第25話 次に消えるのは、お前だ
放課後相談室に持ち込まれた、男子バスケットボール部の集合写真。
写真に写る一人の顔は、黒い線で消されていた。
裏側には、赤い文字でこう書かれている。
次に消えるのは、お前だ。
「部活を辞めたやつから、毎日写真が届きます」
男子生徒は、怒りを押し殺すような声で言った。
机の上には、男子バスケットボール部の集合写真が置かれている。
体育館のステージ前。
ユニフォーム姿の部員が、前列と後列に分かれて並んでいる。
中央には顧問の先生。
両端にはマネージャーらしい女子生徒。
ごく普通の部活動写真に見える。
ただし、一人を除いて。
後列の右から三番目。
そこに立っている男子生徒の顔が、黒い油性ペンで何度も塗りつぶされていた。
乱暴に一本の線を引いただけではない。
縦に、横に、斜めに。
顔の形がわからなくなるまで、何度も線を重ねている。
黒く塗られた部分は、わずかに光っていた。
その写真の裏には、赤い文字がある。
次に消えるのは、お前だ。
放課後相談室の窓を、雨が細かく叩いていた。
図書室の相談を終えたばかりの部屋。
鍵付きの保管箱には、相談番号一の記録が収められている。
そして今、机の上には新しい記録用紙が置かれていた。
相談番号二。
一ノ瀬ひより先輩は、男子生徒の向かいに座っていた。
さっきまでの柔らかい表情は消えている。
「名前を聞いてもいい?」
男子生徒はうなずいた。
「二年五組の、佐久間亮です。男子バスケ部です」
佐久間亮。
短く切った髪。
日に焼けた肌。
制服の上に紺色のジャージを着ている。
身長は高いが、座っている姿は妙に小さく見えた。
怒っている。
でも、怒りだけではない。
写真を見るたびに、指先がわずかに動いている。
怖いのだと思った。
ひより先輩は、いつもの説明をした。
ここで話した内容は、原則として外へ出さない。
ただし、脅迫や安全に関わる場合は、先生へ相談する。
話したくないことは話さなくていい。
今ここで答えを出す必要はない。
「今回の内容は、先生にも相談する必要があると思う」
先輩は、最初にはっきり言った。
佐久間くんは、少し顔を硬くした。
「やっぱりですか」
「うん。毎日届いていて、次に消えるのはお前だと書かれている。冗談だったとしても、私たちだけでは抱えられない」
「でも、まだ誰がやったか決まってません」
「だから確認する」
ひより先輩の声は穏やかだった。
「誰かを犯人だと決めるためじゃなくて、佐久間くんを守るために」
佐久間くんは、しばらく黙っていた。
そして、小さくうなずく。
「わかりました」
ぼくは、写真に直接触れないように机の上で向きを変えた。
「毎日届くと言いましたね。今日で何日目ですか」
「四日目です」
「写真は四枚ありますか」
「はい」
佐久間くんはスポーツバッグを開き、透明なファイルを取り出した。
中には、三枚の写真が入っていた。
机の上に置かれたものを合わせて、四枚。
一枚目。
男子バスケットボール部の集合写真。
黒く消されているのは、後列右から三番目の男子生徒。
裏には、黒いペンで書かれている。
最初に消されたのは、俺だ。
二枚目。
練習試合後の写真。
部員たちが体育館の床に座り、スポーツドリンクを持って笑っている。
一番端にいたはずの人物が、写真ごと切り取られている。
右端だけが、不自然に短い。
裏には一文。
切れば、最初からいなかったことになる。
三枚目。
ホワイトボードに書かれた試合メンバー表の写真。
先発五人。
控え選手。
背番号。
その中の一つの名前だけが、黒く塗りつぶされている。
裏には、赤い文字。
記録から消せば、誰も覚えていない。
そして四枚目。
最初に見せられた集合写真。
黒く塗りつぶされた人物の隣にいる佐久間くんの顔が、赤い丸で囲まれている。
裏には、
次に消えるのは、お前だ。
「写真は、どこに届いたんですか」
ぼくが聞く。
「部室のロッカーです」
「毎日同じ場所?」
「はい。僕のロッカーの中」
「鍵は?」
「ありません。バスケ部の部室は、棚みたいなロッカーなので」
「封筒に入っていましたか」
「白い封筒です。名前は書いてありません」
「発見した時間は?」
