体育祭
秋も深まり、体育祭の季節がやってきた。
「うう……。嫌だなぁ」
僕がしょぼくれていると、クラスのみんなから気遣われる。
「大丈夫?青江くん。出来そうな種目ある?」
「無理はするなよー」
「いっそのこと応援団長してもらう?確か特権で全種目免除とかあったはず!」
「それだ!」
そうして学校一運動ができない僕はクラスの応援団長になった。
……情けない。
「そんなことないですよ、青江先輩!黄瀬先輩も応援団長やっているんですから!」
「黄瀬くんと比べられても……」
「いいんだよ。こういうのは得意なやつに任せておけば。青江くんは後ろで腕組んで見守ってなよ」
「そうだぞ、青江。応援団長同士、クラスを盛り上げようぜ!」
黄瀬くんの教室で、村崎さんと赤井さんと黄瀬くんと昼食を食べている。
黄瀬くんと応援団長をするのも悪くはないけれど、やっぱりクラスの一員としてみんなの役に立ちたい。
でも、運動が下手な僕じゃ足を引っ張るしかない。
結局のところ、何もしないのが一番いいなんて本当に情けない。
そんな気持ちを抱いたまま体育祭当日。
僕はなんとか割り切って応援団長として頑張っていた。
「フレー!フレー!」
叫びながら思う。
フレーってどういう意味だろう?よく体育の授業なんかでも応援で言われるよね。
きっと応援の言葉なんだろうな。
なんてことを考えながら応援していると、僕達のクラスは順調に点を稼いでいった。
「すごい!」
「なんだかんだで運動神経がいい連中揃っているしね」
村崎さんが言う。
「二百メートル走でぶっちぎりで一位だった村崎さんに言われたくないと思うよ」
高校の体育祭らしく、エンタメにも富んでいた。
借り物競走で好きな子を引いてしまった男子生徒は葛藤のまま悩んだ末に女子生徒の手を掴みゴールした。
女の子の方も満更ではないみたいで、一組のカップルの誕生におおいに盛り上がった。
時間は村崎さんの二度目の種目で起きた。
協議を終えてクラスのシートへ戻ってきた紫さんの顔色が悪く、足を庇っている。
「村崎さん、足を挫いたの?」
「大丈夫だよ、これくらい」
村崎さんが僕から足を隠すようにして告げる。
「大丈夫じゃないよ!保健室に行こう!」
僕が騒いでいると、クラスのみんなもやってきた。
「ああ。これじゃあ走るのはやめた方がいいな」
「僕が保健室へ連れて行くよ」
肩を担ぎながら村崎さんを保健室へと連れて行く。
「ごめん、青江くん」
「なにも謝ることじゃないよ」
保健室に着いて先生に診てもらうと、やっぱり足を挫いていた。
「これじゃあ体育祭は見学だけね」
先生の言葉に村崎さんが睫毛を伏せる。
「……まだ、リレーのアンカーが残っていたのにな。みんなに申し訳ない」
「そんなこと……。そうだ!僕が出るよ!」
なんでそんなことを言い出したか分からない。
だけど、村崎さんのこんな顔を見ていたくなかった。
僕が、他の誰でもない僕が村崎さんを力付けたかった。
「青江くん!?」
「大丈夫!応援団長は村崎さんが代わりにやってね。僕、村崎さんの応援があればもっと頑張れる気がするんだ!」
それは本心だった。
僕は学校一運動ができない。
それは確かだ。
でも、だからといって頑張っちゃいけないなんて理由にはならない。
「みんなには僕が話すから!」
必死に説得すると、村崎さんが神妙な顔で頷いてくれた。
そしてそのままベッドで横になる村崎さんを置いて、僕はこのことを告げにクラスメイトの元へと戻った。
「と、いうことで村崎さんの代わりに僕がリレーのアンカーになるから」
「青江くんが!?」
「終わった……。ここまで絶好調だったのに」
「他に走れるやついないのかよ」
やっぱり反対される。
でも、僕の決意は変わらない。
「頑張るから!今回だけはお願い!」
頭を下げて懇願する。
なんで自分でもこんなに村崎さんの代わりに走りたいのか分からないけれど、とにかく僕は村崎さんのために走りたかった。
「しょうがねぇなぁ」
「青江くん、意外と頑固だもんね」
クラスメイトは柔らかく受け入れてくれた。
「ありがとう!」
「さ、そうと決まったらそろそろ集合時間だよ」
「うん!」
集合場所へ戻ろうとすると、黄瀬くんが隣のクラスからやってきた。
「話はこっちまで聞こえてた。青江、頑張れよ」
握り拳を差し出されて、軽くグーパンチで返す。
「うん!どこまで出来るか分からないけれど、精一杯頑張るよ!」
「ああ!俺は他のクラスだから応援できないけど、それでも走り切れることを祈ってる」
黄瀬くんと別れて今度こそ集合場所に向かう。
しばらくして一人目がスタートした。
みんな早い!
