二年のホワイトデー
不審者が捕まったことにより、この辺りにも平和が訪れた。
もう少しで春。
それはつまりホワイトデーが近いということ!
村崎さんから貰った手作りチョコは一日一粒、大切に食べた。
箱もラッピングも大切に取ってある。
僕のとても大切なものだから。
そして!貰ったからにはお返ししないと!
そこで春コスメを思い出す。
自分用に買ったコスメ。
でも、村崎さんとお揃いのネイルをしたいと思ってネイルだけ二つ買った。
ほんのりピンク色の桜を思わせる色合いは、つけなくても綺麗な爪をしている村崎さんには不要かもしれない。
でも、お揃いのネイルをしたい。
黒崎くんと白鳥先輩みたいにお揃いをしてみたい。
喜んでくれるかな?
メイクはしなくても、塗らせてもらうだけでもダメかな?
ずっと考えて、ホワイトデーまであと一週間を切った。
僕は、また情けなくも友人達を頼ることにした。
「黄瀬くんと黒崎くんはホワイトデー、何をプレゼントするの?」
学校帰りのファミレスでそう尋ねると、二人とも顰めっ面をした。
「決まっていたら苦労はしない」
「同じく」
「二人とも、決まっていないんだ」
同志だと思ってにんまりする。
「なら、三人で買いに行かない?」
「……そうだな、一人で考えるより新たな発見があるかもしれない」
「俺以上に白鳥先輩のこと分かっていたらむかつくけどな」
嫌そうな黒崎くんを宥める。
「まあまあ。三人集まれば文殊の知恵っていうじゃん」
そう言って、男三人で好きな女の子に贈るプレゼント探しの旅が始まった。
とりあえず、黄瀬くんの体も考えてあまり動かずに済むように一番大きな百貨店に来てみたけどどうだろう。
うろうろ探していると、同じような男性がたくさんいて、とりあえずホワイトデーコーナーに寄ることにした僕達は、あれでもない、これでもないと言い合って、結局決まらず女性向けの雑貨店を見ることになった。
「これ、いいかもな」
そう言って黄瀬くんが選んだのは赤い薔薇のデュフューザーだった。
「華やかだし、似合いそう」
「うん、いいと思うよ!」
「いいんじゃないか」
僕達の後押しもあって、黄瀬くんの赤井さんへのプレゼントは決まった。
そこでふと、黒崎くんが文具コーナーへ行くと言い出した。
そこで万年筆を見ると、白っぽい綺麗なガラスの万年筆を手に取った。
「俺はこれにする」
「綺麗じゃんか。白鳥先輩っぽい繊細さもあっていいと思う」
「大学生の新生活に新しい文具っていいと思うよ」
「そうだよな」
少し寂しそうな横顔に、僕まで胸がぎゅっとなった。
そうだよ。
白鳥先輩は卒業しちゃうんだ。
僕達が同じ学校の生徒でいられるのはあと数日。
もう自由登校なのに、お昼休みだけ僕達とお昼を食べに来てくれているから忘れかけていた。
「寂しくなるね」
僕がぽつりと呟いた言葉に沈黙が訪れた。
「いや、でも俺と白鳥先輩は付き合ってるし毎週会っているし大学でどんな男が現れても大丈夫だし」
黒崎くんが早口で捲し立てる。
あっ、そっちの心配?
そうは思っても僕も心配だ。
村崎さんはかわいい。
同級生だけじゃなくて上級生、下級生の人気もある。
「それなら赤井だって人気があるぞ」
黄瀬くんが対抗する。
黒崎くんは白鳥先輩より赤井さんの方が人気があるって感じたようで、こちらが恥ずかしくなるような惚気話の応酬が始まった。
「もう、二人とも、ここ三人しかいないわけじゃないんだから!」
僕が赤くなりながら言うと、二人とも他のお客さんに微笑ましく見られていることに気が付いたようだった。
「悪い」
「俺こそ」
散々惚気て恥ずかしくなって二人とも顔が赤い。
あてられた僕も顔が赤い。
何をやっているんだろう、僕達。
「と、とりあえず、これ買ってくる!」
黒崎くんが万年筆を持ってレジへ向かって行った。
残りは僕の番だ。
村崎さんの特別になれるような一品が欲しいな。
村崎さんは何が好きなんだろう?
