黒崎くんと白鳥先輩の初夏
一方その頃、黒崎くんは宣言通りに白鳥先輩の大学に乗り込んで白鳥先輩に付き纏う男に「俺が先輩の彼氏だ」って宣言したらしい。
そうしたら、年下なんかって馬鹿にされて今度は白鳥先輩が怒ったらしい。
あの白鳥先輩が怒るなんて信じられないけれど、黒崎くんは数日間ずっと同じ話をしてくる。
「そこで白鳥先輩が顔を真っ赤にして言ったんだ。私の黒崎くんを馬鹿にしないでって」
「何度も聞いているよ」
「『私の』黒崎くんだぜ。あの白鳥先輩が」
ずっとにこにこしていて正直気味が悪い。
高揚した表情は普段のクールさは置いて行かれている。
黄瀬くんなんて呆れて赤井さんと帰ってしまった。
黒崎くんと二人きりになるのは久々かもしれない。
「そういえば、白鳥先輩に想いが言えずにヤケになって村崎さんに告白した時、なんで村崎さんにしたの?」
ずっと僕の中で疑問だったことを尋ねる。
すると、黒崎くんは少しバツが悪そうな顔をして答えた。
「絶対振られると思ったから」
「えっ、なんで?白鳥先輩のことを忘れたくて彼女を作りたかったんじゃないの?」
僕が机から身を乗り出すと、黒崎くんは後退する。
生まれた距離は、黒崎くんの本音で埋もれた。
「青江くん、近いって。そうだな、あの頃は本当にヤケだったけど、心の奥底では白鳥先輩が諦めきれなくて、どこかで振られたいって思っていたのかもしれない」
黒崎くんの視線が揺れる。
「そうだ。これから白鳥先輩とのデートなんだけど青江くんも来る?久々に会いたいでしょ」
「ううん。二人のお邪魔をするわけにはいかないから」
黒崎くんは首を少し傾げた。
「そう?いつも会っているからたまには青江くんが一緒でもいいんだけど」
「本当に?それなら僕も白鳥先輩に会いたい。あ、村崎さんが図書室にいるはずだから四人で会おうよ」
「いいよ」
二人で連れ立って図書室で勉強をしている村崎さんを誘って白鳥先輩に会いに行った。
もう季節は初夏になって半袖の人も目立つ。
少し汗ばむ陽気だけれど、久々に白鳥先輩に会える楽しみが勝って気にならない。
「久々の白鳥先輩だね」
「『俺の』白鳥先輩ね」
黒崎くんから訂正が入る。
少しして、ファミレスに着くともう白鳥先輩は待っていた。
「こんにちは、黒崎くん。青江くん、村崎さん」
「お久し振りです!白鳥先輩!」
「お久し振りです」
「待たせた?」
「ううん」
黒崎くん、白鳥先輩への敬語が消えている!
僕と村崎さんは顔を見合わせて、なんだか嬉しくなって黒崎くんを突いた。
「痛っ、なんだよ」
「敬語。消えてるね」
僕がそう言うと、黒崎くんも白鳥先輩も真っ赤になった。
「そりゃ、まあ、付き合って数ヶ月経つし」
「私は嬉しい。壁がなくなったみたい。今まで、少し寂しかったの」
そう言って微笑む白鳥先輩は本当に幸せそうだ。
「白鳥先輩、大学生活はどうですか?」
「楽しいわ。何がしたいか分からないまま入学したけれど、最近、偶然とった授業で興味深いテーマを取り扱っていて、その教授の授業を積極的に取るようにしているの」
村崎さんは熱心に大学生活について聞いている。
村崎さんは大学に進む気なのかな。
僕は専門学校に向かうために、毎日メイクやウィッグを使って練習している。
ウィッグはバイト先の先輩のご友人が美容師で古くなったものを格安で譲ってくれている。
僕も白鳥先輩と話をしたいけど、村崎さんと白鳥先輩の話の邪魔をしたらまずいかな?
「青江くんは専門だよね?」
「黒崎くんは白鳥先輩と同じ大学だよね」
「そう。白鳥先輩が難関大学受かったのでこちらは大変です」
なんて、肩を竦めて言うけれど、この間の小テストで学年でもトップの方だったことは先生が褒めていた。
黒崎くんも白鳥先輩といるために頑張っているんだなぁ。
僕は並んで座る黒崎くんと白鳥先輩を見てにこにこしてしまう。
黄瀬くんと赤井さん。
黒崎くんと白鳥先輩。
四人とも幸せそうでとても嬉しい。
「よかったねぇ」
僕が思わずそう言うと、三人が三人とも困ったようにした。
「今度は青江くんの番だよ」
黒崎くんにそう言われて、白鳥先輩も頷く。
「私達が上手くいったのは二人のおかげ、だから二人にも早く幸せになって欲しい」
そう言われて、僕と村崎さんはまた顔を見合わせた。
村崎さんと目が合うと、お互い耳まで真っ赤になってしまった。
「あ、暑いね!」
「ここ、冷房めっちゃ効いているけど?」
ニヤニヤしながら黒崎くんが言う。
くそぅ。
「白鳥先輩。黒崎くんのことで嫌なことがあったら今が言うチャンスですよ!僕達が援護射撃しますから!」
村崎さんも盛大に頷いてくれる。
「黒崎くんの嫌なところ……特にないわ。逆に聞きたいけれど、私も大好きで、相手もこんなに私のことを愛してくれている人を嫌う意味がある?」
そう尋ねられて場の空気が一気に熱くなった。
完全に惚気られた。
黒崎くんにもダメージは負ったみたいで、真っ赤な顔を隠しきれていない。
小さく「ずるい」と言ったのを僕は聞き逃さなかった。
「二人とも、お熱いことで」
村崎さんがドリンクバーの飲み物を一気に飲み込む。
「ふふふ、そうね」
「そうだねぇ」
楽しそうな二人に、今日はおちょくられるな、と覚悟して僕もオレンジジュースを飲み干した。




