修学旅行二日目 前編
修学旅行二日目。
黄瀬くんが朝食後の集合時間に言ってくれた言葉は、思いもよらないものだった。
「青江と村崎、内緒にしててやるから二人で行ってきたらどうだ?」
僕はそうなったらいいなって思った事が黄瀬くんに通じていたのかと思ってびっくりしたし、村崎さんも顔が赤い。
「いいよ、グループ行動なんだから」
「でもせっかくの機会じゃんか。なあ、いいだろう?」
黄瀬くんが他のグループのメンバーに問い掛けると、みんな快諾してくれた。
黒崎くんは無言だ。
「青江くん。せっかくだから二人で周らない?」
「村崎さんがいいなら、僕はいいけど……」
「そうしろ。なんか進展があったら教えろよー!」
そう笑って黄瀬くんは村崎さんに叩かれていた。
黒崎くん達のことは気掛かりだけど、せっかく村崎さんと二人きりの京都だ!
楽しもう!
メイクを少し直して気合いを入れたものにする。
ちょっと多めに持ってきておいてよかった〜。
リップをして、終わり!
よし!今日もかわいい!
「村崎さんはどこに行きたい?」
「実は……みんなの手前、行きたいって言えない場所があって……」
村崎さんの頬に朱が走る。
「いいよ!そこに行こう!」
僕が快諾すると、村崎さんはなんとも言えない顔で頷いた。
電車に揺られ、少し歩いて辿り着いたそこは京都初心者の僕でも知っている恋愛成就の神社だった。
「村崎さん」
「いいから!行こう!」
そう押されて参拝する時、村崎さんはとても真剣だった。
僕も真剣に祈った。
僕のこの気持ちがいつか村崎さんに伝わりますように。黄瀬くんと赤井さん、黒崎くんと白鳥先輩がうまくいきますように。
熱心に願いすぎて、村崎さんに声を掛けられるまでお願いしてしまった。
「私より随分と熱心だったじゃん」
「黄瀬くん達の事もお祈りしていたから」
「……自分のことだけじゃない青江くんが青江くんらしい」
村崎さんはふっと笑うと、お守りとおみくじを引くことになった。
「お守り、どれもかわいいね!」
「そうだね。私が持つには少し可愛すぎて恥ずかしいかな」
「そんなことないよ!そうだ!色違いにしよう!」
僕の提案に村崎さんが目を見開いた。
「色違いって、私が買うの恋愛成就なんだけど」
その言葉にチクリとした。
そうだ。村崎さんには好きな人がいる。
僕が気安くお揃いの恋愛成就のお守りなんて持っていたら村崎さんの好きな人に申し訳ないよね。
「ごめんね、無神経なことを言って」
「ううん!嬉しい。どの色にしようか。結構種類あるね」
いいんだ……。村崎さんは好きな人がいても、他の人とお守りが色違いでも気にしないのかな?
それでも、僕は村崎さんとお揃いのものを持つチャンスを逃したくなくて一緒に悩んで買った。
僕が水色。村崎さんが紫色。
お互い、苗字に色が入っているからそこから選んだ。
「そうだ。お土産の交換会さ、このお守りの交換しない?僕が村崎さんが選んだのを持って、村崎さんが僕が選んだお守りを持つのはどう?」
僕の提案に村崎さんが急に蹲る。
「ど、どうしたの!?村崎さん!」
「なんでもない。青江くんは青江くんだもんね。深い意味はないよね」
「深い意味?」
「やっぱり……。なんでもないよ。いいよ。交換しよう」
そうして僕が紫色のお守りを、村崎さんが水色のお守りをスマホに付けることになった。
「お揃いだね」
「うん。お揃いだね」
ふふっと笑い合って、これからどうするか話し合った。
もうすぐお昼が近いから、混み合う前にどこかで食べようと決まったので、スマホでここから近いお店を探す。
スマホを操作する度に揺れるお守りに、僕はドキドキしてしまう。
村崎さんが選んだのお守りを僕がつけて、僕が選んだお守りを村崎さんがつけているって、なんだか好き同士がすることっぽい。
こんなことをして、村崎さんの好きな人はどう思うんだろう。
……僕なら、いやだな。
でも、村崎さんはいいって言ってくれた。
それを信じて、お守りを触れる。
いつか、この想いが成就しますように。
願いを込めて握る。
「青江くん。このお店良さそうだよ」
僕が想いを馳せている間にお店を調べていた村崎さんから声を掛けられる。
「えっ!?あ、どこ?」
「ここ。カップル割があるんだって」
「カップル割!?」
「……私達じゃ、カップルに見えないかな?」
頬を赤くする村崎さんに、僕は首がもげるんじゃないかというほど首を横に振る。
「そんなことないよ!そう見えたら嬉しい!」
つい口が滑って本音が出ちゃった!
僕は思わず出た本音を村崎さんがどう思うか怖くて顔が見れなくて俯いてしまった。
「青江くん。……私も、青江くんとカップルに見えたら嬉しいよ」
「村崎さん」
顔を上げると、メイクをしなくても充分かわいい村崎さんがいた。
ううん。メイクをしていないだけじゃない。
これは、僕が村崎さんを見ているから余計にかわいいんだ。
「ほら、混んじゃうから早く行こう」
村崎さんに促されてお店に向かう。
神社から程よい位置にあったお店は、こじんまりとした雰囲気で、メニューも美味しそうなものばかりだった。
ただ、カップル割を申請する時は異様に緊張して手のひらに汗をかいた。
「前に二人でご飯食べた時もこういうお店だったよね。覚えている?」
「夏休みの勉強会だよね。覚えているよ」
二人でご飯を食べながら他愛無い話をしていく。
こういう日々が続けばいいのに。
最初は話も弾んでお喋りに夢中になっていたけれど、お店が混んでからは席を空けなくちゃと急いで食べた。
「ごちそうさまでした」
二人の声が重なる。
外へ出ると秋風が気持ちいい。
「次はどこへ行こうか」
「どこでも。村崎さんとならどこでも楽しいよ」
そう言うと、村崎さんは溜息を吐いた。
「これだから青江くんは。まあ、青江くんは青江くんだもんね」
「どういう意味?」
「なんでもないよ」
そう言って、歩き出した村崎さんに続いて僕も追い掛けて二人で並んで次はどうするか話し合った。




