第36話 止めたつもりだった
旧放送室の機材棚から見つかった、一つのカセットテープ。
ラベルには、
桐生先生 放送後。
録音されていたのは、御影音羽の偽の告白音声が校内へ流された、その日の会話だった。
そして、桐生先生と話していた人物は――。
現在、放課後相談室を担当している佐伯先生。
この放送は、なかったことにはできません。
でも、今すぐ全校へ訂正するのも危険です。
数年前。
佐伯先生は、何を知っていたのか。
そして。
何を止められなかったのか。
「佐伯先生です」
鳴海律くんの言葉が、会議室の中に残った。
机の上。
古いカセットテープ。
透明なケースには、細かな傷がついている。
桐生先生 放送後。
日付は。
御影音羽さんの偽の告白音声が流れた、その日。
一ノ瀬ひより先輩は、テープと鳴海くんを交互に見た。
「……本当に、佐伯先生の声なの?」
「最初の数十秒だけ確認しました」
鳴海くんは答える。
「声紋で断定したわけではありません。でも、僕には佐伯先生の声に聞こえます」
「本人には?」
「まだ伝えていません」
「どうして?」
「先に勝手に全部聞くべきではないと思ったので」
鳴海くんは、テープへ視線を落とす。
「先生本人が関係している可能性があります。だから、一ノ瀬先輩たちへ持ってくることも迷いました」
「でも、持ってきた」
ぼくが言う。
「はい」
「理由は?」
鳴海くんは少し考えた。
「放送委員会の記録だからです」
いつもの平坦な声。
でも。
少しだけ力が入っている。
「音羽先輩の声が勝手に使われた事件なら、放送委員会も無関係ではありません」
「今の放送委員長には?」
ひより先輩が聞く。
「久世先輩には、テープを発見したことだけ伝えました」
「中身は?」
「佐伯先生らしい声が入っている、とだけ」
「綾音は?」
「先生へ渡すべきだと言いました」
ひより先輩が、小さく息を吐く。
「……そうだよね」
聞きたい。
すぐに。
今、この場で。
それでも。
勝手に再生していいものではない。
「佐伯先生へ連絡します」
ぼくが言う。
ひより先輩が、少し驚いた顔で見る。
「今?」
「はい」
「怖くない?」
「怖いです」
「……そっか」
「でも、本人がいないところで全部聞いて、あとから問い詰める方がよくありません」
「うん」
ひより先輩は椅子へ座り直した。
「呼ぼう」
佐伯先生は、まだ校内にいた。
御影音羽さんや桐生先生への対応について、管理職と打ち合わせをしているところだった。
事情を簡単に伝えると。
十分ほどで、会議室へ来た。
ドアが開く。
佐伯先生は。
机の上にあるカセットテープを見た瞬間。
足を止めた。
「……それは」
声が変わった。
鳴海くんが言う。
「旧放送室の機材棚から見つけました」
佐伯先生は、テープから目を離せない。
「ラベルは確認されましたか」
「はい」
「中身も?」
「最初だけです」
「どこまで」
「先生が『この放送は、なかったことにはできません』と言うところまで」
佐伯先生は、ゆっくり目を閉じた。
「そうですか」
否定しなかった。
「先生」
ひより先輩が呼ぶ。
「はい」
「佐伯先生なんですか」
長い沈黙。
「はい」
佐伯先生は答えた。
「当時、桐生先生と話していたのは私です」
ひより先輩の肩がわずかに動く。
「知ってたんですね」
「はい」
「音羽さんのこと」
「事件当日に知りました」
「今まで……何も言わなかった」
「はい」
先輩の目が、少しずつ険しくなる。
「どうして?」
佐伯先生は、すぐには答えなかった。
「まず」
先生はカセットテープを見る。
「音羽さん本人の許可を取らずに、この録音を広く共有するべきではありません」
ひより先輩の表情が一瞬変わる。
「逃げるんですか」
「違います」
「今、また手順の話をして」
「手順の話をしています」
先生は、ひより先輩から目をそらさない。
「そして、私自身の責任についても話します」
「……本当に?」
「はい」
「全部?」
「私が覚えている範囲は」
「カセットの内容と違ってたら?」
「訂正します」
ひより先輩は、しばらく先生を見ていた。
それから。
「わかりました」
