第9話 好きだった人を笑いものにしたのは、誰だ
倉橋怜。
今年の公開告白企画を最初に言い出した人物であり、一年前に傷ついた男子生徒の弟。
湊たちは、逃げた倉橋を追い、去年の事件のもう一つの痛みに触れていく。
公開告白は、誰かを傷つけるためにあるんじゃない。
好きだった人を笑いものにしたのは、誰だ。
廊下に落ちていたメモには、そう書かれていた。
黒いペンの文字。
少し右上がりで、力が入りすぎたように線の端が濃い。
ぼくは、その文字を見つめたまま、しばらく動けなかった。
倉橋怜は逃げた。
けれど、このメモは逃げるために落としたものには見えない。
むしろ、見つけてほしかったように見える。
「好きだった人を笑いものにしたのは、誰だ……」
一ノ瀬ひより先輩が、小さく読み上げた。
その声は、ひどく苦しそうだった。
相原真帆さんは中庭に残っている。
青柳楓先輩も、黒崎悠真先輩も、三枝莉子先輩も、きっと今ごろこちらへ向かっている。
廊下には文化祭準備の生徒たちが行き交っていた。
誰かが笑い、誰かが走り、誰かが段ボールを抱えている。
その中に、さっきまで倉橋怜がいた。
赤い腕章。
黒いパーカー。
細い目。
口元に浮かんだ、笑っているようで笑っていない表情。
「書記くん」
ひより先輩が言った。
「はい」
「私、今、すごく嫌なこと考えてる」
「何ですか」
「倉橋くんが犯人だった方が、楽かもしれないって」
先輩は、メモから目を離さなかった。
「一年前に傷ついたお兄さんのために、相談室に復讐した。白石さんと藤原くんを使って、去年の公開告白を再現した。そう考えたら、筋は通る」
「でも、先輩はそう思っていない」
「うん」
ひより先輩は、ゆっくり首を横に振った。
「筋が通りすぎる」
それは、ぼくも感じていた。
倉橋怜は怪しい。
怪しすぎる。
今年の公開告白企画を最初に面白そうだと言った。
後夜祭ステージの副担当。
音響にも触れる。
文化祭実行委員の赤い腕章を持っている。
相原さんのスマホが置かれていた時、生徒会室に出入りしていた。
動機もある。
一年前、兄の倉橋蓮は、公開告白を止められた側だった。
噂になり、笑われ、傷ついた。
その弟が相談室を恨んでいても、不思議ではない。
でも、今回の事件はそれだけではない。
失恋届。
閉鎖届。
辞退届。
ひより先輩を責める音源。
黒崎先輩のバックアップフォルダ。
一年前の相談ノート。
相原さんへの匿名メッセージ。
倉橋怜一人で、全部を用意できるのか。
できるかもしれない。
でも、何かがずれている。
「まず、倉橋怜を探しましょう」
ぼくが言うと、ひより先輩はうなずいた。
「行きそうな場所は?」
「後夜祭ステージの副担当なら、体育館か音響準備室です。でも、逃げた方向からすると、北校舎側」
「北校舎……」
ひより先輩が顔を上げる。
「音楽準備室」
「なぜですか」
「去年、後夜祭の音源を作っていた場所。今は文化祭期間だけ、音響班の作業部屋になってる」
それなら可能性は高い。
ぼくたちは北校舎へ向かった。
夕方の校舎は、少しずつ暗くなり始めていた。
窓の外の空は薄いオレンジ色で、廊下の奥は灰色に沈んでいる。
人の声は聞こえるのに、どこか遠い。
心臓の音だけが、やけに近かった。
音楽準備室の前に着くと、中からかすかな音が聞こえた。
ピアノの音ではない。
マイクのノイズ。
音声ファイルを再生する時の、あのざらついた音。
ひより先輩がドアに手をかける。
鍵は開いていた。
「入ります」
ぼくが言うと、中の音が止まった。
ドアを開ける。
音楽準備室には、古い譜面台と、使われていない楽器ケースが積まれていた。
壁際には文化祭用の音響機材。
ノートパソコン。
小型スピーカー。
ケーブル。
赤い腕章。
