高三のクリスマス
ようやく迎えた新学期。
まだ暑さが残る中、ようやくみんなと会えることに嬉しさを感じていた。
「おはよう!」
意気揚々と挨拶をするとみんなも楽しそうに返してくれた。
そんな楽しい日々も続かなかった。
受験。
高校三年生の僕らには重くのしかかる。
そのまま村崎さんとも話さない日もあったりした。
寂しい。
そのまま勉強の日々が続いて、時々夜に通話して、季節は冬になっていった。
村崎さん、他の男の人と仲良くなっていないかな。
もっと直接話がしたいな。
そう思っていた時に、ちょうどいいイベントが訪れた。
クリスマス。
正直なところ、僕と村崎さんはすれ違っていた。
お互いに自由登校になって、村崎さんは勉強のため、僕は志望校の入学するカリキュラムの体験のために日々を追われていた。
でも、この日だけは一緒に過ごしたい。
一年に一度。
この特別な日だけは。
夜に時折する、二人だけの通話の時に話を切り出した。
「あのさ、クリスマスの日、もしよかったら僕と過ごしてくれない?」
「うん……。私も青江くんと過ごしたい」
「やった!」
思わずベッドの上で正座のままジャンプする。
「青江くん、喜びすぎ」
通話越しでも分かるくらい笑われて少し恥ずかしくなった。
「それじゃあ、あとでまたメールするね」
「うん」
高校最後のクリスマス。
特別なクリスマスになるといいな。
プレゼント選びには難儀した。
昨年はペンギンのホッカイロケースを贈って幼稚だと思われたかもしれない。
でも、喜んで今でも使ってくれている。
猫の柄の紫のアイシャドウも、時々つけてくれている。
あの!メイクに興味がなかった村崎さんが!
今年は何を贈ろう。
僕は胸をときめかせて街へ繰り出した。
「もうすぐ受験でしょう」
なんて、お母さんのお小言は家に置いてきた。
今頃二人で若い僕の恋をネタに楽しんでいるなんて知らなかった。
「村崎さん、何がいいかな」
村崎さんは僕が何を贈っても喜んでくれる。
だからこそ分からない。
僕は、村崎さんに喜んで欲しい。
彼女のことを思いながら歩く街並みはいつもと違っていた。
煌めく街並みがクリスマスモードなだけじゃない。
この煌めきは僕の心のようだった。
さて、どうしよう。
ふらふらしていると、装飾品コーナーに来てしまった。
かわいいのは好きだけど、装飾品にまでそこまで詳しくはないのが難点で勉強中だ。
ついでに見ていこうと思って立ち寄ったお店は、かわいいで溢れていた。
クリスマスプレゼント用に煌びやかな輝きを放つ品々に目を奪われて、僕はふと猫モチーフのネックレスに惹かれた。
その猫の気位が、村崎さんみたいだったからだ。
これなら身につけてくれるかもしれない。
値段は可愛くないけれど、僕にはもうこれしかなかった。
あ、でも、村崎さん。アクセサリー類もしていない。
金属アレルギーとかあったらどうしよう。
僕は悩んだ末に村崎さんにメールして聞いてみた。
返事はすぐに来た。
アレルギーはないとのことで、僕はなけなしのお金で猫のネックレスを購入して、綺麗にラッピングしてもらった。
どうかな?
村崎さん、喜んでくれるかな。
ドキドキしながら受け取った紙袋は、僕の期待で膨らんでいた。
それから数日間、机の上に置いた紙袋を見てはにこにこして過ごした。
村崎さん、喜んでくれるといいな!
そして迎えたクリスマス当日。
街中には讃美歌が流れたりしてクリスマスムード一色だった。
お店選びは村崎さんがしてくれたけれど、普段行くようなファミレスじゃなくてちゃんとしたレストランって感じで僕にはまだ敷居が高く感じてしまう。
「ここ、すごく美味しいよ」
「そ、そうなんだ」
格好つけて店長にお願いしてバイト代前借りして奢ろうとしたけど足りるかな?
ウェイターさんが案内してくれたのは窓際の席で、僕は村崎さんが夜景が見えるようにより良い席を勧めた。
まあ、その前にウェイターさんが椅子を引いてくれて座りやすくしてくれたんだけど。
僕の椅子も引いてくれて、僕は会釈して座った。
「コースで予約してあるから」
村崎さんにそう言われて、大人だ……!って衝撃を受けた。
「大人になったらワインとか飲んでみる?」
注がれたジュースをひと揺らしして、村崎さんが言ってくる。
お、大人だ〜!