「朝練の前です。最初の三枚は」
ぼくは四枚目を見る。
「今日は違う?」
佐久間くんは、少し唇を噛んだ。
「今日は、放課後の練習前でした」
「朝にはなかった?」
「はい。朝練の時にロッカーを使いました。その時は何もありませんでした」
「つまり、今日の写真は授業中から放課後までの間に入れられた」
「そうです」
部室に入れる人。
佐久間くんのロッカーを知っている人。
写真の元データを持っている人。
少なくとも、学校や部活動と無関係な人が簡単にできることではない。
「退部した人から届いていると言いましたね」
ひより先輩が聞いた。
「どうして、その人だと思ったの?」
佐久間くんの視線が、一枚目の黒く塗られた顔へ向く。
「黒く消されてるのが、そいつだからです」
「名前は?」
「成瀬冬馬」
佐久間くんは答えた。
「同じ二年でした。先月、バスケ部を辞めました」
成瀬冬馬。
ぼくは記録用紙に名前を書いた。
「退部した理由は?」
佐久間くんは、すぐに答えなかった。
「けがです」
短い答え。
でも、それだけではないように聞こえた。
ひより先輩も同じことを感じたのだろう。
「けがだけ?」
「……手首を痛めました」
「それで、部活を続けられなくなった?」
「医者には、しばらく休めば戻れるって言われてたらしいです」
「でも、辞めた」
佐久間くんは、握った拳を膝の上に置いた。
「辞めました」
「その前に、何かあったんだね」
ひより先輩の言葉に、佐久間くんの表情が硬くなる。
「関係ありますか」
「わからない」
先輩は正直に答えた。
「でも、写真に『最初に消されたのは俺だ』と書いてある。成瀬くんが、自分はバスケ部から消されたと思っていたなら、退部までの出来事は確認したい」
佐久間くんは、写真から目をそらした。
雨音が少し強くなる。
「成瀬は、ポイントガードでした」
やがて、佐久間くんは言った。
「試合中にボールを運んで、誰にパスするか決める役です。上手かったです。中学からずっと一緒で」
「佐久間くんとは、友達だった?」
佐久間くんは少し迷った。
「親友だと思ってました」
過去形だった。
「何があったの?」
「一か月前、練習試合がありました」
佐久間くんは、机の上の二枚目の写真を見た。
部員たちが床に座っている写真。
右端が切り取られている。
「最後の十秒で、一点負けてました。成瀬がボールを持ってて、僕がゴール下にいました」
「パスが来なかった?」
「来ました」
佐久間くんは答えた。
「でも、遅かった」
その声には、今も残っている苛立ちがあった。
「成瀬は自分でシュートするか、すぐ僕にパスするか迷った。結局、残り一秒で僕に投げた。僕は無理な体勢でシュートして、外しました」
「試合に負けた」
「はい」
「そのあと?」
佐久間くんの拳に力が入る。
「僕が言いました」
「何を?」
「迷うくらいなら、最初から試合に出るなって」
言葉が、部屋の中へ落ちた。
ひより先輩は、すぐには反応しなかった。
「みんなの前で?」
「はい」
「成瀬くんは?」
「何も言いませんでした」
佐久間くんは、少し早口になった。
「でも、あいつも悪かったんです。ポイントガードなのに判断が遅れて、試合を落とした。僕だけじゃなくて、他の部員も怒ってました」
「誰がどんなことを言ったの?」
ぼくが聞く。
佐久間くんは、少し考える。
「主将の武田先輩が、もっと早く決めろって。顧問の榊先生は、次から迷うなって。ほかの二年も、あの場面は成瀬が悪いって」
「成瀬くんは、その時すでに手首を痛めていた?」
佐久間くんの目が揺れた。
「……たぶん」
「たぶん?」
「試合の前から、少し痛いとは言ってました」
「先生は知っていましたか」
「わかりません」
「佐久間くんは知っていた」
佐久間くんは黙った。
中学からの友達。
親友だと思っていた相手。
手首が痛いことも知っていた。
それでも、試合の直後に言った。
迷うくらいなら、最初から試合に出るな。
「翌日、成瀬は練習を休みました」
佐久間くんが続ける。
「病院で、手首の靱帯を痛めているって言われたらしいです。一か月はボールを触らない方がいいって」
「その後、退部した?」
「すぐではありません」