そして、その机の前に、倉橋怜が立っていた。
「来ると思ってました」
倉橋は、逃げなかった。
さっき廊下で見せた笑みもない。
ただ、こちらを見ている。
細い目の奥にある感情は、怒りなのか、悲しみなのか、判断できなかった。
「倉橋怜くんだね」
ひより先輩が言った。
「はい」
「話を聞かせて」
「相談室みたいに?」
その言い方には、棘があった。
ひより先輩は、少しだけ息を吸った。
「そう。相談室みたいに」
倉橋の表情が、わずかに歪んだ。
「すごいですね。まだ続けるんですか、そのごっこ」
「ごっこだと思う?」
「思いますよ」
倉橋の声は静かだった。
でも、静かすぎて怖かった。
「誰かの気持ちを聞いて、わかった顔をして、少し言葉を選んで、守ってあげたつもりになる。だけど結局、傷つくのは相談した人と、その周りの人間だけです」
ひより先輩は、何も言わなかった。
「去年、兄は笑われました」
倉橋は続けた。
「公開告白しようとした痛いやつ。断られる前に止められたかわいそうなやつ。相手に嫌がられていたのに気づかなかった鈍いやつ。廊下で、教室で、トイレで、みんなが言ってました」
その声に、少しずつ熱がこもっていく。
「兄は、本気だっただけです。水瀬先輩のことが好きで、文化祭でちゃんと気持ちを伝えたいと思っただけです。確かに、公開告白なんて迷惑だったかもしれない。でも、笑われるようなことですか?」
音楽準備室の空気が重くなる。
ひより先輩は、まっすぐ倉橋を見ていた。
逃げなかった。
「笑われることじゃない」
「じゃあ、誰がそうしたんですか」
倉橋の声が、少し大きくなった。
「誰が兄を笑いものにしたんですか。水瀬先輩も、兄も、どっちも傷ついた。なのに、相談室は続いた。文化祭は今年もある。公開告白は面白い企画としてまた出てきた」
「それを言い出したのは、あなたでしょう」
ぼくが言った。
倉橋は、ぼくを見た。
「そうです」
あっさり認めた。
「公開告白企画を出したのは、僕です」
ひより先輩の表情が硬くなる。
「どうして」
「見たかったからです」
「何を」
「今年も同じことが起きた時、あなたたちがどうするのか」
倉橋の声は、低かった。
「また止めるのか。今度は守るのか。それとも、何もできずに誰かを泣かせるのか」
胸の奥が冷える。
これは、復讐というより、試験だった。
一年前に失敗した相談室に対する、残酷な再試験。
「白石さんと藤原くんを利用したんですか」
ぼくが聞くと、倉橋は唇を結んだ。
「最初は、名前なんて知りませんでした」
「最初は?」
「僕のところにも来たんです。匿名のメッセージが」
ひより先輩が眉を動かす。
「何て?」
倉橋はスマホを取り出した。
画面には、送り主不明のメッセージが残っていた。
今年も公開告白をすれば、一年前の答えがわかります。
今度の二人は、白石すずと藤原海斗です。
その下に、もう一文。
恋愛相談室が本当に秘密を守れるか、試してみませんか。
「これが来たのは?」
ぼくが聞く。
「四日前」
白石さんが相談室に来る前だ。
つまり、犯人は白石さんの相談前から、彼女と藤原くんの関係を知っていた可能性がある。
いや、違う。
白石さんが相談室で話す前から知っていたのなら、情報源は相談室だけではない。
クラス。
友人。
文化祭実行委員。
あるいは、白石さん本人の近く。
「あなたは、そのメッセージを信じたんですか」
ぼくが聞くと、倉橋は少しだけ笑った。
自分を笑うような笑いだった。
「信じたかったんだと思います」
「信じたかった?」
「相談室が悪いって。ひより先輩たちが悪いって。そう思えたら、楽だから」
その言葉は、第6話の青柳先輩の言葉と似ていた。
誰かが悪いと思いたい。
そうすれば、自分の痛みに名前がつく。