ていうか、大人になっても僕と過ごしてくれるつもりなんだ!嬉しい!
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
軽くグラスを合わせて乾杯する。
一口飲むと、そこら辺のファミレスやスーパーで売っているジュースよりかなり美味しい!
「ここ、なんでも美味しいから期待しておいて」
「うん!」
次々と運ばれる料理に舌鼓を打ちながら、僕はこういう場に慣れていなくて村崎さんの真似をするのに精一杯だ。
でも、そんな僕に村崎さんは優しく教えてくれる。
……。去年から何も変わらない。
ペンギンのホッカイロケースを幼稚に考えた僕と、今の僕。
僕は村崎さんに相応しいんだろうか?
考えているうちにどんどん横の椅子に置かれた紙袋が褪せて見える。
猫のネックレス。
宝石とかあった方がいいんだろうか。
「青江くん?大丈夫?」
「だ、大丈夫!美味しいね!」
「うん。美味しいね」
僕が微笑むと村崎さんも微笑む。
それだけで、不安が晴れる。
とうとうデザートが運ばれてきた。
なんかよくわかんないけどオシャレなケーキ。
これを食べ終わったらあとは帰るだけ。
渡すなら今しかない。
「あの、村崎さん。これ、クリスマスプレゼント」
そっと、紙袋を渡す。
「ありがとう。開けてみてもいい?」
「うん」
かさりと音を立てて包みが開かれる。
「わぁ、かわいい」
少し紅潮した頬は、村崎さんが本当に喜んでくれていることを物語っていた。
「村崎さん、猫が好きだから」
「うん。私のことを考えてくれたんだよね。嬉しい」
そのまま首に回して着ける。
「どう?似合う?」
実際につけられたネックレスは、村崎さんが着けると村崎さんのための一品に見えるほど似合っていた。
「かわいい!」
「ふふ、ありがとう」
村崎さんは嬉しそうだ。
頬を紅潮させたまま、猫みたいに目を細める。
悪戯に猫のモチーフを弄る様は、猫みたいだ。
僕も嬉しい。
「私からもプレゼント」
そう言って村崎さんから紙袋を渡される。
「開けていい?」
「もちろん」
重厚そうな箱を開けたら現れたのはメイク道具を手入れする、僕の憧れのブランド一式だった。
「む、村崎さん!これ高いんじゃ……!」
「嬉しい?」
「すっごく嬉しい!」
けど、村崎さんの負担が多いんじゃないか。
そう思って焦る僕に、村崎さんが微笑む。
「青江くんが喜んでくれるなら、良かった。私、メイクのこと何も分からなかったから、道具なら消耗品だしいいかなって」
「村崎さん……」
僕のことを考えてくれて、僕のために選んでくれたプレゼント。
一生の宝物にしよう。
「ありがとう、村崎さん」
「うん」
それからほんのり甘い雰囲気が流れて、見つめ合った瞳からお互いの気持ちが分かった気がした。
黄瀬くんが言っていたなんとなく付き合う流れってこういうことなんだろうか。
告白するなら、今なんじゃないだろうか。
喉まで出かかってどうしても言葉に出来ない。
心臓が五月蝿いくらい鳴っている。
そう考える僕とは違い、村崎さんは最後のデザートを一口食べ終えて、美味しかったね、と笑った。
タイミングを逃したって気が付いたのは、村崎さんが全ての食事を終えた時。
「お会計は僕に任せて」
せめて格好付けたくて、背伸びした。
思ったより安くて安心して、お財布からお札を取り出す。
「なんか、悪いね。青江くん」
「ううん。お店を選んでくれたのは村崎さんだもん。それに、僕がこうしたくてしたんだから、せめてこれくらいはさせて」
「ありがとう」
傾げる首に揺れて首元の猫も鳴いた気がした。
「帰ろっか。送っていくよ」
「うん」
どちらともなく手を繋いで歩き出すと、雪が降り出した。
指先が震えていたけど村崎さんが握り返してくれる。
予報では今年はホワイトクリスマスにならないはずなのに、不意に降り出した雪はとても綺麗で目を奪われる。
「綺麗だね」
「そうだね」
寒いはずなのに、寒くない。
とても温かいクリスマスに、僕はずっとこの手を繋いでいたいと思った。