佐伯先生は、御影音羽さん本人へ連絡を取ることを提案した。
カセットテープが見つかったこと。
当時の会話が録音されている可能性があること。
本人が聞くか。
学校側が内容確認することを認めるか。
先に聞く。
音羽さんから返事が来たのは、それほど時間がかからなかった。
確認して構いません。
ただし。
私の声が入っている部分は、本人の許可なくコピーしないでください。
そして、もう一つ。
佐伯先生にも、その場にいてもらってください。
ひより先輩が、メッセージを読み上げた。
佐伯先生は、小さくうなずいた。
「わかりました」
鳴海くんが、学校の古い再生機器を準備する。
カセットテープを入れる。
再生。
最初に。
ザーッ。
小さな雑音。
何かを机へ置く音。
そして。
若い男性の声。
『桐生先生、本当に流したんですか』
佐伯先生。
今より、少し声が高い。
桐生先生の声が答える。
『本人の録音だと思った』
『確認していないですよね』
『文化祭前で時間がなかった』
『時間がないことと、確認しなくていいことは別です』
会議室にいる佐伯先生は。
何も言わない。
テープの中。
若い佐伯先生の声は、今よりも感情が出ていた。
『今すぐ、放送事故として報告してください』
『待ってくれ』
『待てません』
『もう生徒の間で話が広がっている』
『だからです』
紙をめくる音。
椅子が動く。
『本人は、編集の練習で作っただけだと言っています』
『……聞いたのか』
『さっき本人から』
『なら』
『訂正放送をします』
桐生先生が。
強い声で止める。
『今すぐはやめろ』
『なぜですか』
『余計に広がる』
『もう広がっています』
『佐伯』
『はい』
『これは、なかったことにはできません』
少しの沈黙。
そして。
佐伯先生が言う。
『この放送は、なかったことにはできません』
前に鳴海くんが聞いた言葉。
『でも、今すぐ全校へ訂正するのも危険です』
ひより先輩が、顔を上げた。
そこだけ聞けば。
佐伯先生も、訂正を止めたように聞こえる。
テープの中。
桐生先生が言う。
『だろう?』
『違います』
若い佐伯先生は、すぐに答えた。
『本人に確認してからです』
『……何?』
『本人が、今すぐ全校へ訂正してほしいのか。それとも、まずクラスや関係者だけに説明したいのか』
『本人に選んでもらうべきです』
会議室のひより先輩の表情が変わる。
佐伯先生は。
当時から。
本人へ選択を返そうとしていた。
『そんなことを聞いたら、余計に混乱する』
桐生先生が言う。
『もう混乱しています』
『佐伯』
『本人抜きで、また決めるんですか』
今の佐伯先生が。
一度、目を閉じた。
テープは続く。
『とにかく、教頭へ報告する』
桐生先生。
『その前に音羽さんへ説明を』
『私がする』
『一人ではだめです』
『なぜだ』
『先生が放送した側だからです』
会議室の空気が硬くなる。
かなりはっきり言っている。
『私も同席します』
若い佐伯先生。
『本人に、何が起きたかを説明してください』
しばらく雑音。
別の場所で録音が続いているのか。
少し音が遠くなる。
次に聞こえてきたのは。
第三の男性の声だった。
『訂正放送はしない』
全員が、再生機器を見る。
「……誰?」
ひより先輩が小さく言う。
佐伯先生の顔が硬くなった。
テープの中。
桐生先生が言う。
『教頭先生』
第三の声。
当時の教頭。
『文化祭前だ。これ以上、学校全体を混乱させるな』
若い佐伯先生が反論する。
『でも、生徒本人が否定しています』
『本人が作った音声なんだろう』
『作ったことと、流されたことは別です』
今。
ぼくたちが何度も使ってきた言葉。
それを。
数年前の佐伯先生も言っていた。
『本人がふざけて作ったものが、手違いで流れた』
教頭の声は冷静だった。
『その説明で十分だ』
『手違いではありません』
佐伯先生。
『桐生先生が、本人に確認せず放送しています』
『佐伯先生』
声が低くなる。
『教師同士で責任の押しつけ合いをする話ではない』
『責任の話です』
『生徒を守る話だ』
『なら本人へ聞いてください』
沈黙。
長い。
カセットのノイズだけが流れる。
そして。
教頭が言った。
