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かわいいぼくら  作者: 千子


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三年の文化祭 前編

文化祭の季節がやってきた。

僕と村崎さんが近付いた一年前を思い出す。

そして、僕がメイクアップアーティストっていう大切な夢を見つけた日。

高校最後の文化祭。

僕達は、この思い出を深くするために出し物について日々議論しあった。

最終的に、ファッションショーをしないかって話に纏まった。

去年の僕のメイク講座が好評だったのを覚えていたクラスメイトが、高三特典で使える体育館の時間を使ってショーをやろうと提案してくれた。

僕の腕を信じてくれて嬉しい!

今回は、男子もメイクをすることになった。

最初は抵抗していた男子だけれど、日々メイクとファッションを突き詰めていくと、自分から改善点を提示してくれるようになってくれた。

僕は嬉しくて、毎日楽しくて仕方がない!

女子も男子もメイクして、ファッションのために裁縫をしたりして、男女の垣根なく一丸となってショーのために盛り上がっていた。


「いいなぁ。青江先輩のクラス」

様子を見にきた緑川くんに言われた。

「僕も、こうやってみんなでメイクやファッションを楽しみたいです」

しょんぼりした緑川くんに手招きする。

「体験だけする?」

「いいんですか?」

三年の中に一年が混じるのは勇気が入っただろうに、緑川くんは意気揚々と輪に入る。

みんなも歓迎してくれて、僕は緑川くんにメイクを、他の男子生徒が洋服をあてて決めてくれた。

着替えてもらうと、モデルかと思う美少年が現れた。

「緑川くん、可愛いよ!」

「ほ、本当ですか!?」

僕は頷いて鏡を渡した。

「うわぁ!このチーク、発色がいいですね!」

「今度バイト先まで買いに来てね!案内するよ!」

「ぜひ!」

そしてまた元の服に着替えて満足気に自分の教室に帰って行った。

やっぱり、こうして僕の手で誰かが可愛くなって幸せになってくれるのっていいな。

早く高校を卒業して専門学校で学んでみたい。

僕がそう思って道具の手入れをしていると、女子から声を掛けられた。

「ねえ、青江くん。文化祭が始まる前にさ、私達にもメイクしてくれない?」

「え?」

「青江くんがしてくれたメイクで彼と高校最後の文化祭を巡りたいの」

「私も!青江くんがしたメイクで彼氏ができたってジンクスあるし!」

そういえばそんなジンクスあったっけ。

「いいよ」

僕は、僕の腕前を認めてくれたと思って満面の笑みで承諾した。

翌日には噂が広がって校内から女子、男子が集まってくるとは知らずに。

僕は誰か一人を断るなんて出来ずに全員を快諾してしまった。

これは持っているメイク道具を全部持ってこないとみんなに合わせるの大変だぞ……!

腕が鳴るね!

僕は鼻息荒く腕を捲ろうとして半袖だったことを思い出した。

恥ずかしい……。


そして迎えた文化祭当日。

僕はショーに使える体育館の時間まで村崎さんと文化祭を楽しむことにしていた。

「さっきのお化け屋敷、結構凝っていたね」

「うん、結構怖かった〜!」

「まさか青江くんに抱き付かれるなんてね」

僕は恥ずかしくなる。

「だって怖かったんだもん……。ごめんね、村崎さん」

「ううん。大丈夫。そんなことになるんじゃないかと思っていたから」

「えー!ならなんで誘ったのさ!」

「役得のため」

村崎さんがぽつりと呟いた言葉が聞こえなくて聞き返した。

「なんだって?ごめん。聞こえなかった」

「聞こえないように言ったからね。さ、次行こ」

「うん!次はどこへ行こうか」

「また去年と同じとこ行ってみる?」

「いいね!」

なんて盛り上がって去年を思い出した。

去年は僕のメイク講座で、村崎さんが買い出しに手伝ってくれて、そのお礼に似合いそうなリップを僕が贈りたくてプレゼントしたんだ。

そして、文化祭当日に村崎さんがメイクをする時、このリップをしてって差し出された時は驚いた。

村崎さんの初めてのメイク。

その時にメイクアップアーティストになればって言ってくれなきゃ僕に夢なんてなかった。

ただ、可愛いものが好きで、可愛くなりたくて、メイクが好きで、自分でしていただけの男子高校生。

でも、メイクをした村崎さんがあまりに可愛くて、そんな自分が可愛くした女の子から言われて有頂天で夢を見ることにした。

ううん。夢じゃない。現実にするんだ。

「洋裁部のドレスとサイエンス部の自作のコスメ、懐かしいね」

文化祭マップを見ながら村崎さんが言う。

「人間なんて薄皮一枚、綺麗な人もそうでない人も最後は骨になって土に還るのに」

そう言っていた村崎さんが、したことがなかったメイクをして、僕に夢を与えてくれて、恋をさせてくれて、全部村崎さんが与えてくれた。

僕は、そんな村崎さんになにか返せているんだろうか?

