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死亡確定の夫を救うため、過去に行くことにしました  作者: kkkkk


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11/22

11.七年前

 フィオナは目を開けた。霧が晴れていく。ここは七年前の世界。この時代のフィオナとアーサーは十八歳。


 怪しまれずに尾行するのに、ドレスは目立ちすぎる。フィオナは庶民の服を売る商店で、動きやすい服と靴に着替えた。帽子を被って、長い黄金の髪を隠した。これで、遠目からは男に見えるはずだ。


 謀反の中心人物となるウィリアムは、ロックウッド侯爵家の長男。ウィリアムとアーサーはルビアン王立学院に通っていた。フィオナは貴族令嬢が通うルビアン王立女学院に在籍していたから、ウィリアムとは結婚式や社交場で何度か会っただけである。一方、アーサーは王立学院の卒業後もウィリアムと交友関係にあった。


 フィオナはアーサーとウィリアムの接点を探るため、王立学院に向かった。


 王立学院に着くと、高い尖塔が長い影を落としていた。授業を終えた生徒たちが、馬車置き場へと向かっていた。ちょうど下校時間のようだ。

 馬車置き場の赤褐色の瓦屋根を太い柱が支えていた。柱の根元には家紋を刻んだ銘板が並ぶ。馬はよく手入れされ、毛並みが夕陽を浴びて艶やかに輝いていた。馬が鼻を鳴らすと、曇った吐息が白く舞い上がった。御者は馬車の脇に立ち、帰宅する貴族子女を待っていた。


 その中を、ゆっくりと歩いてくる二人の男子生徒がいた。一人はアーサー。金糸で縁取られた制服を着用し、銀の髪が陽光を受けて淡く輝いていた。

 フィオナがアーサーの隣を歩いたら、通行人からどう見えるだろうか? 母親には見えないけれど、恋人や夫婦とは見えないかもしれない。


 その横で軽やかな足取りで歩く栗色の髪の青年、ウィリアムだ。アーサーと同じ制服を着ているものの、襟元は崩れ、だらしない。


 フィオナは唇の動きを読むために、二人の口元に意識を集めた。


『なあ、アーサー。今日の講義、さすがに難しすぎないか? それに、三ページ飛ばして説明したぞ』

『飛ばしていない。ウィリアムが聞いていなかっただけだよ』

『ちゃんと聞いていた。ただ……途中で眠くなっただけで』


 ウィリアムは侯爵家の長男、アーサーは子爵家の長男。身分差があるはずなのに、二人は親友のように見えた。ウィリアムはずぼらな性格のようだが、悪人は見えない。そんなウィリアムが第二王子派の中心人物として謀反を計画することになるとは……にわかには信じがたかった。


『アーサー、これをシュルツ商会に持っていってくれないか?』


 ウィリアムはアーサーに封書を渡した。アーサーは封書をちらっと見て、『これは?』とため息をついた。


『中は知らない。僕も頼まれただけだ。あいにく、今日は外せない用事があってシュルツ商会にいけそうにない。お願いできないかな?』


 ウィリアムが頭をかくと、アーサーはふっと笑い、『わかったよ』とウィリアムの肩を軽く叩いた。


 **


 ヨハンにウィリアムの尾行を指示すると、フィオナはアーサーの後をつけた。


 王立学院を後にしたレイモンド子爵家の黒い馬車は、シュルツ商会の前に停車した。シュルツ商会は王都で有数の商会。石造りの外壁、壁一面の大きなガラス窓から店内が見える。ショーウィンドウには、異国の絹、衣服、宝石が飾られていた。


 馬車を降りたアーサーが入口に立つと、制服に身を包んだ警備員が扉を開けた。警備員に選別された者だけが、扉の中へ進める。


 アーサーは店の奥に進むと、カウンターに立つ男性店員に封書を渡した。男性店員は封書を開くと、目を大きく見開いた。男性店員は引きつった笑みを浮かべ、足早に店舗の奥に向かった。カウンターに残されたアーサーは、別の女性店員と顔を見合わせて頭をかいた。そして、男性店員がカウンターに戻ってこないことが分かると、何事もなかったように、シュルツ商会を後にした。


 男性店員は明らかに取り乱していた。封書に何が書いてあったのか?


 封書に興味を持ったフィオナは、アーサーを追わず、シュルツ商会を監視することにした。


 建物の陰でしばらく見張っていると、勝手口から帽子を被った男が出てきた。制服姿の背の高い男が二人、黒い鞄を持って後に続いた。帽子の男は「迷いの森」と言ったようだが、走っていて、うまく唇の動きを読めなかった。


 シュルツ商会の男たちは側道に停めた馬車に乗り込むと、日が沈む方向へ馬を走らせた。


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