夏の終わりのアイスの味
夏休みも終盤で、僕は村崎さんに図書館で勉強を教わりながら悪戦苦闘していた。
「あと少し。頑張れ」
「うぅん……」
村崎さんの声援も虚しく、僕はもうライフポイントはゼロだ。
数字の羅列も英文の羅列も理科の意味のわからない名称も社会の人名と国名の豊富さも英語の意味も分からない。
それでも村崎さんは嫌な顔せず付き合ってくれている。
ここは僕のためじゃなく教えてくれている村崎さんのために頑張らないと!
「あと少し…」
呪文のように繰り返しながら、鉛のように重たいペンを握りしめた。
そして、ようやく
「終わったー!」
「青江くん。図書館では静かに」
しーっと仕草で示されて、大勢の瞳がこちらに集中していることに気が付いた。
「ご、ごめんなさい」
慌てて立ち上がり謝罪する。
「お疲れ」
「村崎さんのおかげだよ〜!ありがとう!」
思わず手を握って、距離感に慌てて手を離す。
「そんなにありがたがっているならさ、ちょっと付き合ってよ」
不敵な笑みの村崎さんに勝てる日なんて来るわけがなかった。
図書館を出たあと、まだ火照った頭を冷ましながら歩いていると、村崎さんがぽつりと口を開いた。
「そういえば、青江くんを連れて行きたいお店があるんだ」
連れて行かれたのはとてもかわいいお店だった。
「可愛い!」
「この間、友達に連れてこられたんだけど青江くんが好きそうだなって思って。夏休みの課題終わったご褒美」
「そんな!僕の方こそ付き合わせちゃったんだし!」
「いいから、いいから」
なんて問答を店先でしていると店内から店員さんがやってきて「二名様ご案内で〜す!」と、ぺっと入れられた。
ここの制服、可愛いな。
店員さんを眺めていると頬をつねられた。
「見過ぎ」
どことなく不機嫌な村崎さんにどうしようかと慌てていると、ふっと笑われた。
「かわいいね、青江くん」
「うん」
そこは否定しない。
今日もバッチリ決めてきたんだから!
「青江くんが笑ってくれて良かった」
そう言って微笑む村崎さんの顔に見惚れる。
可愛いって無敵だ!
メニューを見合っていると、時々手が触れて、でも初めて会った時のように慌てなくなった。
まるでそれが自然かのように受け止めて、村崎さんとメニューを決める時間は楽しかった。
でも、触れた指先の温度だけは、やっぱりちょっと気になった。
結局僕はオレンジジュースと自慢のパフェとやらにして、村崎さんはサンドイッチとアイスコーヒー。
「……もしかして、村崎さんって甘いものあんまり得意じゃない?」
「ちょっと苦手なだけだよ」
それなのにわざわざ僕をこのお店に案内してくれたの!?
その気遣いが嬉しくて、自然と笑顔になる。
「ありがとう、村崎さん」
「うん。どういたしまして」
届いたパフェを攻略しながら村崎さんを見る。
可愛いのに、ふとした仕草が妙に大人びていて、ドキリとする。
同い年なのに、不思議だな。
どうしてこんなに、目が離せないんだろう。
僕が不思議に思って村崎さんを見ていると、村崎さんがティッシュを差し出してきた。
「アイス溶けるよ」
「えっ、あ!ごめん!」
恥ずかしい!
まさか村崎さんに見惚れていたなんて言えずに貰ったティッシュで指に垂れたアイスを拭う。
微笑ましげに村崎さんが見ている。
「このお店、青江くんと来れて良かった。絶対青江くんが好きそうだと思ったから」
微笑む村崎さんの顔は優しい。
可愛くて格好良くて優しくて頭もいい。
完璧な村崎さん。
……僕は。
僕は、勉強も運動も苦手だし好きなものは可愛いもの。
男の子でもお化粧する時代とはいえ、まだ色々言われたりする。
そんな僕と村崎さんって釣り合うのかな?
僕のせいで村崎さんに迷惑を掛けていないかな。
アイスの味がぼんやりしていた。
たぶん、それ以上に自分の気持ちが甘すぎるのかもしれない。
もっと頑張らないと。
僕に、僕以外も可愛くするメイクアップアーティストっていう夢を示してくれた村崎さんに釣り合うように。
頑張りたい。
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした」
二人で手を合わせて言う。
「村崎さん、僕、頑張るね!」
「……何を?もしかして、課題まだ残ってた?」
ジト目の村崎さんに、僕は僕の夢と村崎さんが見て恥ずかしくない男を目指して頑張る決意をした。
「夢、ちゃんと掴めるように。自分の好きも、村崎さんの好きも大事にできる男になるから」
ぐいっと近付いて真っ直ぐ目を見て宣言する。
村崎さんは少し顔を赤らめて目を逸らした。
「そう。頑張って」
「うん!」
頑張るぞー!