僕が何をあげても、嬉しそうに笑って「ありがとう」って言ってくれるんだ。
そんな村崎さんが喜ぶもの……。
そこで、僕が買った春ネイルが思い出された。
いや、あれは僕の趣味で買ったわけで、でも今までもメイクをしない村崎さんは僕が贈ったメイク用品だけは特別な日にしてくれた。
……贈っても、いいのかな?
「どうした?難しそうな顔をして」
黄瀬くんが僕の顔を覗き込んだ。
「村崎さんは何が好きかなって」
「そりゃ、お前。村崎なら青江が贈ったものならなんでも喜ぶだろうぜ」
黄瀬くんがあっけらかんと言う。
事実だけに言い返せない。
「どうした?」
会計とラッピングを終わらせた黒崎くんが戻ってきた。
「青江が村崎に何を贈ろうか悩んでいるんだよ」
「そりゃ青江くんが贈ったものなら村崎さんはなんでも喜ぶでしょ」
二人して同じことを言う!
「二人だって、赤井さんと白鳥先輩に何を贈ろうか悩んでいたじゃないか」
「人のことは分かるけど、自分のことはわからないってやつだよ、青江くん」
「だな」
その通りかもしれない。
僕だって、赤井さんも白鳥先輩も黄瀬くんと黒崎くんの贈ったものならなんでも喜ぶだろうと思っていた。
でも、二人は付き合っているけど僕はまだ付き合ってすらいない。
同じ土俵じゃないんだ。
そう力説すると、黄瀬くんも黒崎くんも笑った。
「青江だしなぁ」
「青江くんも早く想いが通じるといいね」
そう楽しそうにしている。
僕は憤慨した。
「なんだよ、二人して」
「まあまあ、俺達も村崎の喜びそうなものを選ぶの手伝うからさ」
「そうそう」
「……それなんだけどさ、実は村崎さんとお揃いがしたくて春ネイル買っちゃったんだよね」
黄瀬くんと黒崎くんの顔が合う。
「なんだ。それならそれでいいじゃねぇか」
「うん。お揃いっていいと思うよ」
「本当に?」
二人は大きく頷いた。
「だって、青江が贈ったもんだもんな」
「青江くんの想いがこもっているんだ。大丈夫だよ」
二人に背中を押されて、二つ購入して一つは可愛くラッピングされたネイルを思い出す。
「うん……うん!そうだよね!僕は村崎さんとお揃いがしたい。同じ春を迎えたい。僕、あのネイルを村崎さんに贈るよ」
そう言うと、二人は優しい顔をしていた。
高揚した気分のまま百貨店を後にした。
ホワイトデー当日。
バレンタインデーと同様に三組に別れて昼食をとった。
「村崎さん。これ、ホワイトデーのプレゼント」
村崎さんはちょっと驚いた顔をして少し気まずそうな表情をした。
「村崎さん?」
「私もあるの。青江くんから貰ったから」
「本当に!?」
「青江くんの好みに合うか分からないし、私にメイクとかのことわからなくて頑張って検索したんだけど。どうかな?」
差し出されたのは薄い箱だった。
お互いに交換して開封する。
「わぁ……!かわいい!」
僕が村崎さんに贈った春ネイルに合うような、春をモチーフにしたネイルアートステッカーだった。
「かわいい」
村崎さんが僕が贈ったネイルを見て微笑む。
「やっぱり」
「なに?」
「村崎さんは僕が贈ったものなんでも喜んでくれるなって」
僕がそう言うと、村崎さんはものすごく照れた。
「それは、そういうことだからだよ」
「えっ、どういうこと!?」
僕が尋ねると、村崎さんは顔を赤くしたまま横を向いた。
「もう言わない」
「えー!なんでー?」
問答は、肌寒さを忘れさせてくれてほんのり暖かった。




