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かわいいぼくら  作者: 千子


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夏祭り

「夏休みだー!」

そう叫ばれて数日、僕は未だにもやもやを抱えていた。

家で宿題をしていても、バイトに精を出しても、考えることは村崎さんのことばかりだ。

「はぁ…」

思わず出た溜息に店長が反応する。

「どうした、青江くん」

「実は…」

僕は縋る思いで誰からでもいいからアドバイスが欲しくて店長に最近の出来事を相談した。

「青江くん、それは……。うーん。青江くんだしなぁ」

店長は一人で納得していると、裏からポスターを持ってきた。

「一週間後に近くの神社で祭りがある」

「お祭り」

「そこへその村崎さんと行け。大丈夫だ。一夏の思い出、作ってこい」

僕は目をぱちくりさせて店長とポスターを見比べた。

「一夏の思い出……」

「そうだ!見立てに間違えがなければ間違いなく……!くっ、俺もそんな高校生活が送りたかった!」

泣く店長からポスターを受け取りまじまじと見詰める。

どうやら花火もあるみたい。

夏祭りか。あんまり行ったことないなぁ。

うん!

「分かりました!村崎さんを誘ってみます!」

「その意気だ!青江くん!」

その時にお客様が来店したので接客に勤しんだ。

夏祭りか。村崎さんは誘っても来てくれるだろうか。

夏休み前の出来事を思い出して少し胸が痛むけれど、帰宅してから村崎さんに連絡してみた。

夏祭りに一緒に行かない?

何時間も悩んだ文面は簡素な文章になってしまった。

村崎さんを誘うなんて、そんな特別なことじゃなかったのに。

返信が来るまでどきどきしながら待っていると数分後、軽快な音で着信を知らされた。

『いいよ』

あんなに悩んだのに村崎さんからはたったの三文字!

なんだか理不尽だ。

でも、村崎さんと夏祭りに行けるの嬉しい!

そうだ。夏祭りと言えば浴衣だ。

メイクも花火を意識したものにしようかな。

夜だし、少し派手目にしてみようか。

でも浴衣と合わせたい気もする。

明日は休みだ。

浴衣はたくさん出回っている。

どんな浴衣がいいかな。

楽しみで、楽しみであれこれ考えていたらいつの間にか寝落ちしてしまった。


何軒も回ってようやく見付けた可愛い浴衣。

この浴衣に合うメイクをしよう。

そこで思い出した。

僕、浴衣の着方なんて知らない。

お母さんに頼んだらなんて言われるか。

仕方なく動画を見て勉強して右往左往しながらなんとか着付けられた。

「うん!可愛い!」

メイクも浴衣の色に合わせてほんのり付けた。

あんまり派手なのも、気合を入れすぎていると思われるのも恥ずかしい。

村崎さんに大好きなメイクで変って思われたくない。

村崎さんはそんなこと思わないけど、僕はなんとなく筆乗りがゆっくりになってしまった。

大好きなメイクをしているのに苦しい。

なんで、こんなに苦しいんだろう?


待ち合わせ場所に行くと、村崎さんは既に居てくれていた。

「お待たせ!遅れてごめん!」

「まだ十分前じゃん。私が早く着きすぎただけだよ」

そこで村崎さんがじっと見てくる。

「浴衣、どうかな」

「……私も着てくればよかった」

「え?」

村崎さんが小さく呟いた言葉が聞こえず聞き返すと、なんでもないと一蹴された。

すたすた歩いて行く村崎さんの後ろを追い掛けて横に並ぶ。

手が触れるか触れないかの距離。

僕らの微妙な距離感だ。

「夏祭りなんて久々だよ」

「私も。今日は楽しもう」

ふわりと微笑んだ村崎さんは可愛い。

可愛さに胸が締め付けられる。

やっぱり、この感情は村崎さんが可愛いからだ。

「花火何時だっけ?」

「十九時からだよ」

村崎さんが腕時計を見る。

「なんか買って食べながら見よう」

「うん!」

露天の商品って、家で食べるとなんてことないのにお祭りで食べるとすごく美味しく感じるよね。

「調子に乗って買いすぎた」

「こんなに食べ切れるかなぁ」

僕が不安気に言うと、村崎さんが笑って背中を叩いた。

「頑張ろ!」

「……うん!」

そう言って選んだ品々を時々つまみながら歩いて行くと、村崎さんに誘導された。

「こっち」

「どこまで行くの?」

神社の奥の小山の中腹までやってきた。

その時、ドォン!!と大きな音が鳴った。

「一発目は大きかったね」

村崎さんが向く先には光の花が咲いていた。

きらきら輝く花火に村崎さんが照らされていて、とても綺麗だと思った。

「綺麗だね」

「そうだね」

まさか思わず村崎さんに綺麗だなんて言ってしまったことを花火に対してだと思われて良かった。

僕の顔はきっと真っ赤だろう。

「イカ焼き美味しい」

可愛い顔して食べるとイカ焼きも煌めいて見える。

これって何フィルターかな?

そんなことを考えながら綿飴を食べる。

「青江くん、食べるものまで可愛いね」

村崎さんは笑う。

「食べてみる?」

「じゃあ一口だけ」

パクリと食べられた瞬間気が付いた。

屋台の灯りと薄暗い山の中で気が付かなかったけれど、村崎さん、僕がプレゼントしたリップをしていてくれている!

そのことに嬉しくなって、間接キスには気が付かなかった。

帰宅してからそう言えばと思い当たり、僕はベッドの上でじたばたと転げ落ちる未来をまだ知らない。

「花火、綺麗だね」

「そうだね」

そんな会話しか続かない。

でも、言いたいことはなんとなく分かった気がした。

「今日は来てくれてありがとう」

「こちらこそ。誘ってくれてありがとう」

ふふふ、と笑い合いながら小さな食事会は花火が終わるまで行われた。


この夏の思い出が、色褪せることありませんように。

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