春の訪れ
コートを脱ぎ捨て肌寒さも無くなった頃、いつものように村崎さんと一緒に帰っているとふとし瞬間に気付くようになってしまった。
僕がプレゼントしたメイク、してくれているな。
春ネイルも!今日はお揃いだ!
あの!お化粧に興味がなかった村崎さんが!
どういう心境の変化なのか尋ねてみたいけれど、聞けない。
チラリと見る。
うん!僕の見立てだけあって村崎さんに似合っていて可愛さを引き出している!
一人で満足していると、村崎さんが視線に気付いて問いかけてきた。
「なに?」
「いや、えっと」
「あ、青江くん。小さくて気付かなかったけど、左の小爪、私が贈ったネイルアートステッカー?」
顔を隠そうと両手で防御したら、気付いてくれた!
「うん!大切に使っているよ!消耗品だから、少しずつだけど……卒業式も入学式も付けていたよ!」
「それは知ってた」
僕は嬉しくってにこにこしてしまう。
「本当!?村崎さんって僕のこと見ていてくれるんだね!」
僕がそう言うと、村崎さんは耳がほんのり熱くなった。
もう寒くないはずなのにな?
「そういう青江くんはどうなの?私のこと。みてるの?」
返されて、僕は大きく頷く。
「村崎さんも、僕がプレゼントしたメイクをしてくれているよね!とってもかわいいよ!」
満面の笑みで答えると、村崎さんは額に手を当てた。
「青江くんだから期待しない。青江くんはいつもこう」
とかぶつぶつ言っている。
なんなんだよ、もう!
「村崎さんはかわいいよ」
「よく言われる、けど、青江くんは特別だからそんなこと言われたらずるい」
「特別って?」
胸がどきりとする。
僕は、村崎さんの特別になれたんだろうか。
いいや。特別な友達かもしれない!
村崎さんは大人っぽくてモテるんだから期待しちゃダメだ!
「特別は、特別ってこと」
そう、期待しないようにしようとしていたのにまっすぐな目でずいっと顔を近付けられて、ひょだとしたらキスできてしまうんじゃないかって距離で僕はもう、爆発寸前だった。
心臓が早鐘を打つ。
「僕も、村崎さんは特別の特別だよ」
「青江くん」
どちらの胸の鼓動か分からないまま、どきどきしていると、声を掛けられた。
「青江先輩!青江先輩も帰り道こっちなんですね、もしよろしければ一緒に帰りましょう」
緑川くんだった。
村崎さんはしゃがみ込む。
耳が真っ赤なのが見ていて分かる。
多分、僕もすごく赤い。
「えっと、何かありました?」
緑川くんがきょとんと聞いてくる。
「なんでもない」
そう言って村崎さんはさっさと歩いて行く。
「あっ、待ってよ!村崎さん!」
「えっ、待ってください!青江先輩ー!」
競歩で歩いていた村崎さんに走って追いつく。
「村崎さん……」
その顔を見てびっくりしてしまった。
村崎さんの綺麗な瞳が蕩けるように涙が出そうになっていんだ。
「なんでもない」
もう一度そう言って、今度こそ走って帰ってしまった。
僕にはとても追いつけそうもない。
「えっと、お邪魔してしまいました?」
緑川くんが恐る恐る尋ねてくる。
「うん、多分……」
僕が肩を落として言うと、緑川くんは土下座する勢いで謝罪してくれた。
「うわぁああ!!青江先輩と彼女さんの時間を邪魔してしまってすみません!!」
「まだ彼女じゃないよ!」
思わずそう言うと、あ、僕は村崎さんと恋人になりたいんだって改めて思った。
そうか。僕は村崎さんがすきなんだ。
ずっとふわふわしたままのきもちは現実味を帯びてきて、僕は村崎さんに恋をしていると改めて思い知った。
「僕の片思い」
ちょっと切ない。
でも、村崎さんを見るに、村崎さんも僕と同じ気持ちかもしれない。
緑川くんもそう思っていたみたいで、励ましてくれた。
「でも、充分お似合いでしたよ!」
「ありがとう」
でも、ダメなんだ。
かわいいだけじゃ。
不審者から僕を守ってくれたように村崎さんは可愛くて格好いい。
村崎さんに合うには、可愛いだけじゃない、格好いい男になってきちんと告白したい!
「緑川くん、強さってなんだと思う?」
「強さ……なんでしょう?」
僕は春の訪れと共に、新たな難問に当たってしまった。




