第46話 ただいま、放課後相談室
設備確認。
盗聴機器の撤去。
鍵の交換。
入退室管理の見直し。
長く閉じられていた旧進路指導室が。
ようやく、もう一度使えることになった。
月曜日。
放課後相談室は、元の場所へ戻る。
そこは。
恋愛相談室として始まった場所。
いくつもの相談を受け。
秘密を守れなかったこともあり。
一度は、誰かに声を盗まれた場所でもある。
だから。
元通りにはしない。
戻るけれど。
同じ場所には、戻らない。
月曜日。
放課後。
旧進路指導室の前。
ぼくは。
新しい鍵を持って立っていた。
「……開けないの?」
隣で。
一ノ瀬ひより先輩が聞く。
「開けます」
「三十秒くらい立ってるよ」
「確認しています」
「何を?」
「鍵番号」
「さっき佐伯先生から受け取ったよね」
「はい」
「合ってる?」
「合っています」
「じゃあ?」
「……」
ひより先輩が。
少しだけ笑った。
「怖い?」
ぼくは。
鍵を見る。
新しい鍵。
以前とは違う。
鍵穴も。
交換された。
入退室記録も。
今度から残る。
室内の設備も。
全部確認済み。
盗聴器。
小型カメラ。
不審な配線。
なし。
安全面では。
戻っていい。
そう確認されている。
でも。
「少し」
ぼくは答えた。
ひより先輩が。
一瞬。
目を丸くする。
「書記くんが素直」
「聞かれたので」
「うん」
「先輩は?」
「かなり」
「かなり?」
「うん」
ひより先輩は。
ドアを見る。
「開けたら」
少し。
間が空く。
「また、いろいろ思い出しそう」
御影朔くん。
相談番号零。
机に置かれた用紙。
盗聴されていた会話。
水瀬灯里さん。
その前にも。
たくさん。
「では」
ぼくは言った。
「今日は入らなくても」
「入る」
即答だった。
「確認する前に答えましたね」
「書記くんの影響」
「よくないですね」
「いいところは真似してるつもり」
「今のは?」
「必要なので」
「……」
完全に。
使われている。
ひより先輩が。
少し笑う。
「開けよう」
「はい」
鍵を入れる。
回す。
カチッ。
小さな音。
それだけ。
ドアを開ける。
旧進路指導室。
いや。
放課後相談室。
窓。
机。
椅子。
本棚。
相談用の小さなテーブル。
見慣れた部屋。
でも。
少しだけ違う。
机の配置が変わっている。
壁際に。
新しい鍵付きの収納棚。
相談記録を保管する場所。
窓際には。
小さな時計。
そして。
入口横。
新しい掲示。
放課後相談室
相談内容は、必要以上に記録しません。
本人の許可なく、相談内容を他者へ伝えません。
ただし、安全上の危険や重大な規則違反等がある場合は、本人へ説明したうえで教職員へつなぎます。
相談者に代わって、答えを決めません。
「……増えたね」
ひより先輩が言う。
「正式運用なので」
「最初の頃」
「はい」
「『恋愛相談します』って紙一枚だったよね」
「しかも手書きでした」
「かわいかったでしょ」
「文字が大きすぎました」
「そこ?」
「廊下から読める必要はありましたが」
「じゃあ成功じゃん」
先輩は。
室内へ一歩入る。
止まる。
もう一歩。
ぼくも。
続く。
何も起こらない。
当然だ。
放送も流れない。
机に。
怪しい書類もない。
誰かの声も。
聞こえない。
ただ。
少し埃の匂いがする。
長く閉めていた部屋の匂い。
「ただいま」
ひより先輩が言った。
ぼくは。
先輩を見る。
「部屋に言ったんですか」
「うん」
「返事はしません」
「知ってるよ」
「では」
「書記くんも言って」
「なぜですか」
「二人で戻ったんだから」
「必要性が」
先輩が。
こちらを見る。
「必要なので」
「……」
また。
先に使われた。
ぼくは。
室内を見る。
相談用の机。
以前。
白石すずさんが座った。
早川琴音さん。
朝倉澪さん。
成瀬冬馬さん。
御影朔くん。
いろんな人が。
ここで。
自分のことを話した。
全部。
うまくできたわけではない。
むしろ。
