修学旅行一日目
そのまま膠着状態で数週間が過ぎた。
もうすぐ修学旅行なのに。
メンバーは僕と村崎さんと隣のクラスから巧みな話術で捩じ込んできた黒崎くんに黄瀬くん、あと黒崎くん目当ての女子生徒が二名。
白鳥先輩とは、バイト先のドラッグストアで日々メイクを教えている仲だ。
なんとかして黒崎くんが僕のことを好きなんてとんでもない誤解を解こうと黒崎先輩の話題を出すと、白鳥先輩の真っ白なふわふわオーラが闇落ち寸前になる。
一体僕はどうすればいいんだ!
いつもの昼休みに、村崎さんと黄瀬くんと赤井さんに相談しても微妙な顔だし、僕が男にモテたことがある中学時代を暴露した黄瀬くんは赤井さんに絞められていた。
赤井さん、強い。
「どうしましょうねぇ」
黄瀬くんがギブギブ!と赤井さんの腕を叩いていても容赦はしない。
村崎さんは「男でもライバルになるの……?」とかぶつぶつ一人で喋っている。
そうしてなんの解決策もないまま過ぎ去って行ったある日、白鳥先輩が黒崎くんに対峙していた。
なんでだよ。
白鳥先輩はいつものふわふわオーラから一変してキリッとした眼差しで叫んだ。
「黒崎くんが誰を好きでもいい。でも、青江くんは私の恩人で、大切な師匠なの!渡さない!」
ちょっと!それ誤解が余計に拗れるやつー!
僕が飛び出そうか悩んでいると、黒崎くんが苦虫を潰した顔で呟いた。
「やっぱり、青江がライバルなのか?」
だめだ!僕と村崎さんと黒崎くんの三角関係から僕と白鳥先輩と黒崎くんの三角関係になっている!
「それでも!諦めきれない!」
黒崎くんが叫んだ。
「そう……。でも、渡せないのは本当だから。青江くんは私のために必要なの」
それって黒崎くんに振り向いてもらうためにだよね!?大事なところが全部抜けているよ!白鳥先輩!!
「修学旅行、私も一緒に行きたかったな」
そこでぽつりとと白鳥先輩が呟いた。
「そんなに青江くんと一緒がいいのか?」
黒崎くんが苦しそうに胸を抑える。
もうコントだよ。
僕は出るに出られないまま成り行きを見守っている。
「今度の修学旅行で、青江くんよりいいところ見せつけてみせますから!」
「私は学年違って参加しないからそれは無理じゃない?」
冷静に返している場合じゃないよ!白鳥先輩!今!黒崎くんが格好いいこと言ってた!
頭を抱えてこのすれ違いをどうすべきか考えていると、白鳥先輩が今日一番、格好いい声を出した。
「私達、ライバルだね」
なんでそうなるの!?
「青江くんなんかには渡さないですから」
ほら!黒崎くんはこんなに分かりやすいのに!白鳥先輩〜!
僕が悶絶してるとも知らずに二人は無駄な火花を散らしていた。
そうして迎えた修学旅行初日当日。
僕は黒崎くんからとても睨まれていた。
うん。気持ちは分かるよ。好きな子のライバルだもんね。全部誤解だけどね!
古き良き古都、京都も霞むくらいの負のオーラが黒崎くんから出ている。
あの社交的な黒崎くんが、自信を取り繕わずに不機嫌ですって感じを隠さない。
普段連んでいる人達への対応もおなざりだ。
黒崎くんらしくないなぁ。
そんなに白鳥先輩の事が気掛かりなのかな?
二人の事情を知っている身としてはこの誤解を解いて応援しなくては!
小さくえいえいおー!と自分を鼓舞して拳を上げる。
「何をしているの青江くん」
「村崎さん。いや、修学旅行楽しみだなって」
「うん。青江くんといろんなところ周れるの楽しみ」
村崎さんは楽しそうだ。
「僕も、村崎さんといろんなところ行きたい!行こう!」
村崎さんが微笑む。
その瞬間、刺すような眼差しを感じた。
黒崎くんだ。
ううん。これは早く誤解を解かないと僕の心臓が持たない。
新幹線では周りに気を使われて村崎さんと二人席だった。京都に着く前から村崎さんと二人でドキドキしている。
観光マップを見ながら行きたいところの予習をしていると、後ろの席からまた負のオーラ。
いいじゃないか。
楽しんだって。
京都駅に着くと、グループ毎に解散してみんな行きたいところへ巡って行った。
僕達も、初めての京都だけあって定番ルートを回る予定。
まずは近場から……て思っていたけれど、さすがは観光地!
交通ルートはどこもいっぱい!
それでもそれもいい思い出だ。
みんなでわいわい楽しんで、村崎さんとアイスの分け合いをしたり、お土産の交換会を約束することにした。
「青江くん。せっかくならさ、お土産の交換会しない?私が青江くんに、青江くんは私に贈るの」
村崎さんからの提案にすぐに首を縦に振った。
断る理由なんてないもの!
お土産は地元に戻ってから、帰り道の途中渡し合う約束。
村崎さんが喜ぶ品を選ばないと!
僕は決意も新たに修学旅行を楽しんだ。
散々京都という観光地の人の多さと観光地巡りをして、ようやく夕方にホテルに着いた。
他のグループも次々やってきて、先生が点呼を取る。
呼ばれた順に代表者がルームキーを貰っていく。
男女ともに各部屋で4人ずつ。
僕は村崎さん達と別れて用意された部屋へ荷物を持って行った。
夕ご飯が終わると、黒崎くんに呼び出された。
静かな廊下に二人きり。
黒崎くんが壁に背を預け、苦しげに吐き出した。
「……なんで白鳥先輩は、あんなにお前に懐いてるんだ。俺の前じゃ、あんな顔しないのに」
僕は息を呑む。
「それはね、黒崎くん。白鳥先輩は君に近付きたくて必死なんだよ。メイクだって、挨拶だって……全部、黒崎くんに振り向いてほしいから」
黒崎くんの目が揺れた。
「俺に……? 本当に、俺に……?」
僕は頷くしかなかった。
けれど彼はすぐに首を振り、苦く笑った。
「でも結局、お前がいるんだよな」
その言葉に、僕は頭を抱えたくなった。
「本当に違うんだって!京都から帰ったら白鳥先輩に告白するといいよ!黒崎くんのばか!」
拳を握り、精一杯叫ぶ。
伝われ!この想い!
「なんだとお前!」
黒崎くんが掴みみ掛かろうとするのをすり抜ける。
「ばかなものばかなんだもん!白鳥先輩の努力も知らないで、自分の思い込みだけで行動して!僕は村崎さんが好きだって言っているでしょ!」
そう言うと、鼻息荒くお風呂場に向かって行った。
黒崎くんのばか!早く白鳥先輩と両思いになっちゃえ!