佐久間くんは首を横に振った。
「一週間くらいは練習を見に来てました。ボール拾いとか、スコアをつけたりして」
「部員として?」
「はい」
「その時、成瀬くんの居場所はありましたか」
ひより先輩の問いに、佐久間くんが顔を上げる。
「どういう意味ですか」
「練習には参加できない。試合にも出られない。でも、部員として来ていた。みんなは成瀬くんをどう扱っていた?」
「普通です」
答えが早かった。
「普通に話してました」
「本当に?」
「……たぶん」
また、たぶん。
佐久間くんの中にも、見たくない記憶があるようだった。
「新しいポイントガードが決まりました」
佐久間くんは言った。
「同じ二年の藤堂です。成瀬が休んでる間だけの予定でした。でも、藤堂が思ったよりうまくて」
「成瀬くんが戻る場所がなくなった」
ひより先輩が言う。
佐久間くんは顔をしかめた。
「そういう言い方は」
「違う?」
「競争なので」
佐久間くんの声が少し強くなる。
「部活です。けがをして休んでいる間に、別の選手が上手くなることはあります。戻ってきたら、また競争すればいい」
「成瀬くんにも、そう言った?」
佐久間くんは黙った。
言っていないのだろう。
「一週間後、部室のメンバー表から成瀬の名前が消えてました」
佐久間くんは、三枚目の写真を見た。
ホワイトボードのメンバー表。
名前が一つだけ黒く塗りつぶされている。
「誰が消したんですか」
ぼくが聞く。
「主将です」
「退部前に?」
「はい」
部屋の空気が変わった。
「どうして、まだ退部していない人の名前を?」
「次の練習試合に出られないからです」
「メンバー表は、次の試合だけのもの?」
佐久間くんは少し迷った。
「いえ。部員全員の名前を磁石で貼る表です。出場選手は上、控えは下、けが人は横に分けます」
「成瀬くんの名前は、けが人の場所にもなかった」
「はい」
「ホワイトボードから外された」
「はい」
最初に消されたのは、俺だ。
写真の言葉が、少し違って見え始めた。
顔を塗りつぶされたことではない。
本当に最初に消されたのは、部室のメンバー表から名前を外された時なのかもしれない。
「成瀬くんは、その表を見ましたか」
ひより先輩が聞く。
「見ました」
佐久間くんは、視線を落とした。
「何か言った?」
「僕に、聞きました」
「何を?」
「俺、もういないことになってるのかって」
佐久間くんの声は小さかった。
「佐久間くんは、何と答えたの?」
長い沈黙。
雨音。
時計の針。
廊下を通る足音。
それらが妙にはっきり聞こえた。
「戻ってきたら、また名前を貼ればいいって」
「それだけ?」
「はい」
「成瀬くんは?」
「笑ってました」
その笑顔を、佐久間くんは今も覚えているらしい。
顔が苦しそうに歪んだ。
「その日の練習後、退部届を出したそうです」
ひより先輩は、机の上の写真を見た。
「成瀬くんは、消えたんじゃなくて、消されたと思っていた」
「でも」
佐久間くんが顔を上げる。
「写真を送って脅していい理由にはなりません」
「うん。ならない」
ひより先輩は、すぐに答えた。
「傷つけられた人が、誰かを脅していいことにはならない。そこは別」
佐久間くんの肩から、少しだけ力が抜けた。
自分が責められていると思ったのかもしれない。
「ただ」
先輩は続ける。
「成瀬くんがなぜこんな写真を送るのかを考えるなら、成瀬くんがどう消されたと感じたのかは知らないといけない」
「はい」
佐久間くんは、低い声で答えた。
ぼくは四枚の写真を並べ直した。
一枚目。
顔を消された集合写真。
二枚目。
端を切られた練習試合後の写真。
三枚目。
名前を消されたメンバー表。
四枚目。
佐久間くんが赤い丸で囲まれた集合写真。
「これらの元写真は、どこにありましたか」
ぼくが聞く。
「バスケ部の共有アルバムです」
「誰が見られますか」
「部員とマネージャー、顧問です」
「成瀬くんは?」
「退部したあとも、しばらくグループに残ってました。でも、二週間前に抜けました」
「共有アルバムへのアクセスは?」
佐久間くんはスマホを取り出し、確認した。
「グループを抜けたら見られないと思います」
「写真を保存していた可能性はあります」