失敗した方が多いかもしれない。
それでも。
戻ってきた。
「……ただいま」
ぼくは言った。
ひより先輩が。
満足そうに笑った。
「おかえり、書記くん」
「先輩も今帰ってきた側です」
「細かいなあ」
でも。
少しだけ。
本当に戻ってきた気がした。
*
そのあと。
全員で。
部屋を整えた。
三枝莉子先輩。
黒崎悠真先輩。
青柳楓先輩。
久世綾音先輩。
鳴海律くん。
佐伯先生。
御影朔くんは。
今日は来ていない。
放送委員会の機材整理があるらしい。
相談室へ。
無理に戻る必要もない。
来たくなったら。
来ればいい。
「この棚」
三枝先輩が言う。
「記録全部入る?」
「現行分だけです」
ぼくが答える。
「古いものは?」
「鍵付き保管庫へ移しました」
「閲覧権限は?」
「佐伯先生と、相談担当の必要範囲のみ」
「よし」
確認担当。
今日も。
確認が厳しい。
黒崎先輩は。
入口の掲示を見る。
「教職員へつなぐ条件、前より明確になったな」
「はい」
「俺みたいに勝手に抱える余地が減った」
ひより先輩が。
黒崎先輩を見る。
黒崎先輩も。
見る。
少し。
沈黙。
灯里さんの音声を。
一年以上。
ひより先輩へ渡さなかった。
黒崎先輩。
「……うん」
ひより先輩が答える。
「勝手に守らない」
「はい」
「でも」
「何ですか」
「困った時は相談してね」
黒崎先輩が。
少し笑う。
「一ノ瀬に?」
「私でも」
「高槻でも?」
「必要なので」
ぼくが答える。
黒崎先輩が笑った。
「そこは本人が言うんだな」
青柳先輩は。
窓際。
カーテンを確認している。
「ここ」
「何ですか」
「前は死角になってたんだよね」
以前。
小型機器を置きやすかった場所。
「今回は?」
「家具配置を変えています」
「うん」
青柳先輩が。
カーテンを開く。
光。
夕方の光が。
室内へ入る。
「見える方がいいね」
「何が?」
ひより先輩が聞く。
「全部じゃないけど」
青柳先輩は言う。
「隠す必要がないところは」
ひより先輩が。
少しうなずいた。
「そうだね」
久世先輩と。
鳴海くんは。
なぜか入口の掲示の前。
「文言」
久世先輩が言う。
「何ですか」
「『本人の許可なく相談内容を他者へ伝えません』」
「はい」
「放送委員会の録音規定と似ています」
「参考にしました」
「なるほど」
鳴海くんが。
掲示を読む。
「でも」
「何ですか」
「相談内容を記録しない場合」
「はい」
「後から内容確認できません」
「そうです」
「不便ですね」
「不便です」
「それでいいんですか」
ぼくは。
少し考える。
「相談室は」
「はい」
「あとから全部を再現する場所ではありません」
鳴海くんが。
ぼくを見る。
「必要なことだけ?」
「はい」
「音声編集と逆ですね」
「逆?」
「音声編集は、素材が多い方が後で選べます」
「相談は」
ひより先輩が言う。
「残すこと自体が負担になることもあるからね」
鳴海くんは。
少し考えてから。
「……難しいです」
と答えた。
久世先輩が。
彼の肩を軽く叩く。
「だから勝手に録音しない」
「してません」
「今後も」
「はい」
少し。
普通の会話。
それが。
ありがたい。
*
最後に。
以前使っていた。
相談受付箱を戻した。
小さな木箱。
投入口。
鍵付き。
少し傷がある。
「これ」
ひより先輩が持つ。
「まだ使う?」
「オンライン受付もありますが」
「うん」
「紙を好む人もいます」
「じゃあ置こう」
机の端。
以前と。
ほぼ同じ場所。
ただし。
箱の横へ。
一枚。
新しい紙。
『名前を書かなくても構いません。
ただし、こちらから連絡が必要な場合は、連絡方法を書いてください。』
「書記くん」
「はい」
「名前なしでもいいんだ」
「相談内容だけ置きたい人もいるので」
「返事できないかもよ?」
「それも記載します」
「……本当にいろいろ増えたね」
ひより先輩は。
昔の箱を撫でる。
「前は」
「はい」