アンカーの僕は五番目だった。
どきどきしながら順番を待つと、とうとう順番になった。
今の順位は二位。
このままいけば、総合優勝を狙える地位だ。
頑張ろう!
決意を込めて両頬を叩く。
バトンを受け取るのはスムーズに行えた。
そのまま走る。
前任者までのおかげでなんとか走っていると、足がもつれてしまい転んでしまった。
数人に追い抜かれた。
足が痛い。膝がガクガクいう。目の前がぼんやりするのを頭を振り払って正気に戻す。
でも、それがなんだ。
僕は走らなくちゃいけない。
走りたい。
もっと。一位は無理でももっと早く。
そう思って血が出る膝小僧を無視して立ち上がり走った。
その時、村崎さんの声が聞こえた。
「頑張れ!青江くん!」
すごく力が出た気がする。
村崎さんに応援されている。それだけでやる気が湧いて出た。
精一杯走った。
走って、走って、何も考えずに走っていたら一人追い抜いた。
そしてそのままゴール!
結果は下から二番目。
総合優勝は出来なかった。
僕のせいで。
トボトボ歩いてクラスメイトの元へ戻ると歓迎された。
「やったな!青江!」
「一位じゃなくてもいい!頑張った青江くんが偉い!」
髪をわしゃわしゃされて褒められる。
ビリから二番目なんだけど、こんなに褒められるなんてすごく嬉しい!
奥から村崎さんが足を庇ってゆっくり歩いてきた。
「すごいよ、青江くん!」
「村崎さんの応援のおかげだよ」
ふふふっと二人で笑っていると、クラスのみんなに混じって黄瀬くんと赤井さんもやってきた。
「やったな!青江!」
「先輩!感動しました!」
二人の祝福に素直に感謝した。
「ありがとう、二人とも」
「まあ、総合優勝はうちのクラスなんだけど」
黄瀬くんが軽く舌を出した。
「今それ言ったらダメですよ、黄瀬先輩!」
赤井さんが怒る。
村崎さんも反論している。
「ううん。でも、僕は優勝以上に大事なものを受け取った気がするんだ」
にこりと微笑むとみんな笑ってくれた。
突然のアンカーになってしまったけれど、とてもいい思い出になった。
来年はもっと体育の授業を頑張ってちゃんと最初から選手として出られるといいな。
村崎さんと目が合うと、親指を立てられた。
僕も親指を立て返して笑った。
こうして高校二年の体育祭は終わった。
痛む足を庇いながら帰ろうとすると、村崎さんに声を掛けられた。
「青江くん。うち、両親が車で迎えにきてくれたから一緒に帰らない?」
「いいの?」
僕は最後の最後に怪我をしたこともあって両親に迎えは頼めなかった。
「いいよ。車、こっちだからおいで」
「うん」
……よくよく考えたら村崎さんのご家族に会うのは初めてだ。
クラスメイトのご両親に会うくらいでなんでこんなに緊張するんだろう?
村崎さんの両親は、とてもいい人で僕の怪我の心配もたくさんしてくれた。
変なことは喋っていないか。
僕は緊張しながら自宅へ送ってもらって、体育祭以上に緊張したなと振り返った。




