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影の暗殺者は復讐に奔る  作者: 結城 からく


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第5話

 僅かな静寂の後、女が勢いよく駆けてくる。

 まっすぐに放たれた刺突に対し、私は影の刃で弾くことを選ぶ。

 光り輝く一撃が頬を掠めていく中、私は身を翻して女の胴体を斬ろうとした。

 ところが影の刃が蒸発して攻撃に失敗する。


 女が全身から発する光を見て、私は感心した。


(大した力だ。反撃を貰うと悟った瞬間、全力で防御してきたのか。制御は未熟だが、膨大な魔力量で押し切ってくる)


 女が剣の切っ先を私に向けて、扇状に閃光を放出してきた。

 私は反射的に目を閉じて、さらに影の魔術で覆うように保護する。

 直視していれば視力を失っていただろう。


(愚直に攻めてくると思いきや、搦め手も使ってくるか)


 女の殺気が接近してくる。

 音や空気の流れで動きを感知し、私は目を閉じたまま斬撃を躱した。

 そこから相手の背後を取り、首に腕を回して力を込める。

 女は立ち止まって苦しみ出した。


「ぐっ!?」


 抵抗する女が剣を振るってくる。

 私はそれを影の触手で遮りながら絞め続けて意識を奪う。

 気絶した女の魔術が解けたところで、私は改めて目を開けた。


「……ふむ」


 私は己の肉体を見下ろす。

 至近距離で光の魔術を受けた影響で、全身各所に火傷を負っていた。

 ただし気にするほどではない。

 魔力で治癒力を促進させればすぐに再生するだろう。


 むしろ適度な痛みは気を引き締める。

 現役時代の感覚を取り戻すのにちょうどいい機会だった。


(いくら魔術を鍛え上げても、属性的な相性は無視できない。戦闘時の工夫は必須だな)


 数十年前と比べて魔術の研究は進んでいる。

 特に体系化された分野は多く、様々な運用が確立されていた。

 個人の資質や発想に依存しない形で発展を遂げているのだ。

 強者の数や水準は下がった気がするが、魔術師全体で見ると実力が底上げされているに違いない。


 それで言うと、私を襲ってきたこの女は強者の域に達しているだろう。

 私が相手だったので惨敗だったものの、なかなかに高い戦闘能力を持っていた。

 魔力の身体強化は抜群で、光魔術の使い方も悪くない。

 剣術も地道にな鍛錬が窺える代物だった。

 武具も高性能だが、それらに頼り切らない動きであったと思う。


「このような若者も育ちつつあるとは……私が時代遅れと揶揄されるのも納得だな」


 一人で考察していると、遠くに隠れていたノルが戻ってきた。

 ノルは気絶する女を見て唸る。


「旦那、この嬢ちゃんは……」


「聖騎士らしい」


「つ、つまりアグタル家の手先ってわけかよ!?」


 アグタル家とは七大貴族の一つだ。

 光魔術の使い手を集めた聖騎士団を所有し、総合的な戦力なら国内随一である。

 国外での戦争にも参加するため実戦経験は豊富らしく、周辺諸国の侵略を牽制しているのだという。

 実質的に国の守護者ともいえる立ち位置を築くのがアグタル家だった。


「アグタル家は昔から影の魔術を忌み嫌う。悪魔の力であると見なし、徹底的な差別と排除を推進している」


「もちろん知ってるぜ。連中の影嫌いは異常だからなぁ。それだけ自分達の光魔術に誇りを持ってるってことなんだろうけども」


「私の暗殺を企む動機としては十分だ」


「アグタル家が元凶ってわけかい?」


「いや、まだわからない。私は他の貴族からも強く恨まれている。そもそも仮に主犯が誰であろうと復讐は止めない」


「よし! その意気だ!」


 喜ぶノルだったが、ふとその顔が曇る。

 彼は声量を落として私に言う。


「そういや、この聖騎士が来たってことは俺達の居場所はバレているのか?」


「ああ、間違いない。痕跡も特に消していなかったからな。捕捉するのは別に難しくなかったろう」


「ど、どうするんだ!? このままじゃ延々と襲撃を受けることになるぜ。復讐どころじゃねえだろ!」


「慌てるな。対策は考えてある」


 私は影の魔術を発動し、数十体の黒い人形を生み出した。

 人形達はそれぞれ別の方角へと歩き出して消えていく。


「私の魔力を込めた人形だ。これで向こうの探知を撹乱できる。それに、もし看破されたとしても問題ない」


「どういうことだ?」


「襲撃してきた敵を尋問して情報を集めればいい。どちらに転んでも私は復讐を成し遂げる。それだけだ」


 私が淡々と述べると、ノルは呆れたように息を吐いた。

 彼は頭を掻いてぼやく。


「旦那って力任せな作戦が多いよなぁ。そんなんで暗殺者が成り立ってたのかよ」


「別に隠密を重視した立ち回りもできるが、その必要がないだけだ」


「へへ、本当か怪しいもんだぜ」


「……なら少しだけ見せるか」


「え?」


 戸惑うノルを横目に、私は地面に手を当てる。

 その瞬間、広がった影が私達を吞み込み始めた。

 足元から泥のように沈んでいく。


「うわっ、おわああああああああああぁっ!?」


 ノルの悲鳴を聞きながら、私の視界は漆黒に染まった。

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