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死亡確定の夫を救うため、過去に行くことにしました  作者: kkkkk


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16/22

16.七年前 + 一日

 フィオナは目を開けた。霧が晴れていく。見慣れた林がそこにあった。

 七年前の誘拐事件の翌日。ここに来たのは、アーサーとウィリアムの交友関係を断てなかった理由を調べることが目的だった。


 動きやすい服と靴を着用しフードを深く被ったフィオナは、ヨハンと王立学院の正門を見張った。石畳に落ちる夕日が、影を長く伸ばしていた。


 王立学院の授業が終わったアーサーは、ウィリアムと黒塗りの馬車に乗り込んだ。その馬車にはロックウッド侯爵家の紋章がなかった。レイモンド子爵家の馬車でもなかった。馬車は王立学院の正門を出ると、ゆっくりと大通りを走った。

 フィオナは建物の陰から姿を現すと、馬車を追跡した。決して走らず、音を立てず、視界から消えない間合いを保った。


 次第に人通りが増え、やがて馬車は市場に入った。商品を手に通行人を呼び止める行商人の声、露店の前で客の談笑が聞こえた。フィオナは通行人に紛れて、ゆっくりと馬車を追った。

 市場の喧騒を過ぎると、街並みが変わった。石造りの建物が減り、路地が狭くなった。空気は湿り気を帯びていく。どうやら、馬車の行先は貧民街のようだ。


 馬車は貧民街に入り、角を何度か曲がると、古い小さな建物の前で止まった。そこは店舗のようであるが、看板は設置されていなかった。

 馬車を降りた御者は、周囲を見回して通行人がないことを確認した後、建物の扉を三回ノックした。扉はゆっくりと中から開いた。


 貴族の子息が二人、何者かに会うために貧民街を訪問した。馬車に紋章がないことから、この場所に二人が来たことを隠していた。相手は迷いの森の首領だろうか?

 アーサーとウィリアムは馬車から降りて何かを話していたが、遠くて唇の動きを読めなかった。こわばった表情の二人は、ウィリアムを先頭に扉の中に入った。二人が建物に入るのを見届けて、馬車は去っていった。


 内部の様子を探るため、フィオナは建物の裏に回り込んだ。裏口の隙間から中が見えた。部屋には身なりのよい青年が椅子にかけており、鎧で身を包んだ四人の騎士が控えていた。鎧には近衛兵の紋章があった。ということは、椅子の男は王族。


『入れ』


 入室したアーサーとウィリアムは、男の前でひざまずいた。


『クリス様、申し訳ございません。シュルツ商会の件はアーサーには秘密に、と指示されたのに、巻き込んでしまいました』


 部屋にいたのはクリス第二王子だった。シュルツ商会の誘拐事件の首謀者はクリス第二王子、実行役がウィリアムといったところか。アーサーは誘拐事件を知らされていなかったが、クリス第二王子とは関係が深そうだ。フィオナの知らないアーサーの一面だった。


『堅苦しいのはやめにして、そこに掛けてくれ』


 落ち着きなく着席したアーサーとウィリアムに、クリス第二王子はほほ笑んだ。


『シュルツ商会の件は残念だったね。身代金の支払いで密輸資金を枯渇させようと思っていたのに。マスクを被った女はそんなに強かったのかい?』

『化け物のような強さでした。倉庫に来るまでに五人、倉庫の中で五人です』

『でも、誰一人命を落とさなくて良かった。まさかとは思うが、マスクの女は手加減してくれたのだろうか?』

『まさか、目的は人質の救出だったので、気絶した者の命まではとる必要がないと判断したのでしょう。それにしても、得物が剣ではなく棍棒で助かりました。民のために、次こそは抜かりなく』


 ウィリアムは拳を胸の前に掲げた。室内の会話は続く。フィオナは聞き耳を立てた。


 シュルツ商会が流行り病の特効薬として輸入した薬物に、高い中毒性が判明した。貧民街の売人は薬物を闇でさばくために、シュルツ商会の販売先に目をつけ、診療所から薬物を買取った。

 薬物は病の治療に使うものであるため、輸入の制限については、王国政府内でも賛否が分かれた。薬物の輸入制限ができない間に、中毒患者は貧民街だけでなく、一般庶民にも広がった。中毒者を増やさないために、診療所や貧民街への監視を強化したが、効果は限定的だった。


 クリス第二王子は、病の治療よりも中毒者の増やさないことが優先であり、薬物の輸入を制限すべきだと考えていた。そのためには、大本であるシュルツ商会を止める必要がある。そして、シュルツ商会の輸入資金を身代金として吸い上げることを計画し、ピエールの娘を誘拐した。強引な手法であるが、民を救うために起こした行動だったと言えなくもない。

 ルビアン王国の大商会や貴族の利益の一部は、ハリー第一王子に流れていた。既得権益を守るために大商会や貴族はハリー第一王子に保護を求め、これがルビアン王国の圧政の原因ともなっていた。


 フィオナは室内の会話を分析した。「迷いの森」は民を圧政から救うために組織された、クリス第二王子の遊撃隊。貧民街を自由に出入りできて、情報が漏れてこないのは民の信頼が厚い証拠だ。


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