『本人には、少し休ませろ』
『……休ませる?』
『落ち着けば考えも変わる』
『訂正は』
『しない』
『本人が望んでも?』
『学校として判断する』
テープの中。
若い佐伯先生が。
何かを言おうとする。
でも。
その前に。
桐生先生の声。
『佐伯、もういい』
『よくありません』
『お前はまだ若い』
その言葉で。
録音が一度途切れた。
鳴海くんが、停止ボタンには触れない。
数秒後。
また音が始まる。
今度は。
小さな部屋。
紙を置く音。
佐伯先生と。
女性の声。
御影音羽さん。
『訂正してほしいです』
会議室のひより先輩が、息を止める。
数年前の。
音羽さん本人の声。
『わかりました』
若い佐伯先生が答える。
『私からも学校へ伝えます』
『先生は、できるんですか』
『……』
『桐生先生は、大ごとにしない方がいいって』
『それは、音羽さんが決めることです』
音羽さんの声が震える。
『じゃあ、訂正してください』
『はい』
『私、あんなこと言ってないって』
『はい』
『お願いします』
『わかりました』
再生機器の前。
現在の佐伯先生が。
目を伏せる。
この会話だけなら。
佐伯先生は約束した。
訂正する。
本人へ選ばせる。
学校へ伝える。
でも。
実際には。
訂正放送は行われなかった。
テープが続く。
別の日時らしい。
『教頭先生、もう一度お願いします』
佐伯先生。
『本人は訂正を希望しています』
教頭。
『却下だ』
『理由を文書でください』
『必要ない』
『では、私が放送委員会顧問へ』
『佐伯先生』
『はい』
『君は、この件の担当ではない』
沈黙。
『担任でもない。放送委員会の顧問でもない』
『……はい』
『余計なことをしないでくれ』
佐伯先生の声は。
しばらく聞こえなかった。
テープの中。
教頭が続ける。
『音羽さんには、カウンセラーを案内する』
『そういう話ではありません』
『精神的に不安定になっている』
『不安定にしたのは学校です』
ひより先輩が、机の下で拳を握った。
教頭の声が強くなる。
『言葉に気をつけろ』
『事実です』
『佐伯』
桐生先生が止める。
『もういい』
そして。
長い雑音。
最後に。
若い佐伯先生の声が、小さく残っていた。
『……止められなかった』
それで。
カセットは終わった。
カチッ。
再生機器が止まる。
誰も話さない。
佐伯先生は。
目を閉じたままだった。
ひより先輩が、先に口を開く。
「先生」
「はい」
「止めようとしたんですね」
佐伯先生は。
すぐにはうなずかなかった。
「はい」
「じゃあ……佐伯先生は悪くない?」
その問いに。
先生は首を横に振った。
「いいえ」
ひより先輩が戸惑う。
「でも、今の音声では」
「私は、止めようとしました」
佐伯先生は言う。
「そして、止められませんでした」
「それは……先生より上の人が」
「はい」
「なら」
「それで終わりにはできません」
先生は、ゆっくり顔を上げる。
「音羽さんに訂正すると約束しました」
「はい」
「実現できませんでした」
「それは先生だけでは」
「そのあとです」
ひより先輩が黙る。
佐伯先生は。
数年前の続きを話し始めた。
「私は、三度目の申し入れをしませんでした」
「……どうして?」
「怖くなったからです」
桐生先生と同じ言葉。
でも。
内容は違った。
「当時、私は採用されて数年の教師でした」
「教頭から、担当外の問題へ口を出すなと言われた」
「放送委員会からも外されました」
「翌年度の担任配置についても、それとなく言われました」
「何を?」
ぼくが聞く。
「学校の方針へ従えない教師に、重要な仕事は任せられない、と」
「脅された?」
ひより先輩が言う。
佐伯先生は少し考える。
「私は、そう感じました」
「それで……黙った」
「はい」
短い答え。
「音羽さんが学校を休み始めたあとも」
「はい」
「辞めることになった時も?」
「はい」
ひより先輩の目に、怒りが浮かぶ。
「先生……」
「はい」
「何で」
声が震える。
「何で、そこで止まったんですか」
佐伯先生は。
逃げなかった。
「自分の仕事を失いたくなかったからです」
その答えに。
誰も何も言えなかった。
