コンテスト
自由登校は、一部を除いてみんな時折来ていた。
みんなでこうやって騒げるのもあと少し、ほんの数週間だ。
僕は、僕らはそれを楽しみたかった。
「アマチュアのメイクアップアーティストコンテスト?」
いつもの昼休み、赤井さんに差し出されたチラシに目を落とす。
内容を読んでみてとても興味深かった。
「どうですか!青江先輩!ここに絶好のモデルが…って、あー!青江先輩!」
僕の頭には彼女しかいなかった。
教室に入ると真っ直ぐに彼女の席へ向かう。
「村崎さん、僕のモデルになってください!」
教室の中央で、突然の勧誘に騒がしかった室内がしんとなった。
「モデル?」
村崎さんに尋ねられて僕は興奮気味にチラシを差し出した。
「アマチュアのメイクアップアーティストのコンテストなんだけどね、審査員に僕の憧れている人も参加しているんだ!」
それが一番の理由だった。
「小学生のとき、彼の動画を見て、初めて『メイクって男の人がしても可愛い』って思えたんだ。誰かに笑われることじゃないんだって救われた」
それから、自分の腕前がどれだけのものか知りたかった。
「それまでは、“なんでそんなの見てるの?”って笑われるのが怖くて、ずっと隠してた。でもその日から、こっそりコスメを集めるのが楽しくなったんだ」
僕が高揚のまま語るのを村崎さんはしげしげと眺める。
──まるで、知らなかった僕を見つけたように。
「僕も、誰かを可愛くしたい」
「モデルねぇ…」
乗り気じゃない村崎さんを一生懸命説得した。
面白がったクラスメイトも援護射撃してくれている。
「分かったよ、分かった。コーヒーになんか食べ物もつけてよね」
チラシを押し返されて村崎さんが折れた。
やった!
僕は近くにいたクラスメイトとハイタッチしながらどんなコスメがいいか、悩ましかった。
舞台映えするメイク…でも、村崎さんはそのままで可愛い。
素材を活かしたメイクにしたい。
「ねぇ」
村崎さんに声を掛けられる。
「今度はさ、一つだけ私が付けてみたいの選んじゃだめ?」
椅子に座っているから上目遣いになる村崎さんにどきどきしながら別の意味でも胸が高鳴った。
今まで僕がプレゼントしてきたから、村崎さんが自分から選んでくれるなんて!
お化粧に興味がなかった村崎さんが、自分で選びたいって!
「もちろん、大歓迎だよ!それをベースに考えるね!」
「じゃあ、今度の土曜日に。あとで連絡する」
「うん!」
周りに冷やかされても知ったこっちゃない。
村崎さんと二人で出掛けるのは何回もあったけれど、何度出掛けても慣れない。
村崎さんに似合いそうなコスメを考えていた予鈴のチャイムがなった。
僕は授業中も村崎さんがどんなコスメを選ぶのか気になってこっそりスマホで最近発売したコスメを検索していた。
この中に村崎さんが気になっているコスメがあるのかもしれない。
でも、どれも可愛いけれど村崎さんが選ぶとは思えない。
村崎さんは、どんなコスメを選ぶんだろう?
僕は、卒業までに告白するって言うことを忘れてこのコンテストに情熱を燃やしていた。
待ち合わせ当日。
そういえば去年の文化祭で初めて村崎さんと外で二人で会ったっけ。
なんだか懐かしいや。
ふふふと、一人で笑っていると後ろから声を掛けられた。
「一人で楽しそうじゃん」
「村崎さん!去年の文化祭のことを思い出していてね。あの時、初めて二人で出掛けたなぁって」
村崎さんが頬を掻く。
でも、その頬は赤い。
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
言い合いながらも歩いていく。
僕ののんびりした歩きに合わせてくれる村崎さんは優しい。
こういうさり気なさがとても嬉しい。
また一人で笑っていると村崎さんが「何?」と顔を近付けてくる。
近い近い!
「いや、村崎さんって優しいなぁって」
「どこが」
「村崎さんは分からなくていいところ」
楽しくなって鼻歌まで出ちゃう。
「音程ズレてる」
くすくすと村崎さんが笑う。
ああ、幸せだなぁ。
「あ、ここ。入っていい?」
村崎さんが指を刺したのはデパートだった。
デパコス狙いだったか!
「ここに村崎さんがしたいコスメがあるの?」
「私がっていうか、…あった」
そこは僕のお気に入りのコスメショップだった。
「これ、SNSで流れてきて青江くんに似合いそうだからモデルやるなら青江くんに似合いそうなの付けたかったんだ。勇気が出る気がする」
「わかる!ここのコスメ、デザインも可愛いよね!品質もいいんだよ!……ていうか、僕に似合いそうなのをコンテストで付けたいって言った?村崎さんに似合うのじゃなくて」
物色しながら村崎さんが答える。
「うん。青江くんの力があるなら舞台の上でもモデルでも頑張れそう」
それは熱烈な言葉だった。
村崎さんには何気ない言葉だろうけれど、僕は彼女の言葉に一喜一憂してしまう。
悩んだ末に、春に向けて華やかな、でも軽いオレンジのリップを選んで他の品々も買い込んだ。
「バイト代なくなりそうだよ」
「あはは。コンテスト、楽しみにしてる」
彼女にここまで言われて落選するなんて僕が許さない。
「任せて!舞台で誰より輝かせてみせるから!」
「うん。信じてる」
そう言って相変わらず不敵に微笑む村崎さんに、僕は優勝を誓うのだった。




