黄瀬くんと赤井さん
夏休みも中盤になった頃、スマホがまた軽快な音を立てた。
村崎さんとよくやり取りするようになったのでまた村崎さんからだと思い手に取ると、別の名前が書かれていた。
「黄瀬くんだ」
黄瀬くんは中学からバスケのスポーツ入学で他の高校に行っていたけれど、高校一年の時に事故で足が不自由になり退部して居た堪れなくなり綾部高校に転校してきたちょっと訳ありの友人だ。
綾部高校が多少バリアフリーになっているのも選んだ理由だそうだ。
メッセージは練習試合の見学のお誘いだ。
『いくよ!絶対行く!』
力を込めて入力した。送信!
黄瀬くんは足が不自由になってもバスケが好きで車椅子でバスケをしている。
男でもメイクをしている僕とは好きなものを諦めきれない仲間として仲良くやっている。
『赤井さんは誘った?』
もう一つの共通点。
赤井さんと黄瀬くんと僕は同じ中学出身である。
そして黄瀬くんは赤井さんの想い人でもあった。
『なんで?』
簡素なメッセージに続けて送られてきた。
『俺が誘っても迷惑だろう』
そんなことないのに。
黄瀬くんの足が不自由になったのは駅の階段から落ちそうになった赤井さんを助けたからだ。
その頃から両片想いだった二人はその日から以前の親しさは消えた。
赤井さんは罪悪感から。黄瀬くんは赤井さんにそんな思いをさせている自責の念から関係が途絶えてしまった。
でも、赤井さんの高校デビューは新しい自分になってまた黄瀬くんと仲良くしたいからなんだよ?
僕はそんな二人をなんとかしようと頑張っているけれど、上手くいかない。
……どうしたらいいんだろう。
考えているとまたスマホから軽快な音がした。
今度こそ村崎さんだ。
内容は遊びの誘いだったけれどその日は黄瀬くんの練習試合の日だ。
申し訳ないけれど断ろうと文面を考えて閃いた。
「そうだ!」
僕は自分の考えが正しいものだと思って村崎さんに返信した。
「車椅子のバスケなんて初めて見る」
「青江先輩……。珍しく急に誘ってくれるからもしかしてって思ってたんですけど……」
「うん!みんなで黄瀬くん達を応援しよう!」
赤井さんは待ち合わせの駅と日時だけ指定して騙し討ちで連れてきた。
「赤井さん。大丈夫だよ、今日も可愛いから」
僕の魔法の言葉を伝える。
赤井さんは不安そうな涙目からようやく少し笑ってくれた。
「だから青江先輩はずるいんです」
個人的なことだから事故のことは伏せて村崎さんには赤井さんと黄瀬くんの仲を取り持つ手伝いをして欲しいってお願いしてある。
「そうだよ。かわいいよ」
村崎さんも後を押す。
赤井さんは観念したように叫んだ。
「よっし!黄瀬先輩の応援団長としてめいいっぱい応援しますよー!」
赤井さんが笑顔で拳を上げた。
その様子を見て僕達は顔を合わせて笑ってしまった。
黄瀬くんに連絡してミーティングの終わりに一階の自販機の近くに来てもらった。
「試合前にごめんね」
「別にいいさ。村崎と赤井もわざわざ来てくれてありがとうな」
そう言いながら赤井さんの顔は見ない。
もう!黄瀬くんってば!
僕が一言黄瀬くんに言おうとするのを赤井さんが遮った。
「あの、黄瀬先輩!」
大きな声でみんなびっくりした。
言った本人も思ったより大きな声になって驚いている。
「あの、黄瀬先輩。私、応援しています」
それだけで通じたんだと思う。
黄瀬くんは満面の笑みで車椅子から少し背伸びして赤井さんの頭を撫でた。
「ああ。任せておけ!」
少し壁がなくなった気がして僕は当事者でもないのに胸の奥がじんとなって少し泣きそうになった。
「こんなに頼もしい応援団がいたら格好悪いところなんて見せられないよな」
そう笑って控え室へ戻っていく。
「黄瀬くん、頑張ってね!」
「負けるなよ!」
僕達の声援に黄瀬くんは振り返って笑った。
「負けるわけがないだろう!」
試合が始まった。
練習試合といえどみんな真剣で時折車椅子がぶつかる音がする。
一点目は黄瀬くんが取った。
どうだ!と言わんばかりのVサインを僕達に見せ付けてくる。
二クォーター目は黄瀬くんにマークがついた。
「すごい…。車椅子のバスケって初めて見たけどすごい熱い」
「うん。そうだよね。好きのエネルギーってすごい」僕達が話をしている隣で赤井さんが全力で黄瀬くんを応援していた。
「黄瀬先輩!頑張ってくださーい!」
鼓膜が響く。
僕達も負けじと応援しなくちゃ!
「黄瀬くんー!頑張ってー!」
「そこ、狙われてる!」
わいわい騒ぎながらも試合は進み、三点差で黄瀬くんのチームが勝った。
得点王はもちろん黄瀬くん!
「黄瀬先輩、格好良すぎる……!」
赤井さんは感動している。
そんな僕らの元に階下から黄瀬くんが声を掛ける。
「どうだった」
「格好良かった!」
三人の声が重なった。
黄瀬くんはまた笑ってくれた。
赤井さんも笑っている。
良かったな、って思いながら村崎さんを見ると目が合った。
「良かったね」
小声で言うと、村崎さんは頷いてくれた。
「うん…。こういうの、興味なかったけどいいかも」
それはバスケのこと?恋のこと?
聞けないまま黄瀬くんが解散して一緒に帰るまでぐるぐると考え込んでしまった。
帰りにみんなで食べたお好み焼きは美味しかった。




