コンテスト当日
コンテスト当日、会場は賑わっていた。
「こんなにたくさんの人が来るなんて…」
僕は震えたけれど、これは武者震いってやつだ!決して怖くない!
「着替えたよ」
参加者の個室にあるカーテン越しからステージ衣装に着替えた村崎さんに声を掛けられた。
カーテンを開けるとそこには妖精じゃないかってくらい可愛い村崎さんがいた。
「うわぁ!とてもよく似合っているよ!」
「洋裁部の子達が頑張ってくれたおかげだね」
そう。今回の衣装は昨年の文化祭でドレスを褒めた子が僕達がコスメのコンテストに出ると聞きつけてステージ衣装を作らせて欲しいと申し出てくれた作品だった。
「もう、このまま出ても優勝しそう」
「こら、メイクのコンテストでしょ」
「そうだけどさぁ」
それだけ村崎さんは可愛い。
「メイクはステージで審査員やお客さんの前でやるんだっけ?」
「うん。緊張するね」
バシン!と背中を叩かれた。
「頑張れ、青江くん。青江くんには私と魔法のコスメがついている」
村崎さんと一緒に買いに行ったコスメの袋を見る。
「うん…!」
僕には、僕の好きな可愛いとコスメと村崎さんがついていてくれる。
そう思ったら怖さなんか吹き飛んでしまっていた。
「そろそろ行っておく?ステージの端からどんなもんか確認しておきたいし」
「そうだね。そろそろ行こうか」
準備はしてあったので、荷物を持ってステージ脇へと向かっていった。
すると、見知った顔が同じくステージ脇でそわそわしているのが目に入った。
「今村くん…」
今村くんは幼稚園から中学まで同じで、ずっとかわいいものが好きな僕を馬鹿にしてきた。
まさか、かつて可愛いものが嫌いだった今村くんがコンテスト会場にいることが意外だった。
しかもメイクする側として。
何故なのか疑問に思って思わず今村くんに声を掛けた。
「今村くんもメイクを好きになってくれたの?」
「……っ!」
今村くんは僕の問いに答えず、走り去ってしまった。
「知り合い?」
「幼稚園から中学の同級生」
「ふぅん。あの子も可愛いものが好きなんだ」
「まさか!今村くんはいつも可愛いものを馬鹿にしていたんだよ!でも、なんで参加者側でコンテストにいるんだろう?」
僕が首を傾げると、村崎さんは事も無げに言った。
「あいつもメイクが好き。それだけじゃない?」
「今村くんが?」
でも、コンテストに参加している以上そうとしか思えない。
今村くんもメイクがすき。
そうだったら嬉しいな。
『あと五分で開始します。参加者はステージ脇に集まってください』
スピーカーからアナウンスが聞こえると、続々と参加者が集まってきた。
この人達もメイクがすき。
そう思うとライバルっていうより同志に思えた。
この人達はどんなメイクをするんだろう?
見るのが楽しみだな。
なんて思っているとAグループ、Bグループと終わり僕達のCグループの順番がやってきた。
「村崎さん、最高に可愛くしてみせるね!」
「うん。青江くんならできるよ」
Cグループには今村くんもいた。
しかもモデルは男の子!
仲良さ気に話しているところを見ると友人だろうか?