「来た人の話、全部私が何とかしようとしてた」
「そうですね」
「否定して」
「事実なので」
「少しくらい庇って」
「必要ありません」
「冷たい」
でも。
笑っている。
「今は」
ひより先輩が言う。
「できないことも言える気がする」
「はい」
「先生へ渡すことも」
「はい」
「わからないって言うことも」
「はい」
「まだ決めないって言うことも」
「はい」
「成長した?」
ぼくは。
少し考える。
「かなり」
先輩が。
目を丸くする。
「珍しい」
「何がですか」
「書記くんが素直に褒めた」
「事実です」
「……もう一回言って」
「言いません」
「何で?」
「必要ありません」
「けち」
その時。
佐伯先生が。
部屋の中央を見る。
「では」
全員。
少し静かになる。
「本日から、放課後相談室を再開します」
大げさな拍手は。
ない。
三枝先輩が。
軽く手を叩く。
青柳先輩。
黒崎先輩。
久世先輩。
鳴海くん。
ひより先輩も。
ぼくも。
少しだけ。
拍手した。
「一ノ瀬さん」
佐伯先生が言う。
「はい」
「何かありますか」
「え」
「相談担当として」
突然。
振られた。
ひより先輩は。
少し困る。
「挨拶?」
「簡単で構いません」
「……」
先輩は。
部屋を見る。
長く。
考える。
そして。
「困ったら来てください」
それだけ。
佐伯先生が。
少し笑う。
「それだけですか」
「はい」
「以前ならもっと」
「言ったと思います」
ひより先輩は答える。
「何でも解決します、とか」
「恋愛なら任せて、とか」
「名探偵になります、とか?」
青柳先輩が言う。
「それは言ってない!」
「近いことは」
ぼくが言う。
「書記くん」
「はい」
「今いいところ」
「失礼しました」
ひより先輩は。
少し笑う。
それから。
もう一度。
「困ったら来てください」
「でも」
「私たちにできないこともあります」
「わからないこともあります」
「相談したからって、すぐ答えを決めなくてもいいです」
「それでもよければ」
少し。
間。
「放課後、ここにいます」
それで。
十分だった。
*
再開初日。
相談者。
ゼロ。
「……来ないね」
午後五時。
ひより先輩が言った。
「再開初日なので」
「うん」
「告知も最低限です」
「うん」
「普通です」
「わかってる」
机。
二人。
ぼくは。
運営記録を整理している。
ひより先輩は。
相談受付箱を。
三回くらい開けようとして。
ぼくに止められた。
「まだ?」
「何がですか」
「紙」
「入っていません」
「見た?」
「投入口から見えます」
「……」
「先輩」
「はい」
「相談者が来ない方が、学校としてはいい場合もあります」
「わかってる」
「困っている人がいないなら」
「いいこと」
「はい」
「でも」
先輩は。
少しだけ。
頬杖をつく。
「誰も来ない相談室って、暇だね」
「事務作業があります」
「書記くんだけでしょ、楽しいの」
「楽しいとは言っていません」
「顔が」
「顔はしゃべりません」
「最近ずっと言ってるね、それ」
静かだった。
時計。
カチ。
カチ。
廊下。
部活動から戻る生徒。
遠く。
吹奏楽部の音。
誰かが。
笑っている。
普通の学校。
「こういう日」
ひより先輩が言う。
「何ですか」
「いいね」
「暇なのに?」
「うん」
少し。
わかる。
相談が。
来ない。
事件も。
起きない。
それでも。
部屋は開いている。
必要になった時のために。
それだけで。
いい。
*
午後五時十二分。
ノック。
ひより先輩が。
勢いよく顔を上げる。
「書記くん」
「はい」
「来た」
「聞こえています」
「相談かな」
「まだわかりません」
「開けて」
「なぜぼくが」
「書記だから」
「関係ありません」
でも。
立つ。
ドアを開ける。
そこにいたのは。
御影朔くんだった。
「……」
ぼくも。
少し驚いた。
ひより先輩も。
席から立つ。
「御影くん」
「こんにちは」
「相談?」
御影くんは。
