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かわいいぼくら  作者: 千子


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黄瀬くんと赤井さんの梅雨

「黒崎くん、好きってなんだと思う?」

「そのままの意味じゃない?」

村崎さんは友達と帰った放課後。

また男三人で集まってのんびり談笑している。

でも、黒崎くんは白鳥先輩との連絡に夢中だ。

スマホを弄る度に黒崎くんの心のように黒い鳥のストラップが揺れる。

「いいよなぁ、黄瀬くんと黒崎くんは」

「そう思うなら早く告白しろよ。もう梅雨ってだけで鬱陶しいのに、青江までジメジメしててめんどくせぇ」

黄瀬くんから厳しい言葉を言われる。

「それが出来ていたらこんなに悩んでいないよ!」

「大丈夫だよ、青江くんだもん」

「そうだな。青江だから大丈夫」

「なんでさ」

「村崎にでも聞いておけ」

僕が頭に疑問符を浮かべるのを二人は楽しそうに見ていた。

梅雨。

どんよりした雲は僕の心みたいだ。

好きの意味を期待して僅かな光が差し込むと喜ぶし、曇って雨が大降りになると感情が激しく渦巻く。

雨音がしとしとと音を立てて窓を濡らすのは、僕の心にもじわりと広がる。

「はぁ……」

「ああ!もう!鬱陶しい!」

黒崎くんが怒り出した。

「僕、そんなに鬱陶しかった?ごめん」

謝ると、黄瀬くんは溜息を吐いた。

「ううん。青江くんのことじゃないよ。最近、大学で白鳥先輩にちょっかい出している男子学生がいるみたいで、今すぐ白鳥先輩の大学に乗り込んで『俺が彼氏です!』って宣言したいくらい」

黄瀬くんがスマホを差し出す。

そこには、白鳥先輩から困っているという相談が書かれていた。

「それなら言いに行けばいいじゃない」

「え?」

「大学まで行って、その人の前で白鳥先輩は俺の彼女ですって、言えばいいじゃない」

単なる思いつきだったけど、黒崎くんはぽんっと手を打つと、煌めいた。

「そっか、そうだよな。ちょっと俺、行ってくる」

「えっ、今から!?」

黒崎くんはそう言うと、また明日なー!と言って鞄を持って帰っていった。

「ちょっと!黒崎くんー!」

綾部は私服高校だからそのまま大学に殴り込める。

普段はクールぶっている黒崎くんは本当に白鳥先輩絡みだと普通の恋する男子だ。

仕方なくて、かわいくて、にこにこ見ていると、黄瀬くんまで溜息を吐いた。

「まあ、黒崎の気持ちもわかるかな。俺が卒業したら赤井が心配」

黄瀬くんがそんなことを言うなんて珍しい!

「そんなことないよ!赤井さん、ずっと黄瀬くん一筋だったじゃない!」

「でも、俺、こんな体だろう?やっぱり、赤井の負担を考えたら普通の男の方がいいんじゃないかな」

車椅子をさすって少し眉根を下げて呟く。

「そんなことない!そんなこと、赤井さんには関係ない!だって赤井さんは黄瀬くんが大好きだもん!」

僕が力説すると、黄瀬くんは力無く微笑んだ。

「ありがとな、青江。でも、俺のせいで赤井の夢まで邪魔をしているんじゃないかって思うんだ。あいつ、俺のそばにいたいって進路を俺の大学の近くにしか狭めていないんだ。もっと広い視野で自由に進みたい大学を選んで欲しい。」

「黄瀬くん……」

これは、赤井さんに伝えた方がいいのかな?

赤井さんは、きっと黄瀬くんがどんな体でも、黄瀬くんが黄瀬くんである限り好きだと思う。

僕が村崎さんが村崎さんである限り好きなように。

「黄瀬くん、ちょっと待ってて!」

僕はそう言うと、黄瀬くんを置いて二年の教室に走り出した。

目当ての人物はすぐに見つかる。

明るくて可愛くて社交的でみんなの中心にいる。

「赤井さん!」

「青江先輩!どうしたんですか!?」

「ちょっと来て!」

「えっ!?」

事態を飲み込めない赤井さんを強引にみんなの輪から連れ出して、急いで教室に戻る。

「黄瀬くん!」

「青江、どこに……赤井……」

「青江先輩も、黄瀬先輩もどうしたんですか?」

突然連れて来られて困惑している赤井さんに尋ねる。

「赤井さんは、黄瀬くんが好きだよね?」

「もちろんです!」

間髪入れずに返答がされた。

「どんな黄瀬くんでも、黄瀬くんが黄瀬くんなら好き?」

「お、おい、青江」

「好きです」

赤井さんは真っ直ぐに黄瀬くんを見て言う。

「でも、やっばり、俺はこんな体だし……」

黄瀬くんが不安を吐露するけれど、赤井さんはぎゅっと黄瀬くんを抱き締めて最後まで言わせなかった。

「それは、私を守ってくれた名誉の負傷です!あの日、私を庇ってくれたから……本当にごめんなさい」

「それでお前を縛っていないか?」

「そんなこと!私は怪我をする前もした後もずっと黄瀬先輩が大好きです!」

「俺も、お前が大切だから守りたかった」

その言葉が先日の不審者と対峙する村崎さんと重なる。

強さって、ひとつじゃないんだ。

僕も、村崎さんに何かあったら守りたい。

僕が本当に求める強さって、多分、そういうことじゃないかな。

黄瀬くんが赤井さんの腰に手を回して抱き合った。

いつの間にか雨が止んで空からは光が差し込んでいる。

窓ガラスの水滴がきらめいて虹色に見えた。

残っていたクラスメイトは、黄瀬くんと赤井さんのラブシーンに囃し立てるし、それに黄瀬くんは開き直って見せつけてくる。

黄瀬くんと赤井さんは大丈夫。

この二人は、きっと、末長く幸せになる。

ジューンブライドの広告を思い出して、思わず僕も囃し立てながら言った。

「結婚式には僕も呼んでよね!」

「おう!楽しみにしておけ!」

「黄瀬先輩……!」

お付き合いどころか婚約確定だ!

「おお〜!黄瀬!俺は!?俺も呼べよな!」

なんて盛り上がる。

ブーケトスが欲しいっていう女子がいるけど、ここは村崎さんに譲ってもらいたい。

……僕達、まだ付き合ってすらいないけど!

でも、いつかはきっと……!

その日の教室は、通り掛かった教師に早く帰りなさいと指導されるまで賑やかさが残った。

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