でも、現実はたいてい、そこまで単純ではない。
「じゃあ、あなたがやったことを教えてください」
ひより先輩が言った。
声は震えていなかった。
倉橋は、少しだけ目を伏せた。
「公開告白企画を提案しました。体育館の音声テストも、僕が作りました」
「白石さんと藤原くんの名前を流した放送は?」
「違います。あれは僕じゃない。僕が作った音源を、誰かが書き換えた」
「中庭で相原さんを撮った写真は?」
倉橋は黙った。
「倉橋くん」
ひより先輩の声が少し強くなる。
倉橋は、小さく息を吐いた。
「撮りました」
相原さんに届いた、裏切り者というメッセージ。
中庭でぼくたちと話している写真。
「送ったんですか」
「送りました」
「どうして」
「相原真帆が、相談室側についたように見えたから」
その言い方は、幼かった。
でも、その幼さがかえって痛い。
「真帆ちゃんは、水瀬先輩のことを忘れていないと思っていた。だから、相談室を信じる側に回ったのが許せなかった」
「それは違う」
ひより先輩が言った。
「相原さんは、灯里さんを忘れていないからこそ、白石さんを傷つけたくなかった」
倉橋の表情が揺れた。
一瞬、言葉を失ったように見えた。
「……そんなの」
「あなたも本当は、白石さんを傷つけたいわけじゃなかったんじゃないの」
ひより先輩の声は、静かだった。
「水瀬さんを傷つけたくなかった。お兄さんを笑いものにされたくなかった。だから怒った。でも、その怒りを向ける先を、誰かに誘導された」
倉橋は、机の上のケーブルを握りしめた。
「僕が悪いって言いたいんですか」
「悪いことはした」
ひより先輩は、逃げなかった。
「相原さんに送ったメッセージは、彼女を傷つけた。公開告白企画も、白石さんを追い詰めた。それは消えない」
倉橋の顔がこわばる。
「でも、全部をあなたのせいにしたら、たぶん犯人は喜ぶ」
その言葉に、倉橋は何も言えなくなった。
音楽準備室の窓の外で、夕日が沈みかけている。
床に伸びた光が、少しずつ薄くなっていく。
その時、廊下から足音が聞こえた。
誰かがゆっくり近づいてくる。
ドアの前で足音が止まった。
「怜」
低い声。
倉橋の肩が、びくっと震えた。
ドアのところに立っていたのは、三年生の男子生徒だった。
倉橋怜より少し背が高い。
目元が似ている。
けれど、表情はずっと穏やかだった。
「兄さん……」
倉橋蓮。
一年前、公開告白をするはずだった人。
倉橋蓮先輩は、部屋に入ると、弟の前に立った。
「やめろって言っただろ」
その声は怒鳴っていなかった。
でも、静かな分だけ重かった。
「兄さんには関係ない」
「ある」
「ないよ。兄さんはもう何も言わないじゃないか。笑われても、噂されても、水瀬先輩が辞めても、ずっと何も言わなかった」
「言えなかったんだ」
蓮先輩の声が、少しだけかすれた。
「何を言えばよかったのかわからなかった」
倉橋怜は、唇を噛んだ。
「兄さんは悪くない」
「悪くない、で済まないこともある」
蓮先輩は、ひより先輩の方を見た。
「一ノ瀬さん。久しぶり」
「倉橋くん……」
ひより先輩の声が揺れた。
「去年は、ちゃんと話せなくてごめん」
蓮先輩は、頭を下げた。
その姿に、倉橋怜が目を見開く。
「なんで兄さんが謝るんだよ」
「俺も、灯里を追い詰めた一人だから」
「違う!」
怜の声が割れた。
「兄さんは好きだっただけだろ!」
「そうだよ」
蓮先輩は、静かに言った。
「好きだっただけだ。でも、その好きが、灯里には重かった」
倉橋怜の顔が、ぐしゃりと歪んだ。
「そんな言い方するなよ」
「本当のことだ」
「じゃあ、兄さんの気持ちは何だったんだよ。笑われて、馬鹿にされて、それでも何も言わないで、全部自分が悪いみたいにして」
