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かわいいぼくら  作者: 千子


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32/48

二年のバレンタイン

春物のネイルを贈る前に一大イベントがある。

そう!バレンタイン用メイクの発売!

そしてそれはつまりバレンタインデーがやってくるということだ。

大切な人に贈り物をする日。

僕は、ドライフラワーを村崎さんに贈ることにしている。

女子にバレンタインデーに欲しいもの聞いたらみんな違っていて纏まらなかった。

だから僕は、村崎さん自身を彩るんじゃなくて村崎さんの日常を彩るものを選んだ。

村崎さんはメイクをしない。

だからバレンタイン用のお化粧品も興味はないだろう。

これは僕だけが買えばいい。

……お揃いのネイルはしたいから、春物ネイルは予約済みだ。

薄紫色のドライフラワーが挟まれている、両開きの写真立て。

ここにいつか僕との写真を飾ってもらいたいなんて願望を抱いて選んだ。

すごく悩んで、歩き回って吟味して、ようやくこれだ!ってものが出会えた。

気が付けば男子も女子もどこかソワソワしている。

浮かれたムードだ。

僕もその熱に浮かされてどこか落ち着かない。

告白をするならバレンタインとかが定番なんだろうか?

ソワソワ、ソワソワ。

ふわふわした気分のまま、バレンタインデーを迎えた。


鞄の中にある綺麗にラッピングされた写真立てが心なしか重たい。

僕の気持ちみたいだ。

だって、赤井さんに協力して聞いてみたんだ。

本当はもっと早くそうしていたらよかったのに。

村崎さんはプレゼントに残るものを貰うのが苦手みたい。

そうだよね、そういう人もいるよね。

僕はしょんぼりしてしまった。

そういえば、今までの贈り物も僕の自己満足だ。

特別な時だけ村崎さんが僕が選んだメイクをしてくれるから忘れていた。

浮かれていたんだ。

ふわふわした気分は萎れて海中に溺れる。

それでも今日はバレンタインデー当日。

この写真立てが村崎さんの部屋に飾られたらいいなって思って選んだんだから、渡したい。

受け取って欲しい。

僕の気持ち。

「よし!」

気持ちを入れ直すと足取りを進めて学校に向かった。


「おはよう、村崎さん」

「おはよう、青江くん」

どこか村崎さんも声が上擦ってソワソワしている。

いつ渡そうか悩んだけれど、昼休みは黄瀬くんと赤井さん、黒崎くんと白鳥先輩で二人ずつで食べるって言ってたし僕達も昼休みに二人きりになる。

その時に渡そう。

そう思っていたのに近くの男子生徒が彼女からチョコを貰って冷やかされていた。

「……今日は、バレンタインデーだからね」

「そうだね」

どこかギクシャクしたまま他愛無い話をしてHRと授業が始まって昼休み。

「青江くん。ご飯食べよ」

「うん!」

今日はまだ寒いけど、手渡すところを見られるのは恥ずかしいから村崎さんが面倒を見ている野良猫のところまでやってきた。

「わぁ!ダンボールでおうちを作ってあげたんだ!」

「寒いからね」

猫はダンボールハウスでぬくぬくとブランケットに包まれて寝ている。

芝生にそのまま座ろうとする村崎さんにハンカチを渡す。

「そのまま座ると冷たいでしょ。使って」

「慣れているからいいのに……。でも、ありがとう。青江くん」

にこっと微笑まれて僕の心臓が早鐘を打つ。

なんて喋っていたのかお弁当の味も分からない。

気が付いたら空っぽのお弁当に向かって、ご馳走様でしたって言っていた。

「青江くん、実は渡したいものがあるんだ」

村崎さんにそう言われて思わず僕も叫んでしまった。

「僕も!村崎さんに渡したいものがある!」

「ふふっ。じゃあ、せーので渡そうか」

「うん、せーの!」

鞄から取り出した包みを村崎さんに渡す。

僕も村崎さんから不恰好な包みを貰った。

「手作りなんて、はじめてでさ。美味しいといいんだけど」

「えっ、手作り!?」

村崎さんからの手作り!

「開けてみてもいい?」

「……うん」

恥ずかしそうに頷かれて高揚とした気分のままそっとラッピングを解いていった。

このラッピングも村崎さんがしてくれたんだと思うとその不恰好さが愛おしい。

青い箱を開けると、また形も大きさも揃わないチョコの群れが現れた。

「食べていい?」

「うん。私もこれ、開けてみていい?」

「もちろん!……気に入ってくれるか分からないけれど」

僕が恐る恐る付け加えると、村崎さんがまた笑ってくれた。

「青江くんから貰ったものならなんでも嬉しいよ」

そう言って、上機嫌に包みを開ける。

そのうちに僕は一粒手に取って食べる。

お店の味と比べると、手作り感がすごくあるけど、村崎さんが僕のために、僕のためだけに作ってくれたこの世で一つだけのチョコだと思うと特別だ。

「美味しい」

素直にそう言うと、村崎さんが赤くなる。

「お世辞はいいよ」

「ううん!本当だよ!」

「本当……?なら、良かった。青江くんのプレゼントもかわいいね。薄紫色のドライフラワーがいい味してる」

村崎さんが愛おしそうに写真立ての縁を撫でる。

「よかった。これからの思い出をそこに飾って欲しくて」

「これからの思い出……?」

村崎さんが少し期待した目をして見てくる。

なんのための期待か僕にはまだ分からないけれど、村崎さんが嬉しそうなので僕も嬉しくなって頷く。

僕の顔に熱が集まる。

村崎さんの顔も赤い。

「これからの思い出、この写真立てに飾る写真を迷うくらいたくさん作ろうか」

そう言うと、村崎さんがまた笑ってくれた。

猫が起きたのか、ニャアと鳴いた。

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