「青江くん?」

「えっ、あ、洋裁部だよね!行こう!」

洋裁部のドレスは昨年より圧巻だった。

「実は、とある作品にハマってしまって、その年代の洋装に興味を持って手を動かしているうちに止まらなくなっちゃって」

「ああ!もしかしてあのアニメの!?僕も見たよ!あの年代のお化粧に興味があって!お話もすごく良かった!」

しばらく映画の話で盛り上がっていると、村崎さんが薄紫色のフリルがふんだんに使われたドレスを前にして呟いた。

「可愛い」

今度は聞き逃さなかった僕は、村崎さんの可愛いに洋裁部の子に掛け合った。

「ねえ。あの薄紫色のドレス、村崎さんに着てもらってみてもいいかな?」

「もちろん!試着室もあるよ!どうぞー」

「えっ、私は別に着たいなんて……!」

そう言いつつも流されて村崎さんは試着室に入って行った。

そわそわして待つと、しばらくして村崎さんが試着室から出てきた。

「可愛い……!」

スタイリッシュながらもふんだんに使われたフリルで女性っぽさを失われない、絶妙なデザインだった。

「コルセットきつい」

村崎さんはそんなことを言うけれど、鏡に映る自分を見て少し満足そうだ。

「青江くん、一緒に写真撮ろう」

「いいの?」

「あ、それなら男性用衣装もあるよ!」

そう勧められて村崎さんと洋裁部の子はああでもない、こうでもないと見繕ってくれて、ようやく青い洋装になった。

薄紫色の村崎さんと並んでも遜色のない色の合い方だった。

「それじゃあ、撮るよ〜!」

洋裁部の子に僕と村崎さんのスマホで写真を撮ってもらって、無意識に手を繋いでいる僕達に気がついた。

もう何度手を繋いだんだろう。

それ以上の関係には進めない。

だって、告白すらしていないんだから。

今年こそ、今年こそって思ってもう文化祭だ。

「青江くん。ステージのショーまで時間がないから早く着替えてサイエンス部の自作のコスメを見に行こう」

「う、うん!」

繋いでいた手を離して、別々に着替える。

「お待たせ」

「こっちの方が待たせたでしょ。ごめん」

「そんなことないよ、可愛かったよ」 

僕がそう言うと、村崎さんは僕のスマホを貸してって言ってきた。

僕はなんの疑問も持たずにロックを外して渡すと、村崎さんは何やら操作をして僕に返してきた。

「何をして、って、あー!」

僕のスマホの待受がドレス姿の村崎さんと洋装の僕になっている!

「む、村崎さん!」

「可愛い記念」

それなら村崎さんだってそうしてくれていいのに、学校に住み着いている野良猫から変える気がないみたい。

でも、この写真とてもお気に入りだからべつにいいけど!

僕達は慌ててサイエンス部に向かった。

「すみません、まだやってるよね?」

「青江くん!村崎さん!もちろんやってるよー!」

見て行って!と案内された展示コーナーを見て回る。

「わあ!これ、お肌にも優しいんですね!」

「そう!昨年青江くんが褒めてくれたからさ、興味持っちゃって、誰でも使えるメイクを目指して作っているの。進学は薬学部に進んで万人が肌トラブルに困らないコスメを作るのが目標」

「僕が、褒めたから?」

「そう。私に道を示してくれたのは青江くんだよ。ありがとう」

にこって笑うサイエンス部の子に首がもげるんじゃないかってくらいに首を横に振る。

「そんな、僕なんか!」

横に振った首を真正面で止めたのは村崎さんだ。

「大丈夫」

村崎さんにそう言われると、不思議と大丈夫な気がする。

「あの、僕があなたの夢を与えたなんて光栄です!僕もメイクアップアーティストを目指しているんです!いつか、あなたのコスメを使わせてください!」

「もちろん!その時はよろしくお願いします!」

がっち握手をして別れた。


さあ、いよいよ僕達のショーの開幕だ!

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