第9話 後編
「カイドから真実を聞いた。貴様は、私を騙したのか」
「ほう、卑劣な暗殺者の言葉を信じるのか。これは傑作だ。君はもう少し利口だと――」
皮肉げに笑うロンの右脚に、サリーアが剣を叩き込んだ。
斬撃は彼の足をあっけなく切り落とした。
滑らかな断面から鮮血が噴き出し、ロンは転げ回って悶絶する。
「ぐおおおおおおおぉぉぉっ!?」
「余計な発言をするな。質問に端的に答えろ」
サリーアは冷ややかな眼差しをロンに投げかける。
脅しではなく警告だった。
どれほど残虐な行為であろうと完遂してみせる、と主張しているのだ。
震えて動けないロンをよそに、サリーアは私に要求する。
「止血を頼む」
「わかった」
私は影でロンの傷口を塞いだ。
ただし鎮痛作用はないため、苦しみが紛れることはない。
脂汗を垂れ流すロンは、必死の形相でサリーアに懇願する。
「す、すまん……もう誤魔化さない……正直に言うから、やめてくれ……っ!」
「七大貴族の暗殺計画は、家族を奪われたカイドによる復讐なのか?」
「そうだ! それで合っている! 立場を脅かされることを恐れて、カイド・モータルの血統を根絶しようとしたのだ! しかし失敗した! よりにもよって最も生かしてはならないカイド本人だけ仕留め損なったのだ!」
ロンは馬鹿正直に叫んでいた。
下手な嘘は危険だと理解したのだろう。
しかし、あまりに無遠慮な発言はサリーアの逆鱗に触れた。
彼女の持つ剣が霞み、次の瞬間にはロンの右腕が宙を舞っていた。
ロンは激痛に涙しながら驚愕する。
「ぐううぅっ!? な、なぜだ! 私は正直に話しているぞっ!?」
「アグタル卿……貴様の罪はこの程度では晴らされない。存分に苦しみ抜いてもらうぞ」
「……ッ!」
そこからはサリーアによる一方的な蹂躙が始まった。
彼女はロンの肉体を端から徐々に切り刻む。
わざと致命傷を避けて、じっくりと時間をかけて苦痛を与えているのは明白だった。
ロンは懸命に命乞いをしていた。
しかし彼の言葉がサリーアに届くことはなかった。
ようやく絶命した時、ロンの肉体は元の半分も残っていなかった。
無惨な死体を前に、私は深々と息を吐く。
(これで二人目……先は長いな)
傍観していたノルが、血だまりの中から指輪を拾った。
彼は指輪に付着した血を拭って私に訊く。
「アグタル家と言えば、光の聖騎士団……指輪も光の魔術なのか?」
「いや、むしろ正反対だ」
私は指輪を受け取って魔力を込める。
すると漆黒の霧が湧き出してきた。
「闇の魔術……光の魔術と対を為す属性だ。配下の防護が通用しなかった時、正反対の魔術で身を守ろうとしていたのだろう。もっとも、私の影の魔術とは親和性が高すぎて効果がなかったが」
影と闇は相性が良い。
私の戦闘を上手く補助してくれるだろう。
光の魔術が浸透する空間でも、阻害されずに力を展開できるはずだ。




