子供の心、親の心
村崎さんのご両親はとてもいい人達だ。
きっと僕がメイクをしていても何も言わないだろう。
僕の両親は未だに僕の好きなことを頭がおかしいという。
僕は僕の好きなことをしているだけなのに。
……男がメイクをしたらそんなに変なのかなぁ。
ぼんやりと自室でテレビを見ていると、憧れているメイクアップアーティストさんが出ていた。
普段は裏方の仕事をしている人がこうしてテレビに出てくるのも珍しい。
でも、それはこの人も男性だからなんだろう。
現に、色々心無い言葉を言われているけれどにこりと笑って鮮やかに返している。
「格好いいなぁ」
僕も、もう少し自信をつけて言い返せるようになりたい。
お母さんから何を言われても、僕は僕だからと言い切れる強さが欲しい。
……本当は、高校を卒業したら家を出て専門学校に行くつもりなんだけれど、出来れば親に理解してもらいたい。
僕の大切な人に僕の大切なことを知って理解してもらいたい。
そのためにはどうしたらいいか。
他の人達は、僕がメイクをしたら認めてくれた。
でも、お母さんは僕がメイクをしようとすると嫌がる。
「男の子なんだから、そんなことしなくていいの」
好きなことをするのに、男も女もないと思うんだけれど。
ベッドに転がってスマホを弄る。
村崎さんに話そうかと考えて、なんで村崎さんに言おうと思ったのか分からなかった。
……なんでだろう?
その時、スマホが軽快な音を立てて鳴った。
名前を見たら村崎さんだった。
「もしもし?」
思いがけず声をかけようとした人から掛かってきて声が裏返ってしまう。
「どうしたの?青江くん」
「ううん。なんでもない。それより、どうしたの?」
枕をギュッと掴む。
心を落ち着けようとしてもずっとドキドキしている。
「あのさ、うちの両親が青江くんにまた会いたいって言うから、もし時間があったらでいいからうちに来ない?」
「行く!」
即答した。
枕はもう強く抱き締められて枕カバーがしわくちゃだ。
急いでメイクをして身支度を整える。
「ちょっと出掛けてくる」
両親にそう言うと、顔を顰められた。
「その顔で行くの?」
メイクのことを言っているんだろう。
「うん。これが僕だから」
それだけ言って家を飛び出した。
楽しみな気持ちがお母さんの一言で一気に萎んでしまう。
やっぱり理解されたい。
僕の好きなことを受け入れて欲しい。
そう考えながら村崎さんの家まで行くと、村崎さんが出迎えてくれた。
「こんにちは!」
「こんにちは。青江くん、今日もかわいいね」
「ありがとう!今年の流行色なんだよ、これ」
「へー」
「興味ないでしょ」
僕がむくれると、村崎さんは笑って家へと通してくれた。
「とりあえず上がってよ」
「うん。お邪魔します」
リビングへ連れて行かれると、村崎さんのご両親がソファで寛いでいた。
「やあ!青江くん」
「いらっしゃい」
にこやかに出迎えてくれて僕も嬉しくなる。
「こんにちは。お邪魔します」
ぺこりと頭を下げて挨拶をすると、空いているソファに座らされて、次々とお菓子を出された。
「青江くん、先日お会いした時はお菓子も好きだって言っていたから」
にこにこと村崎さんのお母さんがクッキーからお煎餅までたくさん出してくれた。
「青江くん、今日は先日とメイクが違うね。秋も深まってきたからかな」
もぐもぐ食べていたら村崎さんのお父さんが気付いてくれた!
「あ、私も気になっていたのよ。体育祭の時とは違うわよね。最近CMで見掛けるやつに似ているんだけど、どうかしら?」
「正解です!」
わいわい談笑していると、村崎さんだけお化粧品の話題に入れずポツンとしていた。
「あ、ごめん!村崎さん!」
「いいよ。楽しそうな青江くんを見ているの楽しいし。それに、あのモデルより青江くんの方が可愛いことにびっくりだよ」
なんて笑われて僕はお世辞だと分かっていても嬉しくてつい笑ってしまう。
四人でにこにこ笑っていると、僕の家はなんでこうじゃないんだろうと考えてしまう。
「青江くん、最近元気がないようだったから。気分転換にうちに連れてきてみてよかった」
村崎さんの気遣いに感謝しかない。
「実は……」
僕が家庭環境を村崎家の面々に打ち明けたのを、みんな静かに聞いてくれていた。
「青江くん」
村崎さんのお父さんが目を見てしっかりと語りかけてくる。
「自分の子供には、好きなことをしてもらいたいものだよ。でも、青江くんのお母様が仰ることも理解は出来るな。多様性と言ってもまだ世間の目は広くない。心無い言葉で子供が傷つくことを思うと無難な道を歩かせたくなる気持ちもある」
「そうね。自分の子供には、幸せになって欲しいものですもの」
村崎さんのお母さんも同意する。
村崎さんは僕の背中を撫でながらご両親に追随する。
「そうだよ。だって青江くんのご両親だもん。話せば分かるよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。とりあえず、村崎家は青江くんの味方だよ」
村崎さんが胸を叩いて迎え入れてくれる。
「村崎さん、村崎さんのお父さん、お母さん。ありがとうございます!」
ちょっと涙目になりながら、お辞儀をした。
僕の居場所は家以外にもある。
村崎さん。
村崎さんの家。
黄瀬くん。
赤井さん。
学校。
……認めて欲しい、僕の家。
「うん、青江くんなら大丈夫だよ」
村崎さんのお父さんに肩を叩かれ励まされる。
夕方になると、お土産に食べきれなかったお菓子を持って自宅へ帰った。
「いやあ、まさか男の子を家に連れ込んでくる日が来るとはなぁ」
「そ、そんなんじゃないし!」
「ふふふ」
なんて村崎家の談笑はもちろん知らない。
自宅へ帰ると手洗いうがいをして、リビングへ向かう。
「お母さん!」
「なに?」
振り返るお母さんに宣言する。
「僕は、僕の好きなことをやめないから。でも、お母さんのこともお父さんのことも大事だよ」
そう言い逃げして部屋へ走る。
お母さんが溜息を吐いてテレビへ視線を戻していくのは見えた。
その日の晩。
「あの子、昔は隠れて私のお化粧道具で遊んでいるだけだったのに、あんなこと言うようになって……」
目元にきらりと涙が光る。
「子供は育つものだよ」
「あまり心配させないでほしいわ。ただでさえ、こんな世の中なんだから。あの子が傷つくことを思うと、余計に不自由にさせたくない」
「大丈夫だよ。あの子は恵まれている。特に両親にはね」
なんて、両親の会話なんてもちろん聞こえず、僕は母に言ってやった!という満足感でメイク道具の手入れをしていた。
お母さんもよくこうしているのを昔は見ていたな。
まさか自分がするようになるなんて。
心臓はまだバクバクしている。
僕は、僕の好きなものを好きって言えるようになりたいな!