見ていると目があって逸らされた。
『Cグループ、始めてください』
アナウンスが流れたので、座っている村崎さんに集中して顔を作り上げていく。
村崎さんと一緒に悩んで買った思い出の化粧品。
一つ一つ丁寧に塗り込んで、柔らかく仕上げて、ドレスのイメージにあった春の妖精にしていく。
ちらりと今村くんの方を見て気が付いた。
アイラインの入れ方が僕と同じだ。
昔、話しかけられた時にてっきりお化粧の話かと思ってアイラインの入れ方の話をした。
その時の入れ方そっくりだった。
目をぱちくりさせていると、また今村くんと目があった。
今村くんは顔を歪ませるとモデルに向かってお化粧を続けた。
「青江くん?」
途中で手が止まった僕を不審に思って村崎さんから声を掛けられた。
「ごめん」
僕は一言謝ると、再度村崎さんへのお化粧を始めた。
最後にオレンジのリップを柔らかく塗ってふんわり仕上げる。
そこには雪解けを告げる春の妖精がいた。
「村崎さん、可愛い」
「ありがと」
村崎さんの手を取って椅子から立ち上がるのを手伝う。
うん。可愛い。
今村くんの方を見ると、氷の王子様がそこにいた。
青とシルバーを基調としたクールな男の子。
きらりと輝くアイシャドウがばっちりした目元にあって美しい。
格好いいなぁ。
今村くん、ああいうメイクが得意なのかな?
それぞれ採点と選評を受けて、僕達はCグループで一番になった。
「やったね、青江くん!」
「村崎さんのおかげだよ」
二人で称え合いながらステージ脇へと戻ると、今村くんから声を掛けられた。
「青江、久し振り。おめでとう」
「今村くん!ありがとう!でも、今村くんは可愛いものが嫌いだと思っていたけど、なんでコンテストに出たの?」
氷の王子様も気遣わし気に今村くんを見遣った。
今村くんは拳に力を込めると胃を決意して告げた。
「俺も、可愛いものが好きだった。男でも可愛いものを好きって言えるお前が羨ましかった」
「今村くん…」
「昔はごめん。ごめんって、言って済むことじゃないけどごめんな」
僕は笑って答えた。
「そんな涙目じゃあせっかくのアイメイクが崩れちゃうよ」
「お前だって」
そう言われて僕は自分が泣いていることに気が付いた。
心の瘡蓋が治って剥がれ落ちたようだった。
それからA〜Dグループの勝者四人で決勝戦が行われた。
「すごくドキドキする」
「青江くんなら大丈夫」
村崎さんにそう言われると不思議と大丈夫な気がしてくるから不思議だ。
『入場してください』
簡潔なアナウンスに僕達はステージに上がる。
さっきよりお客さんが増えている。
決勝戦だもんね。当たり前だ。
「見て、さっきの男の子がいる」
「すごい上手だったもんね。やっぱり最後まで見ておけばよかった〜」
「隣の子もすごく可愛い!」
「どんな風にメイクするのかな?楽しみ」
ここでは男がメイクしても馬鹿にされない。
なんだか胸を張ってステージに立てる。
『始めてください』
その言葉に僕は村崎さんの顔に集中した。
さっきは春を告げる妖精だったから今度は王女様。
目元にメイクで花を散らして可愛らしさをアピールしつつもアイラインは青で引き締めて。
丁寧に仕上げて最後は二人で選んだオレンジのリップを塗る。
うん。可愛い。
そっと後ろに下がると気配を感じたのか村崎さんが瞳を開ける。
後ろにあった鞄からカラコンを取り出して花柄のアイコンを付けてもらって、最後の小道具に王冠を被せる。
「きれい……」
自分でやっておいてなんだけど、村崎さんをここまで可愛くできるのは自分だけだと思う。
手を取って椅子から立ってもらうと、歓声が上がった。
投票結果は、憧れの人の評価も含めて僕達が優勝だった。
トロフィーの授与で言われた言葉は僕を勇気付けた。
「おめでとう。君みたいな素敵なアーティストの誕生を心より喜ぶよ」
これはメイクアップアーティストを目指す僕にはなによりの言葉だ。
「ありがとうございます!僕、あなたみたいになりたくて、もっとみんなを可愛く出来るアーティストになってみせます!」
拍手喝采の中、村崎さんも笑っていて、「よかったね」とそっと手を握ってくれた。
それだけで、舞台の照明より胸があったかくなった。
今村くんも拍手をしてくれていて、僕の夢の第一歩は夢見心地で終わった。