「音羽さんのために動いた」
「はい」
「でも、自分が不利益を受ける可能性が高くなったところで」
「止まりました」
「……」
「だから」
佐伯先生は言う。
「私は、止めた側だけではありません」
ひより先輩の目から涙が落ちる。
「止めることをやめた側でもあります」
静かな言葉。
でも。
重かった。
御影朔くんが。
もしここにいたら。
何と言っただろう。
姉を守れなかった大人。
学校に負けた教師。
それとも。
途中まででも、声を聞こうとした唯一の教師。
どちらか一つではない。
「どうして、今まで話さなかったんですか」
ぼくが聞く。
「恥ずかしかったからです」
佐伯先生は答える。
「今の放課後相談室で、私はいつも言いました」
生徒だけで抱え込まないこと。
重大なことは教職員へつなぐこと。
本人へ説明すること。
「それは」
先生は、自嘲するように少し笑った。
「私ができなかったことだからです」
ひより先輩が顔を上げる。
「先生……」
「水瀬灯里さんの件で、黒崎くんが先生へ相談した時」
「はい」
「私は、また同じことをするのが怖かった」
「だから?」
「情報を広げすぎないようにした」
「でも、結果的に噂は広がった」
「はい」
「その時も、自分を責めた?」
「はい」
佐伯先生は、手を組む。
「だから放課後相談室の正式再開を担当すると決めました」
「償いのつもり?」
「最初は」
先生は正直に答えた。
「でも、それではいけないと思いました」
「なぜ?」
「相談室は、私が過去を償う場所ではないからです」
ひより先輩が。
少しだけ目を見開く。
灯里さんの言葉と似ている。
私を理由に、相談室を続けるか決めないで。
「今は」
佐伯先生は続ける。
「相談に来た生徒のために必要だから担当しています」
「過去とは別に?」
「完全に別にはできません」
「でも、過去だけを理由にはしないようにしています」
ひより先輩は、何も言わなかった。
しばらくして。
「先生」
「はい」
「怒ってもいいですか」
「もちろんです」
「先生が止めきれなかったことに」
「はい」
「音羽さんに約束して、できなかったことに」
「はい」
「今まで私たちに言わなかったことにも」
「はい」
「でも」
先輩は泣きながら笑った。
「今まで助けてくれたことまで、嘘だったとは思いたくない」
佐伯先生の目が揺れる。
「それは、一ノ瀬さんが決めてください」
「……そこ返してくるんだ」
「必要なので」
一瞬。
ひより先輩が固まる。
ぼくも。
鳴海くんも。
佐伯先生自身も。
「先生まで言うの?」
ひより先輩が、涙のまま笑った。
「高槻くんの影響でしょうか」
「違います」
ぼくは即答した。
「書記くん、そこ否定するんだ」
ほんの少しだけ。
空気が緩んだ。
そのあと。
佐伯先生は、学校側へ正式な申告をすることを決めた。
当時の対応に関わったこと。
音羽さん本人の希望を知りながら、訂正を実現できなかったこと。
上司から止められたあと、追及を続けなかったこと。
すべて。
「人事上の記録にも残るかもしれません」
管理職の先生が言った。
「構いません」
佐伯先生は答えた。
「今度は、途中でやめません」
その言葉に。
ひより先輩は、何も言わずうなずいた。
しかし。
カセットテープには、まだ確認していない箇所があった。
鳴海くんが気づいた。
「テープ、反対側があります」
全員が見る。
古いカセット。
A面とB面。
これまで聞いたのは、A面。
ケースのラベルには。
桐生先生 放送後。
でも。
B面には。
鉛筆で、小さく文字が書かれている。
音羽 退学前日。
「……聞きますか」
鳴海くんが聞く。
佐伯先生が言う。
「本人へ確認します」
音羽さんへ連絡する。
返事は。
少し時間がかかった。
聞いてください。
ただし。
朔には、まだ聞かせないでください。
ひより先輩が、眉を寄せる。
「御影くんには?」
「今は、ということだと思います」
ぼくが言う。
「理由は、本人に聞かないとわかりません」
B面。
再生。
しばらく。
何も聞こえない。
そして。
音羽さんの声。
数年前。
学校を辞める前日。
『佐伯先生』
『はい』
『私、明日から来ません』