「怜」
「僕は嫌だった!」
その叫びは、音楽準備室の壁にぶつかって跳ね返った。
「兄さんが廊下で笑われてるのも、水瀬先輩がいなくなったのも、みんなが何もなかったみたいに今年の文化祭を楽しんでるのも、全部嫌だった!」
倉橋怜の目から、涙が落ちた。
怒りだけではなかった。
子どもみたいな悔しさ。
兄を守れなかった弟の痛み。
憧れていた文化祭が、傷の場所に変わってしまった悲しみ。
それが、堰を切ったようにあふれていた。
蓮先輩は、弟の肩に手を置いた。
「俺も嫌だったよ」
その一言で、怜の表情が止まった。
「俺だって、笑われたくなかった。灯里に嫌な思いをさせたくなかった。誰かの噂話になるくらいなら、告白なんてしなきゃよかったって何度も思った」
蓮先輩は、静かに続けた。
「でも、怜。白石さんと藤原くんは関係ない」
怜は何も言えなかった。
「相原さんも関係ない。ひよりさんたちにも、間違いはあったかもしれない。でも、お前が誰かを傷つけていい理由にはならない」
それは、兄から弟への言葉だった。
責めるためではなく、止めるための言葉。
倉橋怜は、顔を伏せた。
肩が小さく震えている。
ひより先輩は、少しだけ目を伏せていた。
たぶん、先輩も同じ言葉を、自分に向けて聞いていたのだと思う。
間違いがあった。
でも、それで誰かを傷つけていい理由にはならない。
ぼくは、蓮先輩に聞いた。
「倉橋蓮先輩。さっき廊下に落ちていたメモを書いたのは、あなたですか」
公開告白は、誰かを傷つけるためにあるんじゃない。
好きだった人を笑いものにしたのは、誰だ。
蓮先輩はうなずいた。
「俺が書いた」
「なぜ?」
「怜を止めたかった。でも、直接言っても聞かないと思った」
「好きだった人というのは、水瀬灯里さんのことですか」
蓮先輩の表情が、少しだけやわらかくなった。
「うん」
短い返事だった。
けれど、その中に一年分の時間があった。
「俺は、灯里を恨んでない。公開告白を止めた相談室も、今は恨んでない」
「今は?」
ひより先輩が聞く。
蓮先輩は、苦笑した。
「去年は、恨んでた。正直に言うと」
ひより先輩は、目を伏せた。
「でも、あとで灯里から手紙をもらった」
「手紙?」
青柳先輩が、いつの間にか入口に立っていた。
黒崎先輩、三枝先輩、相原真帆さんも一緒だった。
相原さんは、蓮先輩を見ると、泣きそうな顔になった。
蓮先輩は、制服の内ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。
「学校を辞める前に、灯里がくれた」
古い紙だった。
何度も開いて、何度もたたんだ跡がある。
蓮先輩は、それを開いた。
「全部は読まない。でも、一文だけ」
部屋の中が静かになる。
蓮先輩は、手紙を見つめて言った。
「私が怖かったのは、倉橋くんの気持ちじゃなくて、みんなが勝手に決める空気でした」
誰も、何も言えなかった。
「灯里は、俺のことを嫌いだったわけじゃないって書いてくれた。でも、あの場で答えを出さなきゃいけないのが怖かったって」
蓮先輩の声が、少し震えた。
「だから、俺は思った。公開告白が悪いんじゃない。好きになることも、伝えることも、悪くない。でも、周りが勝手に盛り上げて、答えを決めて、断ることを悪者にする空気が、灯里を追い詰めたんだって」
ひより先輩が、唇を噛んだ。
青柳先輩は、涙をこらえるように顔を伏せている。
相原さんは、星形のチャームを強く握っていた。
「それなら」
倉橋怜が、震える声で言った。
「それなら、誰が悪かったんだよ」
その問いに、誰もすぐには答えられなかった。
誰か一人が悪いと決められたら、どれほど楽だろう。
でも、現実はもっと曖昧だ。
告白しようとした人。
