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影の暗殺者は復讐に奔る  作者: 結城 からく


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第4話

 クォーク家の領地を抜けた私とノルは、薄暗い夜の森を進んでいく。

 月明かりだけで進むには危険なように思えるが、私には影の魔術がある。

 闇と影に支配された領域では、あらゆるものを容易に感知可能だ。

 魔物がいようと遠隔で問題なく対処できる。


 鬱蒼とした茂みを進む中、不意にノルが話を切り出した。


「なあ、旦那」


「…………」


「クォーク家を潰さなくてよかったのかよ。家族の仇なんだろ?」


「十分な制裁を与えた。指輪も奪った以上、クォーク家は没落したも同然だ。わざわざ手を下すまでもない」


「子供の命を奪うのが嫌だったのか? 家族を奪われた自分と重ねたのか」


 ノルの指摘に私は立ち止まる。

 その反応で察したのか、彼はため息混じりに説教してきた。


「甘いぜ、旦那。あれだけ大量の人間を殺しておいて、肝心なところで標的を見逃すなんて。昔のあんたじゃ考えられなかった行動だ」


「……そうだな」


「しっかりしてくれよな。状況的に俺は共犯者なんだ。あんたの復讐が頓挫して死ぬのはごめんだぜ。やるなら徹底してくれ。中途半端な覚悟じゃ仇は取れねえぞ」


 ノルが私の肩を叩く。

 彼の主張はこの上なく正しく、反論の余地がない。

 間違っているのは私なのだ。

 最愛の家族を奪われて復讐を決意しておきながら、標的を取り逃がすという愚行を犯した。


(実力は落ちていないと自負していたが、精神面は脆くなったものだ)


 己の弱さを認めて唇を噛む。

 そして、心の隙が致命的な失敗に繋がる。

 私が暗殺者として何度も目撃してきたことだ。

 自分はこうなるまいと誓ったが……そうもいかなかったらしい。


「お前の言う通りだ。すまない」


「いいってことよ。代わりと言っちゃなんだが、今回の復讐で儲けさせてくれよ。ちょいとばかし金やら権利書やら宝物を盗むだけでいいんだ。せっかく手伝うならそれくらいの見返りが……」


「相変わらずの守銭奴だな。情報屋より盗賊が似合いそうだ」


「盗賊団を仕切っていた時期もあるんだがね。最初は大儲けできるが、騎士に目を付けられると厄介なんだ。部下が晒し首になった時に割に合わねえからやめたよ」


 ノルは懐かしそうに語る。

 しばらくその話を聞いた後、思い出したようにノルは尋ねてくる。


「ところで旦那。クォーク家を逃がしたわけだが、これからどうするんだ?」


「七大貴族の協議会を破壊する。それで、少なくとも今の歪んだ社会構造は崩れ去るだろう」


「連中は殺すのかい?」


「……ああ、次からは確実に殺す。少なくとも本人は許さない。家族には警告し、同じような体制が生まれないよう促す」


「人間は損得で簡単に裏切る生き物だ。口約束なんて信用ならんがね」


「そこは考えてある」


 私はノルの胸部に指を当てて、影の魔術を発動させた。

 黒い霧が胸部に沁み込んでいく。

 その現象にノルはぎょっとして飛び退いた。

 彼は自身の胸をしきりに撫でて戸惑う。


「う、おっ!? 何しやがった!?」


「落ち着け。私の魔術を仕込んだだけだ。基本的に害はないが、私の意志一つで破裂させることができる。裏切り防止にちょうどいいだろう」


「ちょっ!? なんてもの俺に使ってんだ! さっさと解除してくれよぉっ!」


 ノルの抗議を聞き流していたその時、広域に伸ばしていた影の触手の一部が破壊された。

 その感覚に私は五感を集中させて身構える。

 張り巡らせた影を浄化しながら近づいてくるのは、白銀の鎧に身を包む金髪の若い女だった。

 女は発光する剣で影を断ち切り、怒気を孕んだ双眸を私に向けてくる。


 女の姿を見たノルが大慌てで逃げ出した。


「あの鎧は、不味いッ!」


 同時に女が斬りかかってきた。

 凄まじい加速で繰り出された斬撃を、私は紙一重で躱してみせる。

 女は僅かに驚愕しつつ、すかさず追撃を放ってきた。


(洗練された剣術……だが固いな)


 私は相手の剣を影の刃で遮り、そこから最速で蹴りを見舞う。

 吹き飛んだ女に向けて影の触手を殺到させるが、剣の光で焼き払われてしまった。

 なんとか着地した女は、蹴られた痛みを見せずに剣を構え直す。


 一方、私は相手の能力を推察する。


(光の魔術か……)


 属性的な相性は悪い。

 術の出力や練度はこちらが圧倒的に上だが、光の放出によって一瞬で浄化される。

 上手く立ち回らねば魔力を浪費することになりそうだ。


 私は両手に影の刃を握り、女を注視する。

 女は正眼の構えでじりじりと近付いてくる。

 いきなり仕掛けてこない辺り、向こうも力量の差を感じ取ったのだろう。

 不用意な突撃が悪手であると理解したらしい。


(考えなしに突っ込んでくれると対処しやすかったのだが……)


 そういったことを考えつつ、私は相手に問う。


「何者だ」


「貴様を葬る聖騎士だ」


 女は殺気を全開にして答えた。

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