佐伯先生の呼吸が、止まる。
『……そうですか』
『先生、止めないんですね』
『止めてほしいですか』
長い沈黙。
『わかりません』
音羽さんの声が震える。
『来たい気持ちもある』
『でも、来たくない』
『声を聞かれるのが怖い』
『はい』
『先生』
『はい』
『一つだけお願いがあります』
『何ですか』
『この録音……朔には聞かせないでください』
現在。
全員の表情が変わる。
音羽さんは。
弟に聞かせたくない何かを。
これから話す。
『朔は、私のためなら何でもするって言っています』
『……はい』
『それが怖いです』
会議室が静まり返る。
『弟が、私を守ろうとしてくれるのは嬉しい』
『でも』
音羽さんは。
泣いていた。
『私が傷ついたことを理由に、朔まで自分の人生を止める気がする』
御影朔くん。
何年もの間。
姉の声を集め。
記録を調べ。
放課後相談室を監視し。
自分の生活そのものを、姉の事件に結びつけてきた。
『先生』
音羽さんが言う。
『もし、朔がいつかこの学校へ来たら』
『はい』
『私のことを追いかけるのを、止めてください』
現在の佐伯先生が。
両手を強く握る。
『私の代わりに』
音羽さんは続ける。
『弟の話を聞いてください』
ひより先輩が、口元を押さえた。
数年前。
放課後相談室ができる前。
御影音羽さんは。
弟の相談を。
佐伯先生へ託していた。
でも。
佐伯先生は、その約束を果たせなかった。
御影朔くんが星ヶ丘高校へ入学し。
旧進路指導室の前で。
一ノ瀬ひより先輩へ声をかけるまで。
誰も。
彼を相談者として見つけられなかった。
テープの最後。
佐伯先生の声。
『約束します』
カチッ。
再生が止まる。
今。
佐伯先生は。
何も言えなかった。
数年前。
音羽さんへ。
訂正をすると約束した。
できなかった。
そして。
弟の話を聞くと約束した。
それも。
できなかった。
ひより先輩が、静かに呼んだ。
「佐伯先生」
先生は。
ゆっくり顔を上げる。
「……はい」
「御影くんの相談」
「はい」
「今度は、一緒に聞きましょう」
佐伯先生の目に、涙が浮かんだ。
「……はい」
その時。
鳴海くんのノートパソコンが音を鳴らした。
一通のメール。
放送委員会共有アドレス宛て。
差出人。
御影朔。
件名。
相談番号零 追加資料。
本文は。
一行だけ。
姉が退学する前日に、誰と会っていたのか確認してください。
添付ファイル。
一枚の写真。
校門前。
御影音羽さん。
そして。
その向かいに立っている人物。
佐伯先生ではない。
桐生先生でもない。
当時の教頭でもない。
写真の端に写る名札。
星ヶ丘高校 生徒会長。
数年前。
御影音羽さんが学校を辞める直前。
最後に会っていたのは。
教師ではなく。
一人の生徒だった。
第36話まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は、旧放送室から発見されたカセットテープによって、数年前の佐伯先生の行動が明らかになりました。
佐伯先生は、御影音羽の偽音声が流された直後から、桐生先生や当時の教頭へ訂正を求めていました。
本人の意思を確認してください。
作ったことと、勝手に流されたことは別です。
現在の放課後相談室で大切にしている考えを、佐伯先生は当時から口にしていました。
しかし。
上司から止められ、自分の立場を失うことを恐れた佐伯先生は、途中で追及をやめてしまいます。
止めようとした人。
そして。
止めることをやめた人。
佐伯先生自身も、その両方でした。
さらにB面には、退学前日の音羽と佐伯先生の会話が残されていました。
音羽は数年前から、弟・御影朔が自分の事件に人生を縛られてしまうことを心配していました。
私の代わりに、弟の話を聞いてください。
しかし、その約束も果たされませんでした。
そして最後。
御影朔から新しい資料が届きます。
音羽が学校を辞める直前、最後に会っていた人物。
それは教師ではなく、当時の星ヶ丘高校生徒会長でした。
次回は、御影音羽の事件に生徒会がどう関わっていたのか、現在の放課後相談室へつながるさらに古い秘密へ迫ります