「はい」
「四枚とも、成瀬くんが在籍中に撮られた写真ですか」
「最初の二枚とメンバー表はそうです」
「四枚目は?」
佐久間くんは、集合写真を見た。
「これも、たぶん」
「たぶん?」
「写真自体は、夏の地区大会の時のものです。成瀬もいました」
黒く塗られた顔。
確かに、成瀬くんがいた頃の写真だ。
「元の写真を見せてもらえますか」
佐久間くんは共有アルバムを開いた。
地区大会。
練習試合。
部室。
遠征。
たくさんの写真が並んでいる。
集合写真の元データを探す。
「あれ」
佐久間くんの指が止まった。
「どうしました」
「ありません」
「集合写真が?」
「はい」
佐久間くんは、何度も画面を動かした。
「前はありました。地区大会のフォルダに」
「削除された?」
「たぶん」
「削除権限を持つ人は?」
「顧問と、主将と、マネージャーです」
成瀬くん本人には、現在アクセスできない。
ただし、以前保存した写真を印刷することはできる。
それでも、元データが今になって削除されていることは気になる。
「成瀬くんが辞めたあと、過去の写真を整理しましたか」
ぼくが聞く。
佐久間くんは、少しだけ視線をそらした。
「マネージャーが、学校の部活動紹介ページを作り直しました」
「その時に?」
「けがで退部した人が写っている写真は、使いづらいからって」
「成瀬くんが写っている写真を外した?」
「全部ではないと思います」
「確認しましたか」
「してません」
また、していない。
人は、誰かがいなくなったあと、その人の写真を整理する。
名簿を直す。
グループから外す。
担当を変える。
必要な作業かもしれない。
でも、その一つ一つが、消された側にはどう見えるのだろう。
「佐久間くん」
ひより先輩が言った。
「成瀬くんとは、退部後に連絡を取った?」
「一度だけ」
「どちらから?」
「僕からです」
「何と送った?」
佐久間くんは、スマホを見た。
「落ち着いたら戻ってこいよって」
「返事は?」
「来ませんでした」
「そのメッセージの前後に、謝りましたか」
佐久間くんは黙った。
「試合のあとに言ったこと。名前が消えていた時に、ちゃんと話を聞かなかったこと」
「謝ってません」
ようやく答えた。
「どうして?」
佐久間くんは、少し苛立ったように顔を上げた。
「僕だけが悪いわけじゃないからです」
「うん」
ひより先輩は否定しなかった。
「僕だけが謝ったら、全部僕のせいみたいになる」
「うん」
「主将も、顧問も、ほかの部員もいた。新しいポイントガードを決めたのだって僕じゃない。メンバー表から名前を外したのも僕じゃない」
「うん」
ひより先輩は、一度ずつ受け止めた。
「でも、佐久間くんが言った言葉は、佐久間くんのものだよ」
佐久間くんの顔が強張った。
「迷うくらいなら、最初から試合に出るな。戻ってきたら、また名前を貼ればいい」
ひより先輩の声は厳しくなかった。
だからこそ、逃げられない。
「そこは、ほかの人が何をしたかとは別に、佐久間くんが向き合う部分だと思う」
佐久間くんは、膝の上の拳を見つめた。
「……はい」
小さな返事だった。
その時、放課後相談室のドアがノックされた。
三回。
急ぐような強い音。
ぼくとひより先輩が顔を見合わせる。
「どうぞ」
ドアが開いた。
入ってきたのは、三枝莉子先輩だった。
手には透明な袋を持っている。
中には、白い封筒。
「佐久間くんは、ここにいる?」
三枝先輩は部屋へ入るなり聞いた。
佐久間くんが立ち上がる。
「僕です」
「生徒会室の前に、これが落ちていた」
三枝先輩は、透明な袋を机の上に置いた。
「表に、佐久間亮へ、と書いてある」
佐久間くんの顔色が変わった。
「どうして、生徒会室に」
「あなたが相談室へ来たことを、誰かが知っている可能性があるわ」
ひより先輩の表情が険しくなる。
「莉子、触った?」
「封筒には直接触っていない。落とし物用の袋に入れた。中身も開けてない」
三枝先輩らしい対応だった。
ぼくは佐久間くんを見る。
「開けますか」
佐久間くんは、しばらく封筒を見つめた。
そして、うなずいた。
「開けます」
ひより先輩が佐伯先生へ連絡を入れる。
脅迫に関わる可能性があるため、先生の立ち会いを待つ。
