがあんまりなくて……」
しょんぼりする男の子を励まして、地道に好きなものを少しづつ集める楽しさも教えた。
「そうですね、少しづつ、僕だけのメイクセットを作ってみます!」
「うん。そうだよ」
「ありがとうございました、青江先輩!」
「うん、またね〜」
お互いに手を振って別れると、先輩がいつの間にかいた。
「先輩、持ち場から離れていいんですか?」
「いや、随分と楽しそうな声が聞こえてきてさっきから気になってきてたんだけどさ、青江以外にもメイク男子っているんだな」
「はい!このまま広まって欲しいですね!」
先輩は微妙な顔をした。
「そうかなぁ。でもまぁ、ジェンダーっていうのはそういうもんか」
その言葉にちくりとした。
ジェンダー。
僕は、好きでメイクをしているだけで、ジェンダーという言葉で片付けて欲しくない。
好きなことをしているだけで枠組みして欲しくない。
でも、それをうまく伝えられなくて曖昧に笑う。
僕らしさ、いつかわかってもらえるといいな。




