三年の文化祭 後編
覚悟を決めて、体育館に来た。
僕は裏方、村崎さんはモデルとして舞台に立つ。
「最高に可愛くするからね!」
「知ってる」
ふっと笑われて、村崎さんには一生勝てる気がしない。
男子も女子もメイクをしていって、それぞれの思う最高のファッションでステージを歩く。
ランウェイの煌めきは僕の背後だけれど、それでもその熱量は伝わってくる。
すごくドキドキした。
僕のメイクはどう思われているかな。
村崎さんの番になった。
一際大きな歓声に、思わず手を止めて振り返る。
ああ、彼女は今、あの光の中にいるんだ。
「青江くん?」
「ごめん」
手を動かし続ける。
スポットライトを浴びる村崎さんを見てみたかったし、それが裏方の役目だとしても、すごく気になった。
「ただいま」
村崎さんが、戻って来た。
「青江くんのメイク、好評だったよ」
「素地がいいからね」
村崎さんの選んだ衣装に合わせたクールなメイクは、とても似合っていて僕の腕前もなかなかのものだと自画自賛した。
「村崎さん、ラストは可愛い系で出るんだよね?」
「なんで私だけ二回も……」
「それだけ村崎さんが可愛いからだよ。いいじゃん。ラストを華々しく飾るなんて」
僕がそう言うと、村崎さんは少し悩んだ末にポーチを差し出した。
「最後はこれでお願い」
「えっ、これって」
僕が今までプレゼントしたコスメだ。
「高校最後の文化祭、これで終わらせたい」
「村崎さん……」
僕が感極まって黙っていると、窺うように上目遣いをされた。
「ダメ、かな?」
「ダメじゃない!」
思わず被せ気味に言ってしまう。
嬉しい!
その感情の方が大きかった。
僕も、高校最後の文化祭を特別なものにしたい。
そっとグレイジングしてお化粧を落として一から仕上げる。
こんなに近くに村崎さんの顔があるのに、普段なら早鐘が打つようにドキドキするのに今はとても静かだ。
このコスメ道具で村崎さんを可愛くしたい。
その一心で下地から何から集中して仕上げていった。
「出来たよ」
僕が手鏡を渡すと、村崎さんは満足そうだ。
「可愛いよ、青江くん」
「可愛いよ、村崎さん」
小さく笑い合っていると、あっという間に村崎さんの番になっていた。
「行ってくるね」
ドレスの裾を掴んで、ランウェイに向かう村崎さんに「頑張って」しか言えなくて、それでもラストの村崎さんを終えたから僕もステージ脇でランウェイに立つ村崎さんを見ることができた。
キラキラとしたランウェイを歩く村崎さんは、簡単と静寂で、その場の王女様だった。
飾り物のティアラがスポットライトで輝いて、余計に眩しい。
この子が僕の好きな子。
そう思うと、その光の中に手を伸ばしたくなった。
でも、僕は裏方だ。
控えていようとすると、村崎さんが急に振り向いて手招きする。
僕がわからず首を傾げていると、クラスのみんなからステージ脇から中央へと追い出された。
「この素敵なファッションショーのメイク担当をしてくださった青江くんです」
そう言って僕の片手を上げて宣言する。
僕は突然のことに目をぱちくりさせると、それまでのクラスのみんなも現れて、大所帯でステージに立ち、横一列で程をして終わりを迎えた。
僕は、訳がわからないままでいると、村崎さんがこっそり耳打ちしてくれた。
「このショーは、みんなで作ったものだからね」
だから裏方の僕もステージに最後に呼んだんだって。
裏方でも光が当たることがある。
胸がジンとして、泣きたい気持ちを抑えてみんなと一緒に叫んだ。
「見ていただきありがとうございました!」
こうして高校三年生の文化祭は終わってしまった。
でも、夢はまだ続く。
村崎さんがまた教えてくれた。
僕は、僕の力で可愛くなりたい人を可愛くさせたい。
もうすぐ受験シーズンが始まる。
そうなったらみんなでこんなことも出来ないかもしれない。
寂しい。
そう思ったら、みんな泣いていた。
みんな、寂しいんだ。
綾部高校で迎える最後の文化祭。
スポットライトに浴びながら僕達は幕を閉じた。




