強さ
強くなるってどうすればいいんだろう?
そんな難問を考え込んで、僕は空手部に新入生と体験入部することにした。
「なんだ、青江。高三になって部活か?しかも空手部?」
黄瀬くんに首を傾げられて説明をする。
「僕は、強い男になって村崎さんを守りたい!」
「おお!いいじゃないか!応援しているぜ!」
「ありがとう!」
でも、その決意は三日で終わってしまった。
顧問の先生から、向いていなさすぎると太鼓判を押されてしまった。
「強くなりたいのに……」
「なんのために?」
「なんでって、村崎さんを……」
そこで僕は誰と喋っているんだろうと体育館の渡り廊下に立っている人を見た。
「村崎さん!?」
「私を?」
僕は答えられなくて俯いてしまう。
村崎さんを守れる男になりたくて空手部に仮入部してみたのに三日で辞めさせられるなんて、情けない。
「青江くん?」
「村崎さんは、村崎さんの思う格好よさってなんだと思う?」
「私の思う格好よさ?」
僕の問いに村崎さんはぐっと唇を締めて、覚悟を決めて開いた。
「大切な人を、大切だと守れる人だよ」
やっぱり、強くなきゃダメなんだ!
「分かった。ありがとう」
フラフラと着替えるために更衣室に向かう僕に村崎さんが声を掛けてくれる。
「青江くん!」
でも、僕はその言葉に返すことが出来なかった。
着替えようと体操服を脱ぐと、薄い体が目に入る。
こんなんで、村崎さんを守れるはずがない。
村崎さんが思う強い人は、大切な人を大切だと守れる人。
僕じゃ村崎さんを守れない。
気持ちが沈んで着替えも遅くなる。
帰る頃にはもう陽が落ちかけていた。
校門に向かうと、見知った人が迎えてくれていて、思わず走って向かう。
「村崎さん!どうしたの!?」
「どうって、青江くんの様子が変だったから、待ってた」
「そんな、僕にそんな価値なんてないよ」
思わず俯く。
村崎さんの顔が見れない。
僕じゃ、村崎さんに釣り合わない。
分かっていたじゃないか。
ただ、村崎さんが優しいから甘えていただけなんだ。
どんどん沈む心は、顔を包む手によって上向かされた。
村崎さんの瞳と真っ直ぐ合う。
「そんなことないよ、青江くん」
その瞳の真っ直ぐさに、僕は何を悩んでいたか一瞬忘れてしまった。
「青江くんは青江くんのままでいいんだよ」
「村崎さん……」
「青江くんは、今の私は嫌?」
「そんなことないよ!」
僕が大きな声で否定すると、村崎さんが笑ってくれた。
「そうでしょう。そういうものだって」
そういうものってどういうものだろう?
疑問に思うけれど、村崎さんは楽しそうだ。
「私のために変わろうとしてくれたのは嬉しい。でも、私は今の青江くんが好きだよ」
「僕も。今の村崎さんが好きだよ」
ふふふって笑いあって、手を繋いで帰った。
村崎さんがいうなら、僕は今の僕を受け入れよう。
村崎さんが認めてくれる僕を、僕も認めよう。
そこで気がついた。
村崎さんが僕のことを好きって言った!?
えっ、それって恋愛感情!?友情!?僕を励ますために言ったの!?
どうなの村崎さん!
強くなるという難問は過ぎ去ったけれど、新たな難問を迎えてしまった僕は一人でベッドの上でゴロゴロして寝落ちするまで興奮で「すき」の意味を考えていた。