少し部屋の中を見る。
「いえ」
「じゃあ?」
手には。
小さな段ボール箱。
「放送室の整理で」
「うん」
「これが出てきたので」
ぼくは。
反射的に身構える。
録音。
古い資料。
また何か。
でも。
御影くんは。
箱を開けた。
中身。
紙コップ。
未開封のティーバッグ。
砂糖。
個包装のクッキー。
「……お茶?」
ひより先輩が聞く。
「はい」
「何で?」
「久世先輩が、相談室に持っていけって」
「綾音が?」
「放送委員会で余ってるから」
ぼくは。
少しだけ力を抜く。
御影くんが。
こちらを見る。
「今」
「はい」
「何か危険な物だと思いました?」
「少し」
「正直ですね」
「最近よく言われます」
御影くんが。
笑う。
以前より。
自然だった。
「入る?」
ひより先輩が聞く。
御影くんは。
部屋を見る。
以前。
相談番号零を置いた場所。
盗聴器を仕掛けた場所。
自分が。
長く見ていた部屋。
「……今日は」
少し。
間。
「入口だけでいいです」
「うん」
ひより先輩は。
それ以上勧めなかった。
「ありがとう」
「はい」
御影くんが。
箱を渡す。
帰ろうとする。
その前に。
「一ノ瀬先輩」
「何?」
「戻れて」
少し。
言葉を探す。
「よかったですね」
ひより先輩が。
少し笑う。
「うん」
「御影くんも」
「僕?」
「放送室」
「……」
「戻ったんでしょ」
御影くんは。
少し考える。
「まだ」
「まだ?」
「手伝ってるだけです」
「そっか」
「でも」
御影くんは。
少し笑った。
「音は、嫌いじゃなかったです」
それだけ言って。
帰った。
ひより先輩は。
閉じたドアを。
しばらく見ていた。
「書記くん」
「はい」
「よかったね」
「はい」
音羽さんのためではない。
事件のためでもない。
御影朔くんが。
自分は音が嫌いではない。
そう言った。
それで。
十分。
*
午後五時二十五分。
ひより先輩が。
御影くんの持ってきた箱を開ける。
「紅茶ある」
「はい」
「飲む?」
「片づけてからなら」
「今暇じゃん」
「運営記録があります」
「休憩」
「……」
「必要なので」
本当に。
使い方を覚えすぎている。
結局。
二人分。
紙コップ。
ティーバッグ。
お湯は。
職員室で佐伯先生からもらった。
「砂糖?」
先輩が聞く。
「いりません」
「覚えてる」
「何を?」
「書記くん、紅茶は砂糖なし」
「前にも飲んだので」
「うん」
先輩は。
自分のカップには。
砂糖を一つ。
入れる。
「先輩は一つ」
ぼくが言う。
ひより先輩の手が。
止まる。
「覚えてた?」
「以前見たので」
「……そっか」
何でもない。
それだけ。
でも。
先輩は。
少し嬉しそうだった。
「こういうの」
「はい」
「記録してないよね」
「していません」
「じゃあ」
「はい」
「何で覚えてるの?」
ぼくは。
紅茶を見る。
答えは。
簡単なはずだった。
何度か見たから。
印象に残ったから。
でも。
なぜか。
すぐに言葉が出ない。
「……必要だったので」
「嘘」
即答された。
「なぜですか」
「今の間」
「間?」
「必要なので、なら書記くんもっと早い」
「……」
顔が。
しゃべっている。
という話。
少し。
否定できなくなってきた。
「書記くん」
「はい」
「今度」
ひより先輩が。
紅茶を飲む。
「私が相談者になったら」
「はい」
「ちゃんと話聞いてね」
「内容によります」
「そこは、はいって言ってよ」
「安全上の問題なら先生へ」
「そうじゃなくて」
「では?」
ひより先輩は。
少し考える。
「恋愛相談」
ぼくの手が。
止まる。
また。
この人は。
急に。
そういう話をする。
「相談相手を変えた方がいいと思います」
「何で?」
「ぼくは記録担当です」
「じゃあ記録して」
「何をですか」
「好きな人がいます」
紅茶を。
飲まなくてよかった。
たぶん。
むせた。
「……一ノ瀬先輩」
「はい」
「誰ですか」
聞いてから。
