無自覚な気持ち
ある日の放課後。
「黄瀬先輩、お疲れ様です!」
赤井さんが黄瀬くんの応援に来ている。僕もつい足を運んでしまう。頑張る姿を見ると、応援したくなるんだ。
黄瀬くんは、学内の部活に入部していなくて学外の車椅子用バスケ部に入部していてる。
だから市の体育館まで来る必要があるんだ。
ようやく試合とミーティングが終わって待ち合わせ場所に黄瀬くんが訪れた。
「黄瀬くん、今日もすごかったね!」
車椅子のバスケは、器具がぶつかり合って普通のバスケとは違ったドキドキ感がある。
黄瀬くんは、そんな合間を縫って堂々とポイントを奪取していた。本当にすごい!
「おう!」
ニカっと笑う姿は中学時代と変わらない、好きなものを楽しむスポーツマンだ。
「でも、赤井さんが一人で黄瀬くんの応援にこれるようになって良かった」
前までだったら自分なんかがって敬遠していたのに。
そう思っていたら、黄瀬くんがなんてことのないように言った。
「俺達、付き合っているんだ」
「ええっ!?」
そんなこと、微塵も気付かなかった。
「告白とか、したの?」
先日の男子生徒の村崎さんへの告白が思い出される。
そのことを思う度に胸が締め付けられる。
「してないけど、お互いなんとなくそんな雰囲気になって、な」
黄瀬くんが赤井さんを見ると、赤井さんは頬を染めて頷いた。
「そうなんだ……」
僕は驚きながらも二人を祝福した。
「おめでとう!」
「ありがとな!」
「ありがとうございます!」
二人は楽しそうに笑っている。
二人のやり取りを見ていると、心がじんわり温かくなる。
頬を染める赤井さんを見て、黄瀬くんも照れくさそうに笑う。
その光景を僕は、少し離れた場所からそっと見守る。
村崎さんのことを考える。胸が締め付けられるようだ。思わず視線を落としてしまう。
「二人とも、楽しそうだな」
自然に胸が軽くなり、同時に自分も少し羨ましい気持ちが混ざる。
でも、そう感じる自分を責める必要はない。
二人の幸せを素直に祝福したい――そんな気持ちが、体の奥まで広がる。
二人の笑顔を見て、胸が少し温かくなる。…でもすぐに、村崎さんのことを思い出して胸が重くなる。
村崎さんはあの男子生徒と付き合うんだろうか。
……そうなったら、嫌だな。
何故かそう思って、軽かった胸が重くなる。
なんでこの場にいない村崎さんに惑わされるんだろう。
最近ずっとそうだ。
村崎さんのことを、考えると胸が苦しい。
「おい、青江。大丈夫か?」
黄瀬くんに声を掛けられて我に帰る。
「うん、大丈夫」
「村崎先輩のことですか?」
「ええっ、なんで分かったの!?」
僕が戸惑いながら答えると、二人はニヤニヤ笑っている。
「とうとうか?」
「とうとうですかね?」
なにがとうとうなんだろう?
僕が小首を傾げると、黄瀬くんが尋ねてきた。
「青江。村崎のことはすきか?」
「うん。大事な友達だよ」
友達……。それだけじゃない。
「大切な人だよ」
改めて言う。
村崎さんは僕の大切な人。
その方がすっきりした。
「ふぅん」
黄瀬くんは楽しそうだ。
赤井さんも笑っている。
「なんで笑うのさ」
「なんでだろうな」
黄瀬くんが僕を手招きすると首に腕を回してきた。
「村崎は競争率高いから頑張れよー」
その言葉に、先日の告白シーンが思い出される。
ああいうことは村崎さんにとっては日常茶飯事なんだ。
きっと、素敵な人から何回も告白されているに違いない。
そうしたら、その人とお付き合いしたら、僕との時間もなくなるかも。
そう思うと苦い感情が胸を蝕む。
心臓が早鐘のように打つ。手のひらが熱くなり、息を整えようと肩を揺らす。でも落ち着かない。
「村崎さんに恋人が出来たら嫌だなぁ」
何気なく呟いたのは僕の本心だ。
そうだ。村崎さんに他の男性が興味を持ったら嫌だ。
その感情は自然と受け入れられた。
「なんでだろう?」
自分でも答えが分からない。ただ、村崎さんに他の人が近づくのは嫌だ――それだけははっきりしている。
僕の問いに、黄瀬くんが頭を抱えた。
「これだから青江は」
「でも、そんな青江先輩だからですよ」
黄瀬くんと赤井さんは楽しそうに笑っている。
僕は胸に苦い思いを抱えたまま、笑う二人に疑問で首を傾げた。




