強くなりたい
「最近、この辺りに不審者が出るから各自注意するように」
そう担任の先生から言われたのはつい最近だ。
「私の友達も黒尽くめの男性に追いかけ回されたんですよ」
昼休みにいつも通りみんなで集まって食べていると赤井さんが言った。
「私は行きと帰りは黄瀬先輩が一緒に登下校してくれて家まで送り迎えしてくれているんですけど」
さりげなく惚気までいれるのは赤井さんらしい。
その言葉に白鳥先輩が黒崎くんを見た。
「……俺も、登下校の送り迎えしてもいいですか?」
黒崎くんは少し顔を赤らめて尋ねる。
「嬉しい。一緒に登下校出来るの、あと少しだものね」
そうだ。白鳥先輩は三年生。
卒業したら大学生になってしまう。
「白鳥先輩が卒業しちゃうの寂しいです」
「青江くん、それは俺のセリフ」
白鳥先輩は笑うとスマホを取り出して白い鳥のストラップを見せてくれた。
「大丈夫。みんなが応援してくれたおかげで志望校にも合格出来たし、黒崎くんとは離れていても繋がっているわ」
スマホを揺らすと白い鳥も揺れる。
優雅に青空を舞っているように見えて、白鳥先輩の未来を暗示しているみたいだ。
「白鳥先輩」
「だから大丈夫。ね?」
すっかり二人のムードだ。
ぼくはちらりと村崎さんを見る。
「村崎さんがよかったら、僕も村崎さんの送り迎えをさせてくれない?」
「えっ!?」
赤井さんが茶々を入れる。
「いいじゃないですか!村崎先輩!チャンスですよ!」
チャンスってなんだろう?
僕が首を傾げると、黄瀬くんと黒崎くんが両肩を掴んだ。
「青江、頑張れよ」
「よく言えたね、青江くん」
なんて言いながら、僕を揶揄いながらも不審者には気をつけるように改めて情報共有した。
その日の放課後。
「帰ろう、村崎さん」
「うん」
村崎さんを送るために一緒に帰る。
今までも一緒に帰ることはあったけど、いつも別れ道で別れていたからお家まで送っていくのは初めてだ。
「もうすぐ新学期だね」
「そうだね。高校生活もあと一年か」
少ししんみりした空気になる。
この一年で僕は村崎さんに告白できるだろうか。
そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえてきた。
「青江くん」
「うん。分かっている」
目配せして、そっと後ろを見ると全身黒尽くめの長身の男性が一定の距離で同じ方向に歩いてきた。
「不審者だよね」
「不審者だね」
「どうしよう。警察に電話する?」
「うん。そうしよう」
僕がスマホを取り出すと、不審者は歩みを早めた。
「っ、村崎さん!走ろう!」
「うん!」
とは言っても、運動音痴な僕より村崎さんの方がずっと早い。
村崎さんは僕に気を遣いながら並走してくれたけど、危険なのは村崎さんだ。
「僕のことはいいから!先に行って!」
「そうはいかないよ、青江くん!」
「大丈夫!僕は男だし!」
そう言うと、村崎さんは唇を噛み締めた。
「早く!」
僕が言うと、真っ直ぐ走り去って行った。
「良かった……」
走ることに早々に疲れた僕は少し疲れて走ることを緩める。
そうすると、あっという間に不審者に捕まった。
「やっぱり、君、可愛いね」
不審者がマスク越しに囁く。
「僕を追い掛けていたの!?」
僕はびっくりしたのと怖気で寒さ以外に震える。
不審者の手が僕の輪郭をなぞる。
怖い!
思わず目を閉じると、僕と不審者の前に誰かが入り込んだ。
そっと目を開けると村崎さんが立ち塞がっていた。
「なんで、村崎さん……!」
「大丈夫!?青江くん!」
走ってきて息が荒い村崎さんも震えていた。
「危ないよ、村崎さん!ここは男の僕に任せて!」
僕が言うと、村崎さんは毅然とした態度で不審者から目を離さずに言い切った。
「大切な人を守るのに、男とか女とか関係ない」
やっぱり村崎さんは、可愛いだけじゃなくて格好いい。
でも、それなら。
「僕だって村崎さんが大切だ。村崎さんは僕が守る!」
ずいっと村崎さんの前に出て不審者に立ち向かう。
「青江くん……」
村崎さんの視線を背中に感じていると、大きな声が聞こえた。
「こらー!そこの不審者!そこを動かない!」
警察官が走ってきた。
慌てて逃げようとする不審者の反対側の道にも警察官がいて挟み撃ちにされていた。
「実は、ちょっと行った先に交番があって助けを呼びに行ってきていたんだ」
村崎さんの言葉にホッとしている間に不審者は警察官に捕まっていた。
「君達、危ないから不審者に立ち向かおうとしないでね。ちゃんと逃げてね」
なんてお小言をもらって、僕は項垂れる不審者を横目に見ながら慎重に頷いた。
怖かった。
震えがさっきより大きくなる。
「青江くん、大丈夫?」
「大丈夫。本当は格好良く守りたかったのに守られちゃってごめんね」
「そんなことないよ。青江くんも守ってくれたよ」
村崎さんが僕の背中を撫でる。
震えが落ち着いてきて、安心できる。
「ありがとう、村崎さん」
「ううん。こちらこそ、ありがとう。青江くん」
そう微笑んで、今度こそ村崎さんを自宅に送って僕も帰路についた。
村崎さんに何もなくて良かった。
あんな怖い目に遭わなくて良かった。
僕はお風呂で肩までお湯に浸かっているのに、思い出して寒気でぶるりと震えた。
道を歩いているだけでこんな怖い目に遭うなんて。
世の中の不条理に合う人が少しでも減ればいいのに。
僕は震えを追い払うようにバシャリと顔にお湯をかけて気分を晴らした。
村崎さんを助けられるような男になりたい。
もっと、可愛いだけじゃダメかもしれない。
でも、可愛い僕が好き。
可愛くて強い男になる。
そう決めた僕は、頑張るぞって小さく拳を上げた。