数分後、佐伯先生が来た。
先生が手袋をつけ、封筒を開く。
中には、一枚の写真が入っていた。
見た瞬間、全員が言葉を失った。
今日の放課後。
雨の中を歩く佐久間くん。
背景には、旧進路指導室へ続く廊下。
写真は、少し離れた場所から撮られている。
佐久間くんの横顔。
肩にかけたスポーツバッグ。
相談室の方へ向かう姿。
ついさっきの写真だった。
写真の表には、赤い丸が二つ描かれている。
一つは佐久間くん。
もう一つは、少し後ろを歩いていた男子生徒。
ぼくは、その人物を知らない。
バスケットボール部のジャージを着ている。
前髪が長く、細身。
手には体育館の鍵らしきものを持っている。
「この人は誰ですか」
ぼくが聞く。
佐久間くんの表情が固まった。
「藤堂です」
「新しいポイントガード?」
「はい」
成瀬冬馬がけがをしたあと、代わりに選ばれた選手。
写真の裏には、今までとは違う言葉が書かれていた。
お前だけが消えるわけじゃない。
その下に、もう一文。
次は、奪ったやつだ。
佐久間くんが写真を見つめる。
「藤堂を狙ってる……」
ひより先輩は、すぐに佐伯先生を見た。
「先生、バスケ部の顧問に連絡してください。藤堂くんの安全確認が必要です」
「わかりました」
佐伯先生は、その場で電話をかけ始めた。
ぼくは写真を見た。
佐久間くんが相談室へ向かうところを、誰かが撮っていた。
つまり、送り主は今日学校内にいた可能性が高い。
退部した成瀬冬馬が学校へ来ていたのか。
それとも、送り主は成瀬くんではないのか。
「佐久間くん」
ぼくは聞いた。
「成瀬くんは、今どこにいるか知っていますか」
「知りません」
「別の学校へ移ったわけではない?」
「退部しただけです。同じ学校です」
「今日、登校していましたか」
「クラスが違うので」
佐伯先生が電話を終える。
「成瀬冬馬くんは、今日は欠席です」
部屋の空気が変わった。
「欠席?」
佐久間くんが言う。
「保護者から、通院のため欠席すると連絡があったそうです」
「でも、この写真は今日撮られてる」
三枝先輩が言った。
「本人が通院後に学校へ来た可能性はある。でも、確認が必要ね」
佐伯先生は、成瀬くんの担任へ連絡を取るため部屋を出た。
ひより先輩は、五枚の写真を見つめる。
「書記くん」
「はい」
「この送り主、成瀬くんのために怒っているように見える」
「はい」
「でも、成瀬くん本人とは限らない」
「そう思います」
佐久間くんが顔を上げる。
「じゃあ、誰なんですか」
ぼくは、今日届いた写真を見た。
佐久間くん。
藤堂くん。
相談室へ続く廊下。
撮影者は、佐久間くんがここへ来ることを知っていた。
それだけではない。
バスケ部の共有アルバム。
部室のロッカー。
メンバー表。
新しいポイントガード。
生徒会室と放課後相談室の場所。
バスケ部の内部事情と、校内での動きをかなり詳しく知っている。
「まだわかりません」
ぼくは答えた。
「でも、成瀬くんを消したと思っている人は、成瀬くん本人だけではないのかもしれません」
佐久間くんは、何も言えなかった。
窓の外で、雨が強くなる。
五枚目の写真。
お前だけが消えるわけじゃない。
次は、奪ったやつだ。
これは、過去への恨みだけではない。
次に何かを起こすという予告だ。
放課後相談室の相談番号二は、始まったばかりだった。
第25話まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回から、男子バスケットボール部を舞台にした新しい相談が始まりました。
相談者は二年生の佐久間亮。
毎日、部室のロッカーに写真が届き、その写真には退部した元ポイントガード・成瀬冬馬が「消された」痕跡が残されていました。
成瀬はけがだけでなく、試合での失敗、部員からの言葉、メンバー表から名前を外されたことによって、居場所を失ったと感じていた可能性があります。
しかし、佐久間が相談室へ向かう姿を撮影した新しい写真が、生徒会室前に届けられました。
その日、成瀬冬馬は欠席しています。
次回は、新しいポイントガード・藤堂と、成瀬が退部した本当の経緯を確認していきます。




