チクリとしたのはなぜだろう
「……青江くんも男の子だったんだよね」
そう村崎さんに言われたのはプールの授業でのことだった。
「今更何を言っているの?」
まじまじと体を見られて言われるセリフは下手したらセクハラだ。
「青江くんはさ、可愛いものが好きだけど女の子の衣装を着たいとか思わないの?」
「思わないよ。僕は可愛いものが好きなんであって、メイクも僕が可愛くなるための手段だし、恋愛対象は女の子だし」
そうだ。メイクはしていても女の子のお洋服を着ようと思ったことはなかった。
でも、僕が女の子のお洋服を着ても可愛いとは思う。自信はある!
「なんか、プールだからかメイク落としているの初めて見た」
「そうだよね〜。プールは嫌いじゃないんだけど、先生にメイク落とせって言われるのだけが難点だよね。女子からも批判出てるんじゃない?」
「うん。署名運動しようかって騒いでる」
その言葉に僕は笑ってしまった。
「あはは!それはいいかもね!僕も署名するよ!」
僕たちが談笑していると、クラスメイトから声を掛けられた。
「おうい!青江!もう男子呼ばれてるぞー!」
振り向くともう集まり始めていた。
「ごめん、村崎さん。またあとでね」
手を振って別れて男子グループの元へ向かった僕は村崎さんの複雑そうな表情に気が付かなかった。
正直に言おう。
僕は勉強も得意じゃないけれど運動も得意じゃない。
「頑張れー!青江!あと少しでゴールだぞー!」
クラスメイトの激励も息も絶え絶えに聞いている。
「ぷはっ!」
「ゴールおめでとう!」
両手で引き上げられて魚の気分だ。
「やっぱいいよなー。村崎」
けほけほ息をしながら休憩していると村崎さんの話題が聞こえてきた。
「なんで彼氏いないんだろうな?」
「理想が高いんじゃね?」
「もう好きな奴がいるとか?」
そこで一斉にこちらに瞳が向く。
「いやー。ないかー」
「青江だしなー」
「失礼な」
僕がムッとして反論すると食い付かれた。
「えっ、じゃあ青江と村崎付き合ってんの!?」
「距離近いもんなー!可愛いカップルかよー!」
わいわい騒がれているけれど、このままじゃ村崎さんの彼氏が僕だってことになってしまう。
「違うよ。村崎さんは可愛いから好きだけど、恋愛感情じゃないよ」
慌ててフォローすると男子はよりざわついた。
「青江でむりならこの学校に候補者いねぇんじゃないか?」
「だよなー。村崎さんは孤高の花でいてほしい」
「でも俺、一年の赤井ちゃんもすき」
男子はすっかりどの女子が可愛いか、好みかで盛り上がっている。
今の話、村崎さんに聞かれていないだろうか。
不安になって女子のグループを見たら村崎さんと目が合って逸らされた。
分からないショックを受けていると、胸が痛い。
やっぱり聞かれたんだろうか。
でも、村崎さんも僕のこと好きじゃないし、何もショックを受けることなんてお互いないはずなのに。
なんでこんなに苦しいんだろう。
もやもやが晴れないまま体育の授業も終わり、男子トイレでメイクする。
今日はもう簡単に済ませよう。
ドライヤーで乾かしてヘアアイロンで真っ直ぐにした髪は変わらず可愛い。
うん。僕は可愛い。それだけでよかったのに、なんでこんなに村崎さんが気になるんだろう?
疑問符を浮かべながらメイクを終わらせ教室に戻るともう村崎さんは席にいた。
「村崎さん」
呼び掛けて、何を言えばいいのか分からなくて上げた手が空を彷徨う。
村崎さんが僕の呼び声に反応する。
「なに?」
少し冷たい雰囲気。
なんだろう。なんだか、少し嫌な感じがする。
「えっと、その……」
「……はー。まあ、青江くんだもんね」
そう言うと、近寄っていた僕にデコピンしてニヤリと笑った。
「これで許してあげる」
何をだろう?
わけもわからないまま、村崎さんがまた笑ってくれてよかったと思った。