気づく。
先輩が。
目を丸くした。
「聞くんだ」
「相談内容の確認です」
「へえ」
「何ですか」
「気になる?」
「必要なので」
「遅かった」
「……」
「今の必要なので、遅かった」
非常に。
やりにくい。
「じゃあ」
先輩は。
楽しそうに言う。
「まだ名前は言いません」
「相談として成立しません」
「宮原さんも最初はAくんだったよ」
「……」
正しい。
「同じ学校?」
ぼくが聞く。
「うん」
「学年は?」
「秘密」
「相談する気がありますか」
「あるよ」
「では」
「でも」
先輩は。
少しだけ。
笑い方を変えた。
「今日はここまで」
「なぜですか」
「相談時間終了」
時計。
午後五時三十分。
相談受付終了時刻。
「……」
「ルールだから」
「都合よく使っていますね」
「必要なので」
「一ノ瀬先輩」
先輩は。
笑って立ち上がった。
「片づけよう、書記くん」
相談者。
本日。
ゼロ。
……たぶん。
公式には。
でも。
ぼくの頭の中には。
一つ。
新しい未確認事項が残った。
一ノ瀬ひよりには。
好きな人がいる。
本人の発言。
ただし。
相手。
未確認。
「書記くん」
「はい」
「今、記録しようとした?」
「していません」
「顔が」
「顔はしゃべりません」
「今日はしゃべってるよ」
……否定しにくい。
*
帰る前。
相談受付箱を確認する。
空。
「今日、本当にゼロだったね」
ひより先輩が言う。
「はい」
「でも」
「はい」
「悪くなかった」
「そうですね」
照明を消す。
新しい鍵。
ドアを閉める。
施錠。
一度。
確認。
「書記くん」
「はい」
「二回確認する?」
「一回で十分です」
「成長」
「規定通りです」
「はいはい」
廊下を歩く。
夕方。
隣に。
ひより先輩。
元の相談室へ。
戻ってきた。
でも。
たぶん。
元通りではない。
相談室も。
一ノ瀬ひよりも。
ぼくも。
そして。
それでいい。
「書記くん」
「はい」
「さっきの恋愛相談」
「はい」
「気になる?」
「……」
今度は。
すぐ答えた。
「少し」
ひより先輩が。
止まる。
ぼくも。
二歩進んでから。
振り返る。
先輩は。
目を丸くしていた。
「……素直」
「聞かれたので」
「そっか」
先輩は。
追いつく。
少し。
距離が近い。
「じゃあ」
「はい」
「そのうち相談する」
「わかりました」
「逃げないでね」
「相談担当は先輩です」
「そういう意味じゃない」
「では?」
ひより先輩は。
少し笑って。
答えなかった。
まだ。
選ばない。
……らしい。
第46話まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は。
放課後相談室が、ようやく元の旧進路指導室へ戻りました。
ただし。
元通りではありません。
記録方法。
鍵。
教職員へつなぐ条件。
本人の意思確認。
これまでの失敗を消すのではなく。
失敗したからこそ、新しいルールを加えての再出発です。
そして。
御影朔も少しだけ登場しました。
相談者としてではなく。
放送室の手伝いをする一人の生徒として。
「音は、嫌いじゃなかったです」
姉の事件を追うためではなく。
自分自身が何を好きなのかを、これから少しずつ考えていきます。
放課後相談室再開初日の正式な相談者は、ゼロ。
それでも。
部屋を開けて待っていること自体に意味があります。
そして最後。
一ノ瀬ひよりから高槻湊へ。
少しだけ危険な相談予告。
「好きな人がいます」
相手は、まだ未確認。
ただし。
高槻湊本人は、
「少し気になる」
と答えました。
二人についても。
もう「何も起きていない」と言い切るのは。
少し難しくなってきたようです。
次回は。
再開した放課後相談室に届く、最初の正式な相談。
ただし今回は。
相談用紙に書かれているのは、たった一行。
「告白を、断りたいです」
好きになってもらった側が悩む。
そんな恋愛相談から始まります。