止めようとした人。
守ろうとした人。
噂した人。
笑った人。
黙っていた人。
見ないふりをした人。
少しずつ積み重なって、誰かを追い詰める。
でも、今回の事件には、それを利用している人がいる。
ぼくは蓮先輩の手紙を見た。
「蓮先輩。その手紙、写真を撮られたことはありますか」
「写真?」
「今回の犯人は、一年前のことをかなり詳しく知っています。水瀬さんの気持ちや、相談室のことだけじゃない。倉橋先輩側の痛みも知っている」
蓮先輩は、少し考えた。
「この手紙を見せたことは、一度だけある」
「誰に?」
「去年の冬、灯里が辞めたあと。俺がまだ学校に来られなかった時期があった。その時、相談に来てくれた人がいた」
ひより先輩が顔を上げる。
「相談?」
「俺を励ましに来た、というより、謝りに来たんだと思う」
蓮先輩は、ゆっくり言った。
「文化祭実行委員の人だった」
青柳先輩が息を飲む。
「誰?」
蓮先輩は答えた。
「名前は、はっきり覚えていない。あまり話したことがなかったから。でも、三年の女子で、赤い腕章を持っていた」
「三年の女子……」
青柳先輩がつぶやく。
「去年の実行委員なら、私たちの代……」
蓮先輩は続けた。
「その人は、何度も言ってた」
「何をですか」
ぼくが聞く。
蓮先輩は、少し眉を寄せた。
「秘密を守れない相談室に、恋を預かる資格はない、って」
部屋の空気が止まった。
それは、閉鎖届に書かれていた言葉だった。
秘密を守れない相談室に、恋を預かる資格はありません。
一年前から、その言葉はあった。
今の犯人が作った言葉ではない。
「その人が、最初に噂を流した人……?」
相原さんが震える声で言った。
蓮先輩は首を横に振った。
「わからない。でも、俺はその人が怖かった」
「どうして」
「謝っているように見えた。でも、どこか嬉しそうだったから」
ぞくりとした。
謝罪と後悔の顔をしながら、誰かの痛みを見ている。
まるで、今回の犯人と同じだ。
その時、倉橋怜のスマホが鳴った。
怜は画面を見て、顔色を変えた。
「また……」
ひより先輩が近づく。
画面には、送り主不明のメッセージ。
本文は短かった。
よくできました。
次は、兄弟でステージに立ってください。
添付画像が一枚。
それは、後夜祭ステージの進行表だった。
公開告白企画の欄が、赤い線で修正されている。
出演者。
倉橋蓮
倉橋怜
一ノ瀬ひより
白石すず
藤原海斗
そして企画名には、こう書かれていた。
一年越しの答え合わせ
ぼくは画面を見つめたまま、背筋が冷たくなるのを感じた。
犯人は、まだ終わらせる気がない。
むしろ、今までの全部を、ステージに集めようとしている。
ひより先輩が、静かに言った。
「やっぱり、犯人は公開告白をしたいんじゃない」
「じゃあ、何をしたいんですか」
ぼくが聞くと、先輩は顔を上げた。
その目には、さっきまでの迷いとは違う光があった。
「公開処刑だよ」
音楽準備室の外で、文化祭準備の笑い声が聞こえた。
明るくて、無邪気で、何も知らない声。
その声の向こうで、誰かが今も見ている。
一年分の後悔を、一つのステージに並べるために。
後書き
第9話まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、倉橋怜が公開告白企画や相原へのメッセージに関わっていたことが明らかになりました。
しかし、失恋届や閉鎖届、ひよりを狙った音源など、全ての黒幕ではないようです。
そして、一年前から「秘密を守れない相談室に、恋を預かる資格はない」という言葉を使っていた人物の存在が浮かび上がります。
次回は、「一年越しの答え合わせ」と名付けられたステージ企画を止めるため、真犯人に近づいていきます。




